パニッシャーが人類最後のマスターと共に戦うようです 作:ドレッジキング
6人は森を抜け、街へと辿り着いた。街並みは近代的ではなく、中世時代の石造りの家屋が立ち並んでいる。森を抜けた先にこんな街があるとは思いもしなかったが、そこは特異点。どんな場所に出ようと不思議ではない。
「森を抜けた辿り着いた街には人っ子1人いやしねえ」
「ハロウィンなのに~♪トリック・オア・トリートもないなんて~♪……ハロウィン舐めてるわね、あのモレーって女。血まみれな~♪拷問をかけてあ~げ~る~♪」
エリザベートは上機嫌なのか不機嫌なのか分からない表情でこの特異点を作り上げたモレーに対する文句を言っていた。
「あんな小物女、聖杯を回収すれば放っておいても構わんだろう」
「あら~?黒イヌにしては~優しいこと言うじゃない~♪」
迷妄の森に現れたホログラフを見る限り、モレーという女はどこか抜けている悪党に思えた。そんな小物相手に深追いする必要もないというのがパニッシャーの考えだった。そして6人は街の中を進んで行く。街の奥には目的地……チェイテシンデレラ城があるのだから。そうしてパニッシャー達はとうとうチェイテシンデレラ城の前に来た。シンデレラの童話に出てくる通り、煌びやかな外観と、華美な装飾が施されている。まるでシンデレラの物語の中からそのまま出てきたかのような城が目の前にそびえ立っていた。チェイテシンデレラ城は外見こそ西洋風の古風な造りをした建物ではあるが、ライトアップされており、どこかテーマパークを思わせるような華やかさがあった。
「ふうむ。ここがチェイテシンデレラ城か?」
「とりあえず辿り着くことには辿り着いたが、やっぱり誰もいやしねえ」
モードレッドの言う通り、街にしろ目の前のチェイテシンデレラ城にしろ人間が一人もいない。完全なる無人でありゴーストタウン&ゴーストキャッスルと化していた。
「せっかくの~♪シンデレラ城~なのに~ナイトの1人もナシ~♪不用心にも~ほどがあるわ~♪……守備が薄いのはいいけど、私を甘く見ているのは気に入らないわね。やっぱり拷問ね~♪」
エリザベートは無人のチェイテシンデレラ城を目の当たりにして、自分に対する侮りだと受け取ったらしく不満げに愚痴っていた。
「はははは!物騒なのは置いといて、行くか?」
「もう一人のエリザベートを救出しないと」
そう、迷妄の森で目の前に現れたモレーのホログラフに、もう一人のエリザベートが映り込んでいたのだ。今自分たちと行動を共にしているエリザベートから分裂したのだと思われるもう一人のエリザベートを救うという目的もあるのだ。
「そういえば~そうだったわ~♪」
「サラっと忘れてんじゃねえよ!ったく、城に入るぞ!」
呆れ気味のモードレッドの言葉と共に、一行は城の中へと足を踏み入れていく。城の内部はかなり広く、外見に違わない程の規模と壮麗さに溢れていた。床や壁は全て大理石で構成されており、天井にはシャンデリアがいくつも吊り下げられている。まさしく貴族や王族が暮らす城といった感じだ。パニッシャー達6人は城の廊下を歩く。
「ここはまだチェイテ城ね~♪」
「おまえの故郷、というわけか」
「そうよ~♪死に場所でもあるわ~♪」
ゼノビアに対して言うエリザベートの表情はどこか暗い。
「籠城戦でも起きたか?」
「あまりその話は私からはしたくないわ~♪子イヌにでも聞いてちょうだい~♪」
「?」
ゼノビアが首を傾げていると、藤丸が声を掛けてきた。
「ゼノビア、ちょっといい?実はね―――」
藤丸はゼノビアに対してエリザベートの生前を話した。英霊として召喚されている今のエリザベートはハンガリーの貴族であるエリザベート・バートリー伯爵夫人の少女時代の姿だ。史実のエリザベート・バートリーは"血の伯爵夫人"と呼ばれており、自分の城に若い娘を招き入れては、凄惨な拷問にかけて殺害していた。エリザベートに殺害された若い娘の数はゆうに650人以上とも呼ばれ、エリザベートは殺した若い娘の血を浴槽に入れて浸かったという逸話を持つ。その残虐さたるや歴史の本でも言及される程であり、現代まで語り継がれる程の悪女であったのだ。だがそんなバートリーも自分の所業がバレてしまい、処刑されるかと思いきや、死ぬまでチェイテ城の中で過ごす事となったのだ。貴族だから命だけは助けられたのであろう。つまりこのチェイテ城はエリザベートにとっての監獄でもあるのだ。
「……そうか。このチェイテ城は彼女にとっての監獄でもあったのか」
「ま、生前はどう考えても褒められた生き様じゃねぇけどなあのドラバカ。やらかした事が酷かった分、辛い死に方だった。因果応報ってやつだ」
正確に言えばこのチェイテ城にある自分の寝室に死ぬまで幽閉されていたのだ。狭扉も窓も漆喰で塗り塞がれた狭い寝室で一生を終えたのである。やった事を考えれば当然の報いとも言えよう。
「だが……虜囚の身となり、幽閉され、誰からも顧みられることがない。悪行とは別に、それには憐憫を抱いてしまう」
「やった悪行を考えれば寧ろ温すぎる刑罰だと思うが?エリザベートに殺された娘たちの方が余程可哀想だろう。大体しでかした罪と受けるべき罰が釣り合ってなさすぎる」
「それはそうだが……」
「おじさんって悪行とか罪を犯した人間には厳しいから……。だからエリちゃんにも同情できないんだと思う」
大勢の罪もない少女を残酷に殺害したのだから、パニッシャーから見れば同情の欠片もできない女に見えてしまうのだろう。
「私も生前は虜囚の身だったからな。恥辱の過去があったことには違いない。エリザベートは……」
「エリちゃんは前向きだよ」
「そうだな。アイツ何だってくらい前向きだな。後ろ向いたら死ぬんじゃねえのってくらい。……いや、本当に死にかねないな」
モードレッドの言う通り、英霊として召喚されたエリザベートは底抜けに前向きで明るく、皆のアイドルであろうとする。
「良いことだ。そんな最期であれば前向きでなくても仕方なかろうに」
「エリザベートはアイドルだからね」
藤丸の言葉を聞いたゼノビアは前を歩くエリザベートに声を掛けた。そして二人は仲良く談笑し始める。
「仲良くなるといいね……」
「ああ……」
パニッシャーから見れば、目の前にいるアイドルとしてのエリザベートが将来、血の伯爵夫人としての本性を出して多数の少女を殺戮するようになると考えると、どうしても彼女の明るさを素直に受け入れる事ができなかった。しかし同時に彼女の中にある善性を信じてもいた。この特異点を旅して、エリザベートが持つ優しさに触れたのだから。
「おじさんってカルデアに来てから随分丸くなったよね。妖精國で出会った時とは大違い」
パニッシャー自身、藤丸、マシュ、ダヴィンチ、その他カルデアのサーヴァント達との交流を経て、自分でも丸くなっていると感じている。善も悪も中庸も受け入れるカルデアの面々に影響されているのかもしれない。アベンジャーズや他のヒーロー達からは殺人者と嫌悪されているが、カルデアの面々はそんなパニッシャーでさえも受け入れている。そんなサーヴァント達の中心にいるのがマスターである藤丸立香だ。この少年……藤丸の持つ優しさと、どんな悪逆の英霊であろうとも否定せずに正面から受け入れる姿勢は本物だ。キャプテン・アメリカやスパイダーマンといったヒーローでさえ藤丸と同じようにはできないだろう。だがもし―――自分の目の前で藤丸やマシュ、ダヴィンチが敵に傷付けられた場合、パニッシャーは自分がどんな状態になってしまうのか想像がつかないでいた。恐らく……ニューヨークで犯罪者相手に自警活動をしていた頃よりも遥かに残酷な面をさらけ出してしまうだろう……。
そして6人はようやく目的の場所――このチェイテシンデレラ城の玉座の間へと辿り着いた。玉座の間にはモレーが仁王立ちしており、藤丸、パニッシャー達を待ち構えていた。
「……ほーう、来たねぇー?迷妄の森にいた7騎を揃えて来るのかと思ったけれど、追加戦力はその2騎だけ、か。エリザベート・バートリー、女王ゼノビア、2人のカルデアのマスター。加えて……叛逆の騎士モードレッド、皇帝ナポレオン。悪くはないランナップ。でも、残りの5騎を置いてきちゃうとか、もしかして舐めてるー?あたし、舐められてるー?」
ふざけた口調で話すモレーに対し、全員が臨戦態勢に入る。抜けた所があるものの、やはりモレーの本質は邪悪そのものだ。それは対峙したパニッシャーが一番よく分かっている。
「セバスチャン・ショウとフッドを迷妄の森に配置したのはお前か?」
「だいせいかーい♪あの二人はそれなりに役にたったけど、君たちの前じゃ力不足だったね。けどあたしの計画に支障はナシ。万事滞りなく進行してるよ。絶対に逃せないチャンス、大切な現界の機会だもの。自分にやれる事を最大限やるんだ。舐めてかかってくれてもいいよ。その隙を見逃さないからさ!そーゆーこと」
モレーの掛けている眼鏡の奥にある彼女の金色の瞳は妖しい光を放っている。
「最後通告だ。命だけは助けてやるからさっさと聖杯を渡せ。お前みたいな子悪党に構ってる時間などない」
が、パニッシャーの言葉にモレーは口を抑えて笑っている。
「あっはははは!!面白い事言うねえキミぃ~!?あはっははははっはは!!」
モレーはひとしきり笑った後、急に真顔になって話し始める。
「キミなんて所詮別の世界からの部外者。ぶっちゃけあたしから見ればアウト・オブ・眼中なんだ。それはそうと、いっちょまえにカルデアのマスター気取ってるとかマジウケるんですけどぉ?」
モレーは心底馬鹿にした様子でニヤニヤしながら話す。が、パニッシャーとモレーの間にエリザベートが割って入った。
「このチェイテシンデレラ城は私の物なの!アンタに乗っ取られた城を返してもらうわ!そして大拷問!大決定!」
自分の所有物であるチェイテシンデレラ城をモレーに奪われたエリザベートは怒りを露わにしている。
「エリちゃん!もう一人のエリちゃんが人質なのを忘れないで!」
「そうだ。あまり挑発しては危険だ、エリザベート」
藤松とゼノビアは頭に血が昇っているエリザベートを宥め、二人の言葉を聞いたエリザベートは冷静になろうとする。
「そ、それもそうだったわ~♪気を付けなきゃ~♪」
ゼノビアはモレーに囚われているもう一人のエリザベートがどこにいるのか見回すと、玉座に座りながらぐっすり眠っているもう一人のエリザベートを発見する。
「奥の玉座でぐっすり眠っているようだな」
もう一人のエリザベートが無事という事実を知り、藤丸たちも胸を撫でおろす。
「ええ。ご心配なくー。暇だから~寝るわ~♪とおっしゃったので、お望みどおりにさせているだけで。手枷足枷も無し、拷問も不要、至極丁重に扱っております。一応、お城のお姫様ですから。こんなんでも」
モレーはどうやら嘘は付いていないようだ。しかし油断はできない。
「こんなんでもとかアンタ~♪とことん生意気な~スタイルでいく気ね~♪ちょっとだけ方向性~♪私と被ってる気がして~腹が立つわ~♪」
「か……かぶってますかー、あたし!?アイドル路線とか目指してるわけじゃなし、こちとらパリの中心で呪いを叫ぶほうだってのに……」
「安心しろ、全っ然被ってないぞ。エリザベートはミュージカル口調のお姫様だが、お前は単なる小悪党で死人肌のゾンビ女だ。1回鏡で自分の姿を見てみろ」
「誰が死人肌じゃい!!それとゾンビ言うな!!」
「小悪魔系とか別に自称してないけど~♪他の誰かが~やろうとしてるの~見てると~♪イラッとするわ~♪イラッとするの~♪ってことでジャック・ド・モレー!ついに追い詰めたわよ!」
「ほんとにー?」
エリザベートの言葉に対してモレーはやる気なさげな返事をする。
「もういいエリザベート。これ以上の問答は時間の無駄だ。というわけでジャック・ド・モレー、悪いが俺達に倒されろ」
パニッシャーの言葉と共に、ゼノビア、ナポレオン、モードレッド、エリザベートが戦闘態勢に入り、それを見たモレーは不敵に笑う。
「さあ、お城を乗っ取った悪い魔女~♪もう1人の私を返してちょうだいな~♪」
「ふふふふふ♪あなた達にそれができますかね~」
「それはやってみないと分からんぞ」
「そうでしょうか?まあいいでしょう♪」
「ジャック・ド・モレー。同じフランスの英霊として語り合いたい事がないわけでもないが、今は敵同士。ここは突破させてもらう!」
そういえば十分な装備さえあればパニッシャーさんでも妖精國で活動できるんかな……?ウルヴァリンなら素でもギリいけそうだけど