パニッシャーが人類最後のマスターと共に戦うようです 作:ドレッジキング
ちなみにですが、この作品においてアベンジャーズを始めとするマーベルヒーローやヴィランがサーヴァントとしてカルデアや特異点に召喚される事は絶対ありません(というより召喚自体が不可能)。
なので登場するヒーローとヴィランは基本的に本人です。
6人が構えると、モレーは南瓜頭の兵士たちを大量に呼び寄せる。
南瓜の被り物なのか、元々頭部が南瓜なのかは知らないが、武装した南瓜の兵士たちが藤丸達に襲い掛かって来る。ざっと数十体はいるだろう。モードレッドは斬り掛かって来た数名の南瓜兵士たちの頭部を愛剣のクラレントで一薙ぎにすると、そのまま別の兵士を袈裟懸けに両断する。
「オラァ!!」
続いて数体の兵士が槍を突き出して突進してくるが、彼女はそれをひらりと躱し、すれ違いざまにその胴体を真っ二つにした。さらに後方から迫る兵士達を振り向き様に横一文字に切り払う。そして再び前方から突撃してきた敵を串刺しにする。そして突き刺した剣を引き抜くと同時に敵の首を刎ねた。荒々しくも流れるような鮮やかな動作だった。一方、ナポレオンは自分の得物である「勝利砲」を軽々と振り回し、襲い来る南瓜兵士たちを吹き飛ばす。そして大砲を発射する要領で弾を装填する仕草をするや即座に引き金を引き、砲弾を撃ち出した。撃ち出された砲弾は南瓜兵士たちに直撃し、派手に爆散する。ゼノビアも手に持った剣と槍を駆使して南瓜兵士たちの身体をルーチンワークのように切り裂いていく。そして彼女の背後から忍び寄っていた敵兵に対し、裏拳を叩き込んで殴り飛ばした。
「へぇ~やるじゃん♪でも……まだまだ甘いかな?」
そう言うとモレーは再び大量の南瓜の兵士を呼び出す。今度は先程よりも数が多い。この数を一度に相手するのは少々骨が折れそうだ。だがパニッシャーはウージーサブマシンガンを南瓜の兵士たち目掛けて乱射する。ドクターストレンジとスカーレットウィッチの共作である「魔術弾」を大量に南瓜兵士たちに浴びせ付けた。スカーレットウィッチことワンダ・マキシモフが持つ"ヘックスパワー"による確率操作によって、放たれる銃弾は必ず狙った対象の身体に命中する。しかし命中する部分は完全にランダムであり、狙った箇所に当てられるわけではないのが欠点である。サーヴァントをも殺傷可能な「魔術弾」は南瓜兵士たちに効いており、その隙を逃さず、モードレッドは南瓜の兵士たちの集団に突っ込んで、複数の兵士を軽々と撫で斬りにしていく。
「……やっぱモブ兵士じゃ相手になんないかー。そんならあたしが出るしか無いよね♪」
そう言うとモレーの足元から、ワームのような生物が現れる。現れたワームは口を開き、グロテスクな咥内を露出させ、モレーを呑み込む。するとモレーを呑み込んだワームは地面に消えた。
「……!」
モードレッドは自分のスキルであるBランクの直感を駆使し、自分の背後に現れたワームの攻撃を回避した。
モレー:「残念。勘のいい子は嫌いだよ」
ワームの口から出てきたモレーは不敵な笑みを浮かべながら、自分の攻撃を躱したモードレッドに向かって言った。と、そこに剣と槍を手に持ったゼノビアがモレーの背後から奇襲攻撃を仕掛けるも、モレーも自分の得物である黒い剣を用いてゼノビアの攻撃を防いだ。
「……!」
「おーっと危ないなー♪不意打ちは良くないよー?」
そう言うや否やモレーは素早くゼノビアの剣を薙ぎ払い、彼女と剣戟を繰り広げる。両者の攻撃速度はゆうに音速を超えており、常人の目には映らない。と、そこにモレーの使い魔であるワームが再び地面から現れ、モレーを呑み込みつつ地面に消える。
「奴はどこに……!?」
ゼノビアは周囲を見回すが、モレーが現れる気配はない。そんなゼノビアにモレーの配下である南瓜兵士たちが押し寄せ、ゼノビアはやむなく彼等の相手を始めた。ワームと共に地中に消えたモレーが現れる気配はなく、その事に対してエリザベートは苛立っていた。そんな彼女の元に1匹の南瓜兵士が襲い掛かるが、彼女はそれを難なく返り討ちにする。そして今度は2体同時に襲ってきたため、彼女も応戦する事にした。
「ああもう!モレーのやつはどこに行ったのよ!?」
そうエリザベートが叫んだ直後だった。後方でエリザベートたちに指示を出していた藤丸の背後にワームが現れ、ワームの口から出て来たモレーが藤丸を後ろから羽交い絞めにして拘束する。一瞬の出来事だっただけに、エリザベート、モードレッド、ナポレオン、ゼノビアも対処が遅れてしまった。モレーの召喚した南瓜兵士達が余りにも多く、エリザベートたちも兵士の相手をしなければならなかった為である。モレーは羽交い絞めにした藤丸の耳元に口を近づけ、蠱惑的に囁く。
「暴れない方が身のためだよー?君のお友達がどうなってもいいのかい?」
「くっ……!卑怯だぞ!」
「んふふ~。それは褒め言葉かな?ありがとう♪あたしの能力を間近で見ていたんなら、自分の背後ぐらいは警戒しておくべきじゃないかな?ま、もっとも……あたしは君みたいな可愛い男の子なら大歓迎だけどね♪」
そう言いながらモレーは自分の唇を舌で舐める仕草をする。それを見た途端、藤丸の顔が見る間に青ざめていった。
「子イヌ!?」
エリザベートはモレーに拘束された藤丸を見て動揺する。彼女の視線の先では藤丸がモレーに拘束されているのだ。
「抵抗しない方が身の為だよー?その気になればこのまま全身の骨を粉々に砕いて、内臓をぐちゃぐちゃにかき回してあげられるんだからさー」
モレーは藤丸の頬を自分の人差し指でなぞりながら言う。彼の頬をなぞる指の動きはまるで蛇のように滑らかであり、とても艶めかしかった。まるで恋人と睦言を交わすかのように甘い口調で話すモレーに対し、恐怖を感じたのか藤丸の顔からは血の気が失われていく。
「アンタ!今すぐ子イヌから離れなさい!!さもないと……!」
「んー?どうするのかなー?君が代わりになってくれるのかなー?」
憤怒の形相で睨んでくるエリザベートに対してモレーはそう言うと、自分の指を藤丸の唇に這わせた。モレーの指先が唇に触れる度に嫌悪感が増していく。
「あぁ、けど安心していいよ。君は殺さないから」
モレーは藤丸に言いつつ、右手で藤丸の股間をズボン越しに愛撫する。
「や、やめてください!こんな事をして何になるんですか!?」
モ「楽しい事に決まってるでしょー?ほらぁ……ここ、固くなってるよぉ……?」
モレーは顔を赤らめながら嫌がる藤丸の表情を見つつ、舌なめずりをする。が、そんなモレーの肩を背後から叩く者がいた。
「おい、お前は何をしているんだ?」
「あ、いたんだ君。気づかなかったよー♪」
モレーの言葉が言い終わった瞬間、パニッシャーの鉄拳がモレーの顔面を捉える。当然、ただの人間であるパニッシャーには神秘の力がないので、モレーにダメージを与える事はできない。が、モレーはパニッシャーに殴られた事により藤丸から引き離される。
「ちょっと!なに邪魔してくれてるのかな!?」
「黙れ、さっさと死ね」
パニッシャーは懐からMK23を抜いてモレーに銃撃をするが、モレーは咄嗟に地面からワームを出し、ワームの中に入ると地面に消える。パニッシャーが周囲を警戒していると、パニッシャーの背後にモレーが立っていた。彼女の気配に気づいたパニッシャーは渾身の裏拳をモレーに叩き込むも、当のモレーは全く意に介し絵いない。
「そんなパンチがサーヴァントであるあたしに効くわけないじゃん。もしかして、あたしの事バカにしてるのかなー?」
モレーはそう言うと、パニッシャーの顎にアッパーカットを仕掛けるも、紙一重で避けつつモレーの身体にタックルを仕掛ける。サーヴァント相手に素手で勝負を挑むなど自殺行為以外の何物でもないが、それでも彼は攻撃の手を緩めなかった。
「あー、だる。もう飽きたわ。そろそろ死んでくれるかな?君って全てが退屈過ぎてつまらなかったんだよね」
呆れ顔のモレーとは裏腹に、パニッシャーは内心ほくそ笑む。そして待ってましたとばかりに叫んだ。
「エリザベート、今だ!」
「へ?」
パニッシャーの叫びに一瞬呆気に取られるモレーだったが、眼前にはエリザベートが放ったガラスの靴が迫ってきており、勢いよくモレーに当たる。エリザベートはゼノビアとの戦いでも自分の履いているガラスの靴を飛び道具代わりにしていたが、モレーはそんな彼女のガラスの靴の直撃を受けて吹っ飛んだ。
「いったーい!!この小娘ぇ!!」
「どう?私のガラスの靴は痛いでしょー!? さあ、今度はこっちの番よ!行くわよ、みんな!」
エリザベートが叫ぶと同時に4人は一斉にジャック・ド・モレーに飛び掛かる。
「くっ……!もう兵士たちを倒したのか……!」
自分が呼び寄せた南瓜の兵士たちはいつの間にかモードレッドたちに倒されており、残ったのはモレーのみだった。モレーはやむを得ず自分の得物である黒剣を抜くと、モードレッドと剣戟を繰り広げる。が、そこにゼノビアもモードレッドに加勢してモレーに襲い掛かった。2対1の状況になり劣勢になったモレーだが、地面から彼女の使い魔であるワームが現れ、口を開いてモードレッドとゼノビア目掛けて魔力弾を射出してきた。着弾と同時に爆発を起こし、それによって2人は吹き飛ばされる。しかしダメージはそれほど大きくないらしく、すぐに体勢を立て直した。が、モレーは間髪入れずに自分の背後に召喚陣のようなものを展開させつつ、魔力で生成された槍の穂先を乱射してくる。
「うおっ!?」
これには流石のモードレッドも対処しきれず、慌てて防御態勢を取った。魔力による槍の穂先がモードレッドとゼノビアに殺到し、彼女たちは何とかそれを防ごうとする。しかし数が多すぎて捌き切れず、次第に傷が増えていった。それを見たモレーは余裕そうに笑みを浮かべる。
「案外脆いんだね。これなら私一人でもいけそうだ」
モレーはそう言うと魔力を更に増幅させ、更に強力な一撃を放とうとする。が、その隙を逃すナポレオンではなかった。ナポレオンはモレーの視界外から「勝利砲」による砲弾を放ち、それが見事命中する。モレーはその衝撃で吹き飛び、壁に激突してしまう。
「ぐっ……!」
苦痛で顔を歪ませるモレー。そしてエリザベートがフラつくモレーの顔面に強烈な蹴りの一撃を叩き込んだ。渾身の力で放たれたエリザベートの右足はモレーの顔面を捉え、その衝撃で彼女は派手に床に叩きつけられる。床が陥没する程の衝撃が発生し、モレーはクレーター部分で完全に気絶していた。
「大勝利~♪さっすが私ね!」
得意げにポーズを決めるエリザベートを見て苦笑する一同。この特異点の黒幕であるジャック・ド・モレーは無事に倒された。パニッシャーは藤丸に駆け寄り、どこにもケガはないかどうか尋ねる。
「立香、無事か!?」
「大丈夫だよ。おじさん」
笑顔でそう答える藤丸。どうやら怪我らしいものはしていないようだ。その様子を見たパニッシャーは少し安心したように息を吐く。するとエリザベートがそんな二人に駆け寄ってくる。
「我ながら完璧な勝利ね~♪」
嬉しそうに言うエリザベート。確かに彼女の言う通り、モレーに決定打を与えたのはエリザベートだ。
「やったねエリちゃん」
満面の笑みで親指を立てる藤丸。それを見て微笑むエリザベート。
「それよりも、もう1人のエリちゃんを保護しないと!」
そう、ジャック・ド・モレーに囚われていたもう1人のエリザベートは玉座に座ったまま眠っている状態だ。藤丸の言葉を聞き、ゼノビアが玉座に座っているもう一人のエリザベートの身体を揺する。
「おい、起きろ!起きるんだ!」
「う~ん、むにゃむにゃ……」
中々目を覚まさなかったが、暫くしてようやく瞼を開けた。
「……ふえ?えっと……奥で倒れてるのはモレー?それに私がもう1人いるけど……」
もう1人のエリザベートは、目の前にいるエリザベートを見て首を傾げている。
「やっと目を覚ましたわね~♪もう1人の私♪」
エリザベートは笑顔でもう一人の自分に対して手を差し出す。
「あなたは私なのね……。うん、全てはあなたを見た瞬間から理解できた。あなたと私は~分かれてしまったのね~♪けど~これでようやく巡り合えたわ~♪」
「そうよ~♪私とあなたは同じよ♪だって~私たちは元々一人なのだから~♪」
もう一人の自分が差し出した手を優しく握るもう一人のエリザベート。二人のやり取りを見た一行は微笑ましい表情を浮かべる。そして二人のエリザベートは一緒に唄いだした。
「私たち~ついに出逢えたのね~♪とっても~とっても嬉しいわ~♪」
「おいおい、二人でデュエット始めたぞ……」
「仲が良さそうで何よりだね」
「そうだな。これにて一件落着ということか」
パニッシャーも再会した二人のエリザベートの様子を見守っている。そして二人のエリザベートはお互いを褒めあう。
「アナタはとっても魅力的で素敵よ。物語のお姫様そのものだわ」
「ううん、アナタこそ本当に素敵よ。私の鏡写しのような存在なんだから」
二人のエリザベートは互いに手を繋ぎあい、ダンスを踊り始める。元々同じ存在なのだから息もピッタリという事だろうか。状況的に歌って踊っている暇などないのだが、ナポレオンやモードレッド、ゼノビアは二人のエリザベートの踊りを微笑ましい表情で眺めている。
「さぁ、エリちゃんたち!そろそろ元に戻ったら?」
藤丸の言葉に二人のエリザベートは顔を見合わせる。
「そうね、子イヌ!2人でダンスしたりデュオったりするのは素敵だけど、ちゃんとハロウィンを取り戻すためにはやっぱり1人の私に戻るしかないわね!」
「ええ!」
エリザベートの言葉に、もう一人のエリザベートも笑顔で同調している。そして二人の身体が輝きだした。
「それじゃあ始めましょうか」
「えぇ」
そして二人の身体が重なり合うように融合していく。
「シンデレラ合体!」
二人の言葉と共に目が潰れるほどの眩い光が発生し、二人の身体を包み込んだ。光が徐々に収束していき、そこにいたのは完全に一人となったエリザベートだった。
「さすが私。自分との合体や分離なんて慣れたもの……。これで完全無敵の私よ~♪ラララパーフェクトシンデレラ~♪」
エリザベートは満面の笑みを浮かべてそう言い放った。が、その時藤丸は大事な事を思い出す。
「あれ?聖杯はどこに……?」
藤丸の言葉を聞いたエリザベート、ゼノビア、ナポレオン、モードレッド、パニッシャーは聖杯の事についてようやく思い出す。そう、これまでの特異点の修復任務では黒幕を倒せば聖杯が手に入った筈である。だがその聖杯がどこにもない。これはどういう事なのだろうか?
「……?そういえば聖杯はどこなのかしら……?こういう時って大抵が特異点発生の元凶が持ってるものよね?」
「さっきモレーの懐は探ってみたが見つからなかったぞー。体内に取り込んでいるのならセイバーのオレでも分かったはずだ。なんならモレーの身体でもぶった斬るか?オレはそれでもいいけどな」
物騒な事をのたまうモードレッドであるが、確かに聖杯が見つからない以上、黒幕であるジャック・ド・モレーが聖杯をどこかに隠したと考えるのが自然だ。
「この城のどこかにある可能性はあるが……。ひょっとすると見つからない場所に隠したかもしれんな」
「分からん。カルデアってのに繋がりゃ分かるかもだが、今は通信途絶中だろ?」
「うん……。俺とおじさんがこの特異点にレイシフトしてから、カルデアとは連絡が取れないんだ……」
レイシフト先でカルデアとの連絡が取れなくなるのは今に始まった事ではないにしても、聖杯が見つからない以上はやはり不安になる。となればモレーがこのチェイテシンデレラ城のどこかに隠した可能性が高いが……。
「仕方ない、城内を捜索してみるとするか」
ナポレオンもこの城に隠されている可能性が高いと見ているのか、城内の捜索をしたいようだ。が、パニッシャーはエリザベートの一撃で床に倒れているモレーに視線を向ける。そして倒れているモレーに近づくと、彼女の腹を思い切り蹴飛ばした。
「おい、聖杯をどこに隠したのか言え」
人間であるパニッシャーの打撃などモレーに通用する筈がないが、気絶している状態から意識を取り戻す程度なら可能だろうと思い、パニッシャーは倒れているモレーに蹴りを入れ続ける。そもそもこの特異点の元凶であるモレーに直接聞いた方がてっとり早いのだから、城内の捜索などする必要がない。
「ちょっとぉ!?そんな奴に聞いて何になるのよ!?」
「コイツはこの特異点を発生させた元凶だ。なら聖杯の在処についても当然知っているだろう」
パニッシャーはモレーの胸倉を掴み、気絶している彼女の頬を平手打ちする。
「おい、モレー起きろ!さっさと聖杯の場所を吐け!」
「う~ん……」
単なる人間の平手打ちや蹴りでもサーヴァントを眠りから覚ます効果があるのか、モレーは瞼を開けて虚ろな表情でパニッシャーを見る。
「やっと起きたか……おい、聖杯はどこに隠した?」
「パニッシャー、ここはオレに任せてくれ。こう見えても尋問は得意でな。オレが聞き出してやる」
ナポレオンに言われ、渋々パニッシャーはモレーの尋問を任せる事にした。
「さぁ、総長殿。聖杯の在処を話してもらおうか」
ナポレオンの言葉にモレーは視線を逸らしたまま黙っている。
「モレー?」
藤丸がモレーの態度に違和感を抱いたその時、藤丸の首を背後から何者かが掴んだ。凄まじい力で掴まれた為、藤丸は息ができなくなり、苦悶の表情を浮かべる。
(何者かに背後から首を掴まれた!?)
ナポレオンとモードレッド、ゼノビア、パニッシャーは藤丸の首を背後から掴んでいる存在を目にして愕然とする。そう、藤丸の首を掴んでいるのはモレーだった。
「ククー♪聖杯ゲット!暴れないでねカルデアのマスター。背後からあなたの首をぎっちりと掴んでいるから。こちらの気分次第では人間の頸椎程度たちまちコキリといっちゃいますので。皆さんもそのあたり、状況はご理解いただけてますー?」
モレーはニヤついた顔でエリザベート達を挑発する。
「……悪い。もう片方に気取られて、出遅れた」
「あ、あわわわわわわ……!何されてんのよ子イヌー!!」
モードレッドは苦虫を嚙み潰したような表情でモレーを睨み、エリザベートは藤丸のピンチに動揺しているのか目を大きく見開きながら叫ぶ。一方、当のモレーは余裕綽々といった様子でニヤニヤと笑っている。
「立香から離れろ!!二度は言わん……!!」
パニッシャーは憤怒の形相で藤丸の首を掴んでいるモレーを睨む。しかしモレーがそんな脅しに屈する筈もなく、逆に不敵な笑みを浮かべていた。そしてゆっくりと口を開く。
「おやおやぁ?どうやら私の首を掴む力が弱まってきましたねぇ。このままだとあなた、うっかりと……♪」
モレーはそう言うものの、藤丸の首を掴む力を強める。
「うっ……!」
サーヴァントの腕力であれば人間の首など簡単にへし折れるだろう。現に今モレーが力を入れればあっという間に骨が折れてしまうに違いない。モレーによって首を強い力で掴まれている藤丸は苦悶の表情を浮かべている。
「モレー、貴様……。自分のしている事が分かってるのか!」
「分かっているからこうしてカルデアのマスターの首根っこを持ってるんじゃーん。ほら、見てよこの光景。実に滑稽でしょ?」
モレーはそう言ってクスクスと笑う。
「いちいちキレてて疲れないんですか?それともあなたは常に怒ってる人なんですかねー?」
パニッシャーを煽るようにして喋るモレーに怒りを覚えたパニッシャーはついに堪忍袋の緒が切れる。
「最初こそ貴様を見逃してやろうかと思ったがそれはもうナシだ。この場で叩き潰す!」
「それはこっちのセリフだよー。そもそもあたしに指図出来る立場じゃないでしょうに。というより、あたしがこの子を掴んでいるのが見えないんですかー?」
そう言ってモレーは藤丸の身体を浮かせ、エリザベートたちに見せつける。苦しそうな顔で宙づりになっている藤丸を目にしてエリザベートたちは思わず息を飲んだ。
「もし私が少しでも力を込めたら、この子はグシャッと潰れちゃうんですよー?それでも良いんですか?」
モレーはニヤつきながらそう言った。
「アンタ……!子イヌに何て事すんのよ!!」
モレーの言葉に激怒したエリザベートが叫び、怒りに満ちた表情で藤丸の首を掴んでいるモレーを睨みつける。しかし当のモレーは全く動じていない様子だった。藤丸というカルデアのマスターを人質に取っているという絶対的に有利な立場故の余裕からか、パニッシャーとエリザベートが怒りを露わにしようとも涼しげな顔で受け流している。倒した方のモレーが分身だという想定と予想をしていなかったエリザベートたちの落ち度ではあるが、今更そんな事を悔やんでも仕方ない。
「あなた方に説明してあげる義理はないのですけれど……大変上機嫌なので説明しましょーか?皆さんが探し求めていた聖杯はここ―――彼」
モレーはそう言いつつ、掴んでいる藤丸を上下に揺すり、エリザベートたちもモレーが言おうとしている事が何となく察しがついた。"そんな筈がない"。エリザベートもパニッシャーも同じ考えだった。
「まー、あたしもビックリですよ。あたしが求めていた聖杯がいつの間にか消えちゃっててね?あれこれ探したり、呪詛とか仕掛けたりして……。ついこの前、ようやく判明した。聖杯は、この者の中にあると」
モレーの言葉に藤丸もエリザベートたちも驚愕する。
「聖杯が……俺の中に!?」
「そう、だからわざわざこんな騒動を引き起こさなきゃならなかったんだよねー。覚えておいてね、カルデアの少年。些細なミスを見逃していると、いつしか致命的な事故に繋がるのさ」
そう、全てはモレーによって誘導されていたのである。モレーがこの特異点で騒動を起こし、藤丸たちをこのチェイテシンデレラ城へと導いだのも、全ては藤丸の中にある聖杯を手に入れるためだったのだ。もう一人のエリザベートを助けにこの城に来る事も、何もかもモレーの計算通りだったわけだ。パニッシャーやエリザベート、モードレッド、ナポレオンはまんまとモレーに一杯食わされたのである。モレーは勝利を確信した表情で話を続ける。
「ふっふふふ!不安など微塵も無かった!こうなると読み抜いていたから!そこのお姫様を助けるために、きみならば絶対に此処を訪れると!
「……もしかして、以前ハロウィンの記憶が無くなったのも!?」
「だいせいかーい!あれ、あたしの仕業でーす!ほうら、キミはあたしのものとなった!この手の中にいる!それもこれも、そこのお姫様のお陰だね!」
「え?お姫様……?」
エリザベートはモレーに"お姫様"と呼ばれた事が嬉しいのか、顔をほころばせた。が、そんなエリザベートを見たモレーは呆れる。
「エリちゃんさん。喜ぶタイミングじゃないですよ」
「本当にそうだよ!」
モレーの言葉につい嬉しくなった自分が恥ずかしくなったのか、エリザベートは流石にきまずい表情をする。
「ごめんなさい今のはさすがにエリザ反省!」
エリザベートがそう言うと、彼女の頭上にパニッシャーの拳骨が振り下ろされた。無論、彼女はサーヴァントなので痛くもなんともないのだが、この状況下でふざけた態度を取ってしまったエリザベートに怒りを露わにする。
「お前は何をヘラヘラしている……?立香が人質になってるんだぞ?」
パニッシャーは怒声こそあげないものの、静かな口調でエリザベートに凄む。
「あ~ん、ゴメンナサイ~!でもぉ、なんかこういうノリで話してないと気が滅入っちゃうのよ~!」
今のパニッシャーは自分の体内を流れる血液が怒りで沸騰してくる感覚に陥っていた。藤丸を人質に取るモレーと、そんな彼女に首を掴まれて宙づりになっている藤丸。そんな二人の姿を目に焼き付けつつ、藤丸を助けるチャンスを伺う。否、彼を助けるよりも先にモレーを殺しに掛かるかもしれない。脳から大量のアドレナリンが溢れ、燃え滾る憤怒で全身が爆発しそうになる。そしてモレーはそんなパニッシャーを嘲笑うかのように、懐から仮面を取り出すとそれを藤丸の顔に取り付けた。
「ではカルデアのマスター?この仮面をどうぞ―――」
「いったい何を……」
藤丸は意味も分からないまま、モレーに仮面を付けられてしまう。そして、藤丸の身体に変異が起きた。体内にある聖杯の力なのか、それともモレーが付けた仮面の力によるものなのかは不明だが、人間であった藤丸の肉体は体毛を生やした獣のそれへと変わっていき、同時に身体そのものも巨大に膨らんでいく。
「デカくなってんぞ――なんだありゃ!?」
驚くモードレッドを後目に、モレーは呪いの祝福の聖句を口にしていく。
「――母と仔と堕落の御名において!際限なき解放。果てしのない快楽。その心を解き放ち、究極の堕落へと誘われよ!いあ!いあ!森の王!豊穣の担い手よ!夜の洞に顕れ、星海の淵ぞ至りて讃えん!いあ!千の仔を孕みし森の黒山羊よ!精神と魂から解き放たれし若き肉体に暗黒の地母神の祝福を!」
モレーの悍ましい呪いの言葉と共に、藤丸の身体が変異を遂げていく。そして猛烈な光と衝撃が走り、変貌を遂げた藤丸が姿を現した。藤丸の肉体は巨大な"山羊の悪魔"に似た姿に変貌を遂げていた。キリスト教圏に伝わる"バフォメット"という悪魔に酷似した姿となった彼は咆哮する。
「ガァアアアアアア!!!」
「ちょっと!!何なのよアレ!!」
エリザベートが驚き、恐怖するのも無理はない。あのような怪物に変身するとは思ってもいなかったからだ。流石のパニッシャーも変わり果てた今の藤丸の姿を見て呆気にとられている。その姿はまさに"山羊頭の怪物"。優に3メートルはあろうかという巨体は見る者に恐怖と威圧感を与える。そんな藤丸の姿を見てモレーは満足そうに頷いていた。
「俺、巨大化してない!?………あれ?巨大な俺を見ている俺って一体……?」
が、その時藤丸の声が聞こえた。山羊頭の怪物と化した今の藤丸が喋っているのかと思ったが、どうやら違うらしい。
「……あれ?子イヌが2人になってる?分裂したの?あっちの大きいほうと……半透明の小さいほうと……。あ、もしかしてさっきの私と似た状態かも?」
そう、エリザベートも先ほどまで2人いたのだ。モレーに囚われてた方のエリザベートと、藤丸たちと行動を共にしていた方のエリザベートが融合し、今のエリザベートとなっている。山羊頭の怪物と化した藤丸だが、エリザベートと同じく2人に分裂してしまったという事だろうか……?
「半透明じゃなかったけど~♪同じ立場になってちょっと嬉しいわ~♪」
エリザベートは今の状況にも関わらず、呑気に唄を歌っている。そしてそんなふざけた態度を取るエリザベートに、パニッシャーは再度警告する。
「……ふざけるのはお前の勝手だが、今の立香がどういう状況か理解しているんだろう?何なら"コレ"を身体に受けて自分の唄う癖を矯正してみるか?」
パニッシャーは無表情のまま懐から銃を取り出し、エリザベートの額に銃口を突き付ける。今のパニッシャーは色んな意味で危険な状態だ。もし今彼が引き金を引けば、エリザベートの命は無いだろう。
「ちょ!?冗談よ!!もう言わないから許してちょうだい!!」
流石にこの状況ではエリザベートも黙るしかないようだ。パニッシャーの身体から放たれる威圧感と殺気は普通の人間が出せるものではない。モレーに対する憤怒と殺意を凝縮させたパニッシャーはエリザベートが次にふざけた態度を取ろうものなら、容赦なく彼女の脳天に風穴を開けてくるだろう。だが今の状況は依然として最悪なままだ。山羊頭の方の藤丸は咆哮を上げる。咆哮は猛烈な大音量であり、大気を激しく振動させつつ玉座の間を揺るがした。
「参ったな……。あれは殴って良いかも分からんぞ……」
ナポレオンも、山羊頭の怪物となった藤丸を攻撃してよいのか戸惑っている。
「……撤退だ!ここは引くぞ!!」
モードレッドの言う通り、確かにここは引いた方が賢明かもしれない。そしてゼノビアは分裂した半透明な方の藤丸を見る。
「半透明な方は見るからに不安定だ!このままだと存在自体が霧散してしまう恐れがある!何か適当な容れ物に確保しなければ……!」
ゼノビアによれば半透明な方の藤丸は危険な状態のようだ。魔術に疎いパニッシャーから見ても、分裂した方の彼が危機的状況にあるのは理解できた。だが適当な容れ物に入れるといってもどうすればいいのだろうか?その時、何処からか声が聞こえてきた。
「これを使え」
「あなたは……?」
「わ……たしはいい。そら、さっさと行け」
謎の存在は早くこの場を逃げるように警告してくる。確かに山羊頭の怪物の方の藤丸が迫ってきている以上、この城から逃げるしかなさそうだ。そして山羊頭の怪物は腕を振り上げる。
「いかん!来るぞ!!」
「子イヌ!私にしっかりと抱きしめられてなさい!」
そう言うとエリザベートは半透明な方の藤丸を抱き寄せる。
「パニッシャー!私の後ろに!あの怪物の攻撃を受ければお前ではひとたまりもない!」
パニッシャーは渋々、ゼノビアの後ろに隠れる。そして怪物の剛腕が6人に襲い掛かり、その衝撃で6人は玉座の間の壁を突き破って城の外へと吹き飛ばされてしまう。それを見たモレーは高笑いをあげた。
「ふふふふ!ふははは!!これで邪魔者は消えた♪」
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山羊頭の怪物の一撃は、6人を迷妄の森にまで吹き飛ばしてしまった。サーヴァントであるエリザベートたちはまだしも、普通の人間であるパニッシャーはゼノビアの後ろに隠れていたお陰で直撃を受けずに済んだ。ゼノビアは痛みに耐えつつも、どうにか意識を取り戻す。
「くっ……。無事か、パニッシャー?」
が、ゼノビアはパニッシャーの顔が自分の豊満な胸の下敷き状態になっている事に気づいた。つまりゼノビアはパニッシャーを押し倒している形になっているのである。
「あ……すまない」
「……どけ」
「ああ……」
美女であるゼノビアの胸に顔を埋めていたのが藤丸であったなら、今頃彼は顔を真っ赤にしていただろう。しかしパニッシャーは不愛想にゼノビアに対してどくように言った。それもその筈、今の彼はモレーによって藤丸を山羊頭の怪物に変えられた事に対して猛烈な怒りを感じているからだ。
「無事か?エリザベート?」
「だ、だ、大丈夫よ~♪頭がクラクラするけど~♪死んでいないと思うわ、たぶん~♪」
ダメージを受けつつも、いつものように唄いながら返答するエリザベート。
「モードレッド!ナポレオン!」
ゼノビアが2人を呼ぶと、ナポレオンは木の上から地上へと着地する。
「オーララ!派手に吹き飛んだぜ。……で、どういうことだいこの森は」
ナポレオンは自分たちがいる森を見渡しながら言う。パニッシャーたちがいる森は迷妄の森よりも禍々しい雰囲気を感じる。周囲の木々は青色と紫色、茶色が混ざり合ったようなカラフルさであり、ここまでくれば毒々しいという表現が似合う。
「うお、ヤべえなこの森。ファンシー通り越してブッ飛んだナイトメア状態だ」
モードレッドも周囲の森の異様さと異質さを察して顔をしかめる。
「立香、大丈夫か――」
パニッシャーは半透明な方の藤丸の様子を見ようと、彼に目を向けた。が、その瞬間、パニッシャーの思考は停止した。いや、パニッシャーだけではない、エリザベート、ゼノビア、モードレッド、ナポレオンも今の藤丸の姿を見て固まっている。―――今の藤丸は南瓜頭の小さい人形になっているのだ。
「……お、お前は立香……なの……か……?」
さしものパニッシャーも動揺を隠しきれない様子だ。
「お、お前は藤丸なのか!?」
「ええええええぇぇぇぇ!?子イヌなの!?ホントに子イヌ!?」
「頭が……重たい……」
どうやらこの姿になっても彼の意識はハッキリしているらしい。
「おいおいマジかよ。お前がそんなナリになるなんてな」
「そ、そうね。南瓜になってるし……」
エリザベートの言葉を受け、藤丸は今の自分の姿を改めて確認すると、絶叫を上げてしまう。
「ギャーーーー!!!」
それから暫くの間、藤丸は動揺を隠せなかったものの、ようやく落ち着きを取り戻せた。
「落ち着いたか?」
「ど、どうにか……。しかし自分がパンプキンヘッドになるとは……」
「に、人間には滅多にない経験だな!うん!」
ゼノビアなりに藤丸を元気づけようとしてくれる。
「子イヌ……可哀想に……。……そうだ、これからは子南瓜って呼んだ方がいいかしら?」
「やめて!」
エリザベートの冗談に反応して叫ぶ藤丸。
「お前らなあ……緊張感なさすぎだろ」
「……あぁ、ふざけているっていうのも考え物だな」
パニッシャーはそう言いつつ、エリザベートの頭上に拳骨を見舞う。当然、彼女には効いていないのだが……。
「言っていい冗談と悪い冗談の区別ぐらいは付けろエリザベート?お前の頭は飾りか?」
「た、単なる冗談よ!?というか黒イヌ、さっきからアンタ怖いわよ!?目が笑ってないし……」
それもその筈、パニッシャーはモレーによって藤丸を山羊頭の怪物にさせられた挙句、片割れである半透明の藤丸もこのパンプキンヘッドの人形の器に入れなければならなかったのだから。今のパニッシャーはモレーに対する怒りに支配されており、怒髪天を衝く勢いだった。
「え、エリちゃんは俺を元気づける為に言ってくれたんだ。とりあえずパニッシャーは落ち着いて?俺は大丈夫だからさ」
藤丸の言葉に渋々ながらも従うパニッシャー。が、藤丸の態度に違和感を覚えたエリザベートは首を傾げる。
「……ねぇ、子イヌ」
「うん?どうしたのエリちゃん?」
「……いえ、何でもない。私の気のせいかもしれないから」
エリザベートは感じた違和感をとりあえずは自分の気のせいという事にした。
「にしても、吹っ飛ばされてきたもんだから場所がわかんねーな。ンだよこの森」
「これからのことを考えるためにも、どこかに一度腰を落ち着けたいものだが……。オレたちの根城とは、だいぶ離れた場所にいるようだからな」
モードレッドとナポレオンは自分たちの置かれた状況を整理し、態勢を立て直す話し合いをしていた。
「探せば別の森くらいあるでしょう~♪童話の森には~、お菓子の家がつきものよ~♪」
エリザベートは相変わらずふざけた調子でいる。じっとしていても始まらないので、6人は森の中を散策する事にした。グロテスクな森の中は長く歩くほど、気分を害してしまうような光景が広がっていた。そんな森に対してゼノビアも苛立っている。
「ええい、奇怪で不快な森だ。森林資源は大事だが、いっそ焼き払ってしまおうか」
「なんだ、ようやく俺と意見が合致したな」
そう、パニッシャーは迷妄の森を自分が持つ携帯型の火炎放射器で焼き払おうとしたのを、エリザベートたちに止められている。
「や、焼き払うのは~、止めましょうね~?アンタも黒イヌと考えがあんまり変わらないわよ~?」
「この前は焼いてスッキリと言っていなかったか?まあ、焼かないに越した事はないが……」
ゼノビアがそう言うと、森の奥から声がしてきた。
「そうそう、そうですともー。たしかに奇怪な森だけど、これはこれで冒涜感マシマシでいいじゃないですかー」
「まあ、そういう気持ちはわからなくもないけど……。ど……ど?」
エリザベートは森の奥から現れた人物に目を向けると、言葉に詰まってしまった。エリザベートだけではない、ナポレオンもモードレッドもゼノビアも藤丸も目の前に現れた人物を目にして目を丸くした。
「いやあ、その……どうもどうも」
この特異点の元凶にして、チェイテシンデレラ城にて藤丸を山羊頭の怪物へと変えたジャック・ド・モレーが姿を現したのだ。先ほど城で見た時とは服装も肌の色も異なっており、今のモレーは美しい白い肌をした正統派の美女であった。
「何でここにモレーがいるの~!?」
「追いかけてきたかテメェ!」
モードレッドは憤怒の形相でクラレントを抜く。藤丸を山羊頭の怪物へと変え、分裂した方の藤丸も南瓜頭の人形の容れ物へと移す事態となった元凶であるモレーが目の前にいるのだから無理もない。
「待った待った!こうさん、こうさんしまーす!」
モレーは両手を挙げて降参をアピールするが、モードレッドは聞く耳を持たない。
「うるせぇ!ブッ殺し確定だ!」
「落ち着けモードレッド!さて、些か毒気が抜け落ちた総長殿。降参とはどういうことかな?」
「やー、言葉まんまの意味ですって。降参、降伏、大惨敗、あたしの負けでーす」
どうやらモレーは本気で降参する気でいるらしい。その証拠に敵意や戦意といったものは見られない。
「へぇ。じゃあこの特異点は解決か。お疲れ解散さようならってわけにはいかなそうだな、オイ」
「あー……実はーですねー……そのー……。大きい声では言えねーのですが……。あたし、皆さんと同様に……吹き飛ばされました……」
モレーの言葉にエリザベートたちは同時に「ハァ!?」という声を揃えた。が、ただ一人パニッシャーだけは無言のままじっとモレーを見つめていたのだが……。
その後、モレーも行動を共にする事になり7人は森を移動し、森の中にある小屋の中に入りそこで話し合う。何でもモレーは山羊頭の怪物と化した藤丸を深淵の聖母にしたつもりでいたのだが、怪物にされた当の藤丸は敵味方の識別ができないばかりか、モレーを殴り飛ばしてチェイテシンデレラ城の外にたたき出したのだ。モレー、エリザベート、藤丸、ゼノビア、ナポレオン、モードレッドは小屋の中に入り、椅子に腰を下ろしてモレーの話に耳を傾ける。
「いやー、儀式の手順が不十分だったのか――――聖杯持ってたカルデアのマスターが、そもそもウチの神さんと相性お悪うござったのか。あるいはただ単に運が悪かったのか。ともかくですね。このままだと、全く何の思考も思想も論理もない、ただの怪物が暴れて周囲を台無しにしてそれでおしまい。モレー的には、さすがにそれはちょっと見過ごせないというかー……」
モレーの話によれば彼女が信仰している"深淵の聖母"とやらを呼び出す事に失敗したのだ。勝手に特異点を作り上げて、自分の願望を叶えるべく藤丸を生贄同然に使って自分の信奉する神を呼び出そうとそたのだから身勝手極まりない。しかしそんな彼女の目論見は見事に頓挫してしまい、今ここでエリザベートたちと話し合っている。
「図々しいことは百も万も承知ですが……。つまりはですねー。あたし、ジャック・ド・モレー!皆さん、よろしくお願いしまーす!
「なーにーがーよーろーしーくーだー!」
「な~に~が~よ~ろ~し~く~な~の~よ~♪」
余りの身勝手なモレーの要求に、モードレッドとエリザベートは同時にそう叫んだ。まあ当然の反応である。
「よし、まずは説明しろ。貴様の本来の目的は何だったんだ?」
ゼノビアがモレーに尋ねると、彼女は実に正直に自分の目的について語り始める。
「それは勿論、私が崇める『深淵の聖母』の召喚。けれど彼の御方は、現実に降臨するには存在強度があまりにも足りなかった。でもこの夢のような特異点なら引っぱり出せるかも―――だからここを利用させてもらった……というわけ」
「夢のような特異点で神様を……?」
「ふっふふー、言いたいことはわかるよ。所詮、それは贋物だろう、とね。無辜の怪物たるこのジャック・ド・モレーの"妄想"に過ぎないのかもしれない。でもね、それが我が理想の神へと真に届く存在であるなら……本物だろうと贋物だろうと関係はない。"夢"の舞台であれば、贋物と本物の違いはいっそう曖昧模糊と化す。晩餐の贄を捧げ、旧き典礼に則り儀式をたどれば必ずや秘跡は成る。ここに、理想の神が召喚される!」
モレーはエリザベートたちに熱弁を振るうと、続けてこう呟いた。
「――――される!はずだったんだけどなー……」
モレーは深淵の聖母を召喚する為に、大々的に準備を進めていたにも関わらず失敗してしまった。あの山羊頭の怪物……藤丸を深淵の聖母にしたつもりだったのだが、なぜか失敗したのだ。
「残念だったね」
「う……うい。め、めるしー。巻き込まれた被害者にそう言われちゃうと……、こっちの立つ瀬が無いな。すげーな、カルデアのマスター。藤丸立香か、か。ふっふふー」
モレーは人形になった今の藤丸を見て眼鏡をキラーンと光らせる。先ほどまで藤丸を深淵の聖母とやらに変えようとしていた悪女ぶりはどこえやら、だ。エリザベートも、ナポレオンも、ゼノビアもモードレッドもモレーの態度に呆れながらも、彼女が協力を申し出ている以上は断らない姿勢のようだ。
「それじゃ次の質問といこうか。この特異点を解決するには、どうしたらいい?」
「解決すること自体は簡単。もう一回あの城に戻って怪物になった藤丸立香をスカーンとボコればいい……はず」
モレーはハッキリしない言葉で答え、彼女の言葉を聞いた全員が訝しむ。
「引っ掛かる言い方だな。つまり、それではもう一つの問題が解決しない、ということか?」
「げ、おわかりで」
「分かるに決まっているだろう。もう一つの問題……二つになった藤丸立香を元に戻すには、どうしたらいい?」
「えーと、それは……現地に向かわないとハッキリしたことはちょっと……」
モレー自身も、山羊頭の怪物と化した藤丸と、今の南瓜の人形になった藤丸を再び一つにする確実な方法を知っているわけではなさそうだ。ゼノビアは呆れ顔でため息をつく。
「つまり、何もわからないと」
「ふ、ふふ、ふふっふ」
「誤魔化したい様がありありの笑い方をするな。悪なら悪らしく最後までふてぶてしくだ!」
「ぴいぃぃぃ、容赦のないダメ出し!こ、これからのモレーにご期待あれー!」
いまいち悪人として徹底的に不遜な態度を取り切れないモレーの態度に呆れるゼノビア。そしてそんなモレーの後ろにパニッシャーが立つ。
「うん?黒イヌ……?」
パニッシャーは懐から液体の入った容器を取り出して蓋を開けると、中身をモレーの頭にかけていく。
「ぎゃっ!?な、なにこれ!?」
モレーは突然自分の頭にかけられた液体に驚き、慌ててそれを拭おうとする。
「……!?この臭いは……!?」
パニッシャーがモレーにかけた液体が水ではない事を知ったゼノビアは顔を強張らせる。
「こ、この臭いは……いわゆるガソリン……?」
「そうだ、よく知っているな」
パニッシャーはそう言って懐からジッポーライターを取り出して火を付けると、たっぷりとガソリンを被ったモレーに放り投げる。そして次の瞬間、ガソリンに引火して彼女の身体は炎に包まれる。だがたんなるガソリンとそれによる引火でサーヴァントであるモレーがダメージを受けるはずがない。
「黒イヌ!?アンタなにやってんのよ!!」
パニッシャーは無言で隣にいるゼノビアが持っている槍を取り上げると、炎に包まれているモレーの頭部を槍の柄の部分で思いきり殴りつけた。モレーと同じサーヴァントであるゼノビアの武器なので、ダメージは入っただろう。モレーは額から血を流しながら床に倒れる。
「パニッシャー!?お前なにを……!?」
火だるま状態のモレーに対する攻撃を開始したパニッシャーに、ゼノビアもエリザベートも驚いていた。
「ちょ、ちょっと待った!!この通り降参して協力を申し出てるのにいきなり暴力とか酷くないですか!?」
「降参?協力?自分が何をしたのか理解した上で言ってるのか?お前は立香に何をしたのか言ってみろ!!」
パニッシャーはゼノビアから奪った槍を用いて床に倒れているモレーの太ももを貫いた。自分の中の衝動が抑えられない、憤怒を制御しきれない。立香をあんな目に遭わせておきながら何食わぬ顔で協力を申し出てきたモレーが許せない。自分が藤丸にした所業を反省する事もなく、ヘラヘラしながらこちらに協力を求めてくる面の皮の厚さはパニッシャーを攻撃に走らせるのには十分過ぎた。
「痛いっ!?こ、ここは協力した方が得策だってばぁ……」
だがモレーの言葉を無視してパニッシャーは彼女の顔面に蹴りを入れる。
「おい!アンタの気持ちも分かるがやりすぎだぞ!?」
しかしそんな抗議の声を無視し、今度は倒れたままのモレーを蹴り続ける。蹴られているモレーは抵抗らしい抵抗は見せていない。自分に戦意がない事をアピールする為なのかは知らないが、そんな彼女の態度は益々パニッシャーの攻撃を激しくした。そんな状況を見かねたナポレオンはパニッシャーを後ろから羽交い絞めにして拘束する。
「離せナポレオン!!コイツは立香を怪物に変えた分際で俺たちに協力なんて申し出てきたんだぞ!?お前はこんな奴の協力を受け入れるのか!?」
「気持ちは分からんでもないが落ち着けよ!!」
「頭を冷やせよオッサン!今ここでこいつを殺したらカルデアのマスターを元に戻す手がかりが……!」
「お前こそモレーの言う事を1から10まで鵜呑みにするのか!?こいつの言葉が真実かどうかも分からんのに?もし嘘だったらどうするんだ?」
「それは……確かにそうだけどよぉ……」
「……あ~、もういいよ。あたしが悪かったって。だからとりあえず話をしよう。ね?」
モレーは自分の身体に引火した火を消しつつ、立ち上がる。だがそれでもパニッシャーの怒りは収まらない。
「モードレッド、ナポレオン、お前らはこんな女の言う事を真に受ける程にバカなのか!?そしてこの特異点の元凶であるコイツの協力を甘んじて受け入れる程にお人よしなのか!?」
怒りが収まらないパニッシャーは自分を制止するナポレオンとモードレッドに怒声を上げる。
「いや、でもなぁ……今のオレたちには情報が必要だし……」
「黒イヌ~!とりあえず落ち着きなさい~。今はこの女の協力が必要なのよ~!」
だがパニッシャーは藤丸を利用して彼を山羊頭の怪物へと変えたモレーに対する怒りと殺意を抑える事ができなかった。
「うるさいぞエリザベート!!お前もモレーが立香を山羊頭の怪物に変える所を見ただろう!!モレーには相応の報いを与えてやるべきだ!その気がないなら俺のやる事に口を挟むな!!」
「いいから落ち着け!オレだって総長殿には色々思うところはあるが、まずは目の前の問題を解決するのが最優先だろ!?」
「黙れ!!コイツの協力などいらん!」
そう言って益々パニッシャーはナポレオンの拘束を解こうと暴れる。
「頭を冷やしなさいよ黒イヌ~。あんたちょっとおかしいわよ?」
エリザベートは憤怒に彩られたパニッシャーの表情を見て引いていた。パニッシャーからすればこの異常な特異点を作り上げ、あまつさえ藤丸を利用して自分の信仰する深淵の聖母へと変えようとしたモレーは"悪"そのものであり、パニッシャーにとっては制裁すべき対象だ。
「いい加減離せナポレオン!何故そうまでしてモレーを庇う!?」
「いいか?よく聞けよ?アンタは特異点を修正しなきゃいけない。アンタだって藤丸立香と同じカルデアのマスターなんだろ?だったらまずやるべき事は何だ?」
「……何度も言っているだろう?目の前のジャック・ド・モレーに制裁を下す!」
「いい加減にしなさいよ黒イヌ!!そんな事しても特異点の問題は解決しないのよ!?そりゃ、私だってモレーの言う事を100%信じてるわけじゃ無いけど……今はこの女の力が必要なのも事実でしょ!?」
エリザベートの言葉にナポレオンも頷く。
「そうだぜ旦那。ここはカルデアのマスターとして冷静に状況を判断してくれや。それとも、まさかとは思うが……あのジャック・ド・モレーがオレたちを騙してるとでも言うのか?」
「騙すも何もその女がこの事態を引き起こした張本人だろうが!」
「だとしても今はオレたちが争ってる場合じゃないだろ?違うか?」
ナポレオンの言葉に渋々納得したパニッシャーは持っていたゼノビアの槍を手放した。それ見エリザベートも警戒を解き、ナポレオンもパニッシャーを解放した。が、パニッシャーはナポレオンたちの警戒が緩んだ隙を突き、懐から電光石火の迅さで拳銃を抜くと、モレーに向けて躊躇なく発砲する。
「パニッシャー!やめるんだ!!」
藤丸の声も空しく、銃弾はモレーの身体に命中した。
そりゃモレーの言う事を1から10まで信じるのか?って言われればねぇ。ただでさえモレーのした事ってカルデア的にも人理的にも完全にアウトだし……。
モレーがやらかした事を目の当たりにしているのにアッサリと彼女と協力するエリザベートやナポレオンの姿勢にも問題があると思いますけど。
パニッシャーさんもこんな調子じゃカルデアの面々から本格的に嫌われるんじゃ……?
それはそうと、降参と協力を申し出たモレーに対して今回のパニッシャーさんがやった行為と同じ事をするサーヴァントってカルデアにいるんだろうか?