パニッシャーが人類最後のマスターと共に戦うようです 作:ドレッジキング
「ほーん……カルデアねぇ。泣く子も黙る処刑人のパニッシャーであるアンタが今はそんな組織で働いてんのか。意外だな」
パニッシャーはエリザベート達に対してデッドプールがどのような人間なのかを話し、デッドプールに対しても自分が今カルデアという組織でマスターをしている事を伝えた。デッドプールの方は犯罪者に対する処刑人として恐れられているパニッシャーがカルデアなる組織に属している事に驚いている様子だ。
「ひょっとして犯罪者ばっか殺すのに飽きた?ホラ、アンタって一匹狼タイプじゃん、組織に属して働いてるイメージとか全っ然沸かねーんだけど」
デッドプールからすれば犯罪者に対する自警活動を続けてきたパニッシャーがこうして組織に所属して働いているというのが信じられないのだろう。そしてデッドプールはパニッシャーの隣にいるエリザベートやゼノビアに視線を送る。
「お、褐色水着美人に、ドレス着た可愛い子ちゃんがいるじゃん。この子ら誰なの?もしかして彼女?それとも愛人?隠し子だったり?」
「何くだらない事言ってるんだお前は」
「誰が愛人よ!あたしは黒イヌと付き合ってる訳じゃないわよ!」
「冗談でも笑えんぞ!私は今パニッシャーと行動を共にしているだけだ!」
デッドプールの発言に対してキレるエリザベートとゼノビア。デッドプールは元々こういう空気の読めない性格なので、相手の怒りをよく買ってしまうのだが。そしてデッドプールは首を縄で繋がれ、パニッシャーにリードされているモレーの姿を見た。
「うお!?銀髪ショートボブの眼鏡っ子じゃん!しかもマッパで首縄付けてるって、これもうアレだろ、俺の大好きな拘束プレイのAVそのものじゃん!俺こういうの大好き!」
「うるさい黙れ死ね、この下衆野郎」
モレーは冷たい視線をデッドプールに送りながら吐き捨てるように言った。
「おいおいパニッシャー、まさかアンタにそんな趣味があったとは俺ちゃんもドン引きだぜ!スッパにひん剥いた眼鏡っ子に対してそういうプレイしてるとか、性癖拗らせすぎだろ!」
確かに今の全裸のモレーが首輪を付けられた上で犬のようにパニッシャーにリードされている姿を見ればそう思われるのも仕方ないのかもしれないが……。
「そーなんですよー。この髑髏の防弾チョッキ着た人が、あたしをひん剥いて無理矢理こんな格好させたんですよぉ。こんなの恥ずかしいし屈辱だしサイテーなんですけどぉ、逆らったら殺されるから仕方なく従ってるんですぅ」
モレーは自分が辱めを受けている事をアピールするかのように、わざとらしい猫なで声でそう言った。
「マジかよ!あの犯罪者殺しのパニッシャーがまさかそんな事をしていたなんて俺ちゃんビックリだわ!」
モレーを全裸にして犬のように連れ回しているのは事実なのでしょうがないにしても、パニッシャーの提案をエリザベートやモードレッドも呑んだので、彼女たちも共犯と言える。そしてデッドプールはパニッシャーに対してモレーを全裸にした上で犬のように引き回している事を盛大に煽り始めた。
「やっぱりアンタ、本当はこういうプレイが好きなんでしょ?俺もそういうの大好きだぜ!アンタって堅物だからこういう事に縁が無いと思ってたんだけど、意外とやるじゃん!銀髪ショートボブの可愛い子ちゃんをマッパにして犬プレイとか、アブノーマル過ぎておじさんゾクゾクしちゃうわ!」
「……何一人で盛り上がってんのこの人。マジキモいんですけど……」
「まぁ、コイツがキモイのは今に始まった事じゃないが……」
それから数十分掛けてデッドプールを物理(意味深)で黙らせたパニッシャーは、今後の事について話し合う。モードレッドの宝具を放っても一瞬で木々が再生したので、森から出る事が一層難しくなった。自動再生能力を身に付けた木々にもう一度宝具を叩き込んだとしても結果は同じだろう。途方に暮れていると、森の中から声がしてきた。
「この……森を出たいか?」
「!?」
森の中から聞こえてくる声に、全員が身構えた。
「何者か!姿を現わせ!」
「わ……たしが誰かなど、どうでもいい。エリザベート・シンデレラ」
謎の声の主はエリザベートに対して声を掛ける。
「え、あ、うん?」
「お前が成すべきことはただ一つ。唄え、シンデレラ」
「うた……?」
「その通りだ。唄え。世のため人のために高らかに唄え。歌でこの森をボコボコにしてメロメロにするのだ」
「ぼこぼこ……めろめろ……」
謎の声の主はエリザベートに対して歌を用いて、この森をボコボコにしてメロメロにしろと言ってきた。歌で森をボコボコにしろだのとは何とも意味不明であり、パニッシャーや藤丸、ゼノビアも首を傾げるしかなかった。そもそもシンデレラというのは童話の中で歌うキャラクターではないのだが、そこはエリザベート本人の性格を考えて無視する事にした。
「では、さらばだ……」
「待って!アナタは一体――」
謎の声の主が去ろうとした時、エリザベートは引き留めた。
「ふっ、どうやら今風に言うと『王子様』というものらしい」
謎の声の主から出た言葉にエリザベートは思わず叫んでしまう。
「な、な、な、なんですってーーー!?」
「だが、王子はこの世界の役には立てぬ。せいぜいがこうして手助けをする程度だ」
「お城の時に助言くれませんでした!?」
そう、チェイテシンデレラ城で藤丸が分裂した際、謎の声の主はエリザベートや藤丸に助言をしてくれた。
「ふっ、どうだったかな……」
そう言い残し、謎の声の主の気配は完全に消えた。どうやら立ち去ったらしい。
「今の姿が見えなかった人が王子様なのね……!……けどおかしいわね。王子様と遭遇なんて最高に盛り上がるイベントなのに、何故か私の中でサッパリ盛り上がらないわ。モレー、王子様について知ってる?」
エリザベートはモレーに対して王子を知っているか問う。この特異点を作り上げた張本人であるモレーであれば何か知っている可能性があるからだ。
「王子様がいたことには心底驚いてます。そもそも藤丸立香が王子様だったのでは……?」
「俺にはそんな自覚ないけど……」
「つまりあたしの意味深な台詞は大体無意味だった!?他人に聞かれなくてホントよかった……」
「あ、ボンヤリだけど覚えてるわソレ。『可憐な私を救いに来てね、王子様!』みたいなこと言ってなかった?」
「忘れてぇ!」
「何だ、結局王子っていうのは謎のままなのか」
パニッシャーもモレーの杜撰な計画ぶりに呆れている様子だ。
「凹むからやめてぇ!」
「それで、結局私はどうすればいいのかしら!?」
「歌でボコボコにする……だっけ?」
「ボコボコね!大丈夫よ、私の歌なら大体が原子崩壊するから!」
歌だけで周囲の対象を原子崩壊させられるのは、ミュータントパワーじみているがエリザベートの発する声はそれだけ強力なのだろうか?とパニッシャーは思った。
「おい、森の木々をボコボコにするのはいいが、俺や立香、ゼノビアたちまで原子崩壊させるんじゃないぞ?」
「しないわよ!私を何だと思ってるのよ!」
パニッシャーの言葉にエリザベートは自信満々に答える。
「要するに~♪ブン殴り倒すってことでいいのよね~♪戦い~挑み~串刺し~拷問~槍~♪瀉血喀血冷酷流血~♪」」
「俺ちゃんも~♪混ぜて混ぜて~♪」
『お前まで歌うな!!』
エリザベートにつられて歌ってしまったデッドプールに対して一同から総ツッコミが入れられてしまう。そしてエリザベートは周囲の異形化した森をボコボコにするべく、歌いはじめた。
「ラララ~♪愛~翼~想い~夢~なんかふわっとしたなんか~♪アルテマ~ウルティマ~ウルトラ~ハイパー~♪ラブ~ウィング~フィリン~エトセトラフンフフフ~♪」
歌詞自体は壊滅的に酷いが、エリザベート自身は上機嫌に唄っていた。すると悍ましかった光景が広がっていた森がみるみる内に以前の姿に戻っていくではないか。ホラーじみていた森の木々は、入った時のメルヘンチックな森へと変化していく。
「見ろ!森が本来の姿に戻っていくぞ!」
「ホントだ!直ってるー!?」
「信じられない……!ついさっきまで異形化していた筈なのに……!まさか……エリザベートの歌が変異した環境を是正した……?」
エリザベートの歌のパワーで異形化していた森が元に戻って行く光景を目の当たりにしてモレーも驚愕していた。彼女もエリザベートの歌の持つパワーまでは知らなかったらしい。
「お!?ひょっとして俺ちゃんの顔も治せたりすんの!?」
「……頼むからお前は黙ってろ」
「ジャスティス~フリーダム~ハート~♪ウオウウオウ~♪」
酷い上に意味不明な歌詞ではあるが、森を元通りにする効果はあったようだ。エリザベートは上機嫌に唄い続けている。
「歌詞の酷さはどうにかならんのか……」
「それ同意でーす。私だったらもっと上手く歌えますって。けど一周回って愛おしさを感じちゃう……。これが……愛の歌……!」
エリザベートの歌に対して愚痴るパニッシャーと、エリザベートの歌に愛を感じてしまうモレーだったが、当のエリザベートは全く気にしていない様子だった。
「けど……エリちゃんの歌はひょっとしたらこの特異点を修正するカギになるかもしれない」
藤丸の言葉を聞いたパニッシャー、ゼノビア、モードレッド、ナポレオンもエリザベートの歌の力を自分の目で見ているので、この特異点を攻略するには彼女の力が必要になるだろうと感じていた。
「私の歌が~♪またもや世界を救うのね~♪えーとすごいわ~♪うーんとビックリしたわ~♪」
「……随分と語彙が貧弱だな。この歌手」
「だが彼女の歌の持つ力だけは凄いものだ。歌詞だけはちょっと残念だがな……」
「ちょっとぉ~!そこうるさいわよ!」
「よし、カルデアのマスター。モレーが道案内、エリザベートが唄う、そしてオレが道を切り開く。それでいいか?」
エリザベートの唄で森が元に戻ったとはいっても、まだ全ての範囲の森が戻ったわけではない。そこでエリザベートが唄を用いて道中の森を元の迷妄の森へと戻し、モードレッドが自分の宝具を用いて森を吹き飛ばしつつ、モレーの案内で城へと戻るという寸法だ。確かにそれならば合理的だし、最短ルートであの城まで辿り着く事ができる。
「えっ、あたしまだ働かないとダメですか?」
全ての原因であるモレーは不満そうに言っている。
「当然だ、この特異点といい、立香が2つに分裂した事といい、全部お前の責任なんだからな」
パニッシャーはモレーの背中に軽い蹴りを入れつつ吐き捨てる。
「エリちゃんいけるー?」
「もちろんよ~♪子イヌを南瓜人形から解放してあげないと~いけないもの~♪それじゃあ唄うわね~♪」
そう、バフォメットじみた怪物と化した藤丸と、今の南瓜人形になった藤丸を元に戻す事が先決だ。パニッシャーも藤丸を元に戻すという目的があるからこそ、こうしてモレーを生かしているのだ。最も、藤丸が元に戻った暁には……。そしてエリザベートはノリノリで唄い始めた。
「いい感じの唄だね、パニッシャー」
「あぁ、そうだな。こうして聞いていると、いい気分だ」
「そんじゃオレとナポ公が森を切り開いてやるよ!」
「おう!オレとモードレッドの宝具ならこの森の木々を吹き飛ばせる!」
そして森の中を進みつつ、エリザベートは唄で変異した森を戻していき、モードレッドは自身の宝具である『
「パネェよ……マジでパネェ!!あの二人ってミュータントか?それとも俺みたいなミューテイト?まぁどっちでもいいか。とにかくスゲェぜ!しかも攻撃発動する際に技名叫んでんじゃん。これって日本のマンガでよくあるやつだけど、実際にやる奴初めて見たわwww」
相変わらず耳障りなマシンガントークを繰り広げるデッドプールの話によれば彼もこの森で迷っていたらしく、ここから出る為にパニッシャー達に同行しているようだ。デッドプールのお喋りはハッキリ言って精神衛生上あまりよろしくない。だが今はそれどころではない。一刻も早く城に向かい、藤丸を元に戻さねばならないのだから。そして一行は森を元通りにして、宝具で更地にするというルーチンを経てついにチェイテシンデレラ城へと戻ってきた。
「ついに~戻って~きたわ~♪この中に~もう一人の~子イヌがいるのね~♪」
エリザベートは楽しそうに歌を歌いながら城の前に立つ。パニッシャー、南瓜人形と化した藤丸、モードレッド、ナポレオン、ゼノビア、デッドプール、モレーも眼前にそびえる城を見上げる。
「……俺がこうしてお前と行動を共にしているのは立香を元に戻すためだ。その事を忘れるなよ?」
パニッシャーはモレーのリードを引っ張りつつ、彼女を睨む。
「分かってますって~。さー我が神の仔になりかけの藤丸立香を打ち倒しましょう!」
「お、お手柔らかに……」
山羊の怪物と化した方の藤丸を殺してしまえば最悪元に戻れなくなる可能性があるが、今は少しでも元に戻すチャンスに掛けたい所だ。そうして一行は城の中へと入っていく。城の廊下を進み、ついに山羊の怪物と化した藤丸がいる玉座の間へと辿り着いた。エリザベート達は玉座の間の扉を開き中へと入る。そして暗黒の仔山羊……即ち怪物と化した方の立香が巨体を揺らしつつ咆哮する。
「ウゥオォオオオオオオオオ!!!」
怪物と化した方の藤丸の姿は禍々しく、まるでバフォメットのような姿をしている。そんな変わり果てた藤丸の姿を見て、パニッシャーは歯ぎしりする。モレーのせいで藤丸はあんな目に遭ったのだ。
「立香……!」
パニッシャーは今にも飛び出していきそうになるが、モードレッドに制止される。
「待て!アンタじゃアイツをどうにかできねぇ!」
「……」
モードレッドの言う事は最もだ。生身の人間であるパニッシャーでは怪物と化した方の藤丸を抑えられるわけがない。そして怪物と化した方の藤丸は再び咆哮する。
「ウゥオォオオ!!」
「すっごいうるさいわ~♪きっと不安とか~あれこれで~怯えているのね~♪」
怪物と化した方の藤丸にも自我があるとすれば、今の自分の置かれた状況に戸惑いや不安を覚えているだろう。そう考えるとパニッシャーは益々モレーに対する殺意を滾らせる。藤丸があんな怪物になったのも、南瓜頭の人形に分裂したのも全てモレーが原因。
「立香!今戻してやるからな!」
だが今は藤丸を元に戻す方が先決。パニッシャーは気持ちを抑えてエリザベート、モードレッド、ナポレオンのサポートに徹する事にした。
「大きい……!そして砂嵐の如き荒々しさの咆哮!これは一筋縄ではいかないようだな……」
ゼノビアは山羊頭の怪物と化した藤丸を見て、改めてその巨体さと暴威に驚愕している。見た目に違わない強大な力を有しているに違いあるまい。そしてエリザベート、ナポレオン、モードレッド、ゼノビアは暗黒の仔山羊になった藤丸へと挑んでいく。エリザベートは鋭い蹴りを繰り出し、モードレッドは魔力放出で強化された剣で斬りかかる。しかし藤丸は攻撃を避けようともせず、二人の攻撃をその身に受けた。だがダメージが入っている様子はない。確かに攻撃を当てたハズだ。エリザベートとモードレッドは手応えのなさに驚く。そして藤丸は剛腕で二人を吹き飛ばし、手から魔力で生成されたエネルギー弾を発射する。それはまるで小型のミサイルの如く飛来し、二人に直撃して爆発した。二人は咄嗟にガードしたものの、爆風によって壁に叩きつけられてしまう。
「痛い~わ~♪」
攻撃を受けてもミュージカル調に喋るエリザベート。だがお気楽そうな口調に反してダメージはしっかりと受けており、表情も苦しそうだ。モードレッドの方も余裕がないらしく、苦痛に顔を歪ませていた。そして今度はその巨体で突撃してきたではないか。どうやら藤丸は突進攻撃を仕掛けるつもりらしい。巨大な体躯を活かした体当たりだ。これに当たればただでは済まないだろう。
「オレもいる事を忘れんなよ!」
ナポレオンは「勝利砲」を用いて魔力の砲弾を藤丸に直撃させるものの、先ほどのエリザベートとモードレッドと同じくまるで効いていないようだ。
「やはりダメか……!」
そしてナポレオンは藤丸の突進に巻き込まれてしまい、壁際まで吹き飛ばされてしまった。
「ぬぅ……このパワーは……」
「どういう事?全然こっちの攻撃が通じていないなんて……!」
エリザベートは唄を歌いながら攻撃したが、やはりこれも藤丸には通用しなかった。一体どういうカラクリなのかは分からないが、このままでは全員やられるのも時間の問題である。
「子イヌ!どうして私の歌が通じていないのかしら……!?」
「そんな事聞かれても~!」
南瓜人形の藤丸も、この状況にはお手上げのようだ。
「あっ」
が、その時モレーは何かに気づいたかのように声を上げた。そして彼女の声を聴いたパニッシャーは何か知っているのかと問いただす。
「今の声とその顔は何かを知っているな?答えろ、山羊頭の怪物になった方の立香にエリザベートの攻撃が通じていないのは何故だ!?」
パニッシャーはリードを引き寄せつつ、モレーを自分の近くまでこさせる。
「い、いやその。あくまで推測……妄想なんだけど……。先日もお伝えした通り、ここはメルヘンな夢世界なのです!これまでのあなた方の行動は確かに『正解』でした。でも、この深淵の聖母は……違う次元から来た存在。言うなれば……定番といえば定番ですがデウス・エクス・マキナなのです。どんな物語の世界においても『
「メチャクチャに……?」
モレーの言葉を聞いた藤丸は不安そうに聞く。
「その通り、メチャクチャにしなければいけないのです。このモレーの呼び出した深淵の聖母はこの特異点の『メルヘン要素』ゆえにメルヘン以外のジャンルでは弱体化するのです。メチャクチャな終わり方で、この世界をメルヘンでなくさせる!だから、メルヘンとは真逆の行動が最大の武器。メルヘンの世界を破壊するには、
要するにメルヘンには反メルヘンンの行動によるカウンターをぶつけろという意味らしい。アンチメルヘン、反童話という事のようだ。
「それじゃあ私の歌で~あのヤギを降参させて~聖杯をゲットすればいいわけね~♪それで全部解決よ~♪」
エリザベートは自身満々に言うが、彼女が行動するよりも早くパニッシャーがモレーをリードで引っ張りつつ、山羊頭の怪物と化した藤丸の元に近づいていく。
「え!?ちょ……!?なんであたしを連れていくわけ!?おわわっ!?」
「黒イヌ!危ないわよ!戻りなさい!」
エリザベートの声を無視してパニッシャーは元凶であるモレーを悪魔と化した藤丸の前に立たせる。
「立香、コイツがお前をそんな姿にした元凶だ。存分に痛めつけていいぞ?」
「いやいやいや!何でそーなるわけ!?そりゃあたしはメルヘンとは真逆の行動とは言いましたけど、こんな仕打ちってある!?」
モレーはパニッシャーの行動に動揺している。だがパニッシャーは至って冷静に彼女の問いかけに返答した。
「黙ってろ。全ての元凶であるお前が身体を張るのは当然だ。それとも俺たちに協力するっていうのは嘘だったのか?」
「だからってあたしを痛めつけても何の解決にもならんでしょうに……」
「黒イヌ!何バカな真似してるのよ!早く戻りなさい!」
「そもそも、俺自身がメルヘンとは最も縁遠い存在だからな。だからこそこうして考えられる最善の行動をしているんだよ」
「それはあなたにとっての最善でしょうがー!」
余りにも滅茶苦茶なパニッシャーの理論に思わずモレーはツッコミを入れてしまう。確かに彼の行動自体、メルヘンとは真逆そのものなのだが。モレーとパニッシャーが言い争っている内に山羊の怪物となった藤丸が近づいてくる。そして二人の前に立つと、鼓膜を突き破らんばかりの咆哮を上げた。
「ブオオオオオオオオオ!!」
「ちょっと!ホントに死んじゃうって!いや、マジで!!」
モレーは恐怖のあまり顔を真っ青にしている。しかしそんな状況下でも彼女は必死に抗議していた。
「あなたねえ!少しはあたしの事も考えてちょうだい!!彼を元通りにするためにここまで協力してるのに!!」
「まだ足りん。ここまでやってようやく"協力"って呼ぶんだ」
そう言ってパニッシャーはモレーを藤丸の前に突き出す。
「も、もう付き合ってらんねー!後は任せたわ!」
そう言ってモレーは霊体化して縄の拘束から抜け出すと、エリザベートやゼノビアのいる場所まで退避した。そして山羊頭の怪物と化した藤丸とパニッシャーが対峙する事となる。
「おい!逃げるな!!」
パニッシャーはモレーに叫ぶが、当の彼女は既にエリザベートの後ろに隠れながら様子を見ている。
「黒イヌ!!逃げて!!殺されるわよ!!」
エリザベートの叫びと同時に藤丸の剛腕がパニッシャーに放たれた。誰もがパニッシャーが肉片となってバラバラになる光景を思い浮かべたが、寸前の所で藤丸は拳を止める。
「……?」
これにはパニッシャーも意味が分からず、目を丸くした。そしてバフォメットもどきの藤丸はパニッシャーの姿をじっと見つめいている。これはエリザベートも首を傾げた。
「ヘンね……。何で黒イヌへの攻撃を止めたのかしら?」
「分からねぇ……。ただ……」
モードレッドは藤丸がパニッシャーに対して攻撃の意思を持っていない事を何となくだが理解できた。そして藤丸はかろうじて聞き取れるような声で言葉を絞り出す。
「………オ……ジ……サ……ン……?」
藤丸は巨体を屈め、パニッシャーに顔を近づける。
「立香……?俺が分かるのか?」
モレーによって怪物と化した状態でも、パニッシャーの事を覚えているのだろうか?パニッシャー自身も理解が追い付いておらず、そんな彼に対して藤丸は続けて言葉を絞り出す。
「……コ……コ……ハ…………ド……コ……?」
獣のような唸り声と濁音が混じった言葉だが、彼が自分の状況に戸惑っているのは確かなようだ。
「……大丈夫だ。必ずお前を元に戻してやるからな」
パニッシャーはそう言って怪物と化している藤丸の身体を優しく撫でる。
「え、えっと……子イヌは黒イヌに敵意は無いみたいだけど……どうすればいいのかしら……?」
エリザベートもこの状況には戸惑っている。
「えーと……喋れたんだ。言語による意思疎通すらもできないと思ってたんだけど……」
そして驚いているのはモレーも同じだ。自分が話しかけても無視されたばかりか攻撃まで受けたにも拘らず、パニッシャーに対しては攻撃の意思も戦う意思も見せず、彼の前に屈んで弱音のような言葉を吐いている。
「ね、ねぇ子イヌ。どうすればいいのかしら……?ブッ飛ばしちゃっていいのよね?」
エリザベートは南瓜人形と化した方の藤丸に尋ねる。
「いいよ!やってエリちゃん!あ、でも歌でね?もう一人の俺は戦闘の意思はないみたいだし……」
藤丸の言う通り、怪物になった方の藤丸はパニッシャーの前にしゃがんで彼から頭を撫でられている。そしてエリザベートは歌を唄い始めた。今がチャンスだと彼女の心の中の直感が告げていた。そしてエリザベートが歌い始めたと同時に、怪物の方の藤丸は苦しみ出してたではないか。
「ゴ……アァ……!?」
エリザベートの歌によって怪物化した方の藤丸は苦しんでいる。どうやらこの歌は効果があるようだ。
「うそ……?彼の魔力が目に見えて弱体化していく……?」
モレーもエリザベートの歌で苦しみだした藤丸を見て呆然としている。怪物になった方の藤丸はみるみる内に弱っていき、膝を付いて地面から動かなくなった。
「グォォォォォ……」
「ねぇモレー!後はどうすればいいの!?何か弱ってそうだし、今がチャンスかも!」
エリザベートは後ろにいるモレーに対して怪物になった藤丸を元に戻すにはどうすれば良いのかを尋ねる。
「さっきも言った通り、メルヘンには無い行動をするのです!」
「メ、メルヘンには無い行動っていっても……」
怪物と化した藤丸を元の状態に戻すにはどうすれば良いのか。これが童話なら……所謂"キス"を用いて元に戻してしまう。眠れる森の美女に王子様がキスをしたように、キスの力を用いて怪物となった藤丸を元に戻すのだ。しかしそれではモレーの言う通り、『メルヘンに沿った行動』となってしまう。だから……。
「ぐ、具体的にはどうすれば良いの?子イヌ!」
「それは……」
が、藤丸が言おうとした直後、デッドプールが自分の得物のカタナを抜き払い、怪物状態となった藤丸に駆け寄ると、彼の仮面に一太刀入れる。続いて二太刀目、三太刀目と入れていく。
「ここは俺ちゃんにお任せ!おりゃあッ!!」
デッドプールは目にも止まらぬ速さで次々と刀を振るい、怪物となった藤丸の仮面を刻んでいく。
「あの仮面こそ聖体!我が深淵の聖母の力が宿るモノ!この特異点を構成するメルヘン、その中心です!」
要するに怪物になった藤丸が顔に被っている仮面を破壊すれば良いわけだ。そしてデッドプールが太刀を入れ続けていき、仮面に亀裂が入っていく。メルヘンでない存在であるデッドプールの攻撃であれば有効らしい。それ以前に怪物になった藤丸はエリザベートの歌で弱体化していたのだが。
「赤タイツ!最後は私に任せなさい!!」
「やっちゃえエリちゃん!!」
藤丸の声援を聞いてエリザベートは怪物になった藤丸との距離を一気に詰めると、ゼロ距離から自分の歌を浴びせつけた。
「~~~~~~~~~~~~♪」
エリザベートの歌を至近距離から浴びた藤丸の仮面は完全に砕け散った。その瞬間、この時代を歪ませていた原因が取り除かれ、修正が開始された。迷妄の森も、ファンタジーな家も全て消失していく。モレーの言う通り怪物の藤丸が付けていた仮面こそがこの特異点を発生させていたのだ。
「この感じ――終わったな」
「ああ、お役御免だ」
「特異点が……消えていく……」
そしてエリザベートたちの前に高密度の魔力の塊が出現した。
「おい、これって……」
「聖杯ね~♪これで~解決だわ~♪」
エリザベートは聖杯を手に入れる事ができて嬉しそうだ。
「エリちゃん!聖杯ゲット!」
「もちろんよ子イヌ!こんなにたくさん唄って踊ったんだもの!トロフィーは私にこそ相応しいわ!」
エリザべートは聖杯に駆け寄ると、それを見事自分の手で掴んだ。満足そうに聖杯を胸に抱くと、彼女は満面の笑みで言った。
「やったわね~♪私~♪」
上機嫌で聖杯を撫でるエリザベート。すると彼女の身体が光に包まれ、シンデレラモードから、元のランサークラスへと戻った。この特異点が彼女のクラスや属性にまで影響を与えていたのだろう。
「……魔法が解けちゃった。なんて冗談よ。本気にしたらブラッドバスよ」
シンデレラ状態から元に戻ったエリザベートは少し名残惜しそうに聖杯をしまう。
「エリザベート・バートリー、そして藤丸立香とパニッシャー、正直なところを言うとはじめのうちはおまえたち3人のことを故郷で妙な事をしている奇人と見ていた」
「まあ、無理もないかな……」
「原因がおまえたちではないとわかった上で、そんな風に見てしまったのだ。だが今は……」
ゼノビアがそう言いかけた直後だった、パニッシャーが素早く銃を抜き、モレーに発砲したのだ。銃弾はモレーの足に命中し、彼女を転倒させた。
「痛ッ!?ちょっと何するのよ!?」
「黙れ!!」
モレーの言葉を遮るように叫ぶと、彼は倒れた彼女に近づき、彼女の顔面を蹴り飛ばす。サーヴァントである彼女に単なる蹴りなど通用しないのだが、それでもパニッシャーは自分の中から湧き上がる憤怒を抑える理由がなかった。特異点の修正は完了し、藤丸も元に戻る。だがそれで解決ではないのだ。パニッシャーにとってはモレーに"制裁"を下すまでがワンセットだ。
「特異点は修正できた。もうお前と仲良くする義務も義理も無い。立香を怪物に仕立て上げた償いをしてもらうぞ?」
「オイオイ!せっかくの余韻がぶち壊しじゃねぇか!!せっかく良い感じだったのによぉ~!!!」
「黒イヌ!アンタまだそんな事を……!」
だがパニッシャーの攻撃にモレーも堪忍袋の緒が切れたのか、立ち上がってパニッシャーをにらみつける。
「あ~もう!空気読めないったらないんだから!!」
モレーは自分の武器である剣と盾を呼び出して構える。
「いいですよ、いいですとも!そんなにお相手したいんならしてあげましょう!」
モレーがそう言った次の瞬間、パニッシャーの胸はモレーの剣で貫かれていた。サーヴァントの攻撃スピードは音速を超えており、常人の範囲内の身体能力の持ち主であるパニッシャーでは回避する事ができなかったのだ。
「ガハ……!」
口から血を吐き出すパニッシャー。夥しい鮮血が床に滴り落ち、彼の身体から力が抜けていく。そんなパニッシャーに対し、モレーは更に剣を深く突き刺した。
「黒イヌ!?」
「パニッシャー!!」
エリザベートと藤丸はモレーの剣で貫かれたパニッシャーを見て叫ぶ。だがパニッシャーは尚も諦めずにモレ―に攻撃しようとする。
「これって所謂"正当防衛"ってヤツだからね?貴方があたしに攻撃してきたんだから、やり返されても文句言わないで?」
そう言うとモレーはパニッシャーの身体を蹴飛ばし、彼の身体を壁際まで吹っ飛ばす。そして彼女はパニッシャーに向かって歩き出す。
「オイ!オッサンが死んじまうだろうが!!」
モードレッドはモレーの凶行を止めようとするが、既にモードレッドとナポレオンはこの特異点からの退去が開始しており、この空間に留まる事はできない。
「黒イヌ!!しっかりしなさい!!」
エリザベートは必死に呼びかけるが、パニッシャーは既に虫の息であり、彼が助かる見込みはなかった。だがそれでもパニッシャーは立ち上がり、近づいてくるモレーに攻撃しようとする。
「あ~、しつこい!いい加減にしてくれないかなぁ~?」
そう言いながらモレーは剣を振りかざしてパニッシャーの身体を切り裂いた。
「ガハッ……!」
全身を切り刻まれたパニッシャーはそのまま床に倒れ込む。エリザベートは人形状態の藤丸を抱えて倒れたパニッシャーに駆け寄り、彼の身体を揺する。
「黒イヌ!お願いだから死なないで!!」
「ガフッ……ハァッ……!」
吐血しながら荒い呼吸を繰り返すパニッシャー。そんな彼を見てエリザベートは泣きながら彼に呼びかける。
「アンタ!黒イヌになんてことしてんのよ!!」
エリザベートは恐ろしい形相でモレーを睨む。
「その人が最初にあたしを殺そうとしたんですけど~?犬の真似されるわマッパにされるわ、おまけに怪物になった藤丸立香に攻撃させようとするわ、最後にはあたしを殺しにくるわで、寧ろあたしは被害者ですって。いや、マジで」
モレーは自分を睨むエリザベートに対して言い返す。
「アンタね……!!そんな言い訳が通るとでも思ってんの!?」
「パニッシャー!しっかりして!パニッシャー!!」
藤丸の呼びかけにパニッシャーは応えられない。出血多量で意識が朦朧としている。
「立……香……」
そこでパニッシャーの意識は途切れた。
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「ここは……?」
目を覚ますとそこは夜の森の中であり、パニッシャーは焚火の前にいた。そして彼以外にも焚火を囲っている者が二人、『予言の子』と『妖精の王』である。二人はパニッシャーが目を覚ましたのに気付いた。そして予言の子がパニッシャーに温かい飲み物を差し出した。
「どうぞ。この森でしか採れない貴重な果実から作ったお茶です」
差し出されたカップを受け取ったパニッシャーはそれを一口飲んだ。そしてカップを近くの地面に置くと、今度は予言の子がパニッシャーに尋ねてくる。
「……彼は随分あなたを慕っているんですね」
"彼"……というのは当然の事ながら藤丸立香の事であろう。パニッシャーは少し間を置いて答えた。
「ああ……」
パニッシャーは短く答える。
「そういうお前たちこそ立香と随分親しいんだな。アイツはカルデアでお前たちの事をよく話しているぞ?」
パニッシャーの言葉に予言の子と妖精王は顔を見合わせる。
「そうかい?それは光栄だね」
妖精の王は胡散臭い笑顔で答える。だが、言葉とは裏腹に彼の目は笑っていない。
「……彼は余りにも重い使命と責任を背負わされている。それこそ一人の人間では到底耐えきれないほどの」
予言の子の言葉通り、これまで藤丸は七つの特異点の修復やその他多数の微小特異点の修正、地球が白紙化して以降は世界に散らばった七つの異聞帯の空想樹の切除。世界を救うという大役と使命を押し付けられた少年という言葉が相応しい。地球を、そして人理を取り戻すには藤丸立香という少年の存在が必要不可欠。しかし過酷な戦いを続けていく内に彼の精神は消耗していき、もう日常には戻れないのではないか?そんな危うささえも持っている。ごく普通に育った子供にとっては余りにも過酷な運命であろう。だが彼は逃げ出さなかった。ここまで来たからには最後までやり通す、というのが今の藤丸の考えである。
「……くだらない。実にくだらない。そんな茶番からはさっさと手を引いた方がいいと思うけどね」
そこには妖精の王ではなく奈落の虫がいた。冷笑的な言葉で毒を吐く彼にパニッシャーは思わず苛立ちを覚えてしまう。
「大体、アンタは彼の親代わりにでもなったつもりかい?馬鹿馬鹿しい……いい年した大人が、子守りをして自己満足に浸るなんてさ。本当の親でも親戚でもない癖に」
奈落の虫はパニッシャーに対して毒を吐きつける。確かに藤丸を自分の子供に重ね合わせているのは事実だ。そこは否定できない事ではあるが……
「勝手にほざいてろ虫野郎。俺は俺のやりたいようにやるだけだ」
「あぁ……イライラする!反吐が出る程にイラつくよ、その目! その態度!」
奈落の虫は立ち上がると、パニッシャーも同じく立ち上がる。二人は殺気を放ちながら睨みあうが、そんな二人の間に予言の子が割って入り仲裁を行う。
「お二人とも落ち着いてください。喧嘩しても無意味です」
予言の子の言葉を受けて二人はしぶしぶながら引きさがる。それから三人は再び焚き火を囲む。
「パニッシャー……いえ、フランク・キャッスル。貴方はまだ死んではいけない。自分の腕に嵌めているブレスレットを見てください」
予言の子の言葉を受け、パニッシャーは自分の右腕に嵌められあ金色のブレスレット……ストレンジから渡されたアーク・ブレスレットを見る。
「これは……」
「そのブレスレットに願うのです。そのブレスレットは数多ある平行世界に存在する"自分の持つ力"をそのまま使える。さぁ、願ってください。そうすれば貴方は誰にも負けない力を手にする事ができる。それがあれば彼を……藤丸立香を守れる」
予言の子の言葉を受けてパニッシャーはブレスレットに願った。数ある平行世界に存在する"最強の自分"が持つ力をその身で使う為に……。強く、強く、何度も、何度でも……。そしてパニッシャーの身体に変化が起きた。自分の中に、正体不明の強大な力が発生したのだ。力が迸る、力が溢れてくる、力が満ちていく。これが……これこそが……。
―――君!!
―――パニッシャー君、起きるんだ!!
ここまで長かったー……(;^_^A