パニッシャーが人類最後のマスターと共に戦うようです   作:ドレッジキング

32 / 51
今回から新章突入。いよいよアベンジャーズとカルデアが……。


英雄と英霊の戦い
第30話 皇女への感謝


「ふ~じ~ま~る~」

 

立香はそう言いながら、猫のように藤丸の身体に自分の身体を擦り付けてくる。並行世界からこちらのカルデアに来て以降、こうして藤丸と一緒のマイルームで暮らしているのだが、毎日スキンシップをしてくるので藤丸としてはかなり参っているのだ。並行世界の同一人物とはいえ藤丸は少年で、立香は少女である。それが同室で寝食を共にしているというのは色々と問題があるのではないかと思わなくもないが、当のマシュやダ・ヴィンチからは黙認されているような節がある。

 

「立香、猫みたいにスリスリしてくるのはいいけどさ……」

 

「けど?」

 

「その……む、胸が俺の背中に当たってるから」

 

そう言うと、自分の胸に視線を落とすとクスリと笑う。

 

「あはは、照れてる。可愛い」

 

「か、からかうなよ」

 

「いいじゃん。わたしとしては嬉しいんだけどなぁ」

 

立香は猫のような表情を浮かべながら更に身体を密着させてくる。すると、今度は腕に柔らかい感触が伝わってくる。流石に恥ずかしくなってきたため離れようとするも、腰に腕を回されて離れる事が出来ない。

 

(これはやばいぞ……!)

 

そう思いつつもどうする事も出来ないまま数分経過した後、コンコンというノックの音によってようやく解放されたのだった。入って来たのはマシュだ。マシュは立香が藤丸の身体に密着しているのを見て、溜息をつく。

 

「立香先輩、藤丸先輩と仲が良いのはいい事ですが、羽目を外し過ぎないようにしてくださいね」

 

マシュはそう注意するも、悪びれる事もなく笑顔で答える。

 

「うん、わかった」

 

「……本当にわかってますか?……まあ、いいでしょう。それで、藤丸先輩の様子はどうでしたか?」

 

「うーん、相変わらずって感じかな。わたしが抱き着いたら恥ずかしがってるみたいだったよ」

 

年頃の少年である藤丸にとって、異性である立香のスキンシップは刺激が強い。そのため、つい邪険に扱ってしまう事もある。

 

「な、なあ立香。ボディタッチしてくれるのは嬉しいんだけど、もう少し控えめしてくれた方が……」

 

その言葉に対して、不満そうに頬を膨らませて反論する。

 

「えぇー?だってこうしないとわたしの事意識してくれないじゃん!」

 

「こうして俺のマイルームで一緒に寝起きしている時点で嫌でも意識しちゃうよ!」

 

「お二人とも喧嘩しないでください!今日はレイシフトの予定もないんですから、もっと平和的にですね……」

 

そう言って二人を宥めるマシュだったが、相変わらず立香は藤丸にベタベタしている。立香の方は最早藤丸に依存しているようにしか見えず、このままでは不味いのではないかと思うようになるのだった。そして見かねたマシュは立香と藤丸を強引に引き離す事にしたのだ。マシュは二人の間に割って入り、藤丸に抱き着く立香を引き剥がそうする。

 

「立香先輩、藤丸先輩が困ってますからやめてください!」

 

「ちょっとマシュ!邪魔しないでよ!今からいいところだったのに!」

 

「ダメです!」

 

二人の美少女による、まるでキャットファイトの様な光景を目の当たりにして、藤丸は苦笑するしかなかった。

 

「藤丸先輩の事が好きなのはわかりますが、やり過ぎです!このままだと、いつか嫌われてしまいますよ!」

 

「いいじゃん!わたしと藤丸は一心同体、以心伝心だもん!何たって並行世界の同一人物だからね!」

 

ドヤ顔で言う彼女を見て、マシュは頭痛を覚える。確かに、藤丸と彼女の関係は唯一無二であり、他の誰にも代えられないものだという事はわかっている。しかしそれはそれ、これはこれなのだ。如何に同一人物とはいえど藤丸と立香は異性であり、男女なのだ。いつ一線を越えた関係になるかなんてわからない。だからこそ、今の内に釘を刺しておかねばならないと思い立ったのだ。

 

「立香先輩、よく聞いてください。幾らなんでも距離が近すぎます。少しは自重した方がいいかと」

 

マシュは真面目な口調で説得を試みる。しかし、彼女は一向に聞き入れる様子はない。それどころか、寧ろ反抗的な態度を見せている。

 

「いいですか、仮にも藤丸先輩は男性なんですよ。そんな相手に気安く触れ合ったり、あまつさえ一緒に寝るなんてもっての外です!」

 

「何よ……!別にわたしが藤丸と一緒のベッドで寝たっていいじゃない!それともマシュはわたしに嫉妬してるの?」

 

「そ、そんな事はありません!ただ、もう少し立香先輩は控えめになられた方がよろしいかと思いまして……」

 

それを聞いた瞬間、立香はぷいっとそっぽを向く。

 

「ふーんだ!別にいいもん!マシュの意地悪!」

 

駄々をこねる子供のように叫ぶ。立香の態度に困り果てたマシュを見て藤丸は立香を注意する。

 

「おい、あまりマシュを困らせるなよ」

 

「なによー。藤丸はマシュの味方なのー?」

 

ふくれっ面をしながらそう言う彼女に、呆れながらも諭す様に話しかける。

 

「いや、そういうわけじゃないけどさ……年頃のお前と俺がこうして同じ部屋で暮らしているんだからマシュも神経質になっちゃうんだよ。マシュの言う通り、少し距離感は考えた方がいい」

 

「すみません、先輩。私も感情的になりすぎてしまいました」

 

マシュもマシュで、反省している様子だ。

 

すると、突然音が鳴った。どうやら何者かがドアをノックしたらしい。ドアを開けると、そこにはアナスタシアが立っていた。

 

「おはようマスター、よく眠れましたか?」

 

笑顔でそう尋ねる彼女に対して、藤丸は挨拶を返した。

 

「おはようアナ。それじゃあ食堂に行こうか?」

 

藤丸はベッドから立ち上がると、アナスタシアと一緒に廊下に出て彼女と一緒に食堂へと向かった。その様子をジト目で見つめる立香。

 

「……藤丸とアナってあんなに仲が良かったの?まるで夫婦みたいじゃない……」

 

頬を膨らませながらそう呟く。藤丸のアナスタシアを見る顔はまるで本当の家族であるかのようだ。

 

「アナスタシアさんは藤丸先輩が色々大変な時に支えてくださったんです……。正直なところ、私じゃどうにもできませんでした」

 

マシュの顔はアナスタシアに対する感謝で満ちており、藤丸と並んで廊下歩いている様子を微笑ましく見つめている。そしてそんなマシュの顔を見た立香は面白くなさそうに言う。

 

「ふ~ん、マシュってわたしが藤丸と仲良くしている時は止める癖に、アナが藤丸と仲良くするのは止めないんだね」

 

明らかに棘のある言い方だ。しかし、マシュはそれを気にせずに平然と答える。

 

「当然です。アナスタシアさんは先輩にとっての恩人なんですから。私なんかじゃあの二人の間にはとても立ち入れません」

 

「わたしと藤丸は並行世界の同一人物であり、唯一無二の関係なんだけどな~」

 

確かに藤丸と立香は同姓同名かつ、遺伝子も全く同じの同一人物ではあるが、立香の方が半ば一方的に藤丸に対して接近しているようなものなので、果たして本当に対等な関係と言えるのかは不明である。しかも立香は明らかに藤丸に依存しているようにしか見えない。それ故にマシュは立香が藤丸と仲良くしようとするのに苦慮しているのだ。

 

「立香先輩、藤丸先輩と仲良くしたいのであれば、あの人の気持ちをよく理解してあげる事が大切です。藤丸先輩は優しい方ですが、立香先輩が毎日行う過剰なスキンシップの連続には少々困惑しておられますから」

 

そう言ってマシュは諭すように言う。立香も渋々納得した様子で頷いた。

 

 

 

 

*****************************************************************

 

 

 

藤丸はアナスタシアと並んで食堂へと向かっていた。アナスタシアは藤丸と腕を絡ませつつ歩いているが、当の藤丸はそれを鬱陶しがるどころか喜んで受け入れている。アナスタシアの腕は柔らかくて暖かい。おまけに良い匂いまでする。

 

「フフフ、そんなに腕にしがみついて、甘えん坊さんね。可愛いわ、マスター」

 

「ご、ごめんアナ!俺、そんなに君の腕にしがみついちゃってた……!?」

 

そう言いながら慌てて手を離す。どうやら無意識だったらしい。そんな藤丸を見てアナスタシアはクスクスと笑う。

 

「いいえ、気にしないでください。別に迷惑ではないわ。ただ……」

 

アナスタシアは意味ありげに言葉を濁す。

 

「むしろ、貴方の方から私に抱き着いてきてくれた方が嬉しいわね」

 

アナスタシアの言葉に藤丸は顔を茹蛸のように真っ赤になる。

 

「あら、どうしたの?まるで熟れたトマトのようよ?フフフ、面白いわ、マスター」

 

アナスタシアはからかうように笑った。そんな調子で歩いてると、廊下の向こうからパニッシャーが歩いてきた。パニッシャーは二人に気付くと近付いてくる。

 

「立香、よく眠れたか?」

 

「うん、おかげさまでね。おじさんも俺やアナと一緒に食堂に行く?」

 

藤丸の誘いにパニッシャーは頷き、3人で食堂へと向かう事にした。廊下を歩いている最中、アナスタシアがしきりにパニッシャーに対して視線を送っている。

 

「……マスター。悪いけど先に食堂に行ってて。私はこの方とお話をしたいの」

 

「え?おじさんと?分かった。それじゃ先に行ってるよ」

 

藤丸はそう言って二人をその場に残して先に食堂へと向かう。そして廊下ではパニッシャーとアナスタシアが対面する形となった。

 

「マスターは随分貴方に懐いているみたいね。私から見ると、本当の親子のように見えてしまう」

 

このノウム・カルデアに来た当初は、サーヴァントの面々との衝突を繰り返していたパニッシャーではあるが、彼等に対する認識を改めた今ではこうして話し合う事ができている。

 

「……立香がシミュレータールームに籠っている時に、お前がアイツを支えてくれたんだったな。アイツを支えてやってくれてありがとうな……」

 

パニッシャーはアナスタシアに対して心からの感謝の言葉を述べた。そう、藤丸は魔術協会の手により両親を奪われ、心に深い傷を負いつつシミュレータールームで虚像の両親と長期間暮らしていた時がある。だが生前に家族を理不尽に奪われたアナスタシアは藤丸の家族を失った悲しみと、彼が持つ一人の少年としての脆さと弱さを受け止め、藤丸と共にシミュレータールームから出てきたのだ。その時パニッシャーは微小特異点の修復で忙しかったので、ノウム・カルデアを空けていたのだが、アナスタシアの存在は今の藤丸にとって大きいものとなっている。

 

「……どういたしまして。私がシミュレータールームにいるマスターを迎えに行った際、ご家族を喪った悲しみに暮れるマスターを見た時、胸が凄く締め付けられたのを覚えている。あの時のマスターは愛する両親の死に涙している一人の少年だった……」

 

そう言うアナスタシアの目からは一筋の涙が流れた。両親を失った藤丸と、過去の自分を重ね合わせたのであろうか。

 

「ごめんなさい、見苦しいところを見せてしまったわね……」

 

そう言ってアナスタシアは涙を手で拭う。

 

「パニッシャー……、私は最初あなたをサーヴァント嫌いの変人か怖い人だと思っていたけど、マスターに対する態度を見ていればあなたが本当は優しい人なんだって分かるわ」

 

「よせ、俺は優しい人間なんかじゃない……」

 

そう言いつつも、アナスタシアの言葉に満更でもなさそうな顔をしている。

 

「いいえ、あなたは間違いなく優しく、思いやりのある人よ。……そりゃ敵対者とか悪人、そしてマスターを傷付ける者には容赦しないけど、それは大切な人を護りたいっていう強い気持ちの裏返しなんじゃなくて?」

 

そう言うとアナスタシアはパニッシャーの顔を覗き込んでくる。アナスタシアの宝石のように輝く青い瞳に見つめられ、少し照れ臭そうにしている。

 

「ふふふっ……あなたの目は口ほどにものを言うのよ?私を騙そうとしても無駄なんだから」

 

そう言うとアナスタシアはいたずらっぽく笑う。そんなアナスタシアを可愛いと思ったのか、パニッシャーも思わず笑みをこぼしてしまう。こうやって心から笑えたのは久しぶりな気がした。するとアナスタシアが何かに気付いたかのように声を上げる。

 

「あら?ガレスじゃない」

 

アナスタシアが見た方向に目を向けると、そこには甲冑を着込んだガレスがいるではないか。今のガレスはパニッシャーのサーヴァントであり、彼の姿を見るや、駆け寄って来る。

 

「パニッシャー殿、おはようございます!本日もよろしくお願いいたしますね!」

 

ガレスは満面の笑みで挨拶する。どうやらアナスタシアと同様に彼女も元気そうだ。

 

「もう、そんなに大きな声を出さなくても聞こえるわよ?もっと落ち着きなさいな」

 

ガレスの元気な挨拶に対してアナスタシアは呆れたように返す。ガレスは小動物的な可愛さと、清廉潔白で理想的な騎士であろうとする少女としての面を併せ持つサーヴァントだ。堅物で不愛想なパニッシャーも、子犬のように慕ってくる彼女を見ていると、つい表情が緩んでしまう。

 

「ほら、また笑ってる。その笑い方、素敵よ?とても可愛らしいわ」

 

アナスタシアに指摘され、慌てて表情を引き締める。その顔を見てアナスタシアは再びクスクスと笑う。彼女は時折このようにからかって来るのだ。

 

「あなたは随分ガレスの事を気に入っているのね。表情に出ているわよ?」

 

「こ、これは……」

 

恥ずかしそうに頭を掻く。

 

「恥ずかしがる事なんてないじゃない。あなたが思っている以上にあの子はあなたに懐いているもの。それが悪い事かしら?私にはそうは見えないわ」

 

パニッシャーがガレスの方に顔を向けると、彼女は屈託のない笑顔でこちらを見ている。純粋で邪気の無いガレスの瞳で見つめられれば、処刑人パニッシャーといえども自然と顔が綻んでしまうものだ。しかしアナスタシアが指摘した通り、自分にはまだ戸惑いの方が大きいようだ。彼女が自分に向ける好意には気付いているし、嬉しくない訳ではないのだが、どう反応していいかがわからない。

 

「パニッシャー殿はこれから食事でしょうか?それならガレスめがお供します!」

 

ガレスの申し出を断るのも悪いので、パニッシャーは彼女と一緒に食堂へと向かう事にした。




こんなに可愛いガレスちゃんの頭を叩き割って殺した鬼畜騎士がいるらしいな?(#^ω^)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。