パニッシャーが人類最後のマスターと共に戦うようです   作:ドレッジキング

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メリュ子とトニーの絡み回です。そりゃカルデアのサーヴァントは無能じゃないですからねぇ。


第31話 メリュジーヌとアイアンマン

空想樹の種がソラから飛来した2017年12月31日のあの日以来、地球は白紙化した。地平線の果てまで白い大地が続き、かつて文明があったという痕跡も、人々の営みがあったという形跡も、山や川、森といった自然の残留物さえも存在していない。まるで最初からこの白色の大地が広がっていたのかの如く、人類史による産物どころか自然が生み出した物さえ跡形もなく消え去っている。

 

そう、ノウム・カルデアはこの漂白化された大地を、白紙化された地球を元に戻す為に戦っているのだ。そんな白紙化した地球でも、空だけは以前と変わらない。空中には建造物も自然物も存在しないのだから当たり前の事であるが、そんな空中を音速のスピードで飛行する二つの物体があった。大気を切り裂き、ソニックブームを放ちながら凄まじい速度で飛行するのは一人の"人間"と一匹の"竜"だった。

 

"竜"とはいっても人間の少女の形を取っているが、その正体は竜の中の冠位と呼ばれる境界の竜アルビオンの左腕から生まれた存在である。その名もメリュジーヌ。彼女もまたサーヴァントとしてノウム・カルデアに召喚されマスターである藤丸立香に従う身だ。

 

生前は妖精國においてブリテン最強の存在とされていたメリュジーヌは、サーヴァントと化した事で弱体化はしているものの、それでも並のサーヴァントであれば容易く殲滅できる程の力を持つ。そんなメリュジーヌとスピードを競うようにして飛行しているのは最新鋭のテクノロジーを集結して作り上げられたアイアンマンスーツを装着したトニー・スタークだ。アイアンマンスーツは音速を超えるスピードで空中を飛行でき、その速度はメリュジーヌに肉薄できる程である。

 

「君も中々やるじゃないか。僕のスピードに追い付けるのはアキレウスぐらいかと思っていたけど」

 

「そいつはどうも。だがまだ甘いな」

 

互いに相手を褒めながらも、二人の戦いは加速していく。それは互いのスピードを競い合うという極シンプルな勝負だった。地球最新鋭の科学技術を結集して作り上げられたアイアンマンスーツと、46億年前から存在する地球最古の存在アルビオンの左腕から生まれたメリュジーヌ。つまりこれは"最新"と"最古"の対決という事になる。

 

「ほら、もっと速度を上げるよ!」

 

メリュジーヌはそう言って更に速度を上げた。サーヴァントとなった事で弱体化しているとはいえ、そこは幻想種の頂点の一角に座する存在だ。その全力全開のスピードにはサーヴァントとして限界しても尚、遥か高みにあった。しかしそれに対して、トニーはニヤリと笑みを浮かべると対抗するように最大出力でスーツのエンジンを動かした。純粋に速さを競い合うというこれ以上ない平和的な戦いである。

 

「君たち人間は創意工夫を以てそういった鎧を作り上げて僕のような竜や妖精、幻想種に対抗してくる。生前の僕が住んでいた妖精國でも人間達は知恵を使って文明を築き上げていた」

 

「お褒めの言葉を頂き感謝するよフロイライン。私のような人間というのはフィジカル面で他の動物にはどうしても対抗できない。だが知恵と知識こそが人間の最大の武器だ。それを活かして私は今の地位に上り詰めたのさ」

 

メリュジーヌの言う通り、妖精というのは人間よりも遥かに強い力と神秘を持つ幻想種であるが、そんな生まれながらの"強者"であるが故に人間のように創意工夫をするという文化がない。妖精たちが街を作り上げる事はあっても、それはあくまでも人間が持つ文明の"模倣"の過ぎないのだ。人間とは異なり、強者たる妖精は新しい事を生み出す事は不得手としている。

 

「やはり君たち人間は知恵を用いるのが得意だ。それが君たちにとっての最大の武器であり、僕のような最強種にはない部分だね」

 

生まれながらの最強種という目線からトニーを評価するメリュジーヌ。人間とは価値観を異にしているだけに単純な上から目線の物言いと断じるのも違う気がする。メリュジーヌは自分の持つ力も、そして自分がどんな生まれであるかも理解しており、その上で"最強種"という自負を持っているのだ。境界の竜アルビオンという太古の超存在から生まれたのだからこんな価値観なのも無理はないが。

 

「人間の持つ科学技術を侮ってはいけないよ。でなければ驕り故に足元を掬われる結果になる」

 

「おや?そういう君も驕りを持つタイプに見えるけど?」

 

メリュジーヌの言葉にトニーは苦笑しつつ、彼女との競争を再開する。とはいえ飛行速度はメリュジーヌの方が勝っていた。流石はアルビオンといったところか。

 

そしてメリュジーヌは何気ない一言をトニーに告げる。

 

「……ところで君たちがマスターを連れて逃げるのは何時になるんだい?」

 

その言葉にトニーは思わず緊急停止してしまう。メリュジーヌもトニーが止まるのとほぼ同時に停止し、トニーの正面に浮かぶ。

 

「……何の話かな?」

 

すっとぼけるトニーであるが、メリュジーヌは容赦なく言ってくる。

 

「誤魔化しても無駄だよ。君たちアベンジャーズが僕のマスター……藤丸立香をカルデアから連れ出そうとしているのは知ってる」

 

どうやら誤魔化すのは無理なようだ。気を付けていたつもりでも、カルデアに居るサーヴァントの目を欺くのは至難の業だ。キャップを始めとするアベンジャーズ達の言動や行動をじっくり観察し、そこから彼等が藤丸を連れ出そうとしているという結論に達した名探偵のサーヴァントがいるのだから。

 

「あまりカルデアを甘くみない方がいいよ。中には千里眼持ちのサーヴァントだっているんだ」

 

つまりもうすでにバレていると。

 

「やれやれ……いつまでも誤魔化し続けられる筈もないか」

 

トニーは観念したかのように両手を挙げる。

 

「随分素直だね、もっと粘るかと思ったけど」

 

するとトニーは肩をすくめるような動作をして口を開く。

 

「私たちアベンジャーズが藤丸少年を連れ出そうとしているのは事実だ。だがそれは……」

 

「分かってるよ。君たちは悪意でマスターを連れ出そうとしているわけじゃない。彼をこの戦いから遠ざけようとしているんだろう?」

 

メリュジーヌはお見通しのようだった。これも千里眼持ちのサーヴァントか、名探偵のサーヴァントに入れ知恵された可能性もあるが、彼女自身が気付いた可能性も否定できない。どちらにせよアベンジャーズの目論見はとっくにカルデアにバレているという事はハッキリしてしまった。

 

「そうだ。彼は一般人の少年で、拉致同然にカルデアに連れてこられたと聞いている。そして魔神王ゲーティアによる人理焼却が起こり、人理を取り戻すべく七つの時代の特異点を修正し、冠位時間神殿でゲーティアの野望を打ち砕いた。これだけ聞けば彼は英雄だが、戦う手段も持たない少年に対して世界の命運を背負わせた事は事実だ」

 

これは紛れもない真実だった。あの出来事によって世界は救われ、結果的に救われた者は多いが……それでも彼一人だけに押し付けるのは酷すぎる話だ。

 

「だから我々は……一般人である藤丸少年を戦いから遠ざけたいのだ。彼一人に世界の命運を背負わせるわけにはいかない」

 

「それは同情?それとも憐憫?部外者の君たちはマスターが自分の意思で異聞帯の空想樹を切除しているのを知っているのかい?空想樹を切除する事で、その異聞帯を滅ぼしてしまうと理解した上で彼は戦っている。君達にそれを止める権利があると思うかい?」

 

確かにその通りかもしれない。しかしだからと言って藤丸をこのまま戦いに巻き込む訳にもいかない。それがたとえエゴだとしても、自分たちは彼の未来を守ってやりたいのだ。

 

「部外者だという事は自覚している。だが君たちこそ戦う力の無い子供に世界の命運を背負わせている事を理解しているのか?……それしか手段が無かったのは理解している。彼がいなければ七つの特異点の修復はできなかった事も。そして多くのサーヴァントたちと縁を結んでカルデアに召喚できた事も。しかし今は我々アベンジャーズがいる。彼一人に世界の命運を背負わせなくてもいいのであれば、それを選ぶべきだと私は思う。子供を守るのは大人の役割なのだ」

 

そう、人理焼却の時も、異聞帯が世界各地に出現した時も藤丸の存在がいなければどうしようも無かったのだ。彼がいなければサーヴァントと契約を結ぶ事はできないし、今のノウム・カルデアに多くのサーヴァントが召喚されているのも藤丸のお陰である。だがアベンジャーズというヒーローチームが来た今であれば、彼は戦いから降りる事ができる。最後の異聞帯である南米の空想樹の切除はアベンジャーズに任せ、藤丸は戦いに向かわなくてもよいというわけだ。

 

「君たちの言いたい事は理解できた。けど今更彼がそれに納得すると思う?他の世界から来た君たちに丸投げして自分は戦いから降りるなんて事を受け入れるかな?もしそうなったら僕たちサーヴァントのこれまでの戦いだって無駄になるだろうね」

 

彼女の言う通りである。自分達がどれだけ説得しても、藤丸本人が納得しなければ意味が無いだろう。いや、例え納得してくれたとしても、それを周りが認めるかどうか……特に、ダ・ヴィンチやゴルドルフあたりが簡単に認めてくれるとは思えない。

 

「彼は人理を取り戻すために自分の意思で異聞帯の空想樹を切除してきたんだ。君たちのやろうとしている事はマスターに対する侮辱だよ。そんな事を許すつもりは無いからね」

 

メリュジーヌは鋭い目でトニーを睨みつける。彼女の言う通り、藤丸は人理焼却が始まった時から人類最後のマスターとして戦う決意を固めていたのだ。今までも、これまでもカルデアのマスターとして微小特異点の修正や空想樹の切除をこなしてきた。そんな彼に対して今更戦いの場から降ろす事は、藤丸の決意と覚悟と意思を踏みにじる行為に他ならない。そもそもアベンジャーズは別の世界から来た者達だ。他所の世界から来た得体の知れない集団から

 

"君たちの組織は年端もいかない少年を戦いの場に駆り出している。彼を戦わせるのは可哀想だから我々が保護しよう"

 

と言われれば快く思われる筈もない。

 

「下手な同情や憐憫は逆に彼を傷つける事になる。その辺は理解しているのかい?」

 

メリュジーヌは容赦なくトニーに対して厳しい言葉を浴びせていく。しかし彼女の言う事も尤もであり、藤丸の意思を無視しているという事には違いない。

 

「……とは言ったけど、ここ最近のマスターを見ていると彼は目に見えて心を擦り減らしているからね。あんな事があったのだから仕方ないのだけど」

 

「あんな事……?」

 

「何でもないよ、こっちの話さ。……仮にマスターが自分の意思でこの戦いを降りると決めれば僕は彼を止めないつもりだ。彼自身の意思で決めた事だからね」

 

メリュジーヌの口から出たのは意外な言葉だった。トニーはてっきり、彼女は藤丸が戦いから降りる事を反対すると思っていたからだ。

 

「意外だな、君はてっきり藤丸少年が戦いから降りるのを嫌がるかと思っていたんだが」

 

「それは誤解だよ。確かに僕は彼に危険な目に遭って欲しくはないけれど、だからといって彼が望む事を妨害したい訳じゃない。それに無理強いで彼をカルデアに縛り続ける事もしたくない」

 

メリュジーヌの話によれば、カルデアのサーヴァントの中には平凡な少年である藤丸に世界の命運を背負わせるという役割を押し付ける事を快く思っていない者も多いらしい。戦う力も、魔術もない一般人であった藤丸はある日突然人類最後のマスターとしての役割を押し付けられ、戦いの日々を送る羽目になった。そんな藤丸を気に掛けるサーヴァントも決して少なくはないのだ。

 

「マスターが自分の意思で君たちアベンジャーズと一緒にノウム・カルデアを離れる選択をするというのであれば僕は止めない。それは彼が自分で選んだ道だからね。だけど彼の意思を無視して誘拐まがいの行為をするのであれば容赦はしない」

 

要するに戦いから降りるか、降りないかは藤丸自身が決めなくてはいけないのだ。

 

「……分かった。私も、そしてキャップも藤丸少年の意思を尊重する事にしよう」

 

「分かってくれて嬉しいよ。カルデアのサーヴァントたちも君達が強硬手段に出ない限りは排除しないっていう方針みたいだ」

 

仮に藤丸を強引にカルデアから引き離そうとすれば、それこそカルデアのサーヴァントたちと全面戦争になる。それだけは何としても避けたい。

 

「トニー、君はキャプテン・アメリカっていう盾を持った人間と比べて僕たちサーヴァントと仲良くしてるね。キャプテン・アメリカは僕らサーヴァントの事を時折敵意に満ちた眼差しで見てくるけど」

 

「あぁ……。キャップは色々あったらしいからな」

 

メリュジーヌとトニーは互いに無言のまま彷徨海へと戻って行った。

 

 

 

 

 

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今日の昼もノウム・カルデアの食堂には多くのサーヴァントが来ていた。パニッシャーはガレス、ダ・ヴィンチ、ハベトロットと共に席に座り、トレーの上の料理を食べる。

 

「やっぱり人間の食事は美味しいなー!もぐもぐ、モグモグ」

 

ハベトロットは目の前にある食事を堪能しており、幸せそうな笑顔を浮かべていた。

 

「ハベトロット殿、食べ過ぎではないですか?」

 

ガレスは自分の隣にいる小さな妖精の事が心配だった。

 

「大丈夫だって!ボクみたいな妖精はいっぱい食べるからね」

 

彼女はそう言うと、更に料理を平らげていく。そんな彼女を見て、ガレスはため息を漏らした。ハベトロットの身長は50~60センチ程度しかなく、その小さい身体に大量の食事が入るのかというのはパニッシャーも気になった。最も、彼女はサーヴァントなのでその辺は心配ないとは思うが……。

 

「おやおや、見た目に似合わず彼女は大食漢だね」

 

ダ・ヴィンチは面白そうに言うと、彼女の事を興味深そうに見つめる。

 

「そういえば私とパニッシャー君が最初に会ったのはソールズベリーにあるマイクの店だったね。最初にパニッシャー君を見た時、余りに周囲と服装が違うから驚いたよ」

 

妖精國の文明レベルを考えれば、黒いロングコートに防弾チョッキ、黒いズボンとブーツを着ているパニッシャーは嫌でも目立つ。

 

「聞きたいんだがハベトロットは……」

 

そう言った直後、ダ・ヴィンチはパニッシャーの言葉の意図を察したかのようにして首を横に振る。

 

"彼女は妖精國での記憶は持っていない"

 

ダ・ヴィンチの首振りと目だけでその事を理解できた。ハベトロットとはダ・ヴィンチほどではないにしても付き合いは長かったが、今食事を食べているのは汎人類史のハベトロットだ。異聞帯である妖精國の方のハベトロットの記憶を持ってないのは当たり前である。パニッシャーが妖精國に滞在している際、妖精が気まぐれで人間や同じ妖精の命を奪う場面にも何度も遭遇した。それ故に妖精に対して余り良い感情を抱いていないのだが、ハベトロットにはそういった危険性は感じられない。彼女も妖精である事には違いないが、気分次第で殺しに掛かってくるような危険性は感じない。寧ろ下手な人間よりもよっぽど気配りができて親切な妖精だ。それにダ・ヴィンチが働いていた店の主人であるマイクもそうだった。彼は妖精國で見た数少ない善良な妖精だった。

 

「パニッシャー君って妖精の事はあまり好いていなかったよね。それでもあの時マイクをグレイドン・クリードから助けてくれた事は覚えているよ?あの時のパニッシャー君はホントにカッコよかったとも」

 

ダ・ヴィンチは天真爛漫を絵に描いたような笑顔でマイクを助けてくれたパニッシャーに感謝を述べる。

 

「あぁ……」

 

妖精國に滞在している間は、妖精全てを犯罪者と同じに見ていたパニッシャーであるが、それでも例外がいる事を学べた。例外というのは目の前にいるハベトロットと妖精國で会った店主のマイク。そして……

 

「ん?どうかなさいましたかパニッシャー殿?」

 

自分を見つめているパニッシャーに対してガレスが屈託のない笑顔を向けてくる。

 

「いや、何でもない」

 

「?」

 

ガレスは不思議そうな顔を浮かべて食事を再開する。




ハベトロット、マイク、ガレスは妖精國の三大天使(妖精だけど)

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