パニッシャーが人類最後のマスターと共に戦うようです 作:ドレッジキング
「ホームズさん……それは本当でしょうか……?」
マシュはホームズから発せられた言葉がまだ信じられない様子だ。キャップ達アベンジャーズが藤丸をカルデアから連れ出そうとしている事実を聞いてさしものマシュもショックを受けている。ヒーローチームである彼等が何故そのような事を企んでいるのか?藤丸をカルデアから引き離して何をしようとしているのか?マシュの頭は疑問で埋め尽くされている。
「残念ながらね。ここまで観察を続けてようやく確信が持てたよ。最も、千里眼を持つサーヴァントはアベンジャーズの狙いを見抜いていた者もいたようだが」
「なぜ彼等は先輩をカルデアから連れ出そうとするのでしょうか……?私にはよく分かりません……」
マシュはアベンジャーズのしようとしている事に首を傾げる。アベンジャーズというからには北欧異聞帯で自分たちと共にスルトを打倒したソーも関与している可能性が高い。そもそもアベンジャーズの面々はノウム・カルデアに協力を持ち掛けてきたのに、何故カルデアにとってなくてはならない存在である藤丸を連れ出そうとしているのだろうか?
「私には理解できません……。なぜアベンジャーズの皆さんが藤丸先輩を連れ出そうとしているのか。もし仮に、それが本当に起きたらどうしましょうか……」
マシュは不安を隠せない。カルデアはノウム・カルデアへと名前を変え、地球白紙化の原因である異聞帯切除を順調に進めていった。そして最後の異聞帯である南米の地にいる異星の神との決戦を控えているのだ。この状況で別世界から来たアベンジャーズというヒーローチームが藤丸を連れ出そうとしているのであれば真偽を確かめるしかない。
「アベンジャーズのリーダーであるキャプテン・アメリカと話してみましょう。何故藤丸先輩を連れ出そうとしているのか。それを直接聞きたいです」
マシュとホームズは二人でキャップに会って話を聞く事を決めた。ノウム・カルデアに用意されたアベンジャーズのメンバー用のルームにキャップはいた。部屋にはカルデアの新所長であるゴルドルフ・ムジークもおり、キャップと話している様子だ。
「おお、キリエライトに経営顧問。丁度良い所に来た。キャップに用があるのだろう?」
「はい。実は……」
マシュはキャップに対してアベンジャーズがカルデアから藤丸を連れ出そうとしている事を切り出した。
「……君たちに隠してもどうせ無駄だろうから正直に話しておこう。我々アベンジャーズが藤丸少年を連れ出そうとしているのは事実だ」
キャップの言葉にゴルドルフは顔を険しくし、ホームズはやはりという表情を浮かべ、マシュは驚きを見せた。
「まさか我々を裏切るつもりじゃあるまいね!」
「違う。我々はカルデアに敵対する気はない。むしろ逆だ。彼はもう戦わなくていい。これ以上一般人である彼を戦いに関わらせないようにしたいだけだ」
キャップは本当に藤丸をカルデアから連れ出す気でいるようだ。
「何故藤丸先輩を連れ出そうとするのでしょうか?理由を教えてください」
「理由?簡単だ。彼は魔術師でも特別な力を持つわけでもない一般市民だ。そんな彼に対してこれ以上戦いを強いるわけにはいかないだろう?」
藤丸が魔術師でもない一般人である事は事実だ。魔術師の組織であるカルデアにスカウトされ、南極にあるカルデアに連れてこられた時から藤丸の運命は決まったと言ってもいい。魔神王ゲーティアによる人理焼却に巻き込まれ、否応なく人類最後のマスターとして七つの特異点の修復をしなければいけなくなり、見事それを成し遂げた。そしてゲーティアを打倒して人理焼却を見事阻止し、世界と人々を救ったのである。ここまで聞けば藤丸少年はまさに世界を救った英雄と言っていいだろう。しかし半ば騙される形でカルデアに連れてこられ、命が幾つあっても足りないような七つの時代の特異点の旅をしなければいけなかったのは事実だ。人理焼却という不可抗力の事態があったとはいえ、元々普通の生活をしていた一般人の少年が人類最後のマスターとして戦場に立たなければならなくなった原因はカルデアにあると言っていい。最も、藤丸がカルデアにいなければ人理は焼却され、魔神王の野望を阻む存在がいなくなってしまうのだが……。
「……確かに先輩は一般人です。けれど、それは……」
「一般人に戦いを強制するのは感心しない。彼は特殊な能力に目覚めたわけでもないし、戦闘訓練を受けてきたわけでもない。そんな彼を危険な特異点修復任務に送り出してきたのは君たちカルデアだろう?マシュ、君はカルデアにいたから分かるはずだ。彼がどれほど過酷な目に遭ってきたのか」
「……っ」
「だが彼がいなければ魔神王の野望を阻止できなかった事は十分理解できている。そしてこれだけ多くのサーヴァント達と縁を結べた事も。しかしこうも大勢のサーヴァント達の面倒を見なければいけない彼の負担は想像を絶するものがあるだろう。彼はマスターという立場なのだから猶更だ」
キャップの言う事は全て正しかった。普通の生活を送ってきた藤丸を戦いに巻き込んでしまったのはカルデアで、彼を人類最後のマスターとして特異点の修復に向かわせたのもカルデア。戦う力もない少年である藤丸には選択の余地などなく、特異点の修復や今回の地球白紙化における異聞帯の空想樹切除という任務をしなければならなくなったのだから。
「その事は分かっています。これまで私たちは藤丸先輩に過酷な戦いを強いてしまった事を……。けど先輩は自分の意思で戦う事を決めていました。たとえどんなに辛い事があったとしても、それを覚悟の上で……」
「彼が自分の意思で戦う事を受け入れ、人類最後のマスターとしての務めを果たしてきた事も知っている。私とアベンジャーズが初めてこのノウム・カルデアに来た時に彼と会ったが……私が見た限りでは精神的に疲弊している様子だったが何かあったのか?」
「そ、それは……」
マシュは藤丸が失踪した自分を探していた両親が魔術協会の手の者によって密かに消された事実をムニエルから聞かされ、それが原因でシミュレータールームに暫く籠っていた事を思い出す。あの時はアナスタシアが藤丸を外に出してくれたものの、藤丸があそこまで取り乱している様子はマシュも初めて見た。そしてシミュレータールーム内で作り上げた虚像の両親に甘える姿を目の当たりにし、自分では悲しみに暮れる藤丸を支えきれないと痛感すると同時に、彼が元々普通に暮らしていた少年で、親に甘えたい年頃の子供だという事を思い知らされた。今更戦いから降りた所でどうにかなる問題でもないが、人類最後のマスターとして藤丸を戦わせ続ける事に対する微かな疑問をマシュ自身、無意識に抱いてしまっている。
カルデアが関わらなければ藤丸は普通の少年として両親と暮らしていたし、人類最後のマスターとして戦う事もなかっただろう。だが彼がいなければ魔神王の人理焼却が達成されてしまう。どうしようもないジレンマにマシュは苛まれていた。これまでカルデアは藤丸に対して辛い戦いを強いてきた。藤丸は辛く苦しい戦いでも弱音を吐かずに戦ってきた。だが、両親の死という事実を聞かされた藤丸はマシュや他のサーヴァントたちの目の前で涙を流して悲しんだ。あの時の藤丸はこれまで数々の特異点修復任務を成し遂げ、空想樹を切除してきた歴戦のマスターではなく、自分を産み、愛してくれた父と母の死を嘆く一人の子供だった。
思えばこれまでカルデアのマスターとして戦い続けてこれたのも、両親との再会を果たしたいがためだったのかもしれない。南極のカルデアに連れていかれて以降、離れ離れになってしまった両親と再び会うために、過酷な特異点の修正や異聞帯での戦いも耐えてこられたのだ。だが藤丸の戦う理由であった両親はもう既にこの世にはいない。白紙化した地球を元通りにした所で既に藤丸は天涯孤独の身。マシュは両親の死を聞かされた藤丸がどれ程の絶望と悲しみを抱いたのかをあの日実感したのだ。
「私も……先輩が普通に暮らしていたどこにでもいる少年だという事は理解できているつもりです。ここ最近の先輩を見ていて私も気付かされました」
「なら猶更彼を戦いから……」
キャップが言おうとした時、マシュは彼の言葉を遮るようにして言う。
「時間を下さい……」
「何だって?」
「時間を……下さい。藤丸先輩を戦いから遠ざけたいという貴方の意見は理解できます。ですが最終的に戦いから降りるかどうかを決めるのは藤丸先輩自身なんです。なのでもう少しだけ藤丸先輩に考える時間を与えて貰えないでしょうか?先輩には私から説明させてください。あなた達アベンジャーズが先輩を連れ出そうとしている事を……」
マシュの青い瞳がじっとキャップを見つめる。その目を見たキャップは小さく息をつく。
「……分かった。だが、あまり猶予はないぞ」
キャップは渋々納得してくれたようだ。
「ありがとうございます!」
「ま、待て!マスターである藤丸立香がもしカルデアを離れれば、カルデアにいるサーヴァント達は活動不能になってしまうぞ!」
そう、マスターである藤丸がカルデアを去れば、カルデアで召喚されたサーヴァント達は特異点の修復にも向かえず、まして異聞帯に向かう事も不可能になる。マスターというのはサーヴァントを現世に留めておく要石の役割を担っており、マスターである藤丸が消えればカルデア内でしか活動する事ができなくなり、異聞帯の空想樹の切除どころではなくなる。つまり藤丸を連れ出してしまえばカルデアの保有するサーヴァントによる支援も受けられなくなる事を意味する。
「マスターの役割でしたらパニッシャーさんができますが……」
「駄目だ駄目だ!キャッスルの性格を考えてみろ!何かにつけて発砲するわ、問答無用で攻撃を加えるわ、特異点の修復に必要なコミュニケーション力と柔軟性が欠落したマスターなんだぞ!そんな奴をカルデアにおける人類最後のマスターにするわけにはいかん!」
ゴルドルフの言う通り、パニッシャーは藤丸とは異なり柔軟性に欠けるタイプだ。ハロウィンの日に藤丸とレイシフトした際、現地の特異点の黒幕であるジャック・ド・モレーが協力を申し出てきた際も彼女に対して過剰な攻撃を加えて殺害しようとした。最も、モレーが藤丸を"深淵の聖母"なる存在にしようとして、その結果藤丸が山羊頭の怪物と化し、結局"深淵の聖母"の召喚に失敗したモレーがパニッシャー達に協力を申し出てきたのだ。藤丸を利用したモレーの態度と反省の欠片も見えない姿勢にパニッシャーが激高するのも無理はない。しかしながらパニッシャーの攻撃的な性格では特異点の修復や異聞帯における現地住民の協力及び汎人類史から召喚されたサーヴァントと縁を結ぶ事に対するハードルが一気に上がってしまう。マスター適正が高いとはいえ、すぐに敵を殺害しようとする姿勢ではまともに異聞帯を攻略できるとは思えないだろう。
「しかし……」
「ともかく、私はキャッスルを藤丸立香に代わるカルデアのマスターとして認めるわけにはいかん!仮に奴を南米異聞帯に連れて行ったとしても空想樹の切除に失敗する可能性が非常に高い!それに、あんな危険な性格のマスターに特異点修復や異聞帯攻略を任せるなど言語道断!」
確かに、パニッシャーの性格では異聞帯の攻略など不可能に等しい。そもそもカルデアにいるサーヴァントの大半が藤丸立香と縁を結んだ関係で召喚されているので、彼がカルデアを去れば大半の英霊がカルデアから退去してしまうのは想像に難くない。それどころか、藤丸がいなくなった瞬間にノウム・カルデアが崩壊してしまう可能性もある。
「ふむ……確かに彼の人間性は我々の手にも余る。このまま彼をカルデアに置けば、特異点の修復もままならないでしょう」
「それはそうですが……パニッシャーさんは今の藤丸先輩にとっては父親代わりのような人です。先輩がここまで立ち直れたのもパニッシャーさんのお陰でもあるんですから」
確かにパニッシャーと行動を共にしてから、藤丸は随分立ち直っているように感じる。だが実の親を協会に消されたという事実は藤丸の心に癒せない傷となって残っているのも事実だ。そしてゴルドルフはカルデアの所長という立場でキャップに意見を述べる。
「アベンジャーズがもし藤丸立香を連れ出せば、それはカルデアの弱体化どころか解体に繋がりかねない。それにそちらには特異点の修復や異聞帯攻略に関してのノウハウが無い。無理に藤丸立香を連れ出さずとも、協力し合って南米異聞帯の空想樹を切除する事もできる筈だ!」
そう、無理に藤丸をカルデアから連れ出さなくてもアベンジャーズとカルデアが協力し合って南米異聞帯を攻略する事は可能な筈だ。にも拘わらず、この時点で藤丸が抜けてしまえば、異聞帯攻略どころではなくなる可能性もある。無論、アベンジャーズは協力するであろうが異聞帯や空想樹に関する知識やノウハウが不足している状態では数多のサーヴァントのマスターである藤丸の助力が不可欠だろう。これまで空想樹を切除してきたカルデアがアドバイザーとしてアベンジャーズに協力するという手もあるが、どちらにせよ南米異聞帯を攻略する上では不安しかない。
「そうだ!マスターならば並行世界のカルデアから来たという女の藤丸立香がいたではないか!」
ゴルドルフの言葉にマシュとホームズはハっとする。確かに同姓同名というだけでなく遺伝子や令呪なども藤丸と全く同じである立香であればカルデアのマスターになれるだろう。
「た、確かに立香先輩であれば藤丸先輩の代わりになる事は可能かと思いますが……」
しかしこれはあくまで希望的観測に過ぎない。何故なら、いくら並行世界の同一人物だったとしても、彼女に藤丸と同じ事ができるとは限らないからだ。勿論、彼女自身も自分の世界のカルデアで特異点の修復や空想樹の切除をしてきたであろうが、カルデアにいるサーヴァントの中には藤丸から立香に乗り換えるのを躊躇する者も現れるだろう。立香自身、自分がこちらのカルデアに来た経緯や過去は頑なに話したがらないが、彼女しか藤丸の代理は努められない。パニッシャーはあの性格なので彼をマスターとして契約を結んでくれるサーヴァントは少数だろう。彼と契約を結んでいるサーヴァントはガレス、呪腕のハサン、百貌のハサン、トリスタン、フェルグスの5騎のみだ。正直彼では藤丸の代理は務まりそうもないので、立香に頼んでみる他はないだろう。無論、拒否される可能性もあるのだが……。
「私、立香先輩に聞いてみます。藤丸先輩の代わりにカルデアのマスターとしてサーヴァントたちと契約したいかどうかを」
マシュはそう言って部屋を出ていく。去っていくマシュの後ろ姿をキャップ、ゴルドルフ、ホームズは黙って見送るしかなかった。
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「うん、わたしはそれでもいいよ」
立香は即答でマシュに対して答えた。自分が藤丸の代理のマスターとしてカルデアにいるサーヴァントたちのマスターになっても良いと快く応じてくれたのだ。これはマシュにとっても嬉しい誤算であったのだが、同時に藤丸がカルデアから去る可能性が高くなってしまう事に不安を覚えてしまう。なぜ今カルデアを去る必要があるのか、最後の異聞帯である南米の空想樹を切除してからでもよいのではないか。マシュの頭はアベンジャーズの行動に対する疑念で埋め尽くされる。藤丸と立香に対してはキャップたちアベンジャーズがカルデアから連れ出そうとしている事はまだ伝えていない。だがいずれ知られる事になるだろう。カルデアにいるサーヴァントたちも、藤丸に対してアベンジャーズがカルデアから連れ出そうとしている事は言っていないようだ。そんな事をすれば藤丸を不安にさせかねないので、あえて伝えていないのだろう。
「わたしだって藤丸みたいに大勢のサーヴァントたちのマスターをしてたんだからね。きっと大丈夫だよ!」
「う、うん……」
笑顔で語る立香に対してマシュは何も言う事ができなかった。そして当の藤丸は笑顔の立香を横目で見ながら複雑そうな表情を浮かべている。
「わたしも藤丸と一緒にマスターしたいな♪」
そう言いつつ、立香はベッドに座る藤丸の横に腰を降ろすと自分の腕と藤丸の腕を絡ませる。相変わらずベタベタしているようだ。
「……あの、その、藤丸先輩はそれでいいんですか?」
マシュは戸惑いつつもそう尋ねた。正直言うと自分もこのまま黙って引き下がりたくはないのだが、かといって自分の意思を押し通す事もできない。そんなもどかしい気持ちが胸の中で渦巻く。
「俺は……」
少し考えた後に、こう答えた。
「俺はそれでも構わないよ。立香だって並行世界のカルデアのマスターだったんだ。サーヴァントのみんなと一緒にやっていけるさ」
藤丸は立香がカルデアのマスターになる事を歓迎しているようだった。それを聞いて立香は嬉しそうな表情を浮かべて藤丸の頬にキスをする。
「わっ!?」
突然キスをされて驚いた表情を浮かべる。だがすぐに嬉しそうに頬を緩ませる。どうやらまんざらでもないらしい。それを見ていたマシュの胸の中にはモヤモヤとした感情が芽生えてくる。確かに今まで一緒に戦ってきたのだし、今更新しい人物に変わってしまうというのもおかしな話かもしれない。それはわかっているのだが……。
「それでは、立香先輩はカルデアのマスターとして戦う事を引き受けてくれるのですね?」
「うん、わたしも頑張るよ!」
元気よく答えると彼女は立ち上がった。
「立香先輩……」
思わず不安げにそう呟いた。
並行世界のカルデアでマスターをしていたとはいえ、相手は別世界の人物なのだ。そう簡単にうまくやれるものなのだろうか。そもそも藤丸とは異なり、彼女はこのノウム・カルデアのサーヴァントたちと交流を深めてきたわけではないので、サーヴァントからすれば立香は自分たちのマスターである藤丸とは違う他人に過ぎないのだから。とはいえ、彼女が決めた事だ。ならば自分はその選択を尊重しようと思う。とはいえ、簡単に納得できるわけでもないのだが……。そう思いながらも彼女に尋ねる事にした。
「……大丈夫なんですか?」
不安そうに尋ねると、彼女は笑顔で頷いた。
「大丈夫だよ!わたしはわたしだもん!それにね、藤丸を見てるとなんかもう1人の自分って感じがするんだ!」
立香はそう言いつつ、猫のように自分の身体を藤丸にスリスリさせた。彼女の柔らかい身体と胸が藤丸の腕や背中に当たり、柔らかな感触を伝えてくる。藤丸はそんな彼女の行動に顔を赤らめながら視線を逸らすように顔を横に向ける。
「そ、そうかな……?」
彼の反応からすると満更でもなさそうである事がわかる。マシュはなんだかムッとして思わず立香に詰め寄った。
「立香先輩!藤丸先輩を困らせるような真似はしないでください!」
「マシュは堅いな~、もっと柔らかくなろうよ~」
立香はだら~っとした表情でそう言った。本当にこの人はわかっているのだろうか? マシュは内心で頭を抱えた。
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このノウム・カルデアにこれほど広い大浴場があるとはパニッシャーも知らなかった。これまでは自分のマイルームでシャワーを浴びるだけだったが、大浴場の存在を知ってこうして湯舟に浸かっているわけである。適度な温度のお湯が身体を芯から温めていくようで気持ちが良い。
「こういう風呂もたまにはいいものだな」
パニッシャーはそう呟きながらリラックスしていた。今までシャワーだけだったのでこうしてゆっくり湯船に浸かるのは久しぶりだ。いつもは戦いに身を投じているので、こうしたのんびりとした時間は彼にとって久しぶりなのである。そして暫く湯舟に浸かっていると、大浴場の扉が開く音がした。パニッシャーは扉の方に顔を向けてみるとバーゲストが入ってきたではないか。彼女は身体にタオルを巻いた状態でこちらに近づいてくる。
「……貴方でしたか」
そう言いながら彼女はパニッシャーの浸かっている浴槽に入ってくる。バーゲストは巨躯の女妖精であり、鍛えられた筋肉と豊満な胸という相反する肉体美を兼ね備えている。彼女はパニッシャーの視線が気になるのか、顔を赤らめつつ視線を逸らしている。
「あの……あまりジロジロ見ないでほしいのですが……」
彼女のそんな恥じらう仕草にパニッシャーは少し違和感を覚える。男顔負けの筋肉を搭載した女戦士であるバーゲストが、自分の裸を見られて恥じらう乙女のような反応に少し疑問を感じたのだ。いや、疑問よりも可笑しさが勝ってしまい、パニッシャーは恥じらうバーゲストの姿を見て僅かに笑ってしまう。
「な、何が可笑しいのですか!?」
バーゲストは思わず叫んでしまう。
「いや、お前も"一応"は女なんだなと思っただけだ。すまんな」
その言葉にバーゲストはさらに顔を赤くする。
彼女にとって今のパニッシャーの言葉は嫌味にしか聞こえなかったのだろう。
「しかし、こうして見るとやはりお前の身体には迫力があるな」
パニッシャーはそう言いながらバーゲストの身体を見る。バーゲストの身体はその身長に見合った非常に豊満な身体つきをしている。腕も足も太いが筋肉質で、特に太腿はトラックのマフラーかと思うほど太かった。だがそれ以上に目を引くのはその乳房である。その大きさは圧巻であり、乳牛を想起させるほどだ。身長は190cmあり、並みの長身の男よりも高い。最も、パニッシャーの身長は191cmであり、彼女よりも僅かに高いのだが。
「……」
バーゲストは顔を赤らめつつ、ジーっとパニッシャーの方を睨んでいる。その視線に気が付いたのか、パニッシャーは彼女に視線を向けた。
「わ、私も女です……。そんなまじまじと自分の身体を見られては恥ずかしいですわ……」
「……お前普段とキャラ違わないか?」
甲冑を身に纏った普段の勇ましいバーゲストの言動からは想像もできない程の女性的かつお嬢様的な言葉遣いと仕草に思わずパニッシャーはツッコミを入れてしまう。バーゲストは顔を真っ赤にして反論する。
「た、戦いから離れれば多少は女性らしくなるものですわ……!べ、別に普段からああいった振る舞いをしているわけではありませんから……!」
「……そういうものなのか……?」
女性らしいかと言われれば首を傾げるかもしれないが、男性らしいかと言えば間違いなく女性らしいと言えるだろう。バーゲストの言葉にパニッシャーは心の中でそう呟いた。
「あ、貴方も今は藤丸立香と同じカルデアのマスターです。であれば私と貴方は味方同士ですわ……。こ、こういった裸の付き合いも許容範囲という事でよろしくて?」
バーゲストは羞恥で顔を赤らめつつパニッシャーに言う。確かに今の彼女は立場的にパニッシャーと共に戦う仲間である。このノウム・カルデアに来てから日が浅い内に、彼女に対して発砲し、魔術弾が彼女の身体を傷つけてしまったが、バーゲストはその事については水に流してくれたようだ。
「貴方には銃で撃たれましたが、それはもう過ぎた事です……。あの一件では私の方にも非がありましたもの。お互い様ということで水に流す事にしました」
「そうか」
どうやらバーゲストの方からはもう気にしていないという意思表示をしてくれたらしい。彼女の態度を見て、自分も気負うことなく彼女と付き合っていく事ができるだろう。もっとも、彼女が自分をどう思っているのかはまだ分からないが。それに生前の妖精國での彼女の犯した罪を糾弾した所で関係は進展しない。妖精騎士である彼女も女王モルガンの命令で色々な汚れ仕事をしてきたであろうが、このカルデアで召喚された以上は藤丸のサーヴァントだ。
「生前の私は確かにモルガン陛下の命令を受けて汚い仕事もこなしてきました。それについて言い訳をするつもりはありません」
「……」
そう、妖精騎士ガウェインとして女王モルガンに仕えてきた彼女は反乱分子の粛清や排除などの汚れ仕事もしてきただろう。これまで無実の妖精や人間を多数殺めてきた事は想像に難くない。パニッシャーからすれば完全に暴君の尖兵なのだが、その事はあえて触れないでおいた。藤丸やマシュは妖精國で彼女がしてきた罪を咎める事はない。それどころか異星の神の使徒として悪逆非道を尽くしてきた道満でさえもサーヴァントとして受け入れている。
これは藤丸とマシュが持つ長所といえば長所なのだが。第一カルデアは英霊の罪を糾弾したり裁いたりする組織ではないのだし、ダ・ヴィンチやホームズ、ゴルドルフ、ムニエルを始めとするカルデアの職員たちも自分たちと敵対した者が生前に犯した罪を弾劾するような真似はしない。そんなカルデアの中にいるパニッシャーはあらゆる意味で浮いている。金魚の群れの中にピラニアが紛れ込んでいるようなものだ。パニッシャーのこうした姿勢はカルデアの信念に馴染まないのだが、今こうしてカルデアにいられるのは藤丸やマシュ、ダ・ヴィンチのお陰でもある。
「……お前の犯した罪は消せない。それは当たり前の事だ」
「……」
パニッシャーの言葉にバーゲストは俯く。恐らく生前の事を思い出しているのだろう。しかし──パニッシャーはその事を敢えて指摘したりはしない。そもそも、そんな事をして何になるというのか。今更彼女に過去の事を悔い改めさせても意味などない。
「私は生前の妖精國……燃え盛るウェールズの森で自分の犯してきた過去……罪を突き付けられました。あの妖精亡主によって。彼の眼窩を見た瞬間、自分がこれまで犯してきた"全ての罪"が一斉に自分に降りかかってきた感覚を覚えたのです。自分の精神と心が無造作に八つ裂きにされるような激痛が私を支配しました。それは物理的な攻撃などではなく、私の精神そのものに対する"呪い"だったのでしょう」
それからしばらく間を置いて、バーゲストは言葉を続ける。その時の苦痛を思い出したのか、バーゲストの顔に汗が滲んでいるように見えた。
「彼の目を……彼の目を見た私はそれから……それから……」
彼女の顔はありありと恐怖が浮かんでいる。無理もない、彼女のした行いは彼女の意思によるものではないにしろ許されない事なのだから。だが、それを言ってしまうのはあまりにも酷な話だ。たとえ本人が悪い事だと思っていなくても、彼女のやった事は決して許される事ではないのだから。だからこそあの精霊の眼差しを受けて地獄の苦しみを味わったのだ。
「――――『
「え……?」
「お前が受けたのは『
「あの……あの妖精亡主が誰なのかは貴方はご存じなのでしょうか?」
バーゲストの問い掛けにパニッシャーはゆっくりと口を開いた。
――――奴の名は"ゴーストライダー"。
やっぱパニッシャーは問題児として見られてますねぇ(彼の性格を考えれば仕方ないですが)
そんでもってバゲ子とも仲直り。