パニッシャーが人類最後のマスターと共に戦うようです   作:ドレッジキング

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やっぱトリ子はわからせられました。


第33話 藤丸の決意 中編

翌日、藤丸はアナスタシアと腕を組みながら食堂へと向かっていた。自分に寄り添ってくれるアナはこうしてみると姉か妹のように感じてしまう。ドレス越しでも彼女の身体の温もりを感じられるのでとても心地が良いし、何より安心感がある。彼女は自分にとってかけがえのない存在になっているのだと再認識した。

 

「あらマスター、さっきから私の顔を見てなにか考えているのかしら?もしかして私が恋しいとか……かしら? 」

 

「え…!?いや、その……!ち、違うよ!?」

 

慌てて顔を真っ赤にしながら否定をする藤丸を見て、アナスタシアはクスクスと笑う。

 

「ふふ……冗談よ、そんなに慌てなくても分かっているわ」

 

そう言いながら藤丸の手を引き、一緒に歩幅を合わせて歩く二人であった。すると向こうから赤いドレスを着た妖精……バーヴァン・シーが歩いてくる。彼女はアナスタシアと腕を組んで歩く藤丸を横目で見つつ、すれ違う際に言葉を投げかける。

 

「ま~だママのオッパイが恋しいの?この、マ・ザ・コ・ン♪」

 

「……え」

 

バーヴァン・シーの言葉を聞いた藤丸は思わず立ち止まる。すると彼女の発言を聞いたアナスタシアはその端正な顔立ちを歪める。そして怒りに満ちた声で言葉を返した。

 

「……バーヴァン・シー。マスターに謝りなさい。貴方の言葉は不敬極まりないものよ」

 

その言葉を受けて、バーヴァン・シーは一瞬怯むがすぐに調子を取り戻す。

 

「はっ、何が不敬よ。コイツはシミュレーター・ルームで死んだパパとママの虚像を作り出してあまつさえそれに甘えてたんだぜ?気持ち悪いったらありゃしない。アンタだって見たんでしょ?ソイツの気色悪い姿をさ」

 

バーヴァン・シーの言葉にアナスタシアは更に顔をしかめる。

 

「黙りなさい、バーヴァン・シー。それ以上マスターを侮辱するのなら……殺すわよ?」

 

アナスタシアの放つ殺気を受けてバーヴァン・シーは嘲るような表情を浮かべる。藤丸に対して姉や妹のように接するアナスタシアが面白くないようだ。

 

「あ?誰が誰を殺すって?あぁ、そういやテメェはソイツの保護者面してたよなぁ?こうして見てると傷の舐めあいにしか見えないけどぉ?キャハハハッ」

 

「……口を慎みなさい、さもないよ容赦しないわよ?」

 

二人は互いに睨み合い、一触即発の空気となる。だがそこに藤丸が割って入った。彼は二人を宥めるように声をかける。

 

「まぁまぁ二人とも落ち着いて……。アナ、俺は全然気にしてないから」

 

「けどマスター!バーヴァン・シーの発言は許せないわ!」

 

「フンッ!……じゃあ何?私をここで殺してみる?」

 

しかしアナスタシアもバーヴァン・シーも収まりそうにない。アナスタシアはバーヴァン・シーの暴言を受けて彼女に対して殺意を抱いているようだ。

 

「私を侮辱したいなら好きなだけしていいわ。けどマスターを侮辱する事は許さない」

 

アナスタシアとバーヴァン・シーがお互いに一歩も譲らずにらみ合っていると、そこへ介入した者がいた。彼女は微かに怒気を孕んだ口調でバーヴァン・シーに言葉をかける。

 

「控えよバーヴァン・シー。お前は我が夫に対して何を口にしたのだ?」

 

その言葉を聞いたバーヴァン・シーの顔からはどんどん血の気が失せていく。そして身体が小刻みに震え出した。やがて、まるで親に叱られた子供のように怯えた表情を見せる。

 

「お、お母様……!?」

 

「聞こえなかったのか?ならばもう一度言ってやろう。我が夫に対し、何と無礼な事を言ったのかと聞いている」

 

「そ、それは……」

 

「言えぬのか?そうか……お前がそれほどまでに愚かな娘だったとは思わなかったぞ、バーヴァン・シー」

 

モルガンの言葉を聞いていたバーヴァン・シーは更に怯えた表情へと変わる。先程藤丸を馬鹿にしていた時の生意気な雰囲気とは打って変わって、今は弱々しく怯えている様子だった。今のモルガンは妖精國を統治していた時の"冬の女王"のソレだった。サーヴァントとなった今でも、発せられる重圧とオーラは生前と変わらない。

 

「モルガン、余りバーヴァン・シーをイジめちゃ駄目だよ。それに彼女が言った事は事実なんだから……」

 

藤丸はモルガンとバーヴァン・シーの間に割って入り、仲裁をした。

 

「ですが……我が夫に対してバーヴァン・シーが無礼を働いたのも事実。これは捨て置けません」

 

モルガンは自分の持つ杖をバーヴァン・シーに向けると、彼女は怯えた表情で後ずさりする。どうやら罰を与えるつもりらしい。だが藤丸とてそこまでの事はモルガンには望まないので、杖を持つ彼女の手に自分の手を添えてバーヴァン・シーを処罰しようとするモルガンを止めた。

 

「……何故止めるのです?」

 

モルガンは不満げな顔で疑問を口にする。それに対して藤丸は答えた。

 

「さっきも言ったけど、俺は気にしてないからさ」

 

「我が夫よ、あなたは甘すぎる……」

 

モルガンは不服そうな表情を浮かべつつも、杖を収める。バーヴァン・シーはモルガンが罰を与えるのを止めたのを見てとりあえずほっとした表情を見せた。

 

「モルガン……マスターのために怒ってくれてありがとう」

 

アナスタシアもモルガンに礼を言う。彼女もアナスタシアの言葉を聞いて僅かに笑みを浮かべる。

 

「いえ、貴女の方こそ我が夫を支えてくれている。礼を言わねばならないのは私の方です」

 

モルガンとアナスタシアのやり取りを見て、バーヴァン・シーは慌てて二人から離れるように駆けていった。その様子を見ていたモルガンは再び不機嫌な表情になる。

 

「ふんっ……」

 

その様子を見ていた藤丸はモルガンに言った。

 

「ありがとうモルガン」

 

「当然の事をしたまでです。今後、二度とあのような口を利かぬように厳しく言い聞かせるつもりでいます」

 

モルガンはバーヴァン・シーの暴言に対してまだ怒りを抱いているようだ。

 

「私のような妖精には人間でいう親子の概念は本来ありません。ですが貴方が両親に愛され、そして貴方も自分の両親を愛していた事は理解できます。シミュレータールームに入り、そこで虚像の両親と暮らしていた貴方を揶揄したり侮辱したりする者がいれば、この私が直々に制裁を下しましょう」

 

「そ、それは嬉しいけどモルガン何だか怖いよ……?」

 

モルガンは冷たい目で廊下を去っていくバーヴァン・シーの事を見ている。そして藤丸の方を向くと、彼の頬に自分の手を添えつつ、真っ直ぐに見据える。

 

「我が夫よ、ご自分のご両親の死から立ち直れていますか?」

 

モルガンの問いかけに藤丸は笑顔で答える。

 

「大丈夫だよ。皆のお陰でこうして……」

 

が、藤丸が言い終わらない内にモルガンが口を開いた。

 

「嘘はおやめください。私の妖精眼は誤魔化せません。ご両親の死が未だに貴方の中で癒えていない事は承知しています」

 

モルガンの言葉を聞いて、一瞬ドキッとしたような表情を見せるが、すぐに笑顔に戻り返答する。

 

「……やっぱりモルガンには隠し事はできないな」

 

「愛する者の死はそう簡単に乗り越えられるものではありませんよ。かつて私も同じ経験をしましたから……」

 

モルガンはそう言って寂しげな表情をすると目を伏せた。それを見た藤丸は何か言おうと口を開くが言葉が出てこない。やがて何かを諦めたように小さく息を吐くと、再び笑顔を浮かべて言った。

 

「でも俺はもう大丈夫だ。心配かけてごめん」

 

それを聞いたモルガンは安堵したように微笑み、藤丸の手を自分の手を繋ぐ。

 

「我が夫よ、私も食堂に同行しましょう。貴方が今どのようにして生活しているのか、この眼で見てみたいのです」

 

二人は手を繋いだまま歩き始める。アナスタシアもモルガンと一緒になるのを受け入れ、そのまま三人で食堂へと向かった。

 

 

 

 

 

********************************************************************

 

 

 

 

 

「マシュ……それは本当なの?」

 

藤丸の問いに、マシュは静かに頷いた。

 

「……はい」

 

その表情には確かな緊張が浮かんでいる。

 

「何故、俺を連れ出そうとするんだ?」

 

それに対して、マシュは視線を逸らす事なくハッキリと答えた。

 

「アベンジャーズの皆さんは元々一般人であった先輩を魔術師の組織であるカルデアに置いて、人類最後のマスターとして戦わせる事に反対しているようです」

 

マシュは意を決して藤丸に対し、アベンジャーズがカルデアから連れ出そうとしている事実を打ち明けた。いずれは話さなければならない事だったのだ。いつまでも隠し通した所で意味などない。ならば正直に藤丸に対して言うべきだ。

 

「けど俺は今までカルデアでマスターとして戦ってきたんだ……。今更その役目から降りるなんて俺にはできないよ」

 

しかしマシュは真剣な眼差しで藤丸を見る。そんな彼の眼差しを見てマシュは伏し目がちになる

 

「確かに先輩はこれまで多くの戦いを切り抜けてきました。その活躍のおかげで人理焼却は阻止され、私達の世界は救われました。そして地球が漂白された現在でも、空想樹を切除して地球を取り戻そうと戦ってくれています」

 

その言葉に藤丸は小さく頷く。だがマシュはその事について言及する事はなかった。彼女はゆっくりと首を横に振り、そして続けた。

 

「ですが、だからと言って先輩が無理をする理由はないんです。もう先輩は……十分に戦いましたから……」

 

マシュの目は若干涙で潤んでいる。藤丸がカルデアのマスターとして戦い、地球を元通りにしたとしても既に彼の両親はこの世にいない。自分を愛してくれた父と母に再び会う為にここまで戦ってきたにも関わらず、協会の手により亡き者にされ、正真正銘藤丸は天涯孤独の身となった。そんな状況で尚、世界を救おうと立ち上がるのは決して簡単な事ではない。

 

「マシュ……確かにもう父さんも母さんもいないけど、それでも俺はカルデアのマスターとして最後までやり遂げなくちゃいけないんだ……!俺だけ楽して良い訳がないよ……!」

 

藤丸はマシュの言葉を必死に否定する。自分はまだ戦えるのだと懸命に主張をした。だがマシュの表情は暗いままだ。するとマシュの目からは一筋の涙が流れ落ちる。

 

「先輩……もう無理をしなくてもいいんです。辛いのなら逃げてもいいんですよ。だって、先輩にはもう戦う理由なんてないじゃないですか」

 

「そんな……!俺はまだ戦えるよ!皆を置いて自分一人だけ逃げるなんて嫌だ!」

 

藤丸はまだ自分は戦える、人類最後のマスターとして、カルデアにいるサーヴァント達のマスターとして漂白された地球を取り戻す為に最後まで戦うと主張した。しかしここまで藤丸が戦ってこれたのは故郷に置いてきた家族と再会するという目的があったからだ。自分の日常を、平穏な生活を取り戻すための戦いだったはずだ。だがもう藤丸の家族は……。

 

「だって先輩……もう先輩のご家族は……この世には……」

 

マシュは目から大粒の涙を流しながら言葉を詰まらせる。

 

「お願いです先輩……。もうこれ以上無理をなさらないでください……!!これは私の我儘かもしれません。ですが、私にとって、今の先輩を戦わせる事は苦痛以外の何物でもないのです!!」

 

その言葉を聞き、彼女の表情を見た時、俺は何も言えなくなってしまった。彼女の瞳からは涙が溢れており、頬を伝って滴り落ちている。こんな姿を見せられては彼女を拒絶する事などできなかった。

 

「マシュは今まで俺と戦ってきたじゃないか!七つの時代の特異点を修復した時も、ゲーティアの時間神殿で戦った時も、空想樹を切除する為に異聞帯で戦った時もずっと俺と一緒に戦ってきたんだ!それなのに今更降りろだなんて……」

 

「すみません、出過ぎた真似をしてしまいました。でも、これだけは言わせてください。先輩は十分過ぎる程、人類の未来の為に戦ってきました。だから、もう、休んでもいいと思うんです」

 

だがマシュの言葉に藤丸は譲らない。両親の死が心の中に大きな傷となって残っているのは事実だが、それをマシュに悟られないようにした。しかし当の彼女には見抜かれているようだ。

 

「私からみた今の先輩は……全然平気そうじゃないです。辛くて悲しくて、今にも心が壊れてしまいそうな……」

 

マシュの目からはとめどなく涙が溢れていた。彼女は本気で自分の事を心配してくれているのだと思うと、胸が締め付けられるような思いがした。しかしそれでも退くわけにはいかないのだ。今ここで戦いをやめてしまえば今までの苦労が全て水の泡になってしまうかもしれないのだから。

 

「先輩の気持ちは分かります……。私も先輩と離れたくないですし、ずっと一緒に居たいです。ですが……シミュレータール―ムに入っている時の先輩を見て、私では先輩を支えられないと思い知りました……。先輩がご両親に見せる顔は……とても幸せそうで……」

 

そしてそのまま泣き崩れてしまうマシュ。彼女は藤丸がカルデアから去る事を止めるどころか、推奨しているようにさえ見える。以前の彼女であれば無理をしてでも引き留めたであろうが、藤丸が両親の死を聞かされた際に見せた悲しみの涙と取り乱し様を目の当たりにしたマシュは、これ以上藤丸をカルデアで戦わせる事に疑念を抱いてしまっていた。人類最後のマスターとして、先輩としてマシュを引っ張って来た藤丸が見せた脆さと弱さ。それを見てしまったからこそ、マシュは彼をこのまま戦わせてはならないと思ってしまったのだ。彼女なりの気遣いなのであろうが、そんなマシュの気配りは藤丸の心を傷付けた。

 

「マシュ……俺はまだ戦えるよ……!俺はもう平気だから……!」

 

だがマシュは首を横に振り続ける。

 

「いえ、ダメです。私が嫌なんです。あんな悲しそうな顔をする先輩はもう見たくないんです。それに……最近の先輩は、無理に笑っているように見えるんです」

 

彼女の言葉が胸に突き刺さる。

 

「マシュ……今まで一緒に旅してきた仲間なら分かるだろ……?今の俺には立ち止まる暇なんてないんだよ」

 

「いいえ、分かっていません!それに先輩は、今も苦しんでいるじゃないですか!」

 

「苦しいのは当然だろう!けどそんなものはカルデアのマスターをしている以上は仕方のない事で……!」

 

「違います!先輩はきっと勘違いをしています!私は先輩の事が好きで、大好きだからこそ、苦しんでほしくないんです!」

 

いつの間にか藤丸とマシュは大声で言い合っていた。

 

「確かに、今まで私たちは沢山の特異点を旅してきました。それは勿論大変な事ばかりでしたが、私はその旅の中で先輩とたくさんの思い出を作ってきました!けど……今の先輩を見ていると胸が締め付けられる……。ボロボロになっても無理をして立ち上がって、それでまた傷ついてしまう……。そんな辛い思いをしてまで戦い続けてほしくありません!」

 

マシュは自分の想いを素直にぶつけた。藤丸の目からは涙が流れ落ち、マシュに縋り付いて必死にマスターとして戦いたいと懇願し続けた。

 

「お願いだよマシュ……このままカルデアで戦いを続けさせてくれ……。じゃないと、俺の父さんや母さんの犠牲が無駄になってしまうんだ……!俺がやらなきゃいけないんだ、俺しかやれないんだ……!だから頼むよ、俺に戦いをやらせてくれ!」

 

しかし、マシュは静かに首を横に振る。

 

「……ごめんなさい、やはり先輩をこのまま戦いに出すわけにはいきません。このままでは、先輩はいずれ壊れてしまいます……」

 

そう言うと、マシュは静かに涙を流す。そん姿を見て、彼女の想いを感じ取った藤丸は思わず何も言えなくなってしまう。彼女の覚悟を知ってしまった以上、彼女を説得するだけの言葉を持ち合わせていないのだ。彼女がどれだけ自分を心配してくれているのかを理解してしまったせいで、彼は彼女の心を傷つけずにどう言えば良いのか分からなかった。そしてマシュは静かに部屋を後にする。残された藤丸はベッドの上で膝を組み、自分はどうするべきかを考えていた。が、その時マイルームの扉が開き、明るい声が聞こえてきた。

 

「藤丸~!今から部屋で一緒に映画でもどう?」

 

先ほどのマシュと藤丸のやり取りを知らない立香はベッドの上に座る藤丸に対していつもと同じように笑いかけてきた。そんな彼女に対し、どう反応して良いか分からずにいると、それを見た彼女は首を傾げる。

 

「ん?どうしたの?」

 

そんな彼の反応を見た彼女は不思議そうに首を傾げた後、そのまま部屋に入ってくるとベッドに座り込む。そして彼に寄りかかるとニコニコと微笑みながら彼の腕を抱きしめる。そんな彼女に対して何と言葉を発っすればいいのか分からない。

 

「えっと……藤丸、何があったの?目が真っ赤だよ……?」

 

どうやら自分でも気づかぬうちに泣いていたらしい。彼女にそう言われた事で初めて泣いている事に気づいた藤丸は慌てて目元を拭うと心配をかけないように笑顔を作る。

 

「大丈夫だよ立香。ちょっとマシュとね……」

 

「え?さてはマシュに泣かされたな~?男の子なのに女の子のマシュに泣かされちゃ駄目だぞ~?」

 

そう言うと立香は藤丸の頭を軽く小突くようにして撫でる。その様子を見て彼は苦笑しつつもどこか嬉しそうだった。




モルガンもウーサー君の死を目の当たりにしているからね……
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