パニッシャーが人類最後のマスターと共に戦うようです   作:ドレッジキング

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男の子って言うのは、女の子の前ではカッコつけたがるんだよね。


第34話 藤丸の決意 後編

「うん?もう朝なの?」

 

けたたましい目覚ましベルを止めつつ、立香は時刻を見る。すると時計は既に午前9時を指しており、既に起きていなければならない時間であった。それに気づいた瞬間、布団から飛び起きる。今日は土曜日なので本来ならもう少し寝ていたいところだが、今日は友人達と遊園地に行く約束をしていたのだ。それをすっかり忘れていた事を後悔しつつ、急いで顔を洗い、朝食を食べにリビングへと来る。そこにはいつものように両親の姿があり、二人共愛する娘に"おはよう"と声をかけた。何気ない朝の光景、何気ない家庭の団欒、平和な日常。

 

「パパ、ママ、おはよう!」

 

立香は寝ぐせを直しながら、テーブルに出されたトーストを頬張る。そんな様子を見て両親が笑うのを見て、彼女もまた笑った。

 

「立香、そろそろ彼氏の一人でも連れてこいよ」

 

「そうよ、あなただって年頃なんだから!」

 

「あはは……」

 

この話題になるといつも返答に困る。別に恋愛に興味が無いわけではない。ただ、今の環境が心地良すぎて他の事に目を向ける余裕がないのだ。それに今は勉強に部活、友達付き合いなどやる事が多過ぎるのだ。この日本のどこにでもいる普通の女子高校生として、平穏で平凡な暮らしを享受している立香。平和過ぎて刺激が足りないと言えばそれまでだが、それが彼女にとって一番良い事なのだ。しかし、それでも思春期真っ盛りの少女である事には変わりはなく、異性に対してもそれなりに興味はあるし、恋にも憧れるお年頃である事に変わりはないのだ。だからこうしてたまに両親からこの手の話を振られるとどう反応していいか困ってしまうのだ。目の前にいる両親の幸せそうな表情を見つつ、立香は大事な事から目を背けているような気がした。

 

「そうだなぁ……もし彼氏が出来たとしてさ、わたしと同じ名前だったら嫌かな?ホラ、立香って名前は男にも付けられるし」

 

立香の言葉に両親は互いに顔を合わせる。彼氏と自分の娘が同じ名前だったとしたら紛らわしくないか?という疑問を抱いたからだ。

 

「うーん……確かにややこしいけど、俺は気にしないよ。お前が好きな人なら父親として応援するし、俺の娘だって胸を張って言えるよ」

 

「私もあなたの言う通りよ。そもそもあなたが好きになった人なんだから反対なんてしないわ」

 

両親がそう言うと娘の頬がほんのりと赤く染まった。そんな娘を見て二人は微笑むのだった。立香はいつまでもこんな日常が続けばいい、愛する両親、仲の良い友達、学校と部活、そういった"平凡な生活"の中で生きていきたいと何よりも願っていた。そう、"後戻り"などできない今だからこそ平穏で平凡で平和な生活がどれ程尊いものなのかを知ったのだから。

 

「パパ……ママ……。あのね、この際だから言うけど。わたし……取り返しのつかない事をしちゃったの……」

 

立香がそう言った直後にはリビングから両親の姿は消えていた。もう既にこの世にいない両親との会話を、毎晩こうして"夢の中"でしている。所詮現実ではない、単なる夢の中。立香の目からは涙が流れ落ちて来る。

 

「ごめんね……本当にごめん……。謝っても許されないよね……」

 

夢の中でいくら謝罪しても意味がない事は分かっている。それでも謝らずにいられなかった。これはただの自己満足に過ぎないと分かっていても、そうする事でしか自分を保てないと分かっていたから。

 

「……わたしが悪いんだ……全部……わたしのせいなんだ……。パパとママに会いたいから……二人に生きていて欲しいから聖杯を沢山使って……。けどそのせいでマシュも……ダ・ヴィンチちゃんがも……ホームズも……ゴルドルフ所長も……ネロもみんな消えた……」

 

立香はとめどなく溢れてくる涙と罪悪感で押し潰されそうになる。自分がカルデアに貯蔵されていた聖杯を使ってしまったせいで大勢の仲間が消えたという事実に胸が張り裂けそうだった。

 

「……わたしはどうすれば良かったのかな……?ねぇ教えてよ!誰か答えてよ!!」

 

リビングで叫ぶ立香だが、彼女の言葉に答える者はいない。この夢の空間には彼女しかいないのだから当然だ。しかし彼女はそんな事にも気が付かずに叫び続けている。その時、どこからともなく声が聞こえてきた。

 

――――――立香!大丈夫か!?

 

その声と共に立香は夢の中から覚めた。

 

 

 

 

************************************************************

 

 

 

 

「ふ……藤丸……?」

 

瞼を開けた立香の目に入ってきたのは心配そうにこちらを覗き込んでくる藤丸だった。

 

「大丈夫?ひどくうなされていたけど……?」

 

藤丸はそう言うとハンカチを取り出し、涙を拭ってくれる。悪夢を見ている時に現実でも涙を流していたようだ。まだ心臓がバクバクと音を立てており、全身に嫌な汗が流れる。きっと酷い顔をしているのだろうと思いながらも、自分を心配してくれる藤丸の顔を見て思わず笑みがこぼれる。

 

「……ありがとう……心配してくれて……」

 

そう言って微笑む自分に安心したのか、藤丸の表情からも緊張がほぐれる。

 

「立香がうなされている時……"パパ"、"ママ"って何度も口にしてた。何があったの立香……?」

 

藤丸の言葉に立香の心臓はドキッと跳ねる。まさか夢の内容を話すわけにはいかないので、咄嗟に嘘をつく事にした。

 

「……ちょっと怖い夢を見ただけ……」

 

その言葉に嘘はない。あの出来事がトラウマになっている事は事実だからだ。だからこそ"パパ"や"ママ"という言葉を口にしてしまったのかもしれない。するとそれを聞いた藤丸の表情が曇る。

 

「……そっか……。辛い事があったら俺に言ってもいいんだよ?俺じゃ頼りないかもしれないけどさ……」

 

そう呟くように言うと藤丸は立香を抱き寄せる。その優しさに立香の目からは再び涙が溢れてきた。

 

「うん……」

 

小さく頷くと、さらに強く抱きしめられた。その温かさに心が安らいでいくのがわかる。まるで父親と母親に抱かれているかのような安心感に包まれながら、しばらくそのまま泣いていた。

 

しばらくして泣き止むと、ようやく落ち着きを取り戻した。

 

「……ごめん藤丸。もう大丈夫だから離していいよ」

 

そう言いながら顔を上げると、そこには優しくこちらを見る藤丸の顔があった。立香は彼の表情を見て、自分が隠してきた事実を打ち明ける事にした。これ以上隠しても意味はない、相手が藤丸だからこそ言うべきなのだ。

 

「藤丸……わたしね……パパとママを生き返らせようとしたんだ……」

 

「え……?」

 

立香の言葉に藤丸は目を見開いた。

 

「ホラ、ゲーティアを倒して人理焼却を防いでから地球が白紙化されるまで1年間の期間が空いてたでしょ?わたしのパパとママはその期間内に……協会に消されたって……」

 

その言葉を聞いて藤丸は更に驚愕する。自分の両親が行方不明の自分を追った末に、魔術の存在に触れようとしてしまいその結果口封じとして協会に消された。だが目の前の立香も自分と同じく父と母を協会に殺されていたというのだ。

 

「わたしは無理矢理南極のカルデアに連れてこられたんだ。それこそ正真正銘誘拐として思えないやり方でね。パパとママは行方不明になったわたしを探してくれたんだ……。けど……そのせいでパパとママは協会から目を付けられて……それで……」

 

愛する両親の死を語る立香の目からは止めどなく涙が溢れている。そんな彼女を慰めるように抱きしめる力を強めると彼女は再び嗚咽を漏らし始めた。

 

「わたし……パパとママに"ただいま"も言えなかった……。生きてもう一度……もう一度二人に会いたかったのに……それなのに……なのに……!」

 

そう言って涙を流す彼女を見ていると藤丸は胸が締め付けられるような痛みに襲われる。それは彼女が泣いている事に対してではなく、彼女の心の痛みが自分に伝わってきているからだ。そう、彼女は自分と同じ……。

 

「それで……カルデアに貯蔵してある聖杯を使ってパパとママを死ななかった事にしようとしたの……」

 

「え……?」

 

立香の口から出た言葉に藤丸は耳を疑う。

 

「カルデアのマスターとしてやっちゃいけない事なのは分かってた……!だけど……白紙化した地球を元に戻してもパパとママにはもう会えない事に耐えられなかった……!!だから……!!」

 

泣きじゃくりながら話す彼女に何と声を掛ければいいのか分からなかった。ただ今は彼女を抱きしめてあげるべきだという事だけは分かった。

 

(そうか……この子も同じだったんだ……)

 

そう思いながらそっと頭を撫でてやる。すると彼女もこちらに身を委ねるようにして抱きついてくる。

 

「聖杯を沢山使えば、パパとママが死ななかった事になるだけじゃなく、白紙化した地球も元通りになると思ったの。けど……けど聖杯を使った瞬間、カルデアのみんなが"消えた"……。マシュも、ダ・ヴィンチちゃんも、ホームズも、ゴルドルフ所長も、シオンも、キャプテンも、ネロも、他のサーヴァントたちも全員消えて、カルデアにはわたしだけが取り残された……」

 

立香は自分がいた並行世界のカルデアで犯した罪を、藤丸に告白した。その罪の重さに立香は押し潰されそうに見える。しかしそれでも彼女の心は壊れていない。いや、壊れた心を必死に繋ぎ合わせているようにさえ見える。

 

「わたしって……本当に馬鹿だよね……。カルデアのマスターとして戦ってきて、最後は自分の願望を叶えるために聖杯を用いてその結果仲間が全員消えちゃったんだから……」

 

立香は自嘲気味に笑いながらそう言った。藤丸はそんな彼女を見ていられず、思わず抱きしめる腕に力がこもってしまう。その行動に驚いたのか、一瞬ビクッと身体を震わせるがすぐに力を抜いてくれた。しばらくそのまま抱きしめていたがやがて落ち着いたようで、顔を上げてこちらを見つめてきた。その表情はまだ少し暗いものの先ほどよりはマシになっているようだった。

 

「ありがとう……藤丸」

 

「立香……今まで辛かったんだろう?なら思いっきり泣いていいよ」

 

そう言って優しく頭を撫でると彼女はさらに涙を流して嗚咽を漏らした。よほど辛い思いをしてきたのだろう。無理もない事だ。彼女が泣いている間ずっと頭を撫で続けた。しばらくしてようやく落ち着いてきたのか、彼女の方から身体を離してくれた。まだ目は赤く腫れているが涙はもう止まっているようだ。そして改めてこちらを見据えるとこう言った。

 

「ゴメン……今までずっとベタベタしちゃって……。藤丸は何かにつけてくっついくるわたしの事、嫌いになった?」

 

確かに今まで藤丸に対して過剰なスキンシップをしてきた立香であるが、そんな彼女は藤丸に嫌われているのではないかと不安に駆られる。だがそんな立香に対して藤丸は優しい顔で首を横に振る。そしてこう答えた。

 

「嫌うわけないよ。むしろもっと甘えて欲しいくらいだよ」

 

そう言うと今度は彼女の頭を優しく撫でる。

 

「それに……俺も立香と同じなんだ」

 

「え……?」

 

「俺の父さんと母さんも……行方不明の俺を探した末に協会に目を付けられてそれで……」

 

藤丸の言葉を聞いた立香は、彼を抱き寄せると自分の胸に顔を埋めさせた。

 

「え……?」

 

驚く藤丸だったが、彼の耳に聞こえてきたのは彼女の心臓の鼓動だった。そのリズムはまるで母親の胎内にいる時のような心地良さを感じさせるものだった。そしてそれは同時に安心感を彼に与えてくれるものでもあった。そして何よりもその心臓の音を聞いているととても心が落ち着くのだ。まるで母親に抱かれているような錯覚すら覚えてしまうほどに……。

 

「藤丸……ちゃんと泣きたい時は泣いていいんだよ?わたしだってそうしてもらったんだから……」

 

「ありがとう立香……」

 

藤丸は暫く立香の胸に顔を埋めていたが、暫くすると離れた。

 

「わたしは……人類最後のマスターとして失格だよね……。それに比べて藤丸は凄いよ……。わたしみたいに聖杯で親を生き返らせようとしたりしていないし……」

 

「立香、俺は君のした事を決して責めない。もしその事で君を責める人間がいたら、俺はそいつを許さない。だから自分を責めないでくれ」

 

藤丸の言葉を聞いた立香は、彼と顔を近づけるとそのままキスをする。藤丸は突然の事に動揺して顔を赤らめたが、やがて落ち着きを取り戻して彼女を抱きしめ返すのだった。そして二人は再びキスを交わす。二人の唇が離れるとそこには銀色の糸が引かれており、それがさらに二人を興奮させていた。

 

「藤丸……結構上手いじゃん。もしかして経験あるとか?」

 

「……いや、初めてだよ。ただ本やネットの知識を参考にしただけだけど……」

 

照れながら言う藤丸に対して、彼女は嬉しそうに笑みを浮かべるとこう告げた。

 

「じゃあわたしが初めての相手なんだね!嬉しいなぁ~♥️」

 

そう言って喜ぶ彼女の姿に、藤丸は思わずドキッとしてしまう。ファーストキスならばマシュと既にしてしまったのだが、この際立香には黙っておく事にした。

 

「藤丸……わたしもマシュから聞いたよ。アベンジャーズの人達が藤丸をカルデアから連れ出そうとしているの……」

 

立香の言葉に藤丸は顔を曇らせる。そう、一般人である自分をこれ以上危険な目に遭わせ続ける事は認めないというアベンジャーズは彼を戦いから遠ざけようとしているのだ。以前のマシュや他のサーヴァントたちであれば猛反発したであろうが、両親の死に深く傷ついた藤丸を目の当たりにしているので、強く拒否できないというのが現状だ。しかもマシュは藤丸を戦いから遠ざける事に賛成している様子であった。マシュなりに藤丸の事を想っての事だろうが、当の藤丸にとっては今まで戦ってきた後輩に「戦いから降りてください」と言われるのは何よりも辛い。

 

「藤丸がいなくなってもわたしがいるよ。これでも藤丸と同じ人類最後のマスターとして戦ってきたんだよ?」

 

立香はそう言って自分の令呪を藤丸に見せながら言う。確かに並行世界の同一人物ではあるが、藤丸のいるカルデアのサーヴァントたちからすれば立香など所詮他人に過ぎない。そんな彼女とサーヴァントたちの間で連携が取れるのかどうか怪しいところだろう。

 

「……できない」

 

「え……?」

 

「やっぱり俺は……戦いから降りるなんてできない……!」

 

が、立香の言葉を否定した藤丸は彼女の目を真っ直ぐに見据える。その瞳は力強く、人類最後のマスターとして戦ってきた彼女の決意の強さを感じ取るには十分だった。

 

「け、けど藤丸が戦いから離れられるならわたしはそれで……」

 

立香の言葉に藤丸は首を横に振る。

 

「立香は俺よりもずっと辛い思いをしてきたんだ……。それに戦いを終わらせても立香のいた世界のマシュやダ・ヴィンチちゃん、それに君の両親が生き返るわけじゃない。このカルデアにいるマシュたちだって、立香が自分の世界で一緒に戦ってきたマシュたちじゃないんだ」

 

「そんな事分かってる……!分かってるけど……!!」

 

「立香は……"自分が生きたい理由"を探したいだけなんじゃないのか?」

 

藤丸の言葉は図星だったのか、その言葉を聞いた瞬間、彼女は身体を硬直させた。立香が犯した過ちによって彼女の世界にいたカルデアの仲間たちは全員消滅し、彼女の世界の白紙化した地球を取り戻す手段は永久に失われてしまったのだ。立香はそんな世界では自分の生きている理由が見いだせずにいたのだ。両親と再会する事も、マシュたちと共に戦う事もできないまま生きていた所で意味がない。それだからこそ藤丸の代わりにカルデアのマスターとして戦う事を快諾したのであろう。例え並行世界のカルデアで、自分の事を知らないマシュたちであろうと関係なかった。

 

「やめてよ藤丸……そんな事言わないでよ……わたしどうすればいいのか分からなくなっちゃうじゃん……」

 

目から光が消えた立香は涙声で藤丸に訴える。しかし、それでも彼は彼女の言葉を否定するように首を左右に振った。

 

「俺は……自分よりも辛い目に遭ってきた目の前の女の子に全てを押し付けて逃げ出すなんて卑怯な真似だけは絶対にしない……!」

 

「え……?」

 

が、藤丸の口からは力強く、そして決意に溢れた言葉が飛び出したのだ。もう両親の死に涙を流していた一人の少年ではない。漂白化された地球を取り戻すべく、そして人理を取り戻すべく多くのサーヴァントと共に戦う人類最後のマスターであった。

 

「立香、俺が君の"生きる理由"になる……!だから……だから一緒に戦おう……!一緒にこのカルデアでマスターとして戦おう……!」

 

「……藤丸!」

 

藤丸の言葉を聞いた立香は彼の胸に飛び込んで泣きじゃくる。さきほど涙を沢山出したというのにまだ枯れる事を知らないようだ。

 

「ありがとう、ごめんね、本当にごめん」

 

泣きながら謝る彼女に対し、藤丸は優しく頭を撫でるのだった。

 

「大丈夫だよ立香。俺はもう迷ったりしない。俺は……俺はカルデアのマスター、藤丸立香だ」




やっぱ藤丸君は人類最後のマスター。
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