パニッシャーが人類最後のマスターと共に戦うようです 作:ドレッジキング
――――英霊は人理の守護者。
これはマシュを始めとしたカルデアで働く人々から幾度も言われた言葉だ。事実、守護者という部分は間違ってはいない。現に漂白化された地球に出現した異聞帯内で、汎人類史のサーヴァントが土地の縁などで召喚され、空想樹の切除に来たカルデアに協力した事例は数多く存在する。人理の危機に対しては抑止力として派遣され、同じく人理を取り戻すべく戦うカルデアに協力するのはごく自然な事である。しかしながらサーヴァントはその性質上、マスターが汎人類史に反旗を翻したクリプターであった場合でもマスターの意向に従う傾向が見られる。カルデアがこれまで戦ってきたクリプターのサーヴァントは半数以上が汎人類史側のサーヴァントだったらしい。マスターの性質に引っ張られるというサーヴァントの在り方なのだろうが、完全なる人理の守護者かと言われればそうでもない気がした。そしてそんなキャップの考えを見透かしているかのように、後ろにいるシオンが口を開く。
「あなたの考えている通り、英霊というのは人理という所謂マクロな存在の守護者なのです。あなたがたアベンジャーズのような世界のみならず市井の人々の為に戦う……とは少し意味合いが違います」
"英霊"と"ヒーロー"は似ているようでいて、根本的な部分は異なるのだ。確かに世界を守るという点では同じだろう。しかし英霊の場合はあくまでも"世界を救う為に、力を貸す"という存在なのだ。無論、個人差はあるにしても人々を守る為に活動するヒーローとは似て非なる存在であると言えるかもしれない。
「サーヴァントというのはアベンジャーズの皆さんのように正義感に満ち溢れた人達ばかりではありませんからねぇ。歴史上において悪逆で名を馳せた反英雄とかもいるわけで」
英霊というのは正義の味方の集まりなどではない。歴史において残虐で名を轟かせた暴君や狂人、人を人とも思わぬような異常者の英霊でさえ存在する。そういった者たちはアベンジャーズからすれば"ヴィラン"であるのだが、キャップやホークアイといったアベンジャーズのメンバーの中にはそんなサーヴァントと共に戦う事に抵抗を示している者も多い。
「人理を救うのであれば、清濁併せ呑む事も重要だと思いますよ?カルデアのみなさんは善悪中庸を問わず幅広い属性のサーヴァントを味方に付けてここまで戦えてきたんですから」
カルデアとアベンジャーズの方針は根本から異なる。アベンジャーズでは邪な考えを抱くヴィランのような存在を入れる事は認めていない。参加するにはヒーローである事が絶対条件であり、そこに悪党が入り込む隙はないのだ。良く言えば清廉潔白、悪く言えば融通が利かないと言える。しかしカルデアはそうした面でアベンジャーズよりも遥かに寛容と言えるだろう。正統派の英雄も、暴君も虐殺者も"英霊"という一つのカテゴリーであり、それらがサーヴァントとして現界して人理の為に働く。人理の守護者とヒーローは似ているようで根本が異なる。人理の危機という未曽有の事態において、英霊個人の善悪など極々些細な問題に過ぎないのだろう。
「共闘し、互いに背中を預け合うのは信頼に足る人物の方がいい。いつ後ろから背中を刺してくるか分からないサーヴァントと一緒に戦う事に反発しているメンバーも少なくない。それに……カルデアのマスターである藤丸少年の事だ。このカルデアにいるサーヴァントたち全員のマスターをしなければいけない彼の負担は尋常ではない筈だ。一般人である彼をこれ以上戦いに巻き込むわけには……」
キャップが続けようとしたその時、扉が開いて藤丸、立香、マシュの3人が入って来た。藤丸の顔は初めて会った時とは見違えるほどに逞しくなっており、決意と決心に満ち溢れた表情をしている。一体彼に何があったのか首を傾げるキャップ。
「キャップ、藤丸先輩は最後までカルデアのマスターとして戦い抜くと仰っています」
マシュの言葉に思わずキャップは目を見開き、藤丸の方に視線を向ける。藤丸は真っすぐキャップを見ており、彼の瞳には一切曇りはない。
「キャップ、俺はこのカルデアのマスターとして最後まで戦います。巻き込まれたのは事実だけど、それでも俺は責任を持ってやり遂げたいんです!これは俺と契約してくれた全てのサーヴァント達の為でもあるんです。だから……だから俺はカルデアに残ります!」
キャップはしばらく黙っていたが、やがて小さく溜息をつく。
「……君の覚悟はよく分かった。だが、無理だけはしないで欲しい。君に何かあったらカルデアの人達や多くのサーヴァント達が悲しむ事になる。それは忘れないでくれ」
その言葉を聞いた瞬間、今まで不安げにしていた藤丸の表情が一気に晴れやかなものへと変わる。それを見たキャップも笑みを浮かべ、彼は立ち上がって3人の前に右手を差し出す。
「改めてよろしく頼むよ、3人とも」
そして3人は差し出されたキャップの右手を力強く掴むのだった。
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自分がリハビリしなければいけない身体にも拘らず、カドックは目に映る女性の手助けをしていた。盲目の美女はカドックの付き添いを受け入れており、2人でゆっくりと廊下を歩いている。
「大丈夫か?」
カドックは歩きながら盲目の美女に尋ねる。
「えぇ……ありがとうございます……」
術式が施された特殊な帯を両目に巻いた栗色の髪の毛の美女はカドックの方を向いて微笑むものの、その笑みにはどこか寂しげな影があった。カドック自身、自分が負った傷がまだ完治していないにも関わらず他人の心配をするなどお人好しにも程があると自分でも思う。しかし目の前にいる女性はカドックにとって無関係な存在ではない。だからこそこうして付き添っているのだ。
この美女には記憶が無い。カドックとの記憶も、他の■■■■■との記憶も全て喪失している。今は自分の名前すら思い出せない彼女は自身の名前と記憶を思い出すために様々な検査を受けているが、彼女が記憶を取り戻せる可能性は極めて低いだろう。彷徨海の設備であればどうにかなるとカドックは思っていただけに落胆は大きかった。カドックは盲目の美女を先導して廊下を進んで行くが、不意に後ろから声を掛けられた。それはカドックがよく知っている声であり、同時に今自分がリハビリしなければならない原因でもある。
「おやカドック殿。リハビリは順調でございますかな?」
「……!リンボ!?」
カドックは目の前に現れた道満に驚き、盲目の美女を庇う形で彼の前に立つ。
「そう警戒なららずともよろしいですぞ。今の拙僧はこのカルデアに召喚されし身なれば。決してキャスター・リンボという名を持った異星の使徒ではございませぬ」
道満はそう言って笑みを浮かべる。カドックはそれを訝しむような目で見る。いくら異星の使徒ではないとはいえ、彼の言う事を完全に信用できるほどカドックは愚かではなかったからだ。
「ふむ……何やら勘違いされている様子ですが、拙僧はカドック殿の様子を見に来ただけ。決してやましい考えを持って来たわけではございません」
道満はある意味カルデアで最も信用してはいけないサーヴァントだ。異星の神の使徒でなくなったとはいえ、彼の本質は変わらず悪性のまま。むしろ悪性の塊と言ってもいいくらいだ。そんな彼が素直に"様子を見にきただけ"などと言って自分の前に現れるだろうか?何か企んでいないかと疑うのは当然のことだ。だからカドックは言った。
「……本当だろうな?」
「疑り深い御仁ですなぁ。拙僧、そこまで信用されていないのですか」
道満はわざとらしく残念そうな表情を浮かべて見せる。そして次の瞬間、その表情を歪ませて笑った。
「まぁ良いでしょう。それよりも、カドック殿の後ろにいる女人……まさか貴女が生きておられたとは」
道満は盲目の美女に顔を向け、ますます表情を歪ませる。まるで獲物を見つけた獣のような顔だ。それに反応するかのように、盲目の美女は道満に警戒を露わにする。
「誰……でしょうか……?何か分かりませんけど……貴方は危険……」
「僕の傍を離れるな」
道満を警戒しながらそう言うと、彼女は不安そうにしながら頷いて見せた。
「フフフフフ……記憶を無くしてしまうと言うのも悲劇ですなぁ。拙僧、そのような境遇のお方にはつい同情してしまうのです」
道満はそう言ってニヤニヤと笑う。カドックは道満の笑顔に対して不快そうに顔を顰めた。どうやら道満は本気で自分の顔を見に来ただけらしい。彼が何かを企んでいたわけではない事を知り、内心ホッとする。だが、道満はその顔に浮かべた笑みをさらに大きくして続けた。
「カドック殿、かつてのご自分の仲間が記憶を失うというのは中々堪えるものがあるでしょう。何せ貴方の事さえ全く思い出せないのですから。拙僧、その点に関してだけは"哀れみ"という感情を抱いてしまいまするぞ」
記憶を喪失した盲目の美女を見つつ、道満は去っていった。そんな彼の背中を警戒するように見つめるカドック。
「あの……あの人は……?」
「心配いらない。もう行ったよ」
道満の姿が完全に見えなくなるまで待つと、カドックは盲目の美女を連れて彼女のリハビリを再開する。カドック自身もリハビリをしなければいけない身にも拘らず、彼女のリハビリの方を優先しているのは他でもない彼女の為だった。彼女の世話を焼く事は彼にとって苦ではない。
「ごめんなさい……いつも迷惑かけてしまって……」
「あまり気にするな。これは僕が望んでやっている事だ……」
カドックはそう答えると、彼女の手を優しく引きながら歩く。
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「アンタ、よく言ったわ!偉いわよ、褒めてあげる!」
イシュタルはキャップに対して人類最後のマスターとして戦いから降りず、最後まで戦い抜くと宣言した藤丸を褒め称えた。彼女からこんなに褒められるのは藤丸としても悪い気はしない。イシュタルはどこか嬉しそうに微笑みながら言葉を続ける。
「いい?カルデアのマスターとして無理だけはしちゃするんじゃないわよ?でないと私が許さないんだから!」
「はい!これからもよろしくお願いします!」
イシュタルの言葉に元気よく返事した藤丸を見て、その場にいる一同は皆笑顔を浮かべるのだった。
「パーフェクトだよミスター藤丸!私もあの場でキャップに対する君の宣言を直に聞きたかったヨ」
ここ最近は精神的に不安定だったが、ようやくカルデアにいるサーヴァントのマスターとしての決意と覚悟を持った藤丸に戻ったのだ。これも全て並行世界のカルデアから来た立香のお陰だ。彼女がいなければ本当に藤丸は危うかった。同じ立場であり同じ境遇の並行世界から来た自分自身に救われるとは藤丸も思ってもみなかった事である。隣に座る立香は笑顔で藤丸を見つめている。そんな彼女を横目で見た後、視線を戻してから口を開いた。
「俺はこれからもカルデアのマスターとして皆と一緒に戦っていきたい。だから改めてみんなよろしく」
藤丸は集まったサーヴァント達に改めて宣言する。サーヴァント達はそれに拍手をして応えてくれた。
「カルデアのマスターはわたしと藤丸、そしてパニッシャーのおじ様の3人になったね!」
確かに藤丸、立香、パニッシャーを合わせれば計3名であり、現状のマスターはこの3人で間違いないだろう。
「あ~、そういえばわたしと契約してくれるサーヴァントはいるかな……?」
藤丸と同姓同名の同一人物とはいえ、サーヴァントたちからすれば性別も顔も異なる他人に過ぎない立香。そんな彼女と契約してくれるサーヴァントは果たしているのであろうか……?立香はサーヴァントたちの中に立つネロに視線を送る。ネロも立香の視線に気づいたようで、何やら笑みを浮かべている。
「ふむ、余の素晴らしさと強さに気付いたようだな新たなマスターよ!この場に数多くいるサーヴァント達の中から真っ先に余に視線を送るとは見所があるぞ!そなたのような者なら大歓迎だぞ!」
ネロは藤丸と契約しているサーヴァントであるが、新たに立香と契約する事に同意してくれたようだ。
「よろしくね、ネロ……。並行世界の自分のカルデアではあなたとよく一緒に戦っていたから」
藤丸のいるカルデアのネロは立香のカルデアにいたネロとは別人だし、彼女自身に立香に関する記憶はない。だがそれでも立香はネロと契約する事にした。
「うむ、よろしく頼むぞ!」
どうやら二人の契約が成立したらしい。早速二人は互いの手を握り合い、魔力的なパスを繋げているようだ。そんな二人の様子を藤丸とマシュは優しく見守る。そして藤丸とマシュは食堂を後にすると、二人で廊下を歩く。
「藤丸先輩がカルデアのマスターとして戦う決意を改めてしたのは私も驚きでした。その……ここ最近の先輩は精神的に色々と危うかったので……」
「うん……俺は皆に沢山迷惑かけちゃったからね」
「でもこれで一安心ですね!これからはまた先輩と肩を並べて戦えると思うと嬉しいです!」
マシュは本当に嬉しそうに笑顔を向けてくる。その眩しい笑顔に思わずドキッとしてしまう。彼女は心の底から自分の復活を喜んでくれているのだろう。そう考えると申し訳ない気持ちと同時に嬉しい気持ちで胸がいっぱいになる。彼女の笑顔が見れるのなら自分は満足だ。
「そういえば先輩」
「ん?何だいマシュ?」
「前々から気になっていたんですが、藤丸先輩はパニッシャーさんの事を"おじさん"って呼んでますよね?けどこの前のハロウィンの日に特異点で行動を共にしたエリザベートさんによると、モレーさんの手で先輩が二つに分離した際、先輩はパニッシャーさんを呼び捨てにしてました。エリザベートさんはその事が気になってたみたいで……」
「――――――――――え?」
マシュの言葉を聞いた藤丸は思わず呟く。
「マシュ、俺がおじさんを呼び捨てで呼ぶなんてあり得ないよ……?」
「??ですが先輩は妖精國で初めてパニッシャーさんと出会った際は名前を呼び捨てに……」
マシュの言葉を聞いて藤丸の瞳孔は大きくなったり小さくなったりする。それだけではない。額からは大粒の汗が流れ落ちていき、呼吸は浅く短くなっていく。心臓の音がやけに大きく聞こえる気がする。頭の中で何かが引っかかるのだ。
(違う……あの時確かに……いや……あれ……そもそも……何で……記憶が……?……おかしい……なんで……思い出せない……どうして……いつから……わからない……わからない……!?)
考えれば考えるほど頭の中が混乱していく。今まであったはずの記憶が失われていくような喪失感を感じる。自分の中の大切なものが零れ落ちようとしているような感覚。この感覚には覚えがある。忘れてはいけない事を忘れている。それを自覚しているのにどうしてもそれがなんなのかわからない。焦りだけが募っていく。
そんな時だった。不意に頭の中に声が響いてきたのである。その声は懐かしく聞き覚えのある声だった。
"俺にはお前の家族の仇を取ってやる事しかできない……。お前がこれからも生きていけるように……。だから……復讐に生きるなんて真似だけはするな"
その声を思い出した刹那、藤丸は床に倒れ込んだ。血相を変えて自分の身体を揺り起こすマシュの姿を最後に見ながらゆっくりと瞼と閉じていき、意識が遠のいていく。
サーヴァントって人理の守護者ではあるけど、マスターによっては人理を破壊する存在にもなり得るんですよねぇ(トラオムが良い例)