パニッシャーが人類最後のマスターと共に戦うようです 作:ドレッジキング
あれから二時間以上経過したが、一向に進展の様子を見せなかった。医務室ではベッドで寝ている藤丸の横でずっとストレンジが座禅状態で空中浮遊をしている。要するに彼の魔術による治療はまだまだ時間が掛かるのだろう。あのまま医務室にいてもよかったのだが、とりあえずパニッシャーはストレンジの魔術の腕を信じてノウム・カルデアの廊下を歩いていた。パニッシャーの隣にはガレスがおり、彼女はそわそわしながら歩き続けている。
「パニッシャー殿……、マスターは……藤丸殿は元に戻るのでしょうか?」
不安そうな顔でガレスは尋ねてきた。そんな彼女に対して、パニッシャーはこう答える。
「安心しろ。立香は必ず元に戻るさ」
パニッシャーの言葉にガレスの表情は明るくなる。今はとりあえずストレンジの魔術による治療の成功を祈るしかないだろう。しかし、あの魔術師の腕が確かならば、必ずや藤丸を元に戻せるはずだ。そう思いつつ、再び歩き始めた時、パニッシャーとガレスの前にサーヴァントが現れた。真紅の長い髪の毛に血のように赤いドレス。そして同じく真っ赤なヒールを履いた少女……バーヴァン・シーだ。彼女はパニッシャーの方を見てニヤニヤしている。正直あまり顔を合わせたくはない相手だ。
「俺の顔に何か付いているのか……?」
パニッシャーは不機嫌そうにバーヴァン・シーに対して言う。
「別にアンタの顔に何か付いているわけじゃないけどぉ……ちょっとね……」
バーヴァン・シーはそう言ってから舌なめずりをした。その様子を見て何となく嫌な予感がする。だが彼女の目的が分からない以上、こちらから何も仕掛けるつもりはない。
「貴方ってこの前のハロウィンの日に行った特異点で、特異点を作り上げた首謀者のモレーとかいう女をマッパに剥いて犬みたいに歩かせたんでしょ?性欲有り余った変態親父みたいな真似しちゃってさあ。この、エ・ロ・オ・ヤ・ジ♪……ウフフっ」
確かにバーヴァン・シーの言う通り、パニッシャーはモレーに対してそのような仕打ちをした。だが彼女は藤丸の中にある聖杯を利用して彼を"深淵の聖母"なる存在へと変えようとし、結果的に藤丸は山羊頭のバフォメットを思わせる怪物へと変貌させられたのだ。そんな所業をしておきながらいざ藤丸が制御不能で、しかも"深淵の聖母"でもない事を知るや、パニッシャーやエリザベートに対して協力を申し出てきた。そんな彼女の態度に激怒したパニッシャーはモレーを殺そうとするも、ナポレオンやモードレッドに止められる。だが腹の虫が収まらなかったパニッシャーはモレーの衣服を全て脱がした上で首輪を付け、犬のように四つん這いで歩かせた。それに関しては反論の余地はない。
「女を素っ裸にひん剥いて、挙句に首にリード付けて犬の真似とかどんなSMプレイだよ。ホント引くわ~」
そう言ってバーヴァン・シーは笑う。
「別にそれに対して反論はせん。だがモレーは立香を山羊の化物に変えた。本当は殺してやりたかったが、エリザベート達に止められたから仕方なくそうしただけだ」
「何言い訳してんだよ。マジキモいんだけど」
そう言うとバーヴァン・シーは舌を出してこちらを挑発してきた。そんな彼女の態度を見て苛ついたものの、ここで殴りかかってしまえばそれこそ大人気ないというものだ。自分は大人なのだという自覚を持って、何とか気持ちを落ち着かせる。一方のガレスは顔を赤くしながらパニッシャーの方を見ている。
「ぱ、パニッシャー殿……。本当にモレーという女性サーヴァントに対してそのような真似をしたのですか?」
「ああ、そうだ。俺の気が済むまで徹底的にな」
「じょ、女性に対してそういう事はしてはいけないと思います!」
モレーの所業を考えれば彼女を殺しても仕方なかったのだが、エリザベート達の説得でどうにか全裸に首輪で犬の真似をさせるという制裁に留めたのだ。その事をガレスに説明したものの、ガレスは顔を赤くしつつ、パニッシャーに注意する。
「いけません!女性の身体を辱めるなんて!」
円卓の騎士であった時から清廉潔白なガレスにとってみれば、パニッシャーがモレーにしている事は女性に対する性的な辱めなのだろう。潔癖で品行方正なガレスはこういう時に頭が固い。
「アイツは立香を怪物に変えたんだぞ?それを考えれば軽い罰の筈だ」
「ですが、いくらなんでもやり過ぎではないでしょうか……?女性の方に対してそういう行為をするのは、殿方として恥ずべき行為だと思います!」
そう言いつつ、ガレスは上目遣いでパニッシャーを見つめている。彼女の美しい青い瞳はキラキラと輝いており、パニッシャーのしている事を間違いだと訴えかけているように思えた。
「ならどうすればよかったんだ!?モレーの奴の頭を吹き飛ばしてやればよかったのか!?」
「そんな事は言ってません!……ただ、やり方というものが……」
そう言いつつも、ガレスは恥ずかしそうに頬を赤らめている。そして、パニッシャーから視線を外して俯いてしまった。
「……まあ、とにかく、もうこんな事はしない方が良いと思います。あながモレーに対してした事はただの性的暴行ですよ?いくら何でもやりすぎです」
「あれは俺なりにギリギリまで妥協した結果なんだ。それに、俺はアイツを殺さなかっただけまだマシだろ」
「こ、殺す殺さないの問題じゃありません!女性に対しては優しくしなくては駄目なんです!」
真面目な優等生気質のガレスはパニッシャーが行ったモレーに対する仕打ちを非難している。確かに女性相手にああいう真似は良くないというのは事実だが……。
「わ、私も同じ女性としてモレーに対する扱いはどうかと思います……。そりゃ彼女は敵でしたけど、捕虜の扱いには気を付けないといけませんよ……。あんな恥ずかしい真似をさせて……!」
ガレスは顔を赤くしながらモレーに対する行為を批判してくる。生真面目な彼女は騎士道精神を重んじているので、ああいう真似をする事に抵抗があるのだろう。そんなガレスの様子を見て、パニッシャーは思わず苦笑してしまう。
(やれやれ、こりゃ大した優等生だな……)
「アンタがモレーにした事は一部のサーヴァント達に知られてるわよ?ま、女性サーヴァント達からは暫く白い眼で見られるとは思うけど精々頑張りなさい」
そう言ってバーヴァン・シーは悠々とその場を後にした。パニッシャーとガレスは気まずい雰囲気の中食堂へと向かう。トレーを持って食堂の席に着いたパニッシャーは昼食を取ろうとした所をガウェインに声を掛けられた。案の定、モレーに対する仕打ちの件についてだ。
「聞きましたよ。貴方がハロウィンの日に向かった特異点で行った行為を……。ジャック・ド・モレーというサーヴァントに対して性的な辱めをさせたとか……」
ガウェインがやや険しい表情で話しかけてくる。仮にもカルデアのマスターとして活動しているのであればあのような仕打ちをするべきではないのだが、藤丸を怪物へと変えたモレーを許せないパニッシャーは彼女を殺さない代わりにあのような行為をしたのだ。殺さなければいいという問題でもないのだが……。
「お前の妹であるガレスにもさっき注意されたばかりなんだ。あんまり俺に文句を付けるな」
「そうはいきません。私としても妹のマスターである貴方には正しい行動を心がけて頂きたいのです」
そう言うとガウェインもパニッシャーの前に座り、話を続ける。
「貴方のやっている事は間違っている。例えどのような理由があろうとも、女性の尊厳を踏み躙るような真似はすべきではないでしょう?」
「妹が妹なら兄も兄か……。全くお前ら兄妹は揃いも揃って堅物な事だ」
仮にもカルデアのマスターとして活動をする以上、捕虜を辱めるような真似をすればカルデアの名に泥を塗る事になる。パニッシャーは藤丸であれば絶対にしないような所業をしているのだ。だからこそガレスとガウェインに注意されているのだが、当のパニッシャーは反省する素振りを見せない。
「まあ良いさ。俺は俺のやり方を貫くだけだ」
そう言ってパニッシャーは食事を取り始める。しかしその様子を見ていたガウェインは納得していないようで、相変わらず厳しい視線をパニッシャーに向けていた。
「……貴方は何故あのような事をするのですか?私には理解できませんね」
「別にお前に理解されて欲しくもないがな。それにあの行為に関しては後悔してないぜ?あの女が立香にした仕打ちを考えれば当然の報いだ。寧ろ殺さなかっただけ有情だろう」
「それはそうですが……。それでもやり方を考えた方が良いかと」
そう言った後、少し間を置いてから言葉を続けた。
「貴方は仮にもカルデアのマスターなのです。モラルに欠ける行動は慎んで頂かないと困りますね」
「……善処しよう」
その後ガウェインは自分の席に戻り食事を摂り始めたが、明らかに不満げな表情を浮かべていた。そんなガウェインの様子を見たパニッシャーは内心溜息をつく。
(ったく、どいつもこいつも真面目すぎる……)
不満気なパニッシャーの顔をガレスは横から覗き込みつつ声を掛けてきた。
「パニッシャー殿、ガウェイン兄様にも注意されたんですから今後は控えて下さいね?」
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カルデアのシミュレータールームの技術力には驚かされるばかりだ。X-MENの本拠地に存在するデンジャールームと似ており、部屋の内装を自由に変える事ができるようだ。環境のみならずこれまで戦ってきた敵生体を再現でき、それらと戦闘すらも行える。サーヴァントの中にはシミュレータールームで自分の居住地を作り上げ、そこで生活している者もいるという。パニッシャーは気分転換としてガレスと共にシミュレータールームへと入り、そこで彼女と戦闘訓練を行っていた。人間であるパニッシャーではサーヴァントの彼女には太刀打ちできないが、ガレスはある程度加減して戦ってくれている。
「パニッシャー殿、良い汗をかきましたね!」
そう言うと彼女はハンカチで額の汗を拭き取ってくれた。
「どうです?少しは気分が晴れましたか?」
「ああ、そうだな。ありがとう」
そう言って微笑むと彼女も笑顔を返してくれた。彼女の持つ天性の明るさと人懐っこさは自分にはないものだ。それがとても眩しく見えるし、羨ましくもある。ガレスは飲料水が入ったペットボトルをパニッシャーに投げ、彼はそれを受け取る。それを口に含むと水の中にレモンが入っている事に気付く。味も悪くない。
「身体を動かした後の飲み物は格別ですね!」
そう言いながら彼女も水を飲んでいた。
「そういえば周囲に人がいますね。ここは公園でしょうか?」
そんなガレスの言葉を聞いたパニッシャーは周囲を見渡す。確かに自分とガレスがいる場所は公園であり、園内には人が多くいる。これもシミュレータールームの技術で再現したものだろうか?そんな事を考えているとパニッシャーは自分の背中に冷や汗が流れるのを感じた。
「馬鹿な……ここは……」
そう、ただの公園であれば気にもしなかったであろう。だが周囲をよく見て重大な事実に気が付いた。ここはセントラルパークだ。シミュレータールームであればセントラルパークのデータは入っているのかもしれない。そう考えて心を落ち着かせようとする。余りにもあの日の光景に似ていたので、つい冷静さを欠いてしまった。そう思ってふと前方の家族連れに視線を向けると、自分の心臓が跳ね上がる音が聞こえた。
「あれは……俺とマリア……?それにリサとデビッドもいる……」
目の前でシートを敷いて弁当を食べている家族連れは間違いなく自分と妻、娘、息子だ。しかも服装から何まであの日のまま。
「何かの間違いだ……いや、夢に違いない……!」
そう言い聞かせて深呼吸をする。何故シミュレータールームに自分の家族のデータがあるのか。幾ら技術力が高くても妻や娘、息子のデータまで存在している筈がない。そもそもパニッシャーはカルデアに対して自分の家族の事など話してはいないのだ。いや、ダ・ヴィンチ、藤丸、マシュはパニッシャーの家族の事を知ってはいるが、だとしたら3人が教えたのだろうか?それにしてもシミュレータールームでこうして再現するなど悪趣味にも程がある。
そう思いつつも目に映る自分と自分の家族から目を離す事ができなかった。もう取り戻せない日常……家族との時間……そういった暖かなものを見るのは辛い。もしこれが過去の再現ならば自分は今、悪夢を見ているという事だ。早く目覚めてほしい。そう思いながら拳を強く握る。そんなパニッシャーの様子がおかしいと思ったのか、ガレスが声を掛けて来る。
「どうしましたパニッシャー殿?どこかお加減でも悪いのですか?」
ガレスはパニッシャーの横に立ち、彼の顔を覗き込む。目に見えて辛そうな表情を浮かべているのだから心配するのも当然だろう。パニッシャーは首を横に振りながら言う。
「何でもない」
すると彼女は表情を曇らせながら答える。
「何でもないなんて嘘は付かないでください……。貴方の顔を見れば普通じゃない事ぐらいわかります」どうやら彼女には全てお見通しのようだ。しかしこれは話すべきなのか迷う。だがパニッシャーは言う事にした。自分が動揺していた理由を説明する為に口を開く。
「俺の家族がいたんだ」
そう言って前方にいる自分と自分の家族がシートの上で昼食を食べている姿を指差す。
「あれは……パニッシャー殿?あそこにいる貴方と一緒におられる女性と子供二人はまさか……」
「そうだ、あれは俺の家族だ。今はもうこの世にはいないがな……」
そう言って顔を伏せるパニッシャー。妻であるマリア、娘のリサ、息子のデビッド。今は誰も生きていない。目の前にいる家族は所詮シミュレータールームで再現された虚像に過ぎない。しかし虚像というには余りにもリアルで生々しすぎる。これもカルデアの持つ技術なのだろうか。しかしながら自分がこのルーム内にいる事を知りつつ、死んだマリア達を目の前に投影するというのはどういう事なのか。これはスタッフに頼んで止めさせるべきだろう。これ以上幸せだった頃の自分を見ていても胸が抉られる思いをするだけだ。
「もうこれ以上死んだ家族の光景は見たくない……」
パニッシャーはそう思い、ムニエル等カルデアスタッフに対して自分と家族の虚像を消すように叫んだ。しかし目の前の自分と家族が消える気配は一向に無い。
「聞こえているのか?もう俺と俺の家族の偽物を出すのは止めてくれ!」
ガレスもパニッシャーの気持ちを察してか、目の前の再現体を消すようにスタッフに呼びかける。
「ムニエル殿!パニッシャー殿が辛そうにしておられます!聞こえているのなら今すぐシミュレーター内にあるパニッシャー殿の家族のデータを消去してください!」
しかしいくら呼びかけてもスタッフがシミュレーター内のデータを消してくれる様子はない。そうしている間にも虚像であるパニッシャーとその家族は運命の瞬間へと向かっていた。そう、この後マフィアの処刑現場を目撃し、口封じのために……。
「クソ!」
パニッシャーは駆け出し、自分と家族を救おうとする。所詮シミュレータールームで作り上げられた再現体に過ぎない家族を救う事に何の意味があるのか?それはパニッシャー自身も分からない。救った所で只の偽物、助けた所で家族を死ななかった事になどできない。それでも彼は走る。
「パニッシャー殿!」
ガレスも家族の再現体を追うパニッシャーの後を付いて行く。走れば間に合う。そう思っていたパニッシャーだが、残酷な現実が目の前に広がっていた。目の前でマフィア達の銃撃を受ける自分と家族の光景が目に飛び込んでくる。妻、娘、息子に容赦なくマフィアが放った凶弾の嵐が襲いかかり、彼らの身体を穿つ。血飛沫が飛び散り、そのまま地面に倒れ込んだ。娘のリサは激痛で顔を歪めながら地面をのたうち回り、妻のマリアは腹に銃弾を受けてそのまま絶命していた。そして息子のデビッドは口に銃弾が入り……。
「……」
パニッシャーは無言で自分の家族が死ぬ光景を目に焼き付けていた。あの日、あの時家族が死んだ運命の日を今再び目の当たりにしているのだ。マリアやリサ、デビッドが死んでいなければ今頃普通の家庭人としての人生を歩めていたかもしれない。だが今更そんな考えをしても意味は無い。再現体の自分が家族の亡骸を前に慟哭している。パニッシャーはその様子を無言で見つめていた。
「ぱ、パニッシャー殿……」
ガレスはパニッシャーの傍らに立ち、再現体の彼が家族の死に涙を流す光景を見る。
「……これが、俺の過去だ。これがあるから今の俺がある」
「ご家族の事は……本当に気の毒です」
ガレスは無表情だが、深い悲しみに暮れるパニッシャーを見て同情を禁じ得なかった。家族全員が死に、一人ぼっちになったからこそ今の自分がいる。アベンジャーズといった他のヒーローではまずやろうとしない犯罪者や悪に対する死の制裁を行使する自警団員となったのだ。不殺を信条とする他のヒーロー達から軽蔑され、殺人者と呼ばれようとも自分の意思を曲げなかった。法を犯す犯罪者に死の裁きを、弱者を踏みにじる悪には残酷なる死を。その信念を貫くために彼は犯罪者達を殺し続けた。パニッシャーの悪に対する容赦の欠片も無い姿勢はカルデアのサーヴァント達から眉を顰められる事もあるが、それでも彼が悪い人間ではない事は理解している者も多い。こうしてパニッシャーの悲劇的な過去を目の当たりにしたガレスもその一人だ。
「その……済みません。貴方の触れられたくない過去をこうして見てしまって」
「いいんだ。シミュレータールーム内にいるんだから、嫌でも目の当たりにしちまう」
「そうですね」
そう言うと二人は無言のまま暫くの間沈黙した。すると目の前にいた再現体のパニッシャーとその家族の死体が消え去り、代わりに女がいた。パニッシャーはその女の顔に見覚えがある。そう、ハロウィンの特異点で会った……
「こんにちは、お兄さん♪」
藤丸を自身が崇拝する"深淵の聖母"へと変えようとしたジャック・ド・モレーだ。白髪のベリーショートに黒縁の眼鏡、雪のように白い肌は忘れられない。
「え……か、彼女がハロウィンの日に向かった特異点で会ったモレーでしょうか……?」
ガレスは目の前に現れたモレーを見て顔を赤らめる。何せ目の前のモレーは首輪を付けてるだけで、他は一切衣服を着ていない全裸の状態だったからだ。雪原を思わせる白い柔肌を晒したモレーは笑顔で二人に挨拶をする。
「まさかまた会う事になるとは思わなかったぞ」
「それはこっちのセリフだよ♪まあ、アタシとしては嬉しいけどね」
モレーはそう言うとパニッシャーとガレスに近付いてくる。
「カルデアにサーヴァントとして召喚された……ってわけじゃなさそうだな。シミュレータールームの再現体か」
「せいかーい。けどキミとの記憶自体は保持してるんだよねー。つまりアタシと君は顔見知りって事さ」
モレーの言葉にパニッシャーは何も答えない。
「……というより何故服を着ていない?霊衣なりを纏えばいいだろう」
「キミが特異点でアタシをマッパにひん剥いて、そんで首輪付けて犬みたいに歩かせたんじゃないか。あれ以来ずっとこの姿なんだよ?」
どうやらあの時の事を根に持っているらしい。そしてモレーはガレスの方を向いて、彼女に対して自分がパニッシャーから酷い仕打ちを受けた事を告げる。ウキウキしながらガレスに話しかけているので、彼女は若干引き気味だったが。
「聞いて聞いて。 アタシはキミの隣にいる怖いおじさんに酷い事されたんだよ?こんなスッパ状態でこうして犬みたいに歩かされて……」
そう言ってモレーは四つん這いになり、そのまま地面を歩いてみせた。そんなモレーにガレスは慌てて彼女に駆け寄る。
「わ、分かりました!もう十分ですから、服を着ましょう!」
「そんな目に遭った根本の原因は自分自身にあるって事を理解しろ!」
モレーの舐め腐った態度を見たパニッシャーは声を荒げる。それに対してモレーは笑顔のまま返す。
「はーいはい、分かったよ。けどキミがアタシにこんな真似をしたっていう事実は変わらないからね?」
モレーはパニッシャーを挑発しつつ、地面に寝そべりながら犬が飼い主に服従する際に見せるポーズである腹見せを行う。
「ほら、お腹出してるよ~?撫でてみない?」
まるで飼い犬のような振る舞いをするモレーに対し、パニッシャーは静かに怒りを募らせる。しかしここで感情的になっても意味はない為、冷静さを保つ。
「なんならチンチンもする?私は女だけどね」
「い、いい加減にしてください!破廉恥な……!」
顔を真っ赤にして叫ぶガレス。だがそんな彼女にモレーは笑いながら言う。
「あはははっ、冗談だってば。けどこうして服を脱いで、おっぱいとかアソコをキミたちに見せてる時点で説得力なんてないけどねー」
このシミュレータールームでは不可思議な現象が少なくないとはいえ、何故よりにもよってモレーの再現体を出してくるのだろうか?という以前にパニッシャーがモレーを全裸にして犬のような真似をさせたという記録まで保存してあるとは思いもしなかったが。そんなパニッシャーの思惑をよそに、モレーは犬がやるチンチンのポーズをしている。ガレスは彼女の痴態行為に顔を赤らめて目を背けている。
「ん?何?もっと見たいって?じゃあ特別サービスだよ」
「も、もうやめてください!」
ガレスはモレーに駆け寄ると彼女を制止する。流石にこれ以上の痴態行為をさせるわけにはいかないからだ。しかしそんなガレスに対してモレーはニヤニヤしながらこう告げる。
「アタシはそこのおじさんのせいで目覚めちゃったんだよねー。開発されたっていうかさ……」
「誰がお前なんかを好き好んで開発するか!この変態女が!」
「えー?そんな事言って良いのかな~?」
本気で言っているのか、冗談で言っているのか分からないがモレーは飄々とした態度で言う。それに対してパニッシャーは苛立ちを覚えるが、何とか我慢する。一方でモレーは相変わらず全裸のまま、四つん這いになって地面を舐めるように顔を近付けている。これ以上見ていると不快感が増していく一方なので、やむを得ずパニッシャーは懐から銃を取り出してモレーの再現体を射殺しようとする。が、そこで唐突に景色が切り替わった。それと同時にモレーの再現体が跡形もなく消失した。
「こ、今度は何が起きたのでしょうか……?また変な場所に飛ばされてしまいましたね」
パニッシャーは周囲に視線を巡らせる。変な場所に飛ばされたのではなく、景色が変わっただけだ。辺りは先程の公園とは打って変わって都市部によくあるビル街だ。ニューヨークの街並みと似ているがどこかおかしかった。パニッシャーのよく知るニューヨークとは何かが違うのだ。具体的に言うと、人の気配が全くしないのである。先程から人の姿を全く見かけないのだ。しかも道路には放置された車が多く、まるで事故が起こった後のようだった。
「……何だか様子がおかしいですね」
ガレスは周囲の異常さに不安そうな表情を浮かべながら告げた。そんな彼女の心配をよそに、パニッシャーは目の前に広がる街がどこなのかをようやく思い出せた。
「……まさかここは!?」
忘れもしない、自分が宿敵ジグソウを追ってこの街まで来た事がある。そう、ここは……。が、ふと背後から狂気的な笑い声が聞こえてきた。普通の人間がこの笑い声を聞けば狂人の哄笑に聞こえてしまうだろう。突然の笑い声に振り返るとそこには顔にピエロのメイクをした紫色のスーツ姿の道化師が立っていた。
「おいおい、奇遇だな。こんな場所で会うなんてよ」
そう言って道化師の男はニヤニヤとした笑みを浮かべる。口が裂けたようなメイクを施したこの男の不愉快な言動を見てこの街に来た時の記憶を思い出す。
「なんだピエロ野郎。俺に殺されて欲しいから目の前に現れたのか?まぁ、そうやって笑うだけの人生じゃ飽きも来るだろうよ」
挑発するように告げると道化師の男は癇に障ったように表情を険しくする。
「てめえこそ、そんなチンケな銃をぶっ放すだけの人生じゃあ物足りねえだろ。起伏が無いっつーか、外連味も無えじゃねえか。つまらねぇ人生だよなぁ?」
ガレスは悪趣味を極めたような道化師の男を見て不安そうにしている。
「ぱ、パニッシャー殿……この方とお知り合いなんでしょうか?」
尋ねられたパニッシャーは少し考える素振りを見せた後、答える。
「いや、知らない男だ」
その返答を聞いた道化師の男は腹を抱えて大笑いする。
「ヒィ~ハハハハハ!!!オレを殺意満々で殺そうとした男がそれを言うのかよ!!こうして会ってやったオレを初対面扱いとかお前も中々良いジョークが言えるじゃねぇか」
道化師の男の態度に苛立ちを覚えながらもパニッシャーは再び尋ねる。
「何故ここにいるんだ、ピエロ野郎。お友達の蝙蝠野郎は一緒じゃねえのか?お前はアイツとセットでいつも遊んでいるんだろう?」
すると道化師の男はわざとらしく首を傾げる。
「別にオレはアイツとコンビ組んでいるわけでもねえよ。あぁ、ハーレイの奴なら近くにいるかもな」
シミュレータールームが普通でない事はパニッシャーも知っていたが、まさか自分が戦った目の前の道化師のデータまで存在しているとは思わなかった。そもそも道化師と戦った事などカルデアには伝えていないし、藤丸やダ・ヴィンチに話してさえいない。まるでこのシミュレータールームは自分の過去の記憶を読んでいるかのように見える。
「所詮お前はこのシミュレータールームで作り上げられた偽物だ。もう少しクオリティを上げてから出直してこい」
そう言うと道化師の男はゲラゲラと笑う。いつ聞いても不愉快極まりない笑い声だ。精神衛生上、この上ない被害を受けてしまうのでやむを得ず懐から拳銃を素早く取り出すと、道化師の男を射殺しようとする。が、世界はまたしても変化していく。目の前の道化師の男は砂のように崩れ去り、周囲のビル群も粘土のように歪んでいく。今度は何が来ても驚かない。そう腹を括ったパニッシャーは次に何が来るのかを待つ。そして再び視界が開けた時、パニッシャーは部屋の中に立っていた。
「ここは……俺の住んでいた家……?」
そう、自分とマリア、リサ、デビッドがかつて住んでいた家の部屋だった。見間違えるはずがない、忘れる筈がない。あの日セントラルパークでマリア達が死に、パニッシャーとして活動して以降、家族との想い出が詰まったこの家は生き残った自分を口封じしようとしたマフィアの手によって爆破された筈だ。なのに何故……?パニッシャーがそう思っていると、扉が開いて中に人が入って来る。
「おはようパパ。朝ごはんが出来たからリビングに来て」
部屋の中に入って来た少年を見てパニッシャーは愕然とする。目の前にいるのはティーンに成長した息子のデビッドである。セントラルパークで死んだ時はまだ5歳だった。だが目の前の少年は……間違いなくデビッドだ。あの幼い息子が成長すればこうなるのか。パニッシャーは目の前にいる成長した息子の顔をじっと見つめていた。
「どうしたんだいパパ?さっきから僕の顔をじっと見て……?」
不思議そうにする息子に対して、パニッシャーは言葉を発する事が出来なかった。セントラルパークで死んだ息子が成長すればこういう風になるのか。もう二度と見る事のない自分の子供の成長した姿……。セントラルパークで家族全員を殺され、歩む筈だった未来を永遠に断たれたパニッシャーにとって、目の前にいる息子は歩む筈だった未来そのものだ。
「パパ……?泣いてるの……?」
そう言われて初めて気づいた。自分は泣いているのだ。自分でも気付かないうちに涙を流していたのだ。今ここに生きているデビッドが自分にどんな言葉を掛けてくれるのか?それはわからない。だが、それでもいい。今はただ、この子を抱きしめたい。そう思ったパニッシャーはデビッドを抱き寄せた。
「え?目覚めのハグなんてしてどうしたの?僕はもう十代だよ……?」
戸惑うデビッドに対し、パニッシャーは静かに口を開いた。
「……いいんだ。父親として息子をこうして抱くのは当たり前だろう?」
その言葉にデビッドは納得したかのように自分もパニッシャーの身体を抱く。シミュレータールーム内で造られた再現体だと理解していても、こうして息子を抱いているという事実が嬉しかった。
「リビングに行こう。ママとリサが待ってる」
「あぁ……」
パニッシャーはデビッドに手を引かれてリビングへと向かった。
今回登場した道化師の男は説明不要のあのキャラです。