パニッシャーが人類最後のマスターと共に戦うようです 作:ドレッジキング
リビングにある食卓には妻であるマリアとリサが座っていた。既にテーブルの上には料理が並べられており、湯気が立ち上っていた。
「あら、おはようあなた」
そう言ってマリアは微笑んだ。あの日、セントラルパークで死んだマリアが自分の目の前にいる。たとえシミュレータールームが作り出した虚像だと分かっていても、今のパニッシャーには彼女の笑顔は堪える。あの時マフィアの処刑現場を目撃さえしていなければ、今もこうして妻や娘、息子と一緒に暮らしていたのだから……。パニッシャーは挨拶するマリアに微笑みかけると椅子に座る。家族団欒の時間、本来なら幸せなひとときなのだろう。だが自分の周囲にいるマリア達は虚像なのだ。その事を頭の中で分かっていても、心が痛む事に変わりはない。娘であるリサは妻であるマリアの特徴を受け継いでいた。
金髪のサラっとした髪の毛を後ろにまとめている。今目の前にいるのはティーンとなったリサだ。娘と息子が成長した姿を見せられ、拒絶する事ができずにいるパニッシャー。本来であれば一緒に過ごしていく筈だった。本当であれば先に死ぬのは父である自分の筈だった。だがあの日、セントラルパークのピクニックで全てが変わった。あの運命の日からパニッシャーが生まれたと言って良い。
(俺の目の前にいるマリアもリサもデビッドも……シミュレータールームが作り出した幻だ……。だが……だが……)
頭では理解できていても、心は受け入れない。そして、そんなパニッシャーの心情など知らないと言わんばかりに、目の前のマリアはパニッシャーの隣に座り、身体を密着させてきた。まるで恋人同士のような距離感で接してくるマリア。
「あなた……なんだかもうずっと会っていなかったような気がするわ……」
マリアの言葉はパニッシャーの心を抉った。妻の表情を見る度に、娘の姿を見る度に、息子の声を聞く度に、自分の家族が奪われた日の光景を思い出す。あの時からパニッシャーの時間は止まっている。なのに何故成長したリサとデビッドがこうして現れてくるのか。
「マリア……」
パニッシャーはそっとマリアを抱き寄せ、彼女はそれを拒む事なく受け入れる。その光景を見て、デビットは思わず言葉を漏らす。
「僕やリサがいるんだから……」
デビットの顔は赤くなっており、どこか居心地悪そうに見えた。娘のリサもマリアとパニッシャーの抱擁に若干呆れ顔だ。
「パパとママってば……本当にしょうがないんだから」
そうしてパニッシャーはマリアが作った朝食を食べ始めた。こうして家族一緒に食事ができる日が来るとは思ってもみなかったが、愛する妻と娘、そして息子がそばにいるだけで、パニッシャーの心は満たされる。一方、デビットの方は複雑な表情を浮かべながらパニッシャーの隣の席に座った。
「どうした?」
「いや、なんでもないよ」
デビットの表情に違和感を覚えつつ、パニッシャーは食事を楽しむ事にした。今は何も考えずに食事を楽しみたい。そう思い、パニッシャーは目の前にある肉料理を頬張る。
「パパ、食い意地張りすぎじゃない?」
「うるさい」
そんな父と娘のやりとりを見て微笑むマリア。幸せな時間だ。こんな時間がいつまでも続いてくれていたら――――――。
――――――パニッシャー殿……!
「ガレス……!?」
突如頭の中に声が響いてきた。自分と契約したサーヴァントであるガレスの声だ。そう、自分は今彼女と一緒にこのシミュレータールームの中にいるのだ。ガレスの言葉がなければこのままマリア達と過ごしていたかもしれない。しかもガレスの声はどこか切羽詰まっている様子だ。自分と契約したサーヴァントの事を思い出したパニッシャーは椅子から立ち上がると、家の出入り口に向かって歩いていく。そんな彼の行動に驚いたマリア、リサ、デビッドは慌ててパニッシャーを止めるべく、彼の前を塞いだ。
「あなた……お願いだからここにいて。私たちが暮らすこの家に……」
「そうだよ!パパは僕たちと一緒にずっとここで暮らせばいいんだ!」
「そうよ!私たち家族4人は共に暮らしていくべきよ!」
マリア、デビッド、リサの3人はパニッシャーを引き留めようとする。3人の表情からは必死さが伝わってくる。しかし、それでもパニッシャーの意思は変わらない。彼は静かに首を横に振ると、家族に向けてこう告げる。
「俺は、行かなければならない」
それを聞いた途端、マリア達の表情に影が差す。特にデビッドは目に涙を溜めながら俯いていた。その様子を見たパニッシャーの胸中が罪悪感で一杯になる。だが、彼にはどうしてもやらなければならない事があるのだ。
「あなた……」
「パパぁ……」
後ろ髪を引っ張られる思いのパニッシャーだが、心を押し殺して出て行こうとする。が、その時デビッドがパニッシャーの背中に抱き着いてきた。
「……生きたかった。僕もリサもママも……パパと一緒に生きたかった」
――――――"生きたかった"。
その一言がパニッシャーの心に重く圧し掛かる。たった一人生き残った自分。妻も娘も息子も死に、たった一人生き残った自分。もう既に死んでいる息子の虚像が言った"生きたかった"という言葉。家族と共に過ごす時間は永遠に失われ、この世にいないマリア、リサ、デビッドの意思を知る術などパニッシャーにはない。シミュレータールームで造られた虚像に過ぎなくても、見た目だけでなく性格も中身も何もかもがパニッシャーの愛する家族そのものだ。
「パパ……お願いだから行かないで……」
涙を流しながら父であるパニッシャー……フランク・キャッスルを引き留めようとするデビッド。彼の悲痛な叫びを聞いた瞬間、パニッシャーの心の中にある想いが爆ぜる。
――――――俺には、行くべきところがある。それは、俺の生きる意味であり、俺が為すべき事だ。
その言葉を聞いたデビッドはパニッシャーの身体から離れる。マリアとリサは涙を流しつつ家から出ていくパニッシャーを静かに見送った。家から遠ざかっていくパニッシャーは決して振り返らなかった。いや、振り返る事ができなかった。何故なら、今の自分は泣いているからだ。泣くまいと決めていたのに泣いてしまった事で、今まで我慢していたものが溢れ出てしまったのだ。力強く歩み、家から離れるパニッシャー。暫くすると道路の向こうからガレスが駆け寄ってくるのが見えた。その表情には不安の色が浮かんでいるように見える。それを見たパニッシャーは安心させようとするのだが、上手く言葉が出てこない。代わりに、ぎこちない笑顔を彼女に向けるのだった。
「パニッシャー殿!ご無事でしたか!」
彼女はそう言いながら、パニッシャーの傍に来た。
「ガレスか……俺は大丈夫だ」
自分は大丈夫だというパニッシャーであるが、ガレスはパニッシャーの目から零れる涙に気付いた。そして、心配そうな表情を浮かべてパニッシャーを見上げる。
「本当に大丈夫ですか?」
そう言われたパニッシャーは思わず目を逸らす。しかし、ガレスはパニッシャーの手を優しく握った。
「何かお辛い事がございましたら、遠慮なく私めにお申し付けください。ガレスめは、貴方のサーヴァントですから」
そう告げるガレスの表情はとても優しい。そんな彼女の顔を見たパニッシャーは静かに頷いた。
「すまん、ガレス」
しかしながらこのシミュレータールームにおいて何故死んだパニッシャーの家族の虚像が出てきたのかという謎が残されていた。パニッシャーの家族のデータなど記録されている筈がないというのに。しかも先程会ったデビッドとリサは成長した姿だった。不可思議な事象が起きるのが珍しくないノウム・カルデアのシミュレーターであるが、明らかに今の状況は異常だ。パニッシャーがそう思っていると、急に怖気が走る感覚を覚えた。それはガレスも同じであったようで、険しい表情を浮かべる。その瞬間、二人の目の前に黒い靄のようなものが現れたかと思うと徐々に人の形を成していく。
「全く……せっかく死んだ家族を再現してやったというのにそれを振り払うか。妾の見込み違いだったようだな……」
古風な言葉遣いの声が聞こえてきたかと思うと、ソレはパニッシャーとガレスの前に姿を現した。目の前に現れたのは妖艶な美女だった。思わずゾっとするような色香は人間的な美しさではない。魔性の美しさというものだろう。
「……お前はまさか」
そう、直接姿を見た事はないものの、アベンジャーズが何度か戦った事のあるスーパーヴィラン……。それが今、パニッシャーとガレスの目の前にいるのだ。
「冥途の土産に名乗っておこうか。妾の名は"モーガン・ル・フェイ"。覚えておくがいい」
出しちゃったよ……(^_^;) マーベルのモルガンってドゥームの師匠なんよね。ダークアベンジャーズアッセンブルの邦訳版でモルガンは登場しているから、口調も再現できて嬉しい。