パニッシャーが人類最後のマスターと共に戦うようです 作:ドレッジキング
「ほぅ……こうして相まみえるのは初めてだな。モルガンめ」
それに対してモルガンも鋭い眼光を放つ。カルデアに召喚されているモルガンはあくまでも異聞帯のモルガンであり、汎人類史ではない。しかし目の前にいるモーガンは汎人類史とも異聞帯とも異なる世界から来た。便宜上名前を"モーガン"としているだけで、本来はモルガン・ル・フェイと呼ばれるべき存在である。
「ブリテン異聞帯……妖精國の女王であった貴様がカルデアという汎人類史の組織の軍門に下るとはな。サーヴァントというのは実に哀れよ、仕える主人を選べず、ただその役目を全うするだけの存在として現界しなくてはならないのだから」
「……ふん、所詮はその程度の思考しか出来ないのでしょう。あなたのその短絡的な思想こそ哀れなもの」
モーガンとモルガン。二人の視線がぶつかり合う。両者の間の空間は歪んでいるようにも見え、周囲にはピリピリとした空気が漂っている。ガレスとパニッシャーは二人の睨み合いを黙って見ている事しかできなかった。
妖艶で女の色香をこれでもかと凝縮させ、魔的なまでの美貌を持つのがモーガンであるならば、モルガンは冷徹で冷血、非人間的なまでの冷たさを持つ雪の妖精を思わせる美女である。
「妖精國で無様な最期を遂げた貴様が、使い魔に成り下がった挙句に人間のマスターにこき使われる……実に滑稽ではないか?」
思わずゾっとするような笑みを浮かべながらモルガンを嘲笑する。一方のモルガンは全く表情を変えずに冷たい視線を送り続けているだけだ。
「サーヴァントのなんたるかも理解できないあなたには到底考えが及ばないでしょうから説明はしません。……これからあなたは死ぬのですから」
そう言うとモルガンの右手には彼女の得物が握られていた。長大な槍状の杖である。そしてその杖……否、無造作に槍を振るう。すると彼女の背後から漆黒の津波が押し寄せてきた。津波はモーガンに襲い掛かり飲み込もうとするが、モーガンに従う複数の使い魔たちが彼女の前に立ち、盾となって迫りくる津波を防いだ。
「やるではないかモルガンよ。そうこなくては面白くない」
モーガンは両手に強力な魔力を集中させ、モルガンに放出する。モルガンはパニッシャーとガレスの前に立ち、二人を守るようにしてモーガンの放った魔力ビームを防御していた。
「パニッシャー殿……!」
ガレスは地面にへたり込んだままのパニッシャーに駆け寄る。モーガンによって虚像の妻子が惨殺されたショックが抜け切れていないようだ。
「お辛いでしょうが今は耐えてください……!この場を乗り切る為にもまずは態勢を立て直さねば!」
モルガンに視線を向けたまま叫ぶガレスだが、当のパニッシャーはまるで聞いていないかのように微動だにしない。そんな様子の彼を見たガレスはパニッシャーの身体を揺さぶる。
「しっかりしてください!今の貴方はカルデアのマスターなんです!こんな所で立ち止まっている場合じゃないんです!!」
パニッシャーの反応はない。まるで魂が抜けたように放心しているのである。その時、ようやく彼は口を開いた。
「……死んだ……俺の家族が……」
虚ろな目で独り言の様に呟いていた。そしてそんな二人を後目にモルガンは目の前にいるモーガンに対して魔術を発動した。モルガンの周囲に複数の剣が浮かび上がり、彼女の腹にできたワープゲートのようなものに吸い込まれたかと思うと、突如として10メートル先にいるモーガンの腹を突き破り、先程の剣が飛び出してきたではないか。赤い鮮血と臓物をぶち撒けながら倒れ込むモーガンは何が起きたのか理解できていない様子だった。傍目からも致命傷であり命は助からないだろう。しかしその時モーガンの身体は突如として消え去ってしまう。先程パニッシャーがモーガンの頭を銃弾で撃ち抜いた際も同様の事が起きた。そう、モーガンの本体は過去に存在するので目の前にいる彼女を何度殺したところで意味などない。直ぐに新しいモーガンの分身が来る筈だ。モルガンは周囲を警戒しつつ、地面に膝を付いて戦意喪失しているパニッシャーの前に立つ。
「モルガン陛下……?」
ガレスはパニッシャーを見下ろすモルガンの冷たい目を見て不安に襲われる。
「……いつまでそうしているつもりですか?」
パニッシャーに対して言葉をかけるモルガンだが、対するパニッシャーは全く反応していない。そんな彼に対してモルガンは平手打ちをかました。パンッ!という乾いた音がシミュレータールームに響く。流石のパニッシャーもこれには驚いたようで、自分の頬を打ったモルガンを見上げた。
「今は嘆いている時ではない筈です。貴方は我が夫を……藤丸立香を助けたいのでしょう?」
モルガンの言葉にパニッシャーはハッとする。そうだ、いつまでも悲しんでいては何も始まらないのだ。モルガンの気つけの一発は効いたらしく、打たれた右頬がヒリヒリする。
「お前の平手打ちは案外強いんだな」
皮肉交じりに言うパニッシャーにモルガンはクスリと笑い返す。そして地面に両膝を付いているパニッシャーに対して右手を差し伸べる。
「立ちなさい。奴はまた来るのでしょう?なら貴方も戦うべきです」
モルガンの言葉にパニッシャーは頷き、彼女の手を取る。そして自分の足で立ち上がり、再度モルガンと向き合う。
「助かったぜ。アンタの平手打ちがなけりゃ俺は腑抜けたままだった」
「礼には及びません。それに……」
彼女はそう言って視線を移す。そこには先程臓物を裂かれて死亡した筈のモーガンが何事も無かったかのように立っているではないか。殺しても殺してもその度に過去から分身を送り込んでくるのでは堂々巡りが続いてしまう。
「……何か策はあるのか?奴を殺し続けた所で本体が無事なら結局は意味がないぞ?」
「そんな事は分かっています」
モルガンはそう言ってモーガンを睨む。過去にいる本体から送られる分身を何体倒した所で徒労に終わる。ならば過去に跳んで直接モーガンの本体を叩くしかない。しかしながら過去とはいってもカルデアの存在している世界の過去ではない。モーガンがいるのはアベンジャーズがいる世界の過去だ。異なる世界の過去から異なる世界の現在に分身を送るなどモルガンでも不可能だろう。何しろ並行世界の移動と時間軸の移動を同時に行っているのだから。
(モルガン、お前は確かレイシフトができるんだったな?モーガンのいる過去にレイシフトして直接奴の本体をブチ殺す事はできるか?)
(……奴は元々あなたの世界の存在なのでしょう?レイシフトでは別世界間の移動はできません)
そもそもアベンジャーズのいた世界とカルデアの存在しているこの世界は並行世界かどうかさえ怪しい。並行世界というよりは"別世界"、"異世界"と表現する方が正しいように思える。
「パニッシャーよ、貴様の隣にいるモルガンは貴様自身が最も嫌う"悪"そのものの存在だ。妖精國を2000年以上にも渡り支配した冬の女王。そやつがしてきた事を理解していないお前ではあるまい?」
確かに生前のモルガンは悪の女王だったかもしれない。だが汎人類史を取り戻すべく戦い続けるカルデアに召喚された以上、彼女が同じ過ちを繰り返すとは思えないのだ。今もモルガンはカルデアの為……いや、マスターである藤丸立香の為に戦っている。
「悪党と見るや問答無用で撃ち殺してきた貴様とは思えんなパニッシャー」
「ゴチャゴチャと御託を並べて優位に立ったつもりか?一つ良い事を教えといてやる、俺の目の前にいる貴様こそ真っ先に殺さなきゃいけない"悪"だってな!!」
パニッシャーは電光石火の速さでホルスターの銃を抜き、モーガンに発砲する。が、放たれた銃弾はモーガンの身体をすり抜けていく。実体の無い幻だ。モーガンとて数多の魔術を用いる魔女だ。この程度の事は造作もない。そして大きな木の陰からモーガンが現れ、手から複数の雷撃を放つ。が、真っ先に気付いたガレスがパニッシャーを雷撃から守る。ガレスが宝具を展開する間も無く電撃を受けた事で一瞬怯んだ隙を突き、再度モーガンが雷撃を打ち込もうとする。が、自分の頭上から迫りくるモノに気付き、上を見上げた。そこには巨大な槍の穂先が迫ってきており、避ける間も無くモーガンは叩き潰される。モーガンのいた場所は派手に爆発し、クレーターができあがる。これはモルガンの用いた技だ。彼女の持つ槍状の杖による攻撃であり、彼女の魔術によって巨大な槍の一撃を敵に叩き込める。だが何度殺してもモーガンの本体を殺さなければ意味などない。
「どうするモルガン?これじゃ埒が明かないぞ……?」
「いいえ、まだ手はあります」
モルガンの言葉を信じる他はなかった。彼女とて神域の天才と呼ばれた楽園の妖精である。モーガンの本体を叩く方法を見つけ出してくれる筈だ。そう思っている内に前方にまたモーガンが現れる。
「大したものではないかモルガンよ。二度も妾を殺すとはな」
モーガンの顔からは余裕の笑みは消えていない。殺されるのは所詮自分の分身だから、何度やられようと平気だとでもいうのだろうか……?
「だが貴様は今の自分の立場を後悔するだろう。"サーヴァント"という存在である事がどういう意味なのかを思い知らせてやる」
凶悪な笑みを浮かべたモーガンを見てモルガンとガレスは警戒を強める。
「退去せよ」
そうモーガンが言った瞬間、ガレスとモルガンの身体が光に包まれる。サーヴァントというのは役割を追えれば座に退去する事になるのだが、今はそんな状況ではない。ガレスは慌てふためき、モルガンも表情には出さないものの僅かに動揺している。
「はわわ……!?た、退去していきます!?」
「く……!」
だが二人はどうにか退去せずに踏みとどまる。どうやらギリギリまで踏ん張ってみせたようだ。
「ほう?今ので退去しないとは大したものだ」
恐るべきはモーガンである。サーヴァントである二人の性質を利用して強制的に現世から退去させようとしてきたのだ。英霊を座に退去させられる魔術まで編み出しているのを考えれば、モルガンに二度も殺されて尚余裕の表情が消えなかったのにも納得がいく。
「どれだけ耐えられるのか見物だな。さぁ、退去するがいい!」
が、モーガンは更なる退去をガレスとモルガンに強制してくる。
「……くっ!」
「……っ!」
二人はどうにか現世に踏みとどまり、退去する事は免れたがかなりの魔力を消耗してしまったらしく、地面に膝を付く。その姿を見て満足そうに微笑むモーガン。
「サーヴァントとはあくまでも使い魔の範疇に過ぎない。故にその性質を利用してやるまで」
サーヴァントという規格に収められた今のモルガンでは強制退去に抗うのが精一杯であったようだ。ガレスもまたかなり辛そうだ。あの様子ではすぐに消滅してしまう事はないだろうが時間の問題だろう。
「せっかくだ。貴様等に妾が用意したとっておきの秘密兵器を見せてやろう。特にモルガンよ、貴様にはよく馴染みのある顔だ」
モーガンが手を振るうと、彼女の隣に魔法陣が現れそこに光に包まれたモノが現れる。新たな彼女の使い魔であろうか?どうやら獣人であるようだが……。が、モーガンが召喚したソレを見たモルガンの表情は強張る。
「見るがいい、これこそが妾が滅びゆく妖精國で拾い上げた掘り出し物だ」
魔法陣の上に召喚された獣人はゆっくりと立ち上がる。ゆうに3メートルはあろうかというその獣人は瞳孔の無い瞳でこちらをじっと見つめていた。
「貴様……」
モルガンは獣人を召喚したモーガンを鋭い眼光で睨みつける。そんなモルガンの視線が面白いらしく、モーガンは愉快そうに笑っていた。
せっかくこうして再会できたのだからもっと喜ぶべきであろう?貴様にとっての忠臣だったのだからな。――――この亜鈴百種・排熱大公が」
――――亜鈴百種・排熱大公
狼の妖精である彼は妖精國において牙の氏族の族長であり、モルガン配下の中でも随一の忠臣であった男だ。
「ウッドワス……!」
モルガンはモーガンの隣に立つウッドワスに視線を移す。表情こそ無表情だが傍目から見れば動揺している事は明らかだった。
「さて、このウッドワスは今では妾の忠実なる僕。貴様等を八つ裂きに引き裂いてやる事もできるのだぞ?」
モーガンは妖艶な笑みを浮かべつつ、パニッシャー、ガレス、モルガンを挑発してくる。
「……ちっ、思った以上に不味い状況だな」
モーガンも言っていましたけど、モルガンって普通にパニッシャーからすれば悪になるんですかね……?典型的なヴィランとかの類でこそないけど、妖精國を統治していた時代の彼女だと普通にアウトな気が。けどあの世界の妖精の気質を考えると……。
モルママの気つけのビンタは結構痛そう……( ̄▽ ̄;)