パニッシャーが人類最後のマスターと共に戦うようです 作:ドレッジキング
ジャンヌ、マルタの二人と行った初めての特異点修正は実に時間が掛かった。何しろ最初に聖杯を手にした囚人が別の囚人に聖杯を強奪され、その囚人も仲間の囚人に奪い取られ、その囚人は遠くまで逃亡しようやく追いついて聖杯を回収できた。力をもたらす聖杯に目がくらみ壮絶な奪い合いになるとは流石犯罪者の集まりである。だがそのせいで聖杯の回収にトンでもなく時間を費やす羽目になった。レイシフトから帰還したパニッシャー、ジャンヌ、マルタはコフィンを開けて彷徨海の管制室に出て来る。マルタはまだ刑務所で囚人を虐殺したパニッシャーを睨んでいた。過激な手段、暴力的な方法を用いるとはいっても協力してくれた囚人や無抵抗な囚人、逃げている囚人まで平等に射殺していたのでは悪印象になるだろう。
「……」
「何だ?俺の顔になにか付いているのか?」
視線に気付いたのか振り向く事なく答える。聖女として歴史に名を残したマルタだからこそパニッシャーの行動を許せなかったのだろう。罪人は殺せばいい的なパニッシャーの考えは彼女からすれば到底容認できるものではないのだから。この態度に怒ったのか今度は逆に視線を合わして言った。
「あなたねぇ!確かにあいつらは酷い奴等だったけど無闇に殺す事はないでしょ!?少しは加減とか考えられない訳!?」
怒るマルタとは正反対な態度を取るように肩をすくめる。管制室にいたダ・ヴィンチとマシュは帰還早々パニッシャーに怒鳴り声を上げるマルタに驚く。
カルデアからの通信が長時間途絶していた為、何故マルタがパニッシャーに怒っているのか分からなかったが、パニッシャーの性格を考えれば予想がついた。おまけに向かった特異点の発生源は凶悪犯罪者ばかりを収容した悪名高いサンクエンティン刑務所。この要素さえあればパニッシャーが何をしたのかは明白だ。流石に詳しい事はダ・ヴィンチもマシュも知らないが、マルタの怒り具合から見て相当な事をしたのだろう。
「ま、マルタさん、落ち着いてください。一体何があったのか説明してくださいませんか?話の内容が全く見えません」
取り乱す彼女に事情を聞くべく説得する。しかし彼女は興奮した様子で落ち着く気配は無い。むしろ先程よりも声を荒げてしまっているような気さえするくらいだ。
「マシュ!彼は囚人とみれば手当たり次第に殺してたのよ!?こんな残虐非道なこと許されると思ってるのかしら!!絶対に止めないとダメよ!!」
その言葉にギョッとする二人。その衝撃的な内容に言葉を失うしかなかった。
「えっと……パニッシャー君、ホントにそんな事をしたのかい?」
ダ・ヴィンチは不安そうな表情でパニッシャーの顔を覗き込む。それに対して彼は淡々と答えた。
「あぁ。その通りだ」
その回答にその場にいる全員が凍り付くのを感じた。どうやら本当の事らしい。ダ・ヴィンチもマシュも彼の性格を知ってこそいたが、ここまでの事をやるとは。とはいえマスターである藤丸が任務に就けない以上はパニッシャーに頼るほかなかったのであるが……。
「いいですか?カルデアのマスターとはいえ自分が気に入らない人間を殺していい権利があるわけではありません。特異点の修正任務で大量殺人が許容されていると勘違いしているのでればそれは大きな間違いです!」
ジャンヌはパニッシャーに対して厳しい言葉を言い放つものの全く聞く耳を持たない様子だったようだ。
「ああいう手合いは、殺しておかないとまた罪を犯す。生かしておけば必ずどこかで一般人を害する」
釈放されて社会に出たところで、元受刑者という経歴が消える訳ではないのだ。そして一度犯罪に手を染めてしまえば二度と善良な市民に戻る事は不可能なのである。それは人によるものの、重犯罪を何度も犯すような者は更生不可能な場合が多い。所詮犯罪者の心の底や心理など見通せるわけがないのだから。しかしそれでもジャンヌやマルタはパニッシャーのやり方に反発する。しかし彼も自分のやり方を変えるつもりはないようだ。
「確かに犯罪者を野放しにしては社会に多大な影響が出るかもしれません!しかしだからと言って殺してしまっては本末転倒ではないですか!」
ジャンヌも憤りを隠せない様子で声を荒げる。
「更生のしようもないクズに税金をかけるだけ無駄だ」
「罪人は殺せばいいっていうあなたの考えはどうかと思うけどね!」
更に語気を強める二人に動じる事もなく言い返す。
「悪人を殺すのも俺の仕事の一つだ。それに更生なんてできやしないんだから殺した方が効率的だろ?」
悪びれた様子も無く平然と答えた彼にとうとう我慢の限界を迎えたのかマルタは叫ぶ。
「更生の余地が無い極悪人は皆殺しにすればいいっていうの!?それがあなたの言い分なのね!!」
マルタはパニッシャーの胸倉を掴みながら怒鳴り付けるが、当のパニッシャー本人は涼しい顔をしている。しかしそんな彼の態度を見て余計に怒りが増したのかますます強く胸ぐらを締め上げるのだった……。それから暫くの間沈黙が続き、やがて落ち着いたようで手を離す。どうやらある程度冷静さを取り戻したようだ。
「……あなたのやり方にはついていけないわ」
そう吐き捨てると踵を返して管制室を出ていく。ジャンヌはパニッシャーを一瞥するとマルタの後に続いた。パニッシャーは去っていく二人を見て溜息を漏らす。
「パニッシャーさん、お二人の言う事は最もです。あなたの行動は問題があり過ぎます!」
彼の行いは決して褒められたものではないので当然といえば当然だ。だがパニッシャー自身は何も気にしていなかったようである。まるで他人事のような態度であった。特異点の修正任務とはいえ無意味な殺戮が容認されているわけではない。無論、やむを得ない場合もあるとはいえ率先して虐殺行為を働くのはいくら何でもやり過ぎた。
「……俺の性格を知った上でカルデアのマスターとして招いたんじゃないのか?大体俺のやり方なら妖精國で散々見てきただろう」
そう、マシュもダ・ヴィンチも藤丸もパニッシャーのやり方を知った上でノウム・カルデアに招き入れたのだ。今更文句をつけても仕方がない。しかも今回の事件は明らかに過剰だったのも事実なのだ。彼が何の躊躇いも無しに囚人達を射殺していくのを見てマルタもジャンヌも反発心を抱いただろう。事前にダ・ヴィンチが二人にパニッシャーの性格について説明はしたのだが、いざ目の当たりにするとやはり驚きを禁じ得なかったのだと思う。何より彼に対する印象が悪くなってしまった。
「パニッシャー君、キミの性格は把握しているけれど、今回の任務での行動はやり過ぎだよ。あの刑務所は元々凶悪犯しかいない刑務所だけれどもあそこまでする必要はなかったんじゃないかな?」
彼女も少々不満げな表情で詰め寄る。普段は冷静沈着な彼女だが、今回の件に関しては流石に看過できないと感じたのだろう。対するパニッシャーは特に表情を変えることなく答える。
「あの刑務所内ではいつどの囚人が襲ってくるか分からん。任務遂行の為、やむなく先制攻撃をしていた」
今度は任務の為という名目上、やむなく囚人を排除していたと語る。これならば"悪人は死すべし"という理屈よりも納得してもらえると思ったのだろう。
「ホントかなー?そんな理由であんなに躊躇なく撃ち殺せるものなのかなー?私にはどうも違う気がするんだけどなー?」
ダ・ヴィンチとしては何か裏があるのではないかと勘繰ってしまうのだろう。実際その通りであり、彼は明確な殺意を持って囚人達を撃ち殺していたのである。
「けど先程はマルタさんとジャンヌさんに対して"更生のしようもないクズに税金をかけるだけ無駄だ"と言っていましたよね?」
が、パニッシャーはマシュに痛い所を突かれてしまう。
「それはあくまでも囚人共を排除する為の理由の一つに過ぎん」
「あれれー?それじゃマルタとジャンヌにも"任務遂行の為、やむなく先制攻撃をしていた"って言えばよかったんじゃないかなー?その言葉にも嘘はないと思うんだけどねー」
図星だったのか、言葉に詰まってしまう。
「そ、そう言われれば確かに……」
二人の言葉を否定する事が出来ず黙り込むしかなかった。何故かダ・ヴィンチに対しては"クズ共には死を与えるだけだ"的な理論を押し通そうとしないパニッシャー。
「パニッシャーさんも、ダ・ヴィンチちゃんには弱いんですね」
「な、何?」
マシュの発言に思わずパニッシャーは動揺してしまう。それを見た二人はクスクスと笑うばかりだ。
「気のせいだ気のせい!」
「えー?本当かなー?マルタとジャンヌには"悪・即・殺"的な論調だったのに私にはそんな感じじゃないんだもんねぇ?」
ダ・ヴィンチはニヤニヤしながら揶揄う。対してパニッシャーはそっぽを向いてしまった。どうやら反論する気はないらしい。完全にペースに乗せられてしまっているようだ。
「パニッシャーさんの意外な弱点を発見したかもしれませんね!これは貴重な情報です!」
目を輝かせて喜ぶマシュを見てダ・ヴィンチは苦笑する。
「やれやれ……この調子だとこれから大変かもしれないなぁ……。パニッシャー君、大量に人間を殺せば歴史の流れに悪影響を及ぼすかもしれないんだ。聖杯を用いるよりは影響は小さいだろうけど、それでも未来に何らかの歪みが出てくるかもしれない。……とまぁ、聖杯を回収した時点で歴史の"辻褄合わせ"の力が働くからその点は過度に心配はしなくていいよ。けどそれでも君が大量に犯罪者や罪人を殺してもよいっていう事にはならない。その辺の自覚をしっかり持ってくれたまえ」
そう言ってダ・ヴィンチはパニッシャーに釘を刺す。今回の任務において、パニッシャーが刑務所で大量の囚人を殺した事については刑務所内で起きた暴動なり、事故などの災害で大勢の囚人が死んだという事にされるだろう。パニッシャーはダ・ヴィンチの警告に耳を傾けつつ、管制室を後にした。
**********************************************************
初めての特異点の修正とレイシフトは一応完了したものの、代わりにジャンヌ、マルタという二人の聖女から嫌われてしまった。最も、この世界に来る前、自分が元々いた世界ではアベンジャーズといった他のヒーローから嫌悪されていたので、今更サーヴァント二人から嫌われたところで気にするパニッシャーではない。少なくとも、ジャンヌやマルタとは異なり、犯罪者を大勢殺す事に文句を言わないサーヴァントはいるだろう。そう考えていると廊下の向こうから藤丸が歩いてきたではないか。パニッシャーは藤丸に帰還したと伝えようとしたが、藤丸はパニッシャーを見るなり駆け寄って来る。
「帰ってきたんだね……」
「あぁ、少しばかりジャンヌ、マルタの二人と一悶着あったけどな」
苦笑しつつそう告げると不意に抱きしめられる。突然の抱擁に一瞬面食らったがすぐに我に返る。
「おいおい……どうしたんだ急に?」
すると途端に泣き出すので更に驚くしかない。藤丸はパニッシャーの胸の中で涙を流しているではないか。が、パニッシャーは嫌がる様子も見せず、藤丸の背中を優しく撫でるのだった……。
「何かあったのか?」
少なくとも藤丸は見知った相手、気心の知れた相手でもこんな形で涙を流すような少年ではない。自分の弱い部分をなるべく他者に見せる事はない筈だ。最も、妖精國で会った際には随分とパニッシャーには懐いていたのだが。
「ゴメン……このままでいさせて……」
泣きながらそう言うので余程の事があったのだろうと思う。しばらくそのままにする事にした。ふとパニッシャーは廊下の向こうに立つサーヴァントを見つける。カーマだ。彼女はパニッシャーの胸で涙を流す藤丸を無表情のまま遠くから見ているではないか。
「……」
そして無言のまま立ち去っていくのが見えた。彼女が何を思ったのかは不明だが、"今は自分の出る幕ではない"という雰囲気だった。藤丸に好意を寄せる女性サーヴァントは多いと聞いたが、カーマもその一人らしい。藤丸に胸を貸すパニッシャーだが、今度はマルタが来たではないか。マルタはパニッシャーを見るなり怖い顔で近付いてきたが、彼の胸で涙を流す藤丸を見て立ち止まる。
「マスター……?」
マルタは何故藤丸が涙を流しているのか理解できていない様子だった。そしてパニッシャーと視線が合うと気まずそうにする。そしてパニッシャーはアイコンタクトを用いて「今はよしてくれ」とマルタに伝えた。マルタは無言で頷くとその場を離れていく。しばらくしてようやく落ち着いたらしく涙が止まる。
「もういいのか?」
コクリと頷く。
「一体何が有った?」
質問すると再び目に涙を浮かべだす。が、今度は抱きつかれる事はなかった。どうやら相当深刻な事態のようだと感じるが理由が分からない以上どうする事も出来ない。
「ううん、ちょっと色々とあってさ。おじさんの胸で思いっきり泣けたからスッキリした」
そう言うといつもの明るい笑顔を見せてくれる。先程まで泣いていたとは思えぬ程の変わり身の早さだ。藤丸はそう言うとパニッシャーから離れていく。一体藤丸に何があったのか気になるパニッシャーはマシュとダ・ヴィンチに聞く事にした。自分が特異点修正任務の為にレイシフトをしていた間、藤丸に一体何があったのかを聞いておく必要がある。
**************************************************
パニッシャーはマシュとダ・ヴィンチから藤丸に何が起きたのかを聞かされ、廊下の壁を殴りつけていた。こうでもしなければ腹の虫が収まらなかったからだ。藤丸の両親は行方が分からなくなった息子を探し続けた結果、魔術協会に目を付けられてしまい死亡したのだという。藤丸はこの事実をムニエルから聞かされたのだ。七つの特異点の修正に続いて地球白紙化を元に戻す為の戦いを続けた藤丸にとって余りにも残酷な真実だった。パニッシャーの怒りは収まらず、廊下の壁を叩く手に力が入るばかりである。
「クソ……!!アイツの親が……何をしたっていうんだ!!」
苛立ちながら叫ぶその姿は怒りに任せて行動しているようでどこか痛々しかった。そしてそんな彼にジャンヌが近づいてくる。
「あなたも……マスターの身に何が起きたのかを知ったのですね……」
ジャンヌもマシュ、ダ・ヴィンチから藤丸の両親の事を聞かされたようだ。その話を聞いた瞬間、真っ先に藤丸の元に駆け付けたらしい。そんなジャンヌもまた悲しみに満ち溢れている顔をしていた。そんな彼女に対して思わず問い掛けてしまう。
「……お前も聞かされたようだな」
無言で頷いて答える。しかしそれ以上は何も語ろうとしなかった。
「……お前等はどれだけアイツに戦いを強いれば気が済む?」
拳を握り締めると掌に爪が深く食い込むのが分かった。恐らく相当な力で握っているのだろう……血がポタポタと床に滴り落ちる。
「答えろ!!この野郎ッ!!!」
激昂し、怒鳴った後……壁に強く拳を叩き付ける。そしてジャンヌの胸倉を掴み、鬼気迫る表情で睨み付ける。しかしジャンヌは冷静に返答してきた。
「……落ち着いてください」
彼女の言葉にハッとなると同時に掴んでいた手を離す。同時に冷静さを取り戻す事ができた。
「気持ちは分かります……私も同じ気持ちですから……ただ……彼は自分の意思でシミュレータールームから出てきました。私たちの存在が……彼に戦いを強いているというのは否定しません。ですが彼はそれでも……それでも自分が最後まで戦うのを望んでいました」
悲しげな顔をしながら話すジャンヌを見て、パニッシャーは無言でその場を立ち去った。
戦いを強いている、というのは聞こえが悪いけど藤丸君は戦わざるを得ない状況に追い込まれちゃったからね……(´Д⊂ヽ