パニッシャーが人類最後のマスターと共に戦うようです 作:ドレッジキング
その日はシミュレータールームでパニッシャーは模擬戦をしていた。元々戦闘力自体、普通の人間の中では最高峰と言われているのでサーヴァント相手にどこまで戦えるのかの実験も兼ねていた。相手はサーヴァントであり戦乙女のブリュンヒルデ。模擬戦の相手にしては強すぎるように感じたが、肝心のブリュンヒルデもダ・ヴィンチから手加減するようにと念を押されているので問題は無さそうだ。シミュレーションの設定は荒野となっており、障害物がほとんど存在しないフィールドであった。パニッシャーは持てる身体能力をフル活用してブリュンヒルデの攻撃を回避していく。彼女も相応に加減しているとはいっても流石はパニッシャーといったところか。
「凄いですね……私の攻撃をこうも回避できる人間は初めてです」
感心するブリュンヒルデだが、まだ余裕があるらしく表情に余裕が見られる。対するパニッシャーの方は若干息が上がっているものの、まだまだやれるといった感じだ。普通の人間がサーヴァントである自分の攻撃を避けられ続けている事が驚きなのであろう。
「そいつはどうも」
再び攻撃を避けつつパニッシャーは会話する。元いた世界で多くのヒーローやヴィランと戦い慣れているお陰で、サーヴァントともこうして模擬戦ができるのだ。常人である自分が超人だらけの世界で戦えているのも不思議な感覚だが。とはいえあくまでブリュンヒルデは加減をしてくれているだけで、彼女がその気ならとっつくにパニッシャーは命を刈られている。
「お前達サーヴァントっていうのは自分を召喚したマスターの命令に従うんだろう?」
唐突にパニッシャーはブリュンヒルデに尋ねてくる。何故そんな質問をするのか理解できない彼女であったが、素直に答える事にした。
「はい、そうですが……?」
質問の意図を理解出来ずに困惑するブリュンヒルデだったが、すぐに理由を理解する事になる。
「それなら召喚したマスターがとんでもない悪党でもソイツの命令には従うってことか?」
「それは……はい、その通りです」
一瞬戸惑いを見せたブリュンヒルデだったが、直ぐに納得がいったような表情になって答える。マスターがいなければサーヴァントは現世に留まっている事ができないのが理由である。マスターとはサーヴァントをこの世に留めておく為の要石の役割をしており、そのマスターが消えれば必然的にサーヴァントは退去する事となる。加えて令呪という絶対命令権を持つのであればマスターの命には従わざるをえないのだ。
「お前さんもマスターの命令なら、聖杯戦争に関係のない女子供も手にかけられるのか?」
ブリュンヒルデに尋ねるパニッシャーの表情は真剣なものだった。
「……命令であれば……実行します」
ブリュンヒルデの表情もまた真剣だった。パニッシャーが何故こんな質問をしたのか意図が分からないものの、サーヴァントとは基本的にマスターあっての存在。ならその命令には基本的に従うのであるが、無辜の民を害する事に敏感なパニッシャーは眉を潜める。
「そうかい、ならお前さんはそんな行為すら平気でするわけだ」
吐き捨てるように言うと、軍用ナイフを抜いてブリュンヒルデに向かって行く。しかしブリュンヒルデはその攻撃を受け流し、カウンターを放つ。パニッシャーも即座に反応し、防御体勢を取ってダメージを最小限に留める。しかし衝撃までは殺しきれず、後方へと吹き飛ばされる。そこに追撃を仕掛けようと突っ込んでくるブリュンヒルデだったが、パニッシャーは地面を転がって避けて距離を取ろうとするが、ブリュンヒルデの槍の切っ先を突き付けられる。
「マスターの命令であれば、それに従うのがわたしのようなサーヴァントですから」
あくまでも自分はマスターの指示に従っているだけと淡々と語るブリュンヒルデ。しかしその表情からはどこか悲しさを感じさせるものがあり、彼女自身もこのやり方に疑問を抱いているのかもしれない。しかし今の彼女の言葉を聞いたパニッシャーは眉を吊り上げる。
「人としての道を平然と踏み外して、普通に生きている人間を命令だからと言って殺すのがお前さんがたのやり方か?」
まるで責めるような口調のパニッシャーにブリュンヒルデは少しムッとした表情になる。
「それがマスターからの命令である以上、私達はそれに応じるだけです」
そしてそのまま話を続ける。
「そもそもあなたは先程から私達に対して失礼です。確かに私はあなたが言うようにマスターの命令で無辜の民を殺める事もありますし、時には善良な市民を手にかける事もあります。ですがそれはすべて主からのご指示なのですから仕方のない事でしょう?」
ブリュンヒルデの言い分も最もであり、サーヴァントという存在自体が英霊の影法師であるのだから。
「お前さんにも譲れない部分ってのはあるんだろう?ならそんな譲れない部分ですらマスターの命令で曲げるのか?」
「それは……」
先程まで無表情を貫いていたブリュンヒルデだったが、ここに来て初めて動揺を顔に表した。
「聖杯戦争自体が魔術師の……ひいては召喚されるお前達サーヴァントの願望を叶えるための儀式だ。別に正義や平和の為に召喚されているわけじゃないってのは俺も理解してる。だが……」
パニッシャーは微かに動揺しているブリュンヒルデの隙を突いて素早く起き上がると、彼女の額に銃口を突き付ける。
「それでも普通に生きている市民に手をかけるんならその時点で”悪"だ……!聖杯戦争で願いを叶える為に戦っているお前等からすりゃ単なる背景に過ぎないんだろうが、俺達にとってはそういう風に割り切れるものじゃないんだ……!」
銃を突き付けられても動じないブリュンヒルデだったが、少し目を伏せて口を開く。
「あなたの言いたい事は分かります。ですが……」
彼女の言葉を遮るようにパニッシャーは更に語気を強めて言う。
「ああ、分かるさ。サーヴァントだから、聖杯戦争だから、マスターの命令だから仕方なく、だろ?けどな、それは言い訳にしか過ぎないんだよ。どんなに言い繕ったってお前さん達がやっていることはただの人殺しだ」
「……」
反論する言葉を持たないのか、ブリュンヒルデは黙って聞いている。
「俺からすればお前さん達の方がよっぽど”悪人”だよ」
『パニッシャー君、模擬戦でブリュンヒルデと喧嘩しちゃ駄目だよ~』
スピーカーからダ・ヴィンチの声が流れてくる。どうやらシミュレータールームの様子はモニタリングされているらしい。
『キミがサーヴァントがあまり好きじゃないのは知っているけど、あんまり喧嘩を売らないでね?』
ダ・ヴィンチはやんわりとパニッシャーを注意する。パニッシャーはアストルフォやジャンヌに対しても、先程ブリュンヒルデにしたのと同じ質問をしたが、両者はブリュンヒルデとは異なり無辜の民に手をかけるような事はしないとキッパリ言い切った。少なくともマスターの命令に盲目的に従うようなサーヴァントではない事が分かったものの、ブリュンヒルデは二人とは違うようだ。
「あなたの言う通りかもしれません……だけど私はサーヴァントである以上、命令に従わなければならないのです……これはもうどうしようもない事なんです……あなたには分からないかもしれませんが……」
悲しげに話すブリュンヒルデを見て、彼女の言葉に嘘偽りがない事は理解できた。サーヴァントという存在の悲しい性なのであろう。誰もがアストルフォやジャンヌのような考えではないのだから無理もないが。悪人や犯罪者には冷酷極まりないパニッシャーではあるが、少なくともサーヴァントの存在そのものを悪と見ているわけではない。確かに悪逆非道を極めたようなサーヴァントもいるが、善性の塊のような者もいるのだ。
「物事を善悪だけで判断する貴方のやり方は間違っています」
ブリュンヒルデの言葉に何も言えず、パニッシャーはただ黙っているだけだった。
「人理を修復する使命を背負っているカルデアのマスターは、物事を柔軟に捉える事が重要なのです。このカルデアに召喚されたサーヴァントの中には、異聞帯でマスターである藤丸立香を始めとするカルデアと刃を交えた者も多い。ですが敵であった彼らも今ではカルデアの重要な戦力として召喚されている。自分の中にある善悪だけで彼等を断罪してはいけません」
そして優しく諭すように語り掛けるブリュンヒルデ。しかしそれを聞いてもパニッシャーの表情は険しいままだった。
「貴方の悪に対する強い憎悪は、カルデアのマスターとして戦う上で必ず障害になるでしょう。激しい怒りを原動力に行動し続ければ、いつか身を滅ぼします」
そしてパニッシャーの顔を真っすぐ見つめながらこう告げる。
「生前の私もそれが原因で過ちを犯しましたから……」
ブリュンヒルデの生前についてはパニッシャーは知らないが、少なくとも彼女の表情を察するに相当な事を起こしてしまったのであろう。カルデアに召喚されたサーヴァント達は確かに生前は英雄として名を馳せた者が多いが、神代や古代、中世は現代とは大きく価値観が離れている。そしてそんな時代で英雄となったのだから、現代的な考えとは相容れない者も多い。現代の法律など昔の時代の英霊からすれば知ったことではないのだろう。目の前のブリュンヒルデだとて北欧神話の時代を生きた戦乙女だ。それでも彼女自身は慈悲深い性格なのだが。パニッシャーとブリュンヒルデは気まずい空気のまま模擬戦闘を切り上げ、シミュレータールームを出た。
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サーヴァントは所謂”正義の味方"ではない。彼等が召喚される聖杯戦争は自分の願い、ひいてはマスターの願いを叶える為に現世へと現れ、そして戦う。民衆の為でもなければ社会の為でもない。自分の願いか、マスターの願いか、或いは戦う事だけが望みなのか、あくまで分を召喚したマスターに尽くすのか。聖杯戦争に召喚されるサーヴァントは大体がこれに大別されるようだ。無論、彼等とて悪戯に聖杯戦争が開催される町で暴れたいわけでもないだろうが、サーヴァント同士の戦いである以上、どうしても被害は避けられない。いずれにせよ民間人に気を使って戦うサーヴァントは少数であり、その他大勢のサーヴァントは被害が出るのもやむなしと考えている節がある。パニッシャーはカルデアのサーヴァント達に対して「マスターの命令であれば女子供でも簡単に殺せるのか?」、「聖杯戦争で起きる被害については仕方ないと考えているのか?」と尋ねた。アストルフォやジャンヌといった善性の高いサーヴァントはマスターの命令であろうとも無辜の民を傷付けたり命を奪う事を良しとしないようだ。
だが誰もがこの二人のような考えではない。悪人ではないにしてもマスターの命令であれば躊躇なく市民の命を奪うサーヴァントも少なくないのだから。そういった連中もいる事を強く意識していたにも関わらず、目の前に現れたサーヴァントを見ると頭が沸騰しそうになる。暗闇であろうとも放たれる輝きで周囲を照らせるであろう黄金の鎧、そしてその鎧に負け劣らずの輝きを持つ逆立った金髪。傲岸不遜、尊大、居丈高が人の形を取ったような男……英雄王ギルガメッシュがパニッシャーの前に現れたからだ。新たなカルデアのマスターとなったパニッシャーに興味を抱いたのであろうか、値踏みするような視線で見てくる。だがパニッシャーは目の前のギルガメッシュを前にして思わず言葉を零してしまう。
「……子供の生み出す魔力よりはこのカルデアから供給される魔力の方が美味いんだろう?」
パニッシャーが何の事を言っているのか理解できないギルガメッシュは怪訝な表情を浮かべる。パニッシャーは構わず続ける。
「干からびた子供から齎される魔力で上手い空気を吸って生活していた時の事は覚えちゃいないか」
「何の話をしている?」
サーヴァントは基本的に記憶を座から引き継ぐ事はできない。並行世界を問わずに召喚されるサーヴァントは基本的に別の世界での事は覚えていない。だがパニッシャーはそんな事は関係ないとばかりに言葉を続ける。
「あの時教会でお前はアイツに何て言ってやがったかな……"あれは我に捧げられた供物だ、それ以外の何物でもない"だったか?いずれにせよそのツラをまたこうして拝めるなんて願ってもない」
パニッシャーの身体からは明確な殺気が溢れている。サーヴァントとして召喚されたギルガメッシュと戦った事があるのだろうか。しかし目の前のギルガメッシュはパニッシャーの事など覚えていないギルガメッシュは自分に敵意を向けるパニッシャーに対し、その真意を問う。
「貴様……何の話をしているのだ?我が貴様と会っているとするならば、恐らく別の聖杯戦争で召喚された我であろうよ。覚えてもいない事で我に殺意を抱く事の意味……理解できておろうな?」
ギルガメッシュの背後の空間からは様々な武具の先端が顔を覗かせている。宝具である『王の財宝』だ。ギルガメッシュは相手が生身の人間であろうと容赦するような男ではない。ましてやパニッシャーはギルガメッシュに対して明確な殺意と敵意を抱いているのだから。パニッシャーもホルスターから銃を抜いて臨戦態勢に入る。しかし勝負の結果は誰の目から見ても明らかだった。
「カルデアで召喚されても、貴様のその本性は変わっちゃいまい。なら俺が強制退去させてやるよ」
「思い上がるな雑種が!!」
直後、金色の光が弾けたかと思うと無数の宝具が撃ち出され、それが壁となり、天井となった。逃げ場はない、いや逃げるつもりもない。何故ならここで死ぬつもりはないから。が、パニッシャーの身体を抱えて打ち出された『王の財宝』を回避したサーヴァントがいた。体重100キロを超えるパニッシャーを軽々と片腕で抱えながら財宝による暴雨の間隙を掻い潜って回避したのはメリュジーヌだ。並みのサーヴァントでは回避どころか迎撃すらも困難な『王の財宝』を人一人を抱えた状態で躱してのけたメリュジーヌの技量とスペックは目を見張るものがある。
「メリュジーヌ……」
「無事かいパニッシャー?怪我とかしてない?」
「ああ、大丈夫だ」
が、ギルガメッシュは乱入してきたメリュジーヌに苛立っている様子だ。
「邪魔をするな蜥蜴が。身の程を弁えろ」
だがメリュジーヌは全く動じていない。そして静かに反論する。
「悪いけどそれは聞けないね。彼が死んだらマスターが悲しむから」
メリュジーヌも一歩も引かない様子を見せる。英雄王ギルガメッシュとアルビオンの竜たるメリュジーヌがぶつかれば最悪カルデアが滅びかねない。まさに一触即発の空気が流れる中、慌ててダ・ヴィンチとマシュが駆け寄って来る。恐らく今の騒ぎを聞きつけたのだろう。二人はメリュジーヌとギルガメッシュの間に入り、必死で宥める。
「お、落ち着いて英雄王!君が本気ならパニッシャー君が死んじゃうよ!ここは冷静になろう!」
「め、メリュジーヌさんも喧嘩はよくありません!お願いします、どうか抑えてください!」
二人の必死の説得により、どうにか矛を収める事に成功した。ギルガメッシュとメリュジーヌの喧嘩など考えただけで恐ろしい。
「ふん、命拾いしたな雑種。だが今度我に不敬を働こうものならその時は塵芥すらも残らぬと思え」
そして何事もなかったかのようにそのまま去っていった。
「パニッシャー君!幾ら何でも命知らず過ぎだよ!相手はあの英雄王ギルガメッシュだよ!?」
「そうだよ、もう少し考えて行動しないと。僕が来なかったら間違いなく彼の宝具で串刺しにされていたよ」
ダ・ヴィンチとメリュジーヌから説教を食らったパニッシャーはつまらなそうな顔をしてその場を立ち去った。
ナイジェル……グズルーン……う、頭が……!
とりあえずギルとメリュ子の戦いを見たい人って多いのかな?(^_^;)
メリュ子を蜥蜴呼ばわりとは流石ギル