パニッシャーが人類最後のマスターと共に戦うようです 作:ドレッジキング
数時間以上探索を続けたものの、目立つような環境の変化やこの時代に相応しくないイレギュラーな異物も発見できなかった為、仕方なく3人はキャンプをする事にした。焚火を囲むように3人が座り、現状を話合う。多かれ少なかれ特異点というのは何かしらの変化が生じているものなのだがこの特異点には今の所それらしき物は見当たらない。とはいってもいきなり精神的に来るようなレベルの異界と化した特異点だとするならばパニッシャーでは付いていけない可能性があるのでそういう意味では今回は安心である。かつてカルデアが目の当たりにしたハロウィンでのチェイテピラミッド姫路城のような特級異物がいつ現れるか分からないからだ。あれに比べれば大抵の事はマシであろう。問題は何もないに越したことはないのだが……。そう考え込んでいると不意に横合いから声を掛けられた。ジ
「あら?何をそんな難しい顔をしているのかしら?」
突然話しかけられたことで驚きつつも平静を装って返答する。
「特異点っていうからには聖杯の力でディズニーランドでも作られてるのかと思っていたが期待外れだったな」
……実際のフランスにもディズニーランド自体はあるのである意味間違いではないのだがそれにしても時代を超越しているのではないか。まあそれはこの際どうでもいい事である。重要なのはこの異変の原因を突き止める事なのだから。そうして森の中を探索していくうちに日が暮れてきたため野営の準備を始めることにした。薪を集め、簡易的なテントを組み立てる。夕食には先程森で狩った野兎や猪の肉を焼いて食べた。今回の特異点の異常は見つけにくく、探すのには骨が折れそうだ。目に見える異変であるならばまだいいがこれがそうでない場合は本当に厄介だ。ここの特異点を作り上げた主犯は相当慎重なのか、果ては目立ちたくないだけなのか。どの道修正しなければ始まらないのだが。
「ねぇ、駄々っ子マスターちゃん」
焚き火を挟んで反対側に座るジャンヌ・オルタが唐突に話し掛けてくる。
「……何だ」
訝しげな表情を浮かべながら返事をする。彼女の態度は何か含みがあるように思える。一体何を企んでいるのだろうか?警戒しつつ相手の出方を伺う。すると彼女は立ち上がり、こちらへ歩いてくる。そしてそのまま自分のすぐ横に座り込む。
「隣、座っていいでしょ?」
そう言って返事を待たずに隣に座る。少し距離が近いような気がするが、とりあえず許可する事にした。
「ふふっ、ありがと」
そう言いながら微笑んでくる。
「別に構わんが、何のつもりだ」
「別にいいじゃない、減るものでもないし」
堅苦しいルーラーの方のジャンヌとは違い、こっちのジャンヌは随分とフランクな性格のようだ。悪属性である彼女を同行させるとなれば、パニッシャーがいつ彼女に鉛玉を放つのかダ・ヴィンチやマシュもヒヤヒヤしたに違いない。
「アンタは私が一緒にいて不快?」
「なんでそんな事を聞く?」
彼女はこちらをじっと見つめている。その表情からは真意を読み取る事は出来ない。そもそも何故彼女は自分に絡んでくるのだろうか?彼女が自分に向ける視線には敵意を感じないので敵視はされていないようだが……。蘆屋道満などの腐れ外道であれば会ってコンマ1秒で射殺している所だが、このジャンヌ・オルタについてはとりあえずパニッシャーの中で保留としている。彼女が自分に興味を持つのは何故だろうか?
「アンタは何もかもが藤丸立香とは真反対。あいつと違って全然優しくない。何かあれば直ぐに手が出るし、暴力で物事を解決してくる。あいつってお人好しですぐに誰かを信用するから、そういう所は心配だけど……でもそこがかわいいのよね♪」
そう言いながらクスクスと笑う彼女。どうやら彼女は自分とマスターである藤丸の関係について興味を持っているようだ。
「大抵の人間は立香みたいに寛容じゃねぇよ。あいつだから道満みたいな汚物でも受け入れているんだろ」
藤丸は一般人とはいうものの、あそこまでのコミュニケーション能力と敵をも受け入れる寛容性を他の人間が持っているかと言われれば否だろう。あの性格だからこそあのような英霊とも絆を結べるのではないだろうか?
「確かにね。そういう所の才能に限ればあいつって凄く非凡だし」
ジャンヌ・オルタ自身、捻くれてはいるもののマスターである藤丸を信頼している。パニッシャーは自分が良く知るキャプテン・アメリカでさえも英霊達全員を友好関係を深めるのは無理だと確信していた。キャップ自身は寛容な方ではあるが、時として頑固者であり、自分が間違っていると思ったら決して曲げる事は無い。それは彼の美点でもあり、欠点でもあるのだ。ジャンヌ・オルタとの会話に夢中になったパニッシャーであるが、ふとマリーの方に目を向ける。マリーは闇夜に覆われた森の方を見ており、普段の彼女に似つかわしくない険しい顔をしていた。そしてその時叫ぶ。
「ムッシュパニッシャー、あれを!」
マリーが指差した方に顔を向けるものの、そこにあるのは漆黒の闇を纏う森に生える大木があるだけだ。
「王妃さん、どうしたんだ?」
「あそこに人がいたの!……確かにあそこで私をじっと見ていた!」
マリーの表情と口ぶりから考えて嘘を言っているようには見えない。
「そいつの容姿や服装は覚えてる?」
「暗くてよくわからなかったけど、魔術師のような黒いローブを纏っていたわ……」
こんな深夜の森の中に魔術師の着るローブを着た人間がいるとは考えられないがここは特異点である。もしかしたらこの特異点に関係している人間かもしれない。最も、無関係な魔術師か果ては散歩しているだけの地元民か。とにかく何時間も動き回っても収穫がなかった特異点の手がかりを見つけたかもしれない。とはいえもう夜中である。闇夜に包まれた森を探索するのは危険が伴う。それに何かしら危害を加えられたわけでもないのでとりあえず今日は休む事にした。
「私も今夜は疲れたしゆっくり休みたいわ」
「……そうだな」
3人はテントへと戻り、1日の疲れを癒す事にした。
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──────死から、蘇る。
そんな感覚だった。気絶状態から意識を取り戻す事とは違う。生死の境を彷徨った後に息を吹き返す事とは違う。完全に死んだ状態から生き返るのだ。これまでに完全に死んだ事は何回かあった。しかし今回は"何か"が違っていた。深い眠りの中、パニッシャーは自らを見つめる。筋骨隆々たる身体を包む鎧のような服をまとい、暗い室内で立ち尽くしていた。その場には、赤いフードを深くかぶった老婆が立ち、何かを告げてくる。老婆の声は、遠くから響いてくるようだった。
「貴方の傷は深い。もっと休むべきです」
と彼女は、パニッシャーを敬うように丁寧に告げる。その声は、パニッシャーの心の奥深くに響き渡り、静かなる波紋を広げていった。老婆は理知的で皺に刻まれた顔をしていた。聡明そうな雰囲気とは裏腹に、目の奥には明らかに邪な輝きが見える。パニッシャーは静かに歩き出し、目の前にある二つの棺桶の所まで行く。
「落ち着いて。まだ回復の途中です」
傷からの回復がまだ済んでないと老婆が告げた。しかしパニッシャーはそんな言葉を無視した。自分の傷よりももっと重要で大事な事があるかのように。夢の中で見ている室内は、壁には薄暗い照明がぼんやりと輝いており、周囲は静寂に包まれていた。何をする場所なのかは分からない。だが、この場所に自分にとって大切な何かがある事を確信していた。そしてそのまま部屋の中にある二つの診察台の方へと向かう。診察台という表現は正しくないかもしれないが、その台の上には"患者"が寝かされていた。
「安心してください。問題は対処されます。今は、ただ自分自身の癒しに専念すべきです。あなたは多大な苦しみを─」
老婆はパニッシャーの隣に立ち、彼と共に診察台の上に寝かされている"患者"を見る。"患者"を見るパニッシャーは自分の心臓が強烈に締め付けられるような感覚に陥っていた。なぜそんな感覚に陥る?診察台の上に寝かされている2体の"患者"はどう見ても人間ではないのに。薄緑色の体色をしており、体全体を見て辛うじて"人間"の形をしているものの、その姿は直視するのに耐えられるものではなかった。片方の"患者"は身体が肥大化しており、手足は丸太のように太く短く、手の上に手が重なっていた。もう片方の"患者"は胸の部分からもう一本の腕が生えており、腹からも小さい手が生えているではないか。2体の"患者"は意味不明な呻き声を上げながら診察台の上に寝かされている。そしてその2体の身体には点滴用のチューブが何本も身体に取りつけられておりこれが彼等の生命を維持しているものだと理解できた。何故かパニッシャーははその姿に心を締め付けられた。彼の胸は重く、息苦しさを感じながらも、彼はその場から目を逸らせなかった。
「生きていた時間よりも死んでいた時間の方が長い者を生き返らせるのはこの通り困難を伴います」
老婆は険しい表情をしながらパニッシャーに語り掛ける。
「これは...この前よりも酷い状態になっています」
「もう、やめろ」
パニッシャーはそう短く答えた。これ以上の試みには意味がないと、彼等の苦しみを増やすだけだと言うかのように。
「でも、私たちにはまだチャンスがあります。獣の意志を信じて。あのアレスを倒した後ならば、きっと—」
「いや、もうたくさんだ!」
そう叫ぶと部屋に忍者のような装束を着た2名の人間が足早に入って来た。老婆はパニッシャーの意思をくみ上げ、部下たちに"患者"の処理させようとしているようだ。が、パニッシャーはそれは不要であり、自分自身の手で対処すると言い放ち、老婆と2名の忍者を部屋から追い出した。そして診察台に横たわる2体の"患者"を目に焼き付ける。
「マ……マ……」
そう言葉を"患者"の1体が呟くと同時に、パニッシャーは懐から刀をゆっくりと抜いた。
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「……!!」
悪夢から現実へと戻されたパニッシャーはこみ上げる嘔吐物を出さないように手で口を抑えながらテントを飛び出した。テントの前を流れる川に近付き、流れる水へと嘔吐した。ジャンヌ・オルタは心配になってパニッシャーにかけより、しゃがんだ状態で彼の背中をさすってあげる。
「大分うなされていたけど大丈夫?何か変な夢でも見たの?」
そう問いかけると、パニッシャーは無言のままだ。マリーもパニッシャーが心配になったようで駆け寄って来た。あの夢の中に出てきた老婆と2体の怪物は何だったのか。パニッシャーは自分にそう問いかけながら川を覗き込んでいた。そんなパニッシャーに対してジャンヌ・オルタは声をかける。
「ねぇ、アンタ本当に大丈夫?どんな悪夢を見たのよ?すっごいうなされてたけど」
そう言って再び背中をさする彼女に対して、パニッシャーは不愛想な口調で返答する。
「お前には関係ない……」
「何よ、人が心配してあげてるのにその態度は!」
「そっとしてあげて……。彼にとって嫌な夢だったでしょうから……」
マリーは2人の間に割って入り、パニッシャーをフォローする。
「えっと……大丈夫……?」
マリーも心配そうにパニッシャーの顔を覗き込む。
「あぁ……問題ない……大丈夫だ……」
そう言って立ち上がり、川から離れた。マリーとジャンヌ・オルタはパニッシャーの後に付いていき、出発の為にテントの片づけをする事にした。
パニッシャーさん……。