パニッシャーが人類最後のマスターと共に戦うようです 作:ドレッジキング
ひたすらに森の中を歩き続けても一向にそれらしい異変や異常は見つけられない。これまでの特異点であれば目に分かる異常事態が眼前に広がり、それを防ぐべく行動を起こすのだが、今回は目に見える物が何もなくただ歩く事に集中している。これで果たして本当に修正できるのだろうか? 起きるべき異変が起こらない「退屈特異点」とでも言える程の不可思議な現象。無音とまではいかないものの、静かすぎる森に3人の足音だけが響き渡る。この静寂は不気味ささえ感じさせるが、それでも3人は歩き続ける。
「ねぇ、何かおかしいと思わない?」
「何がよ?」
マリーは2人の方を見て、自分の考えを述べる。
「この森は静か過ぎるわ。鳥の鳴き声一つ聞こえないなんて、普通じゃ考えられない」
「確かにね。でも、それがどうかしたの?別に気にするような事じゃないでしょ?」
「でも、何かが起きているような気がするの」
そう言ってマリーは手を頬に当てて考える素振りをする。
「なんかこう……嫌な予感がするのよねぇ……」
そう言って腕をグッと伸ばし、姿勢を正すジャンヌ・オルタ。如何に異変が起きないと言っても特異点である事に変わりはないのだ。パニッシャーは険しい顔をしながら先頭を歩く。マスターであるならサーヴァントの後ろに付いて行動するのが定石なのだが何故だか彼は前に出たがる。
「ねぇ、アンタ。何で前に出るの?普通、マスターってサーヴァントの後ろを歩くものなんじゃないの?」
「俺は……前に出たがる性分でな」
マリーはそんな2人の様子を見て微笑ましく思い、クスリと笑った。何かエネミーの1体でも襲ってきてくれれば話は早いのだがそのエネミーすらも出没していない。靡く風に森の草木が揺れる音だけが響き渡っていた。周囲を警戒しつつ、3人は森を歩き続けた。フランスで発生した特異点という事でサンソンやデオン、ナポレオンにも適正があったのだが、今回はマリーとジャンヌ・オルタの2名だけを同行させている。ジャンヌ・オルタは余りにも何も発生しない事態に呆れ顔である。
「本当に何も起こらないわね。退屈で仕方ないわ」
ジャンヌ・オルタがそう呟いた瞬間、森の静寂を引き裂く悲鳴が聞こえてきた。その瞬間に緩んだ気が引き締まる。声からして子供のように聞こえる。3人は即座に声のした方向へと足を速める。声からして遠くはない。森の木々の間を駆け抜けた3人が見たのは複数の野生のオオカミに襲われている10歳前後の男の子だ。男の子は尻もちをつきながら自分を狙うオオカミたちから逃げようとしているが足を滑らせて尻もちをついたのだろう。四方を囲まれた男の子は恐怖のあまり泣きじゃくっている。
「ちょっと、何よこれ?どうして子供がこんな所に?」
「話は後だ。まずはあの子を助け出すぞ!」
パニッシャーは考えるよりも先に身体を動かし、子供を庇うようにしてオオカミたちの前に立つ。
「え……?」
少年はいきなり自分とオオカミ達の間に割り込んだ黒コートの大男に驚く。そしてその間にマリーが少年の元に駆け寄り抱き抱えて退避した。
「もう大丈夫よ。安心して」
少年が安全な場所に避難した事を確認したジャンヌ・オルタとパニッシャーがオオカミ達に向き合う。目を血走らせ、口からよだれを垂れ流しながら唸り声を響かせるオオカミ達。それを見たジャンヌ・オルタはドスの利いた声で誰にという訳でもなく独り言を言うように話しだす。
「へぇ〜?なんだか怒ってる様に見えるけどさぁ、……なに?こっちとしては特に何かした覚えはないのよねぇ……」
ジャンヌ・オルタは威嚇のようにしてオオカミ達に言う。それに対してパニッシャーは既にMK23をオオカミ達に向けていた。そして考えるよりも先に指先でトリガーを引く。銃特有の重い発砲音が森に鳴り響き、銃口からはマズルフラッシュを煌めかせながら銃弾が撃ち出される。銃弾はオオカミ達の内何匹かに命中した。これが魔獣であるならばジャンヌ・オルタの出番だが、見る限りは普通の野生のオオカミのように見える。
「ちょっと、いきなり撃つ事ないでしょ?」
「言葉も通じん野生動物相手にスピーチの練習してる暇があんなら攻撃しろ。こういう時は問答無用が一番手っ取り早い」
「何よそれ!?名乗り口上や決めセリフぐらい……」
パニッシャーは彼女の話を無視しつつ、更に発砲をする。オオカミ達は蜘蛛の子を散らす勢いでその場から慌てて逃げ出す。所詮は野生のオオカミという事か。
「ま、私が出るまでもなかったわね」
出番の無かったジャンヌ・オルタはつまらなさそうにそう答える。とりあえずは危機は去ったようだ。3人の様子を見ていた男の子が木の陰から出てきた。先程オオカミの群れに襲われていた男の子だ。栗毛でくせっ毛のある髪をしている。年齢は10歳前後だろう。
「大丈夫だった?怪我はない?」
そう言うと男の子に視線を合わせるように膝を折り、子供の目線で優しく微笑んだ。子供はマリーにつられて笑って頷く。
「助けてくれてありがとう……。僕はこの近くの村に住んでるんだ。名前はアラン」
アランと名乗った少年はパニッシャー達にお礼を言いつつこの付近に村がある事を伝える。人のいる場所であれば何らかの異常を知っているかもしれない。ここに来るまで何も異常事態も異常な光景もなく、ようやく巡り合ったトラブルが男の子がオオカミの群れに襲われていただけなのだから。曲がりなりにも特異点なのだから何らかの異変はある筈だ。流石にアランにカルデアという未来の組織から来たと答えるわけにもいかないので適当に旅人だと誤魔化す事にした。
「そうだったの、怖い思いをしたわね。私たちは旅をしているのだけど、あなたの住んでいる村に泊まる事は可能かしら?もちろん代金はちゃんと支払うわ」
「大丈夫だよ。村には空き家が多いからそこに泊まるといいよ」
アランはそう答えると3人を連れて自分の住む村の方へと案内する。2日目まで野宿する羽目になると思っていたが、ようやく寝床が見つかりそうだ。
「宿が見つかって良かったわ」
「そうね、でもこの特異点で何が起きているかまだ分からないから油断はできないけど……」
「ああ、そうだな。だが今は休息を取るのが先だ」
10分後、アランに案内された3人が開けた場所に出るとそこには麦畑が広がる農村があった。広さとしてはそこそこで、田舎道を挟んだ両脇には石造の家々が並び立っている。なんとも牧歌的な雰囲気の漂う村であるが、不思議と農作業をしている者を見かけない。真昼間なのだから仕事をしている村人ぐらいはいる筈である。
「ねぇ、どうして家の中で休んでるわけ?こんなに晴れてるんだからたまには外にぐらい出るでしょ」
そう指摘したジャンヌ・オルタは不服そうな顔をしていた。一方マリーの方は目を輝かせている。
「まぁまぁ!素敵な村ね……!」
アランはジャンヌ・オルタの言葉に対して暗い表情で返事をする。
「村の人たちは外に出たがらないんだ……外にいると凄く危険だから……」
アランの言葉に3人は耳を傾ける。外で農作業をしていると危険とはどういう意味だろうか?よく見るとアランの身体が小刻みに震えている。よほど恐ろしいものでも見たのだろうか。
「一体外で何があったのかしら……?」
アランは怯えながらも説明を続ける。
「……か、怪物が出るんだ……。僕の村に住んでる人達も大勢やられた……。殆どの犠牲者は僕みたいな子供か女の人たちなんだ……」
アランの言葉にパニッシャー達に緊張が走る。怪物……というからには先程の野生のオオカミの群れとはワケが違うのだろう。特異点に相応しいトラブルとようやく巡り合えたようだ。マリーはアランに事情を聞こうとする。
「その怪物っていうのは、どんな奴なの?」
「さっき森で僕を襲っていたオオカミ達よりもずっと恐ろしいんだ……。怪物は僕の母さんを殺して……妹も襲った……」
アランは恐怖に彩られた表情で唇を噛みしめつつ自分の母と妹が怪物に襲われた経緯を語った。数か月前に農作業をしていたアランの母親が森から出てきた巨大な獣に襲われ、腹を引き裂かれた上にその時のショックと大量出血で命を落としたのだという。更に妹がその怪物に襲われ、両脚を失う羽目になり二度と歩けない身体にされてしまった。アランは歩けなくなった妹と父親の3人で暮らしている。更にアラン以外の村の家も同様の被害に遭っているという。この村だけで20人以上の女子供が襲われてしまい、村人は農作業をする為に外に出る事さえ嫌うようになった。立ち向かおうとした村人もいたが、怪物が住む森に入ったっきり二度と戻らなかった。
「だから、近づいちゃ駄目だよ。あの森には怪物がいるんだ。きっと、次は僕の番だ……」
「大丈夫よ、怪物は私達が退治するから」
マリーはアランの視線に合わせる為にしゃがみ込むと、彼を優しく抱擁する。アランは女性特有の香りと温もりに安堵を覚えたのか、目に涙を浮かべてマリーにもたれ掛かってきた。そんな彼女の背中を優しくさすりつつ、ジャンヌ・オルタはアランの肩に手を置く。
「安心して。私達に任せておきなさい。そんな怪物なんて、すぐに退治してあげるから」
アランはジャンヌ・オルタの言葉に安心したようで、マリーから離れる。そして3人を村長が住む家へと案内した。村長の家は村の中心部に存在しており、他の家と比較しても大きな建物だ。アランに促された3人は村長の家の敷地内に足を踏み入れる。周囲を草花に囲まれた花壇の横を抜けた先に入口があった。村長の家の木造の扉を叩き、アランが客人が来たと村長に告げる。
「村長さん!お客さんだよ!」
「あぁ、アランか……。何か用か?」
アランに呼ばれて扉を開けて姿を見せた老人がアランを見た後、その後に続くマリーやジャンヌ・オルタに視線をやる。
「旅の御方かね?ようこそ私達の村へ。私はこの村の長を務めますボーラムという。アランから聞いたかは分からないがこの一帯の森では怪物が出る。村の周囲の森には近づかない方がよろしい」
マリーは村長のボーラムに自分達がこの村を訪れた理由を説明する。
「怪物が出る事は承知しています。ですが私たちはそれでも構いません。私達がここに来た理由はその怪物を討伐する事ですから」
マリーの言葉にボーラムは驚く。流石にカルデアという組織から来たとは教えなかったものの、荒事には慣れているとだけ伝えた。
「しかし……、あの森には怪物が住んでいるのですぞ?」
「だからその為に私たちが来たのよ。心配しなくても大丈夫。私達ならすぐに解決してあげるわ」
ボーラムは2人の目を見るが、嘘を言っているようには見えなかった。
「心配いらん。俺達がその怪物を仕留めた暁には、ソイツの死体を剥製にでもして村に飾るといいぜ」
ボーラムは3人の目を見て、何かを感じ取ったのか小さく頷いた。
分かりました……。そこまで言うのであればお任せします」
こうしてマリー達は村長の許可を貰い、村周辺の森で起きている怪物騒ぎの解決に乗り出したのだった。3人はアランに案内され、村の中にある空き家を宿として利用させてもらう事になった。怪物の襲撃によって村を捨てて夜逃げする者がいたので、その逃げ出した村人が住んでいた空き家を宿として使えるようにしてくれたのだ。空き家の周囲にも畑があり、自給自足は可能なようだ。この時代のフランス農村部にある平均的な家なのでホテルの部屋のような贅沢さとは程遠いが野宿するよりは遥かにマシだ。
「とりあえず寝床は確保できたわね」
ジャンヌ・オルタは部屋にあったベッドに身を預ける。
「はぁぁ〜。やっとゆっくり休めるわ……」
「随分とお疲れみたいね」
マリーとパニッシャーも空いているベッドに座って一息つく事にした。
「そりゃそうよ、あんな森の中で野宿するよりはちゃんとした家の方が疲れも取れるに決まってるもの」
特異点の任務では野宿する事は珍しくないそうだが、やはりキチンとした寝床や部屋があるのは大きい。サーヴァントならまだしもマスターである藤丸は人間なので野宿は堪える筈だ。最も、多くの任務を経験しているからか既に慣れていそうではあるが……。そして問題は村の人間を襲う怪物の事だ。怪物の正体に関してはアランの話を聞いてもあまり分からない。女子供を重点的に狙う大型の獣という以外の情報が少なすぎる。ハッキリと姿を見れた者がいないのも関係している。そんな怪物の情報を集めるべく通信機を用いてカルデアのダ・ヴィンチへと連絡をする事にした。
「ダ・ヴィンチ、聞こえる~?今私とマリー、駄々っ子マスターちゃんが活動拠点となる村に来た所なんだけど……」
ジャンヌ・オルタは自分達が聞いた村を襲う怪物についての情報を通信機越しにダ・ヴィンチに伝えた。
『そうか、情報ありがとう。君たちがいる特異点の年代は1767年のフランスのジェヴォーダン地方だ。その地方の村で村民を襲う怪物といえば正体は丸わかりだよ。その怪物の正体は……"ジェヴォーダンの獣"だ』
─────ジェヴォーダンの獣。
18世紀のフランスのジェヴォーダン地方を震撼させた獣だ。1764年から1767年の間に活動していたとされている。その獣の正体は現代でもよく分かっておらず、一般的にはオオカミに似た動物だとされている。ジェヴォーダンの獣によって犠牲になった人間は88名から130名にもなるという。ジェヴォーダンの獣の特徴として16歳以下の少年少女や成人女性を主に狙うとされており、犠牲者の殆どは女子供なのだ
「そのジェヴォーダンの獣ってのも、どうせオオカミでしょ?」
『ハッキリとオオカミと分かっているわけじゃにけど、オオカミに似た獣ってだけしか分かっていないんだ』
「何よ、ハッキリしないのね」
『すまない。だが、この獣は人間にとって害悪な存在なのは確かなようだ』
「ま、それは見れば分かるか。で?そのジェヴォーダンの獣を退治する事が今回の任務なのかしら?」
この特異点における異変は間違いなく"ジェヴォーダンの獣"だろう。しかし史実におけるジェヴォーダンの獣は1767年に一人の猟師によって退治され、それ以降はピタリと被害が収まったという。特異点というからにはジェヴォーダンの獣が1767年以降も生き延び、人々に大きな被害を及ぼすというのだろうか?
『情報が少なすぎて何とも言い難いが、少なくとも退治すべき対象なのは間違いないよ』
「面白くなってきたわね。想像しただけでもゾクゾクしてくるじゃない……」
通信越しでも伝わる程の邪悪な笑みを浮かべながら話すジャンヌ・オルタを見てパニッシャーは小さく息をつく。大袈裟な反応などしなくとも怪物という存在ぐらいは当たり前に見てきているだろうに。
「そういえば以前伯爵がカルデアでジェヴォーダンの獣について何か言っていたような気がするわ……」
「伯爵?」
「巌窟王、エドモン・ダンテスの事よ。以前食堂でサンソンやサリエリ先生達との会話でジェヴォーダンの獣の話題になった事があるの。確かその時に伯爵が"ジェヴォーダンの獣は俺が退治した"と言っていたような……」
「マジで?アイツ、そんな事言ってたの?それじゃアイツが退治したのかしら……?」
巌窟王がジェヴォーダンの獣と関係していた事はジャンヌ・オルタも初耳である。同じフランスであるにしてもエドモン・ダンテスがジェヴォーダンの獣を倒した逸話など聞いた事がない。しかも年代的にもズレている。ジェヴォーダンの獣が暴れていた時期はまだフランスの国王がルイ15世だった頃だ。フランス革命のスタートとされるバスティーユ襲撃からは実に20年以上も開きがある。1767年の時点から"モンテ・クリスト伯爵"として活動していたのだろうか?
「それは分からないわ。ただ、何らかの形でジェヴォーダンの獣に関わっていたのは確かよ」
「あのマスターちゃんの影に隠れているアイツががジェヴォーダンの獣をねぇ……。ま、どっちにしろこの特異点で暴れてる怪物ってヤツと関係あるのは間違いないわね」
「……確かにそうだな。ダ・ヴィンチ、その巌窟王とは話はできるか?ジェヴォーダンの獣の情報を持っているのなら是非話は聞いてみたい」
『彼を呼びたいのは山々なんだけど、巌窟王は最近姿を見せないんだよね。彼、妖精國から帰還してからずっと見ていない気がする」
通信機越しにダ・ヴィンチが申し訳なさそうな表情で言う。普段の巌窟王はマスターである藤丸の影の中に潜っており、必要時以外は姿を見せない。
「肝心な時に使えないわね、アイツ」
ジャンヌ・オルタは不機嫌そうに呟く。
「仕方ない、こっちで村を襲ってる怪物についての情報を集めよう。ジェヴォーダンの獣のニセモンかそっくりさんの可能性だってあるしな」
「私も王宮で暮らしていた頃にジェヴォーダンの獣について聞いた事はあるわ。前国王であるルイ15世がジェヴォーダンの獣の事件を聞きつけ、何度か猟師を派遣したけど失敗に終わって、自分の護衛であるフランソワ・アントワーヌを送り込んで彼はジェヴォーダンの獣とおぼしき大きなオオカミを退治したの。国王陛下はアントワーヌに褒賞を与えたのだけど……」
しかしアントワーヌが大きなオオカミを討伐した2カ月後には再び獣による被害が起きるようになったのだ。
「つまり、あのマスターちゃんの影が言ってる事は嘘だったって事?」
「……お前は何をどう間違えたらフランソワ・アントワーヌが巌窟王だと思うんだ」
流石にパニッシャーもジャンヌ・オルタのトンでも理論にはツッコミを入れずにはいられなかた。ジャンヌ・オルタは不満げに頰を膨らませる。
「何よ、じゃあ他に誰がいるって言うの?」
「続きがあるのよ。大きなオオカミが討伐されたことによってジェヴォーダンの獣は既に退治されたと国王陛下が発表してしまったにも関わらず、襲撃が再開された。これじゃ勘違いで別の獣を討伐した事になっちゃうし、面子が丸つぶれになる。それで国に頼れなくなった地元の人がジェヴォーダンの獣に対処しなければならなくなった。そして1767年6月19日、地元の猟師であるジャン・シャステルという方がジェヴォーダンの獣らしき怪物のようなオオカミを討伐して以降、パッタリと被害は報告されなくなった」
「んじゃその猟師の男が巌窟王ってことかしら?身分を隠してジェヴォーダンの獣を討伐するなんてまるでモンテ・クリスト伯ね」
「どうかしら?でも、もしその猟師さんが巌窟王さんならどうして今まで姿を見せなかったのかしら?獣による被害や犠牲が多くなる前に出てきてもいいと思うのだけど……」
「さあねぇ。どうせロクな理由じゃないと思うけど……」
パニッシャーは2人の会話を聞きながら周囲を見回す。確かに怪物がジェヴォーダンの獣だという確証は無い。だが、このジェヴォーダンの獣が仮に本物の怪物だった場合、その被害は尋常ではない。
「ま、どっちにしろ退治すれば同じ事よ。現にここの村の人たちが大勢犠牲になってるからね」
怪物の正体がジェヴォーダンの獣だろうが無関係な魔獣だろうが関係無い。特異点を修復して人々を救い出す事がカルデアの役割だ。パニッシャー達3人はまず村の構造などを下見する事にした。予め怪物が襲撃してきそうなポイントを洗い出し、それを利用して怪物を誘い出す。3人が家屋の外に出てみると村人たちが家の外に出ているのが見える。訪れた旅人が怪物の退治をしてくれると聞いて出てきてくれたのだろうか。村の人々はパニッシャー達に視線を送る。期待、不安、疑念、恐怖、様々な視線が3人に向けられる。このような田舎では余所者は警戒されるもので、一概に歓迎されているわけではないようだ。
「ちょっと、ジロジロ見ないでくれる?見世物じゃないんだけど」
ジャンヌ・オルタの一言に村人達の視線は更に厳しくなる。その反応を見てマリーが慌ててフォローする。
「ごめんなさいね、皆さん。私たちも決して悪気があるわけじゃないの。ただ、怪物を退治しに来ただけなの……」
生前は王妃であったからか、上品な物腰でマリーは村人たちに語りかける。すると村人達の間にどよめきが広がった。
「あの怪物を退治してくれるのか?ボーラムが言っていた事は本当だったんだ!」
「そうよ、この私が来たからにはもう安心なさい」
村人たちの不安そうな声にジャンヌ・オルタは自信満々な笑みを浮かべて答える。怪物の恐怖に怯えていた村人たちにとっては藁にも縋りたい気持ちなのだろう。
「ええ、安心して頂戴。私達が来たからにはもう大丈夫よ」
ジャンヌ・オルタとは違い、マリーは優しく微笑みながら村人たちに語りかける。すると村人達の不安そうな様子も幾分か和らいだように見えた。マリーとジャンヌ・オルタ、パニッシャーは村人達に簡単に自己紹介して自分の名前を明かした。すると一人の村人が驚いたような顔でマリーとジャンヌを見る。
「マリーとジャンヌ……?「ジェヴォーダンの乙女」のマリー=ジャンヌ・バレとは違うのか……?」
聞くところによればジェヴォーダンの獣を撃退した女性がおり、彼女の名前がマリー=ジャンヌ・バレだという。これは何かの偶然か、それとも……。
「まぁ、どっちにしろこの特異点で暴れてる怪物を倒さなきゃならねぇんだ。さっさと片付けちまおうぜ」
「そうね、アンタの言う通りだわ。さっさと村民相手にイキってる怪物を倒しちゃいましょ」
3人は村人達から怪物が襲撃してくるポイントを聞き出す事にした。怪物を目撃した村人は意外に多く彼等の証言と過去の襲撃地点を洗い出しつつ上手く誘い込む作戦を取る事にした。
「……」
「どうした王妃さん?」
「いえ、気のせいみたい。でも纏わりつくような視線を感じたから……」
マリーとジャンヌ・オルタは普通の女性とは比較にならない程の端麗な容姿を持つ美女である。そんな美女2人が田舎の農村部に来ればよからぬ視線を送る輩もいるだろう。ましてマリーはフランス王妃としての気品と美しさを併せ持つ女性である。そんな彼女に欲望の炎を滾らせた視線をぶつける数名の村の男たちがいた。突如として牧歌的かつ閉鎖的な農村へとやってきた輝くような美貌を持つ美女マリーへの歪んだ劣情の視線が村を歩く彼女の背中に注がれていた……。
ジェヴォーダンの獣がまさかイドで出て来るとは思いませんでしたとも……(お陰で展開を変えざるを得なくなった)