パニッシャーが人類最後のマスターと共に戦うようです   作:ドレッジキング

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ついに黒いローブの男の正体判明。そしてマーベルキャラの参戦。


番外編⑬ ジェヴォーダンの獣⑦

マリーは、魔術師から突きつけられた紙切れを見つめていた。彼の怒りを償うには、自分の命では足りないと告げられ、絶望に打ちひしがれそうになる。だが、諦めるわけにはいかない。何としても、彼らの心の痛みを和らげる方法を見つけなければ。そう決意を新たにしたその時、不意に魔術師が部屋を出ていくのが見えた。何か別の手段を思いついたのだろうか。戸惑いを隠せないまま、マリーは彼の帰りを待つ。しばらくして、再び部屋に戻ってきた魔術師の後ろには、見知らぬ男の姿があった。赤黒い肌に、漆黒の長髪を背中に垂らしている。だが、何よりも印象的だったのは、その瞳だ。瞳孔の欠けた、真っ白な眼球が、不気味な光を放っていた。魔術師は、その男を連れてくると、またしても紙に文字を書き連ねる。出来上がった紙切れを、マリーに差し出す。そこには、『ムッシュ・パリス』という名が記されていた。

 

(ムッシュ・パリス……?一体、何者なの……?)

 

疑問を抱きながらも、マリーはその男を見つめ返す。すると、彼は一言も発することなく、ゆっくりとマリーに歩み寄ってきた。次の瞬間、信じられない光景が目の前で繰り広げられる。ムッシュ・パリスと呼ばれた男が、不意にマリーの頭に手を伸ばしてきたのだ。力強く彼女の頭を掴むと、そのままぐっと引き寄せる。

 

「きゃっ……!?い、一体何を……!?」

 

激しい头痛に襲われ、マリーは悲鳴を上げた。頭蓋骨が割れるような、激しい苦痛が全身を貫いていく。まるで、脳髄を直接引き千切られているかのような、耐え難い苦しみ。そして、その苦痛と共に、マリーの脳裏に、次々と景色が浮かび上がってくる。

 

奴隷として、過酷な労働を強いられる姿。食べ物にも事欠き、飢えに苛まれる惨状。鞭打たれ、殴られ、踏みにじられる非人道的な扱い。それは、紛れもなく、魔術師が味わってきた地獄の日々だった。ムッシュ・パリスは、彼の記憶を、そのままマリーに叩き込んでいるのだ。テレパシーに似た力で、直接脳に情報を流し込む。それも、ただ見聞きするだけでなく、内側から追体験させるように。

 

「あ、ああ……っ!も、もう、許して……!お願い……っ!」

 

断末魔のような絶叫を上げながら、マリーは全身を震わせる。魔術師が受けた苦痛が、リアルに脳裏に焼き付いていく。この世の地獄とはこういうものなのかと、そう思わずにはいられない。食べるものにも事欠き、水すら満足に飲めない。過酷な労働に明け暮れ、少しでも手を抜けば、鞭が容赦なく襲ってくる。家畜同然の扱いを受け、自由も尊厳も奪われる。死すら許されない、絶望的な日々。それを、まるで自分自身の体験であるかのように味わわされるのだ。

 

「う、あぁ……っ!ああっ……!」

 

あまりの苦痛に、マリーは涙を流しながら悶絶する。そんな彼女の様子を、魔術師は相変わらず楽しげに眺めていた。相変わらず言葉を発しないものの、その表情は明らかに愉悦を感じているのが分かる。やがて、ひとしきり楽しんだところで、魔術師はゆっくりと右手を上げた。それと同時に、頭を掴んでいたムッシュ・パリの手の力が緩む。解放されたことで、ようやく激痛から解放されたマリーだったが、その顔色は蒼白になっていた。全身にびっしょりと冷や汗をかき、呼吸も荒い。肩が激しく上下しており、今にも倒れてしまいそうだ。しかし両手首の鎖のせいで地面に倒れ伏すことはない。そして再び魔術師が紙に文字を書いてそれを息切れしているマリーに見せつける。そこには、彼女の心を揺さぶる、恐ろしい言葉が記されていた。

 

『お前が一番直視したくない光景を見せつけてやる』

 

その一文を読んだ瞬間、マリーの胸に、嫌な予感が込み上げてくる。一体、何を見せられるというのだろう。自分の心の奥底に、封じ込めてきた記憶の欠片が、今にも引き裂かれそうな気がした。そんな彼女の戸惑いを尻目に、魔術師はムッシュ・パリスに向かって、また紙に文字を書き連ねる。無言のまま、それを差し出す。恐らくは、何らかの指示を与えているのだろう。次の瞬間、ムッシュ・パリスが再びマリーに近づいてくる。先程と同じように、力強くその頭を掴むと、また例の奇妙な力を送り込んでくる。テレパシーのような、魂を貫く衝撃。

 

「ぁ……っ!」

 

激痛に悲鳴を上げながらも、マリーは意識の糸を手放さないよう必死に耐える。だが、その意識が途切れる寸前、突如として周囲の景色が一変した。

 

「え……?ここは……」

 

見慣れない場所に立たされ、マリーは困惑する。先程までの部屋とは明らかに違う。しかも、身体を縛っていた鎖からも解放されているようだ。相変わらず霊衣は纏えないままだが、両手両足の自由が利くだけでも随分違う。

 

「ここは一体どこかしら……?それに、あの人たちはどこへ行ったのかしら……?」

 

辺りを見回してみるけれど、人影はない。どうやら自分一人だけのようだ。だが、次の瞬間自分の視界に飛び込んできた人影に、マリーは言葉を失った。

 

「……シャルル……!?」

 

そこにいたのは、紛れもなく彼女の愛息、ルイ・シャルルその人だったのだ。あまりの驚きに、マリーは思わず駆け寄ろうとする。しかし、その足は不意に止まった。ルイ・シャルルの前に立つ、見知らぬ男の存在に気づいたからだ。そして、次の瞬間、信じられない光景が繰り広げられる。

 

「……っ!」

 

男が、容赦なくルイ・シャルルの頬を打ったのだ。まだあどけなさの残る顔が、無惨に歪む。

 

「声に出して読め!この革命教育の本をな!」

 

怒鳴り声と共に、男はルイ・シャルルに本を突きつける。revolutionと題されたその本は、一目で革命思想を説くものだと分かった。

 

「ひっ……ぅ……」

 

頬を押さえながら、ルイ・シャルルは震える手でその本を受け取る。そして、涙を堪えつつ、おぼつかない声で読み上げ始めた。

 

「王家など……もはや……必要ない……。民衆こそが……真の支配者に……ふさわしい……」

 

その言葉の一つ一つが、マリーの胸に突き刺さる。我が子の口から、王家を否定する言葉が次々と紡がれていく。

 

「……シャルル……!いや……やめて……!」

 

悲痛な叫び声を上げるが、ルイ・シャルルには届かない。いや、届けてはならないのだ。これは、あくまでも過去の光景。自分が処刑された後の、息子の境遇を映し出したもの。マリーは知っていた。自身が処刑された後、ルイ・シャルルがどのような扱いを受けたのかを。だが、それを直接目の当たりにするのは、あまりにも残酷だった。まだ幼い我が子が、革命家たちに洗脳されていく様を、見せつけられるのは。

 

「あ……ぁ……!も、もういや……っ!これ以上……見たくない……!」

 

涙を流しながら、マリーは必死に目を背ける。だが、ムッシュ・パリスの力は、容赦なくその光景を脳裏に焼き付ける。息子が受けた屈辱を、母親の立場から味わわされるのだ。

 

「や……め……て……っ!」

 

絶叫にも似た嗚咽を漏らしながら、マリーはその場に崩れ落ちた。全身を震わせ、涙に濡れそぼつ姿。魂の最奥にあった、最も脆い部分を抉られたような錯覚すら覚える。

 

「ぁ……ぁ……っ!」

 

意識が、ゆっくりと遠のいていく。だが、最後の最後まで、マリーの脳裏からは、息子の姿が離れることはなかった。革命の犠牲となり、自らのアイデンティティを否定され続ける、哀れな王子の姿が。魔術師の怒りは、マリーの心を砕くほどの復讐となって降りかかったのだ。彼女を待ち受ける運命は、まだまだ続くのだろうか。償いと贖罪の先に見えるものは、絶望だけなのだろうか。答えの見えない闇の中で、マリーの意識は、静かに沈んでいった。

 

 

 

 

 

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ジャックとトマが、パニッシャーとジャンヌ・オルタ、そしてアランや村長を始めとする村人たちの前に姿を現した時、彼らの表情は青ざめ、恐怖に震えていた。ゆっくりと、おどおどとした様子で、二人はマリーが黒いローブの男に連れ去られたことを説明し始める。マリーが囚われの身となったのは、他でもない、自分たちのせいだったのだ。彼女を覗き見していたところを魔物に見つかり、人質に取られそうになったジャックとトマを、マリーは身代わりとなることで救ったのだという。その事実を聞いた瞬間、パニッシャーとジャンヌ・オルタは怒りの表情で二人を睨む。ジャンヌ・オルタは二人を「女の敵」呼ばわりし、憤怒のあまり、無言のまま彼らの頬を力任せに殴りつける。一方、パニッシャーはそれでは収まりがつかないとばかりに、凄まじい剣幕で二人に詰め寄ると、容赦ない暴力を振るい始めた。ジャックとトマは、その凄まじい拳骨の前に為す術もなく、ただただ蹂躙されるがまま。

 

「ぐはっ……!」

 

「ひぃっ……許してくだ……!」

 

断末魔のような悲鳴を上げる二人を見下ろしながら、パニッシャーはさらに激しく拳を振るう。

 

「お前等のせいで王妃さんは自分を身代わりにする羽目になったんだぞ……!」

 

激情のままに叫びながら、ひたすら殴り続ける。その様子はまるで、鬱積した感情を晴らすためだけに動いているようだった。

 

「待って、それ以上やったら死んでしまうわよ」

 

流石に見てられなくなったのか、ジャンヌ・オルタが制止に入る。確かにその通りだろう。このまま続けていたら殺してしまうところだ。

 

「放せ……!こいつらが馬鹿な真似をしなけりゃ王妃さんは攫われなかったんだ!」

 

「だからって、殺しちゃダメでしょ!マリーだって、そんなことは望んでないはずよ!」

 

激しく言い争う二人。だが、その眼差しには、マリーへの共通の想いが宿っていた。

 

村人たちもまた、そんな二人の一部始終を、血相を変えて見守っている。誰もが、自分たちを救ってくれたマリーの安否を、心から案じているのだ。ようやく怒りが収まったのか、パニッシャーは大きく息をつくと、ジャックとトマを解放する。

 

「……悪かった。だが、この怒りの意味は理解しろ」

 

そう言い捨てると、彼は二人から視線を逸らした。地面に倒れ込んだまま、ジャックとトマは息も絶え絶えに、震える声で詫びを入れる。

 

「ご……ごめんなさい……本当に……申し訳ない……」

 

「僕たちが……悪かったんです……どうか……許して……ください……」

 

その哀れな姿に、ジャンヌ・オルタも怒りを押し殺すように、目を閉じる。

 

「……反省してるみたいだし、まあ、これくらいにしといてあげる。でも、次はないからね」

 

そう言って、彼女は二人に背を向けた。こうして、事の顛末は明らかになった。だが、それでもなお、マリーの身に何が起きたのかは、謎に包まれたままだ。

ジャックとトマの証言によれば、黒いローブの男とムッシュ・パリスと名乗る男に連れ去られたというが、その行方は誰も知らない。不安と焦燥が、村の空気を支配していく。マリーを救出しなければならない。だが、それには、まず彼女の居場所を突き止めることが肝要だ。パニッシャーとジャンヌ・オルタは、アランや村長と共に、作戦会議を開くことを決めた。今はただ、マリーの無事を祈るしかない。そして、彼女を助けるために、全力を尽くすしかないのだ。

 

パニッシャーとジャンヌ・オルタは、マリーが攫われたという事実に驚愕しつつ、とにかく今は彼女の救出に全力を尽くさねばならないと決意を新たにしていた。とりあえず状況を正確に把握するためにも、カルデアのダ・ヴィンチに報告を入れる必要がある。二人は村の集会場を後にすると、その場から少し離れた森の中へと足を踏み入れた。暗い表情のまま、パニッシャーは通信機を取り出し、ダ・ヴィンチとの回線を開く。ジャンヌ・オルタもまた、いつになく真剣な眼差しを通信機に向けている。

 

「ダ・ヴィンチ、聞こえるか?大変な事になった。王妃さんが……マリーが攫われたんだ」

 

パニッシャーの声は、それだけで事態の深刻さを物語っていた。

 

『え……?マリーが攫われただって……?一体どういうことなんだい?』

 

通信画面に映し出されたダ・ヴィンチの表情が、驚愕に歪む。

 

ジャンヌ・オルタが続けて説明を始めた。

 

「あのバカ男ども……ジャックとトマのせいなのよ。マリーを覗き見してたところを、魔物に見つかって……マリーが身代わりになったんだって」

 

その言葉を聞いて、ダ・ヴィンチは絶句する。

 

『なるほど……事情は分かったよ。で、犯人の手がかりは?』

 

「ジャックとトマの証言では、黒いローブを纏った男に連れ去られたらしい。多分、ジェヴォーダンの獣を操る魔術師なんだろうが……アイツの居場所が分からないんだ」

 

パニッシャーの言葉に、ダ・ヴィンチは難しい表情を浮かべる。敵の拠点が不明では、救出作戦も立てようがない。

 

「ダ・ヴィンチ、カルデアからの増援は頼めるか?この特異点の時代なら、レイシフト適正を持つフランスのサーヴァントは複数いるんだろう?」

 

パニッシャーの提案に、ダ・ヴィンチは一瞬考え込むような素振りを見せたが、すぐに答えを返した。

 

『そうだね、少し時間はかかるけど、何人か送れるはずだ。状況を見極めて、ベストなメンバーを選抜するから、少し待っていてくれ』

 

その言葉に、パニッシャーとジャンヌ・オルタは小さく頷く。今は、できる限りの戦力を集める必要がある。

 

『とにかく、君たちは無茶はしないでくれ。マリーを助けるためにも、まずは冷静に状況を分析するのが先決だからね』

 

ダ・ヴィンチの忠告を受け、二人は通信を切った。

森の静寂の中、パニッシャーとジャンヌ・オルタは無言で見つめ合う。先程までの怒りは影を潜め、代わりに深い憂いの色が二人の瞳に宿っている。

 

「……どうする?アイツらを探し出す手がかりすら、今のところないぞ」

 

「言われなくても分かってるわよ。でも、このまま指をくわえて待ってるしかないの?」

 

「いや、待つだけじゃない。俺たちにできる事はある」

 

そう言って、パニッシャーは村の方角に顔を向けた。

 

「ジャック、トマ、そして村の奴らにもう一度話を聞く。何か見落としている点があるかもしれん」

 

ジャンヌ・オルタも同意するように頷く。

 

「それから、獣が出没した場所も調べ直す必要がある。魔術師の痕跡を、何か掴めるかもしれないし」

 

「ああ、手を尽くさないとな。王妃さんの為にも……いや、マリーの為にも」

 

二人は互いの目を見つめ、共に決意を新たにした。増援が到着するまでの時間を、できる限り有効に使わねばならない。マリーの命がかかっているのだ。一刻の猶予もない。パニッシャーとジャンヌ・オルタは、再びマリーを奪われた悔しさをバネに、救出へと動き出す。集会場に舞い戻った二人を、不安げな面持ちの村人たちが出迎えた。誰もが、行方不明になったマリーの事を案じているのだろう。パニッシャーは、もう一度ジャックとトマから事情を聴取し始める。

 

 

ジャンヌ・オルタは、アランや村長の協力を得て、村の地図を広げた。獣の出没地点に印を付けながら、魔術師の拠点を推測する。マリー救出のカギは、そこにあるはずだ。今はただ、希望を信じて行動するしかない。しかし、彼らが得られた情報は絶望的なものだった。誰一人として、獣の住処を知る者がいなかったのだ。村人たちは何度か討伐隊を組んで森に入ったものの、獣の姿はおろか、その痕跡すら見つけられなかったという。茫然自失の表情を浮かべるパニッシャーとジャンヌ・オルタ。マリーを救うための手がかりが、まるで霧散してしまったかのようだ。絶望感が二人の心を覆い尽くそうとしていた。

 

 

 

そのときだった。森の奥から、轟くような咆哮が響き渡ったのだ。まるで地獄の底から響くような、獣の唸り声。その不気味な音色に、村人たちは恐怖に青ざめる。また村が襲撃されるのではないかと、パニックに陥る者もいた。

 

だが、その咆哮は一度きりではなかった。断続的に、まるで何かを呼び寄せるかのように、森から獣の声が聞こえてくる。しかし、肝心の獣の姿は見えない。村に向かって来る気配もない。不審に思ったパニッシャーとジャンヌ・オルタは、顔を見合わせた。

 

「どういうつもりだ……?まるで、俺たちを挑発してるようにも聞こえるが……」

「ええ、私もそう思うわ。ひょっとしたら、あの声のする方角に、マリーがいるのかもしれない」

 

ジャンヌ・オルタの言葉に、パニッシャーは眉をひそめる。

 

「だとしたら、明らかに罠だな。向こうが誘っているんだとしたら、警戒しないと……」

 

「そうね。でも、警戒しているだけじゃ、何も始まらないわ。向こうが誘っているなら、乗ってやればいいじゃない!」

 

ジャンヌ・オルタは気炎を上げると、迷うことなく森に向かって駆け出した。

 

「ちょ、ちょっと待て!」

 

パニッシャーも慌てて彼女の後を追う。だが、人間の身で英霊の速度に追いつくことは不可能だった。

 

ジャンヌ・オルタはその事実に気づくと、咄嗟にパニッシャーの身体を抱え上げた。

 

「こうしていれば、私と同じスピードでしょ。しっかり掴まってなさい!」

 

そう言って、彼女は更に加速する。191cmの長身に102kgの重量を誇るパニッシャーの巨体を、まるで羽毛のように軽々と抱えながら、ジャンヌ・オルタは森の中を疾走していく。その動きは全く無駄がない。目にも止まらぬスピードで森を駆け抜ける彼女の姿は、まるで風の精霊でもあるかのようだった。木々の間を縫うように、障害物を避けながら、獣の咆哮がした方角へと一直線に進んでいく。その速度は、時速100kmは軽く超えているだろう。猛烈な風圧に晒されながら、パニッシャーは必死に目を開けようとする。だが、あまりの速さに視界がぼやけて、周囲の景色がほとんど見えない。ただ、ジャンヌ・オルタの銀髪だけが、風に舞いながら煌めいているのが分かった。

 

(ったく、人間とサーヴァントの差を思い知らされるぜ……!)

 

内心で舌打ちしながらも、パニッシャーはジャンヌ・オルタの背中にしがみつく。こうして、二人の疾走は続いていく。一分、また一分と、獣の咆哮に近づいていく。やがて、森の奥深くに、怪しげな洞窟の入り口が見えてきた。

 

「あれだわ……!」

 

ジャンヌ・オルタが叫ぶ。確かに、咆哮の響きは、あの洞窟から聞こえてくるようだ。

「……着いたな」

 

パニッシャーも身構える。ジャンヌ・オルタは洞窟の前で速度を緩め、パニッシャーを下ろした。二人は、洞窟の入り口を見つめる。そこには、濃密な闇が広がっているだけだった。だが、その奥から、再び獣の唸り声が響いてくる。

 

「行くわよ、アンタ」

 

「ああ、覚悟は決まってる」

 

互いに目を合わせ、頷き合う二人。そして、ついに踏み出した。運命の対決の地となる、闇の洞窟へと。そこには、マリーを奪った魔術師が待ち受けているはずだ。

パニッシャーとジャンヌ・オルタは、洞窟の入り口に辿り着くと、そこに広がる暗闇を前に一瞬の躊躇を覚えた。だが、マリーを救出するためには、この闇の中に踏み込まねばならない。二人は意を決して、洞窟の奥へと足を踏み入れる。洞窟内は、想像以上に広大で、どこまでも続く闇に包まれていた。

 

 

足下の地面は不安定で、時折響く水滴の音が、不気味に洞窟内に反響する。パニッシャーとジャンヌ・オルタは、お互いの存在を確認するように、わずかに目を合わせた。そして、洞窟の奥から、徐々に足音が近づいてくるのを感じる。重々しく、獣のような足取り。次第に、その姿が闇の中から浮かび上がってくる。黒いローブに身を包んだ男と、その傍らに立つ巨大な獣。二人の前に立ちはだかる、脅威の存在。その姿を見るだけで、背筋に冷たいものが走る。黒いローブの男は、面容を隠したまま、じっとパニッシャーたちを見据えている。その視線の先には、冷たい殺意が宿っているようだった。一方の獣は、まるで狩りの獲物を見るかのような、鋭い眼光を二人に向けている。あの凄まじい咆哮の主は、間違いなくこの獣なのだろう。ジャンヌ・オルタは、その獣を見るなり、挑発するように言葉を投げかける。

 

「へえ、また会ったわね。リベンジマッチでも挑んでみる?」

 

先日、村を襲撃した獣を追い払ったのは、他ならぬジャンヌ・オルタだった。その時の恨みを晴らすかのように、獣は低く唸り声を上げる。獣の咆哮が洞窟内に木霊し、その音は二人の鼓膜を劈くようだった。緊張感が張り詰める中、突如として男の声が洞窟内に響き渡った。

 

『我等のアジトへようこそ』

 

その声にパニッシャーとジャンヌ・オルタは身構える。明らかに目の前の黒いローブの男が発している言葉ではない。洞窟全体から響くような奇妙な声だった。

???:『お初にお目にかかります、お二方とも。あなた方を歓迎しましょう』

その口調は紳士的ではあるものの、どこか人を見下しているような響きを孕んでいた。声だけが聞こえ、姿は見えない。パニッシャーとジャンヌ・オルタは、警戒しながらもその声の主を探る。

 

「そこにいるのは、誰だ……!」

 

「姿を見せなさい、卑怯者!」

 

二人の問いかけに、声の主は含み笑いを漏らす。

 

『私めに名など、ございません。しかし、あえて名乗るのであれば……『伯爵』とでも言いましょうか』

 

その言葉に、パニッシャーとジャンヌ・オルタは眉をひそめる。伯爵という肩書きは、彼らにとって初耳だった。だが、それ以上に気になったのは、男が放つ不穏な雰囲気だ。声のトーンからは、底知れぬ深淵を覗き込むような、不気味な印象を受ける。声の主は黒いローブの男の仲間なのだろうか?そう思っていると再び声が響いてきた。

 

『マリー王妃殿下であれば無事でございます。丁重にもてなしております故、ご安心召されよ』

 

口調こそ慇懃ではあるものの、どこか信用に置けない言葉だった。

 

「ふざけないで!すぐにマリーを返しなさい!さもないと……!」

 

激昂しながら剣を構えるジャンヌ・オルタだったが、そんな彼女の肩をパニッシャーの手が押さえる。驚く彼女に、パニッシャーは静かに首を横に振った。その表情には、静かな落ち着きがあった。それを見たジャンヌ・オルタは、冷静さを取り戻していく。マリーは人質に取られており下手は動きはできないのだ。

 

『あぁ、そうだ。あなた方の目の前にいる黒いローブの魔術師ですが……私めは彼の"スポンサー"のような立場でして……』

 

その言葉を聞いた途端、パニッシャーの表情が険しくなる。やはり、この男はただの魔術師ではなかったという事か。ならば尚更、この男を倒す事でマリーを助けられる可能性が高くなるというものだ。

 

???:『実を言えばこの特異点も、私めが用意したものでございます』

その言葉に、パニッシャーとジャンヌ・オルタは驚きを隠せない。まさか、この特異点の裏に、伯爵と呼ばれる存在が関わっているとは。二人の脳裏には、次から次へと疑問が浮かんでくる。だが、その疑問を口にする間もなく、伯爵は続ける。

『ええ、そのとおり。この特異点は、カルデアを誘い出すための、我々が仕掛けたゲームのようなものです』

 

「ゲーム……だと?」

 

パニッシャーが低い声で問い返す。その言葉の意味を計りかねながら、伯爵の声を聞く。

 

『そう、ゲームです。お二方を、この場に招き入れるためのね。そして、我等の目的のために、こうして立ちはだかっているのです』

 

「目的だと?何のためにそんなことを……」

 

ジャンヌ・オルタが、怒りを滲ませながら詰め寄る。だが、その問いかけに答えるように、伯爵の口調が、一気に冷たいものに変わった。

 

『我等の目的は、お二方には関係のないこと。ただ、この特異点で死んでいただければなりません』

 

その言葉に、パニッシャーとジャンヌ・オルタは絶句する。死ぬだと?何を言っているのか、理解に苦しむ。だが、伯爵は動じた様子もない。むしろ、愉しげな調子で言葉を続ける。

 

『そう怒らないでください。死は、等しく全ての者に訪れるもの。英霊とて例外ではありません』

 

「ふざけるな!こんな茶番に付き合ってられるか!」

 

パニッシャーが、拳を握りしめながら叫ぶ。その声は、洞窟内に木霊し、闇に吸い込まれていく。

 

「そうよ!こんなの認めないわ!王妃を返しなさい!」

 

ジャンヌ・オルタも、怒りに任せて言葉を投げつける。だが、伯爵は涼しい顔のまま、二人を見下ろしているかのような口調で告げる。

 

『お言葉ですが、私めは王妃殿下をお返しするつもりはございません。彼女は、我等の大事なゲストですから』

 

「ゲストだと……?何の話だ……」

 

伯爵の言葉に、パニッシャーが困惑の色を浮かべる。一体、彼は何を企んでいるというのか。その真意が、まるで闇に包まれているかのようだ。

『そう眉をひそめることはありません。王妃殿下は、現在私めの庇護下にあるのです。ですので、お二方には彼女をお渡しできない、というわけです』

 

「ふざけないでよ!どういう理屈よ、それ!」

 

ジャンヌ・オルタが、怒りに震えながら食ってかかる。だが、伯爵は面白そうに笑うばかりだ。

 

「……ふざけるな。俺たちを、なめるのも良い加減にしろ」

 

「そうよ。こっちだって、本気で怒ってるんだから」

 

二人の凄まじい怒気が、洞窟内に充満する。だが、伯爵は動じることなく、最後の言葉を告げる。

 

『怒るも怒らないも、ご随意に。ですが、私めの意思は変わりません。さあ、ゲームの始まりですよ、お二方』

 

そう告げると、伯爵の声は闇に吸い込まれるように消えていった。残されたのは、パニッシャーとジャンヌ・オルタ、そして黒いローブの男と獣だけ。

 

「……覚悟は良いか?」

 

「ええ、万全よ。こんな奴ら、蹴散らしてやるわ」

 

二人は、改めて目の前の敵を睨みつける。これが、伯爵の仕組んだゲームなのだとしたら、マリー奪還のためにも、ここで勝たねばならない。極限の闘いは、新たな局面を迎えようとしていた。勝利か、敗北か。二人の運命が、今、天秤に掛けられる。パニッシャーとジャンヌ・オルタは、伯爵の言葉を受けて、一旦洞窟から離れることにした。狭く暗い洞窟では、自由に動くことも難しいだろう。二人は、出口に向かって駆け出す。背後からは、黒いローブの男と獣の足音が聞こえてくる。追ってくる気配は明らかだった。洞窟を抜けた先には、広大な森が広がっていた。だが、そこはまだ夜の闇に包まれており、月明かりがわずかに木々の間から差し込むのみだった。昼間の明るさとは対照的に、森は不気味な静けさに支配されている。その中を、パニッシャーとジャンヌ・オルタは駆け抜けていく。

 

やがて、森の開けた場所に辿り着いた。そこで、パニッシャーとジャンヌ・オルタは振り返る。案の定、黒いローブの男と獣が、ゆっくりと姿を現した。闇夜の中、男の黒い衣装はまるで闇と一体化しているかのようだ。その存在感は、不気味ささえ漂わせている。

 

「……やはり、追ってきたか」

 

パニッシャーが、低い声で呟く。その言葉に、ジャンヌ・オルタも頷いた。

 

「当然よ。こっちを狩るつもりなんでしょ?」

 

彼女の声には、怒りと挑発が混じっている。だが、それでも冷静さを失わない。二人は、改めて目の前の敵を見据える。

 

黒いローブの男は、無言のまま二人を見下ろしている。その視線の先には、殺意のようなものが宿っているように感じられた。一方の獣は、低く唸り声を上げながら、獲物を狙うように身構えている。

 

(こいつらの正体は、いったい……?)

 

パニッシャーの脳裏に、疑問が浮かぶ。黒いローブの男は、果たして単なる魔術師なのだろうか。それとも、もしかすると……。その考えが脳裏をよぎった瞬間、パニッシャーは咄嗟に通信機を取り出した。カルデアとの回線を開く。数秒の沈黙の後、通信機からダ・ヴィンチの声が聞こえてきた。

 

『どうしたんだい、パニッシャー君?』

 

「ダ・ヴィンチ、聞きたいことがある。この黒いローブの男についてだ」

 

パニッシャーは、目の前の敵を見据えながら、問いかける。

 

「こいつが、単なる魔術師である可能性はあるか?それとも、もしかしてサーヴァントの類いなのか?」

 

その質問に、ダ・ヴィンチは一瞬の沈黙を挟んだ後、答える。

 

『うーん、正直なところ、情報が少なすぎて断定は難しいね。確かに、単なる魔術師である可能性は十分にある。だけど、キャスターのサーヴァントである可能性も否定できない』

 

「そうか……」

 

パニッシャーは、小さく息をつく。やはり、はっきりとしたことは分からないようだ。

 

『ただ、一つ言えるとすれば、相当に強力な魔術を使える存在だということだね。君たちの話を聞く限り、並の魔術師ではないように思える』

 

ダ・ヴィンチの言葉は、パニッシャーの直感を裏付けるものだった。黒いローブの男は、やはり危険な存在なのだ。

 

「……分かった。注意しながら、様子を見ることにする」

 

『ええ、くれぐれも油断はしないでくれ。何かあったら、すぐに連絡を』

 

「ああ、わかってる」

 

そう答えると、パニッシャーは通信を切った。

 

「で、どうなの?」

 

隣で聞いていたジャンヌ・オルタが、尋ねる。

 

「はっきりとしたことは分からない。ただ、ダ・ヴィンチの見立てでは、並の魔術師ではないらしい」

 

「……そう。なら、なおさら気を付けないとね」

 

ジャンヌ・オルタも、改めて敵を見据える。先程までの挑発的な態度は影を潜め、真剣な表情に変わっていた。

 

そう、今は敵の出方を伺うしかない。むやみに動けば、カモにされるだけだ。

パニッシャーとジャンヌ・オルタは、黒いローブの男と獣に向かって身構える。

 

「……」

 

「……」

 

互いに、相手の出方を伺っている。闇夜の森に、張り詰めた緊張が支配する。風がわずかに木々を揺らし、葉擦れの音が辺りに響く。それ以外は、まるで時が止まったかのような静寂だった。黒いローブの男は、微動だにしない。まるで、彫像のように。だが、その静けさの中に、恐ろしいほどの力を感じる。一方の獣は、じっと二人を見据えている。その眼光は、獲物を狙う猛獣そのものだ。パニッシャーとジャンヌ・オルタは、息を殺して敵の動きを窺う。パニッシャーとジャンヌ・オルタは、身構えたまま、黒いローブの男と獣に向き合っていた。闇夜の森に、戦いの予感が立ち込める。風がわずかに木々を揺らし、葉擦れの音が辺りに響く。それ以外は、まるで時が止まったかのような静寂だった。だが、その緊張感に満ちた空気を切り裂くように、再び伯爵の声が森に響き渡った。

 

『お二方とも、黒いローブの彼の正体が気になるようですね』

 

その声は、紳士的で丁寧でありながら、どこか愉悦の色を孕んでいた。まるで、この状況を楽しんでいるかのように。 パニッシャーとジャンヌ・オルタは、伯爵の声に一瞬で反応する。だが、声の主は姿を現さない。あくまで、声だけが森に響いているだけだ。

 

『正体を知りたいのなら、教えてあげましょう。ただし、その前に……』

 

そう言うと、伯爵の声は一旦途切れた。そして、次の瞬間、思わぬ出来事が起こる。黒いローブの男が、ゆっくりと自らのフードに手をかけたのだ。

 

「……!」

 

パニッシャーとジャンヌ・オルタは、思わず息を呑む。男は、ゆっくりとフードを取り去っていく。そして、ついにその素顔が明らかになった。

 

「な……!」

 

「まさか……!」

 

二人は、驚きのあまり言葉を失う。そこに現れたのは、アフリカ系の男性の顔だった。黒い肌に、鋭い目つき。まるで、闇夜を具現化したかのような風貌だ。

 

「黒人……だと……?」

 

パニッシャーが、信じられないという口調で呟く。ジャンヌ・オルタも、目を見開いたまま、黒人の男を見つめている。その驚きを、伯爵の声が楽しげに語り続ける。

 

『ふふ、驚かれたようですね』

 

伯爵は、まるで芝居を演じるかのように、言葉を紡いでいく。

 

『──────彼は"サンド=マング"から来たのですよ』

 

「サン=ドマング……だと……?」

 

『彼の功績は、歴史に名を残すほどのもの。英霊の座に連なっても、おかしくはない』

 

伯爵の声は、まるで自慢するかのように響いた。その言葉を聞きながら、パニッシャーは咄嗟に通信機を取り出す。これだけの材料が揃ったのだ。あの魔術師の正体を看破しなければならない。

 

「ダ・ヴィンチ、今の話は聞こえていたか?」

 

『ああ、聞こえているよ。黒人の男性で、サン=ドマング出身……まさか、とは思うけど……』

 

『彼こそがマルーンの指導者にして本来この時代では死んでいる筈の者です』

 

伯爵の言葉を聞いたダ・ヴィンチは全てに合点が行ったようにしてパニッシャーとジャンヌ・オルタに向かって叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────『パニッシャー君!ジャンヌ・オルタ!あの黒いローブの男の正体は"フランソワ・マッカンダル(・・・・・・・・・・・)"だ!』




史実だと黒いローブの男が処刑された時には既にマリーは生まれていたみたいですね。
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