吹き荒ぶ風、奏でる音   作:M-SYA

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お待たせしました。

早いもので本編は10話です。

それではどうぞ。


邂逅、そして約束

「おかえり、湊月くん。大変だったね」

 

 唐さんとの話も終わり、席へ戻ると日向さんが労いの言葉を掛けてくれた。

 

「あぁ、ありがと。にしてもダサい所見せちゃったなぁ……」

 

「そんな事ないよ。それよりもあの子はスクールアイドルをやろうとしてる子だよね? どうして湊月くんに?」

 

 日向さんは先ほど唐さんがいた方角を見ながらそう聞いてきた。唐さんの事を知ってるという事は彼女もあの子からチラシを貰ったのだろう。

 

「まぁ、スクールアイドル部への勧誘もあるけど、もっと別の理由があってなぁ……」

 

「そっか……なんだか湊月くんも大変なことに巻き込まれちゃった感じだね」

 

「そうなんだけど、気になったりしないの? 俺の事について」

 

 かのんとの諍いをあまり公言したくないので詳細の内容を伏せて話したのだが、日向さんはそっかと微笑みながら返事をした。他人の人間関係というのは興味本位で首を突っ込みたくなってしまうのが人間の性だと思っていた。言及されたら面倒だな、と密かに危惧していた俺にとって日向さんの反応は拍子抜けだった。

 

「えっ? まあ、気にならないわけじゃないけど湊月くんが話したくなさそうだったしあんまり追究しようとするのも迷惑かなって思って……」

 

 どうやら日向さんは神妙な表情になっている俺を見て気を遣ってくれたようだ。なんだか申し訳ない気持ちになるが、今だけはこうしてそっとしてくれるのは助かる。

 

「日向さん……。ありがとう」

 

「ふふっ、別にお礼を言われることは無いんだけどな~」

 

「全く……湊月くんはもう少し時と場を考えて下さい」

 

 気遣ってくれた日向さんにお礼を伝えていると恋さんがこっちへ戻ってきて早速彼女からありがたいお叱りを授かった。

 

「いやぁ……つい出ちまってさ……。でも、恋さんあそこで話を無理矢理止めてくれて助かったよ」

 

「な、何故お礼を述べているんですか!?」

 

 突然俺から感謝の言葉を向けられて恋さんは状況が分からず赤面する一方だった。

 

「だって、あのまま話を続けてたら平行線のままで終わらなかったし俺の事情も鑑みて助け舟を出してくれたんでしょ?」

 

「わ、私はそんなつもりで出した覚えはありません! 本当に他の生徒の邪魔になってしまうからこそ指摘しただけであって……!」

 

 恋さんは説得力のある便宜を並べて俺の心情など関係ないと説明するが、彼女のリアクションがその説明を破壊しているので糠に釘を打っているも同然なのだ。だが、恋さんが自分の意見を曲げないことは分かっているので自分が折れる事で話に区切りをつける。

 

「はいはい、そうするよ」

 

「湊月くん、どこか行くの?」

 

 突然荷物も持たずに教室を去ろうとする俺を見て日向さんが声を上げる。

 

「ちょっと気持ちを整理したいから、外で風を浴びてくる」

 

 日向さんと恋さんの方へ笑顔を向けながら答えると俺はそのまま教室を去るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が向かった先は校舎の屋上だった。

 

 ここは放課後となれば利用する人もいないため、一人で考え事をするには十分ではないかと考えた。そして案の定、この場には誰もおらず俺一人で独占できる状態となっていた。

 

「はぁ……昨日のかのんとの事といい……唐さんとのやり取りといい……面倒事が多すぎねえか……」

 

 フェンス越しに運動場を眺めながら、俺は今自分の胸中に渦巻いている感情を素直に吐露した。かのん達と別れてから、誰かの為ではなく自分の為に自分の好きな音楽を突き詰めていきたいと思い、この学校に入った。だが、神様のいたずらなのかかのん達とのしがらみがここにきて復活しているのだ。

 

 接触を図ってきたかのんの事を突き放したは良かったものの唐さんは意外としぶとく、暫くは彼女からの勧誘が後を絶たないだろう。そうなった時にどうやって切り抜けようかも考えなくてはいけない。

 

 毎度恋さん達に頼っていたら流石に申し訳ないし、自分の力でどうにかしなければいけないがその方法が思いついていないのが現状だ。唐さんがこっちへ来る前に早々と退散するのが吉なのだが、毎度出来る事かと言われればそうとは言い切れない。

 

「どうしたもんかなぁ……。……ん?」

 

 最適解が浮かばず黄昏ていると不意に誰かの視線を感じた。運動場から目を反らし校舎内へ繋がる扉の方へ身体を向けるとそこには見覚えのある少女が立っていた。

 

「あっ……。あっはは……こんにちは……」

 

 不意に身体を動かしたからか少女は隠れようにも反応することが出来ず視線が合ってしまい、苦笑いをしてお茶を濁す。白い髪をお団子に結わえ、赤い瞳がクリっとしているその少女、昨日見た人物や昔会った人物と相違が無いことに確信を持ててしまった。

 

「……千砂都……」

 

「久しぶりだね……颯翔くん」

 

 俺が『千砂都』と呼んだことに否定せず相手も俺の名前を呼んでくる。この会話だけで今まで抱いていた疑問は確信へ変わっていた。

 

「かれこれ3年経ってんだもんな。千砂都がそんなに変わってなくて逆に安心したよ」

 

「え~? 私は颯翔くんを見た時、男らしくなったなぁって思ったのにそれは酷くない?」

 

「……まぁ、多少なり女らしさは出てるか?」

 

「なんでそこで疑問形なのー?」

 

 幼馴染との感動の再会に口元を緩めるが変にしんみりさせたくないので少し冗談を交える。千砂都もそれを感じ取ってくれたらしく困り顔をしながらも笑いながら返事をしてくれる。

 

 初めて千砂都と会った日。かのんが彼女を『ちぃちゃん』と呼ぶからそれに倣う形で『ちーちゃん』と呼んでいた時、あの頃の千砂都はとにかく人見知りで自分から提案したり話しかけたりすることが苦手な少女だった。小学校の頃もその癖はあまり抜ける様子を見せなかったので、現在も同じものだと思っていた。

 

 それが現実はどうだ。相手の冗談も笑顔で受け答えするし恥ずかしそうにする素振りも見せない。昔の彼女の面影が残っていないのだ。知らぬ間に人懐っこい性格へ変わっていることに俺は改めて驚きを隠せなかった。

 

「……随分と性格変わったな」

 

「……うん、色々あったからね」

 

「……お互いにな」

 

 先ほどの和やかな空気から一変し少し真剣な声色で話すと千砂都も察したように声色を変える。千砂都が言う『色々』というのはあの時の事やそれ以後の事を示唆しているのだろうか。

 

「どうして千砂都はここに?」

 

「さっき颯翔くんの教室の方で口論してるのが聞こえてさ。それを覗きに行ってみたら颯翔くんらしき人がいたからもしかしたら、って思って」

 

「はぁっ……やっぱりさっきのやつ聞かれてたか」

 

 千砂都がここに来た理由、それは案の定教室の前で繰り広げた唐さんとの論争だ。隣のクラスにまで俺の怒声が響き渡っていたみたいで彼女も気になって見に来てしまっていたらしい。

 

「あの人、かのんとの関係について知っててさ。何も協力するつもりは無いって言ったんだけど全然退かなかったんだ」

 

「……やっぱりさっきの言葉は……」

 

 唐さんとのやり取りを掻い摘んで話すと千砂都は何かを察したようだった。恐らく唐さんに言い放ったあの言葉を聞いてしまったのだろう。

 

 千砂都の言葉に無言で頷くと顔を俯かせ謝罪を述べる。

 

「……ごめんね。私があの時颯翔くんにあんなことをさせてしまったばかりに……こんなことに……」

 

「……それは違う」

 

 謝罪する千砂都に俺は言葉を被せる。あの時、というのは紛れもないかのんから突き放されたあの頃の事だ。

 

「あれは俺のやり方が間違ってたんだ。その結果、俺も怪我をしちまったし、あいつとの関係もここまで拗らせてしまった。千砂都が謝る事じゃない」

 

「……あの時の怪我は……まだ残ってる……?」

 

「……あぁ」

 

 千砂都が言う怪我、それは今も俺を苦しめている腰の事だ。あの怪我が今も残っておりダンスを辞めざるを得なかった。

 

「……そっか」

 

 俺の答えに千砂都はただ一言、そう返すことしかできなかった。いや、どういった言葉をかけても俺が受けた傷は癒えないし、消える事は無いのでそう呟くことしかできなかったのだろう。

 

「まぁ、千砂都が気にすることじゃないから、そんなに気を落とすなよ。それよりあいつにはお前しか頼れる人間がいないんだ。あいつの事、しっかりと助けてやってな」

 

 俺は段々と居心地が悪くなってしまい、屋上を去りながら千砂都に助言する。かのんとの縁を切った今、彼女が信頼を置く人物は千砂都しかいないのだ。

 

 校舎内へ入り階段を降りようとしたら千砂都に引き留められた。

 

「……颯翔くんは……」

 

「ん?」

 

「……颯翔くんの事は……誰が助けてあげるの……?」

 

 千砂都は泣きそうな表情をしながらそう訊く。今まで千砂都とかのんとの三人で一緒に行動することが多かった。だからこそ俺達三人はそれぞれに深く信頼を置いていた。しかし、千砂都がかのんの側に立ってしまえば俺を支える人間がいなくなってしまう。ここで俺が独りになってしまうのでないか、と千砂都はそれを心配してくれている。

 

 不安そうな千砂都を見て、はぁっとため息を吐き彼女の方へと踵を返す。そして、彼女の右肩へ手を優しく置く。

 

「俺は大丈夫だ。クラスメイトに信頼できる人がいる。その人らに助けてもらうさ」

 

 俺は千砂都に余計な心配をさせないように笑顔になる。今の俺には自分と同じように過去にしがらみを持っている恋さんや近くで支えようとしてくれる日向さんがいる。彼女らがあればひとまず不自由になることはない。

 

「だから、あいつの事は任せたぜ」

 

 千砂都にかのんを託して俺は階段を降りる。二人しかいないこの場で、階段を降りる毎に響くローファーの音だけが二人の耳朶を刺激するのだった。

 






白き少女と交わす小さな約束


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