吹き荒ぶ風、奏でる音   作:M-SYA

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お待たせいたしました。

2週間ぶりの更新となってしまいました。

それでは本編をどうぞ。


助けてくれる人

 

 小学校の幼馴染である千砂都と校舎の屋上で再会した後、俺は彼女に別れを告げ校舎内に戻っていた。

 

 教室に鞄を置いたまま出てしまったため、教室まで戻らないといけない。

 

 ゆっくりと階段を降りている最中、ふと窓の外に目を向けるとそこには夕陽が照らされており校舎内を橙色に染めていた。いや、先ほど千砂都と話していた時から既に染まりつつはあったが、校舎内で改めて意識を向けるとその景色の美しさに言葉を失っていた。

 

「いつか見たあの日も……こんな景色だったな……」

 

 この景色を見て俺が思い出したもの、それは幼い頃の記憶だった。かのんと初めて出会った時の事、千砂都と友達になった時の事、そして、二人と疎遠になるきっかけとなった事。どこからともなく俺の脳内にやってきて感傷に浸らせてくる。

 

 二人と離れ離れになってからここまでノスタルジーになることはなかったのに、何故今になってこんなにも思い出してしまうのだろう。あの二人と再会したからこそ、神が俺に与えた試練ということだろうか。

 

 神様という架空の人物を信じる事は毛頭なかった俺だが、あいつらとこの場所で再会してあまつさえ同じ学校に通うなんて芸当を見せられたらその存在を信じて土産でも用意しなければいけないような気がしてきた。

 

 だが、郷愁にかられるのもそこまでにして無意識のうちに止めていた足を動かしだす。校舎内には人っ子一人も声が聞こえず、俺が履いているローファーの音だけが静かに反響していた。

 

「あっ、湊月くん。やっと戻ってきましたね」

 

「恋さん? まだ残ってたの?」

 

 教室のあるフロアまで戻ると恋さんが扉の前で自分のとは別で鞄を持ちながら立っていた。

 

 既に教室の扉が閉まっており、中に誰もいない様子が分かると恋さんがここで待っていた意味が理解できた。

 

「……もしかして……俺を待ってた?」

 

「……それ以外に何があるというのですか?」

 

「……それは面目ない……」

 

 目を細めながら悪態をつく恋さんに俺は反論の言葉すら見つからず素直に謝罪する。

 

 清々しいほどに真っすぐ頭を下げる俺を見て恋さんは軽くため息を吐くと鞄を差し出してくれた。

 

「はぁっ……。本当に申し訳なく思っているのなら早く戻ってきてください。貴方が帰ってこない限り私も帰れなかったんですから」

 

「それは悪かった。でも、それなら鞄を扉の横とかに置いて先に帰ればよかったのに」

 

「いくら私でも友人の私物に対してそこまで粗雑な扱いは出来ません!」

 

 確かに、人へのお節介を焼くことが好きそうな恋さんなら他人の荷物を置いてどこかへ行くなんて苦手そうだ。ましてやそれが親しい関係になった人物のものとなれば尚更だろう。

 

 恋さんの優しさを肌で感じつつ、嬉しさで笑顔が零れる。

 

「ははっ、ありがと。恋さん」

 

「……大丈夫そうですね」

 

「えっ?」

 

 笑顔を見せた俺にほっとした様子で恋さんがポツリと一言呟く。

 

「先ほどまで深刻な顔をしていたので、また何かあったのかと……」

 

「わざわざそれも心配してくれてたの? それは嬉しいな」

 

「わ、私を揶揄うのはそこまでにしてください!」

 

 恋さんから鞄を受け取りながら、心配してくれたことを弄るとプリっと怒り出す。意外と表情豊かな所が彼女の知られざる魅力の一つかもしれない。

 

「……それよりも湊月くんが大丈夫そうならそれで何よりです」

 

 恋さんから鞄を受け取ると、彼女はまっすぐに姿勢を正したまま校舎外へ出ようとはせずに階段を上ろうとしていた。

 

「あれっ、まだ帰らないの?」

 

「野暮用がありますので少し寄り道してきます。それと……」

 

 階段を1、2段上がったところで恋さんは足を止めてこちらへ振り向く。丁度夕日が彼女の髪に反射して一枚絵のような美しさが彼女の周りには漂っていた。

 

「……私は湊月くんが何か悩んでいるようでしたら、それに協力したいと思っているので何かあった時は遠慮せずに私に相談して下さい」

 

「恋さん……!」

 

 恋さんの言葉を聞いて、俺は先ほど千砂都に言った言葉を思い出す。

 

 

 

『俺は大丈夫だ。クラスメイトに信頼できる人がいる。その人に助けてもらうさ』

 

 

 

 あいつにはそう言ったが正直な所、不安しかなかった。

 

 恋さんとは互いの秘密を握り合っていると言っても過言ではないが、それは信頼の裏付けとは決して言えない。奇しくもお互いのそれを知っただけであって意図して知ったわけではないのだ。

 

 恋さんも俺に知ってもらいたくて言ったわけじゃないから、弱みを握られてると逆に勘ぐってしまっているのかもなんてことも考えた。

 

 だが、彼女はそれを根に持つ様子もなく素直に俺の事を支えると言ってくれたのだ。どこまでもお節介を焼く他人に優しい恋さんには本当に頭が上がりそうになかった。

 

「それ、他の男子が言われてたら惚れるやつだよ?」

 

「なっ……! ですから私はそうつもりでは……!」

 

「あっはは! 冗談だよ!」

 

「み、湊月くん! 茶化すのもいい加減にしてください!」

 

 俺は顔が熱くなるのを感じつつも、それを恋さんに悟られないようにわざと彼女へ恥じらいを与えるように仕向ける。恋さんもすぐにそれに釣られてくれて赤面しながら憤慨する。

 

 だが、俺も流石にからかい過ぎたと実感し、ひとしきり笑い切ったところで恋さんへ謝罪を述べる。

 

「ごめんごめん。俺もちょっとやり過ぎたわ」

 

「全く、ちょっとどころではありませんよ」

 

「でも」

 

 俺の弁解に恋さんは聞く様子を見せずそっぽを向けるが、俺はお構いなしに恋さんに自分の素直な気持ちを伝える。

 

「ありがとう、恋さん。その言葉が凄く嬉しいよ」

 

 俺は嘘偽りのないありのままの想いをぶつける。彼女が伝えてくれた言葉は俺にとってひだまりのように優しい温もりで包み込んでくれたのだ。

 

 俺からのストレートな告白に恋さんははっとしつつもすぐにいつもの温和な笑顔を見せてくれる。

 

「何かあればお互い様ですよ。それでは時間も遅いので湊月くんも先に上がって下さい」

 

「あぁ、じゃあお先に失礼するよ」

 

 恋さんへ断りを入れ俺は先に校舎外へと出ようと出発する。

 

 

 

 

 

 

 校舎を出る手前、何かが俺の足に貼り付いた。

 

「ん? なんだこれ……?」

 

 風で煽られた一枚の紙が脛から離れまいとくっついていた。俺は誤って破ってしまわないように優しく紙を取るとそこには見覚えのあるイラストが描かれていた。

 

「これ、スクールアイドルの……」

 

 それは昨日、日向さんに見せてもらったスクールアイドル部への勧誘のチラシだった。これがここに落ちていたという事は唐さんは一人で健気に勧誘を続けていたという事か。

 

 今も生徒から拒否されながらも勧誘を行う唐さんの姿を思い浮かべながら、俺はただチラシを見つめていた。

 

 やろうと思っているわけではない。今の自分では身体の調子も関係してダンスをやれない。ただでさえ足手まといになるのであれば、いるだけ邪魔になるというものだ。

 

 だが、俺が考えていたことはそんなことではない。誰かが始めようとしていたならば、という事だ。

 

 俺は真っ先に一人の幼馴染の姿が浮かんだ。自分の正義感に従って唐さんの事を守ろうとした彼女の姿が。過去の諍いにより疎遠することになった一人の少女の姿が、俺の脳裏に浮かんでは消える様子を見せなかった。

 

「ったく、俺は何を考えてるんだろうな。もう幼馴染じゃないって言ったのは俺自身なのに……」

 

 あいつの為に協力するつもりはないと突き放しておきながら、自分の心がそれを離しまいと抵抗しているのだ。

 

 かのんとのしがらみにケリを付けられてないことに悪態をついていると、人の声が聞こえてきた。

 

「これは……? 誰かが歌ってる……?」

 

 声の大きさからしてそう遠くではないことが分かり、声の発生元まで向かう。

 

 声が大きくなってくるにつれて、それが誰の声なのかすぐに察しがついてしまった。

 

「この声……もしかして……」

 

 もしかして、そんな言葉を呟いたがすぐに頭の中でそれを否定する。それは可能性ではなく確信に変わっていたからだ。いつも朗らかに力強い声で歌っていたあいつの声を俺が聞き間違えるはずはない。

 

 そんな事を考えていると正門前にその人物は立っていた。

 

 厳密には二人立っていたが俺の予想は覆っていなかった。一人は唐さん、そしてもう一人は澁谷かのんだった。

 

 今までは俺や千砂都の前でしか声をはきはきさせながら歌う事が出来ていなかったかのんが唐さんの前で楽しそうに笑顔で歌っていた。

 

「かのん……!」

 

 大好きな気持ちに嘘はつけない、とはっきり歌うかのんの姿は今までの中で一番輝いていた。歌う事や音楽が好きな彼女が、殻にこもって自分の大好きをひた隠しにしていた彼女が太陽よりも眩しい笑顔で歌い切っていたのだ。

 

 唐さんも歌えているかのんを見て、笑顔が出ていた。唐さんがどんなことを言って彼女を焚きつけたかは分からないが、かのんが新しいステップに進もうとしている姿を見て彼女もしっかりと成長しているということが実感できた。

 

「はぁっ……はぁっ……! 私……歌えた!!」

 

 歌い終わって息を切らすかのんだったが疲れている様子は見せず、むしろ笑顔になっていることは彼女自身もこんな自分をまだ信じられていない証拠だろう。

 

「やりましたネ! かのんサン!!」

 

「うん! 可可ちゃんのお陰で私、歌えるようになった! 本当にありがとう!」

 

 唐さんはもう一度聞くことが出来たかのんの歌声を聞いて感涙していた。

 

 かのんも人前で歌えた喜びから手を胸の前でぐっと握り、嬉しさを実感しているようだった。

 

「いえっ、ククは何もしてまセン! かのんサンが自分の力で、自分の意志で変わったんデス!」

 

「えへへっ……なんだか恥ずかしいな……」

 

 唐さんに褒められてかのんは恥じらいを隠すように顔を指で掻く。

 

 かのんが友人と幸せそうに笑い合う様子を俺は陰で見つめる。しかし、彼女を見ていると劣等感に襲われそうな気がして、その場に居座ることが出来ず立ち去るしか出来なかった。

 

「……あいつも……前に進もうとしてるんだな」

 

 人前で歌えないコンプレックスを払拭できないまま音楽科の試験に挑み失敗したかのんが、それを克服し普通科で新しいことに挑戦しようとしている。

 

 成長した様子を見せるかのんを考え、無意識のうちに口元が綻んでいた。

 

「まぁ、せいぜい頑張れよ」

 

 誰にも聞こえない声でかのん達の武運を祈りながらその場を後にする。

 

 俺はかのんに干渉するつもりは無い。あいつのことは唐さんが何とかしてくれると信じているからだ。

 

 俺は、あいつに後れを取るつもりは無いと密かに心に誓いを立てるのだった。

 

 






月は太陽が在るが故に己の弱さを知り

太陽は月が在るが故に己の強さを知る。




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