吹き荒ぶ風、奏でる音   作:M-SYA

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お待たせしました。

本編14話です。

それではどうぞ。


近くなる距離

 

「はぁ、やっと終わったな」

 

 音楽室に滞在してから30分ほどが経過しただろうか。黙々と楽器点検を続けて、ついに最後の点検が終了した。紙と睨めっこしながら細かい箇所まで見続けていたので肩が凝っている感覚が俺を襲っていた。

 

 肩を慣らしている俺の横で日向(ひゅうが)さんも両腕を前に伸ばして固まった筋肉をほぐしていた。

 

「ふぅ~、結構長かったねぇ~。これを一人でやってたら流石に身体が参っちゃうかも……」

 

「一人でやってたらざっと1時間以上はかかってたかもなぁ……」

 

「お二人共、お疲れさまでした。ささやかですがこちらをどうぞ」

 

 日向さんと感想を話していると音楽室から席を外していた恋さんが戻ってきた。その手には差し入れ用のパックジュースが握られている。

 

「おっ、気が利くな? もらっていいの?」

 

「はい、湊月くんと日向さんのお陰で作業が捗りましたし、お二人の貴重な時間を頂いてしまったのでそのお詫びも込めて」

 

 自分の都合で時間を使わせてしまった事を気にして詫びの品として飲み物を差し出してくる。

 

「あっはは、別にお詫びなんていいよ。私たちは好きでやってたんだから」

 

「ふふっ、でしたらこれは()()()()()()()受け取ってください」

 

 詫びという言葉が気に召さなかったことを理解したのか手伝ってくれたお礼としてジュースを渡してくれる。詫びの品よりもお礼の品として貰う方が受け取るこちら側も気分は良い。

 

「じゃあ、そういうことにしておくか」

 

「ふふっ、そうだね」

 

 日向さんと二人で笑い合いながら、恋さんから飲み物を貰おうとする。日向さんはレモンティー、俺はミルクティーを受け取り、恋さんは残ったイチゴオレを握っていた。

 

「ここの片付けも終わりましたし、私は点検表を提出してから帰りますので、お二人は先に上がってください」

 

「そうか? なら先に帰らせてもらうよ」

 

「葉月さん、お疲れさま!」

 

「はい、お疲れさまでした。また明日」

 

 恋さんは音楽室内に忘れ物が無いことを確認し音楽室の鍵を閉める。そして、俺達が書いたものも含まれている点検表の束を持ちながら俺達へ一礼し、職員室がある方面へ姿を消していった。

 

「じゃあ、俺達も帰ろうか」

 

「そうだね!」

 

 日向さんとそう話すと二人で仲良く校舎の外へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても今日はとても楽しかったな~」

 

 校舎内を降りていく中、日向さんがふと先ほどまでの思い出に浸る。

 

「楽器の点検が、か?」

 

「う~ん、それもあるけど……」

 

 俺からの問いに日向さんは一瞬頭を悩ませた後、はっとした表情を見せながら階段を先に降りる。そして、ニカっと笑顔を見せた。

 

「やっぱり湊月くん達とまた一つ仲良くなれた気がするからそれが一番かな!」

 

 純朴な笑顔を向けながら、異性をドキッとさせる発言をぶつける日向さんに俺もつい笑顔になる。

 

「ふっ、確かに日向さんの新しい一面が見れて俺も楽しかったぜ?」

 

「そ、それって私の事バカにしてない!?」

 

「まさか、そんな日向さんも良いって言ってんだよ」

 

「……なんだか怪しい……」

 

 小馬鹿にされたように感じた日向さんはジトーっと睨みつけてくる。だが、顔が赤くなっている事がバレバレなので怖さは皆無に等しい。

 

「それにしても日向さんって結構快活な性格をしてるんだな。最初に話した時とイメージが違って驚いたよ」

 

「まあ、私もそんなに人懐っこい性格じゃないから初対面の人ってなるとやっぱり緊張しちゃうというか……あはは……」

 

 日向さんは乾いた笑いを浮かべながら初めて話した時の事を振り返る。日向さんは初対面の相手にはどうしても緊張すると自分の体質を話していたが、人間だれしもそうなってしまうものだと思う。

 

 俺もそこまで人に対して過干渉する性格ではないし、いきなりコミュ力全開で話しかけられても困惑するだけだ。またそうして話し掛けてくれた方もこちらがリアクションに困っていれば安易に人のパーソナルスペースに踏み入ってしまったと勘違いして自分の行動を呪うような気がするので、ある程度自制するのは当然のことだと思う。

 

 まあ、俺的にはあの時のような距離感から来てくれた方が少しずつ相手の事が分かるので好きなのだが。

 

「別に、それは日向さんに限った問題でもないだろ? 俺だって初対面の相手にはそう食って掛かれんさ」

 

「そうなの? そういえば、葉月さんとはどうやって仲良くなったの?」

 

「あれは向こうから声を掛けてくれたんだ。本人曰く『席が隣になるしこれから世話になるから』って言っててな」

 

「あははっ、さすが葉月さんだね! なんだかあの人らしくて安心しちゃうね」

 

 葉月さんとの馴れ初めについて話すと日向さんは真面目な彼女らしい考え方に安心したようで笑みがこぼれていた。

 

 改めて考えると葉月さんと何から何まで本当に律儀だと思う。馴れ初めの時もそうだし、今回も手伝ってくれたお礼としてわざわざ飲み物まで奢るなんてよほど親しい仲じゃないとそこまでの待遇はしないような気がする。それだけ彼女も俺達を信頼してくれている証拠なのだろう。

 

 二人で話していると気が付いたら校舎の外まで出てきた。

 

「あっ、私の家向こうだからここでさよならだね」

 

「おっ、そうか。今日はありがとうな」

 

「んーん、こちらこそありがとね。()()()()♪」

 

「お……おう?」

 

 先ほどまで苗字で呼んでいたのに急に名前呼びに変わったので思わず変な声が出てしまった。そんな俺に構わず微笑を浮かべたまま日向さんは続ける。

 

「なんか……ずっと湊月くんって呼ぶのも変かなって思って名前で呼んでみたんだけど……いや、だった?」

 

 上目遣いでそんな事を言われてしまい俺も流石に緊張してきてつい彼女から目を反らす。心なしか少し顔が熱い気がする。

 

「……別に嫌じゃねえけど……」

 

「そっか……ふふっ、ならよかった」

 

 少なくとも『嫌だ』と突っぱねられなかったことに安心した日向さんは姿勢を正してほっと一息つく。

 

 日向さんが友人として慕ってくれているのに対して俺が何もお返しをしないのは流石に男としてどうなのかと疑問符が浮かんだ。そう思ってからの行動は早かった。

 

「……じゃあ、俺もこのままじゃ不公平だよな」

 

「へっ?」

 

 突然何を言い出すのかと頭にハテナを浮かべる日向さんに俺は右手を差し出し、彼女への返事をする。

 

「……これからもよろしく、()()

 

「…………っ!」

 

 俺も自分なりの誠意を見せようと日向さんの事を名前で呼んだ。だが、燈香と呼んだ瞬間にどうしてさん付けではなく呼び捨てにしてしまったのかという自己嫌悪が心の中で叫んでいた。

 

 密かに自虐に陥っている俺を他所に、燈香も同じことを思ったようで目を見開いて口が中途半端に開いていた。

 

「ん? 大丈夫か?」

 

 突然石のように固まってしまった燈香に声を掛けると「はっ」と声を上げながら我に返る。

 

「い、いきなり名前で呼ぶから驚いちゃって……!」

 

「そうは言うけど恋さんも名前で呼んでるし……」

 

「呼び捨てなのは聴いてないよ~……!」

 

 燈香はムスッと頬を膨らませながら反論してくる。

 

「でも……」

 

 だが、不機嫌そうな表情をしたのも一瞬のことですぐに柔和な笑顔に戻る。

 

「えへへっ、こちらこそよろしくね。颯翔くん!」

 

「……ふっ、おうよ」

 

 燈香は差し出した俺の手を握り返しながら返事をしてくれた。握られた彼女の手は俺よりも一回り小さくほんのり温もりが感じられて、この手を離したくない衝動に駆られそうになる。

 

「……ずっとこのままっていうわけにもいかないし、そろそろ帰るか」

 

「そうだね、じゃあ私はこの辺で! また明日ね、颯翔くん!」

 

「あぁ。また明日な、燈香!」

 

 手を振りながら俺とは正反対の方向へ歩き始める燈香。そんな彼女の後姿を正門の前で燈香が見えなくなるまで手を小さく振り続ける。

 

「……恋さんに燈香……。本当にいい人らに巡り会えたなぁ」

 

 燈香を見守りながら俺はふとそんな事を呟いた。自分の事をこんなにも信頼してくれる人物がいてくれることが凄く嬉しいのだ。彼女たちが居てくれれば俺はありのままの自分でいられる気がする。過去のしがらみに囚われた自分とはおさらばできる気がするのだ。

 

「あぁーーー!! み、見つけまシタぁぁ……!!」

 

 嬉しさで気持ちが高まっているとそれに水差すように聞き覚えのある甲高い声が耳朶を刺激した。学校内から聞こえてくる声に顔を向けると疲れた顔をした唐さんが居た。

 

「……またあんたか」

 

「さ、探したんデスよ……い、移動が早いデス……」

 

 唐さんが息を切らしながら文句を垂れていることは分かったが最後の方が上手く聞き取れなかった。

 

「ん? なんか言ったか?」

 

「ハッ! 別になんでもないデス! それよりもハヤトサン!」

 

「なんなんだいきなり……」

 

 膝を笑わせながら喋るのがやっとかと思いきや、急に姿勢を伸ばして話し始める唐さん。全く彼女の調子が掴めなくて四苦八苦する。

 

「少しお話しタイ事がありマス! ククと付き合って下サイ!」

 

「……はっ?」

 

 晴れやかな気持ちで一日を終えられると思った矢先、不意に襲い掛かる悪寒が俺の身体を冷やしていくのだった。

 

 





青天の霹靂、それは少年にとって……


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