吹き荒ぶ風、奏でる音   作:M-SYA

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お待たせしました。

本編18話です。

よろしくお願いします。


彼女達の新しい目標

 

 俺は教室を離れてとある場所に向かっていた。それは先ほど燈香に話した野暮用とは別の件。

 

 可可達が呼ばれた理由に彼女が関係していない筈がないと思い、その確認も含めて目的の場所へと赴いていた。

 

「恋さん、いるかー?」

 

 俺が向かった先は生徒会室。恋さんは学校の運営の手伝いらしいのだが、その活動の拠点をこの生徒会室にしていると前に聞いたことがある。

 

 正直、学校の運営を創立者の娘とはいえ生徒に手伝わせるのも如何なものかと思うが、学校の事情としても是非を言ってられない事態なのかもしれない。

 

 俺は生徒会室の扉をノックして恋さんの返事を待ったが、返ってきたのは静寂だけだった。入っていい合図が返ってくるまで待とうと思ったが時間が惜しかったのでドアノブを握り扉を開ける。

 

「恋さーん? ……やっぱりいないか」

 

 生徒会室内はもぬけの殻となっていた。だが、俺はそうなることを薄々勘付いていたため今更驚くことはない。むしろ、別の場所にいる事がこれでほぼほぼ確定したようななので、これ以上学校内を彷徨う必要が無くなっただけでもありがたいものだ。

 

「はぁっ……やっぱりあいつらの所か……」

 

 俺は幼馴染の顔を思い浮かべつつ鉢合わせにならないことを祈り生徒会室の扉を閉めて、もう一つ目星をつけている場所へと足を運ぶのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 生徒会室を後にして、俺は目的の場所がある階層へと階段を降りていた。向かっている最中、また恋さんが彼女らと目も当てられない程の口論を交わしていた場合を想像し、少し頭が痛くなってくる感覚を覚えていた。

 

 あの人がスクールアイドルにどうしてそこまでこだわるのかは知らない。むしろ、そこは彼女にとって非常に繊細な問題だからこそ安易に触れられるものではないのだ。

 

 恋さんの逆鱗がどこにあるのか、それに触れた時に俺達の関係はどうなるのか、それを考えたらマイナスの方向に進む未来しか見えないので到底触る気も起きないのだ。

 

 彼女も俺のそれに関しては察しているだろうから、余計な刺激を与えようとはしてこない。互いの弱みを握り合っているだけの不思議な関係を持っているだけなのだ。

 

 かのん達が呼び出されたことによる悪寒を吹き飛ばすために、そんな関係の無いことをふと考えてしまっていたが、目的の部屋がある廊下へ顔を出すとその部屋に向かって顔を覗かせる少女の姿があった。

 

「……千砂都?」

 

 白髪を二つのお団子に結えているその子はもう一人の幼馴染である千砂都だった。部屋の中の空気に固唾を飲んで見守っていたからかこちらには気付いていない。

 

 昨日、凪が話していた千砂都が家を訪ねた件についてもここで何か言われるかもしれないと思ったが、人の気持ちに機微な彼女がこんな所でわざわざ事を荒立てるようなことはしないと思い千砂都へと近づく。

 

「……? あっ! 颯翔く……!」

 

 俺の足音に気が付いた千砂都をこちらに顔を向けると思わぬ人物が現れたことについ声が荒げてしまうが、すぐに口を押さえて部屋の中にいる人たちに気付かれてないことを確認する。

 

「……あいつらはこの中か?」

 

「うん。葉月さんも一緒にいる」

 

「……そうだよなぁ……」

 

 彼女たちがいるこの部屋、それは理事長室。先ほど放送でかのん達に呼び出しをしていたのは正門前での騒動についての言及が主だろう。そして、そこに生徒代表としての立場から恋さんもいるということだ。

 

 恋さんがここにいるのが偶然なのか理事長直々の呼び出しなのかは分からないが、ひとまずどのような会話が繰り広げられているのか千砂都に訊いてみる。

 

「これってさっきの正門での出来事の件か?」

 

「やっぱり颯翔くんも見てた?」

 

「……あれを見てない方がレアだぞ?」

 

「あはは……それもそっか」

 

 正門での抗議活動について俺が苦言を呈すと千砂都も苦笑を浮かべる。あの騒ぎを見ていない人を探す方が大変だと思う。

 

「なんかね、かのんちゃん達がスクールアイドル活動を始めようとしてるのを葉月さんが頑なに反対してるから、強硬策を考えたんだって」

 

「それでも大したもんにはみえねえけどなぁ……」

 

 千砂都の言う通り、やはりスクールアイドル活動を行う上での最大の障がいは恋さんのようだった。理由はどうであれスクールアイドルを目の敵にしている恋さんを説得するのは至難に見える。

 

「なるほど、事情は分かりました」

 

 理事長室から理知的な声が聞こえてくる。全校集会などの公の場以外で理事長の声を聞くのはなかなかに新鮮だった。

 

「葉月さん」

 

「はい」

 

 理事長が視線を向けながら恋さんを呼ぶと規律の良い返事が聞こえてきた。

 

「理由はどうであれ生徒の活動を阻害することは我が校の校風にも反します。今後の彼女達の活動に妨害を入れることは慎んでください」

 

 なんと、藪から棒に理事長がかのん達の活動へ前向きな意見を出してくれている。かのん達の決死の行動が意外な所で身を結んでくれたようだ。

 

 理事長からの意外な提案に恋さんも動揺を隠せない様子だ。

 

「で、ですが……!? スクールアイドルは母が……!」

 

「母は関係ありません。今ここにいるのは自分の夢を叶えようとしてる生徒たちです。一生徒である貴女にはそれを止める権限はありませんよ」

 

「…………っ」

 

 恋さんは反論しようと試みたが理事長から呆気なく一蹴され唇を噛むことしかできなかった。恋さんがしてやられてる様子を見て可可は気分が良さげだった。

 

「ふん、当然の結果デス!」

 

「しかし、葉月さんも言うようにこの学校は音楽へ特に力を入れています。生半可な想いで始めるのはあまり良いことではないと思います」

 

 恋さんが言い負かされ可可が調子に乗ろうとした矢先、理事長もかのん達に待ったをかける。

 

 確かに結ヶ丘高校は元々この地に根差していた神宮音楽学校の歴史を継いで生まれた学校だ。だからこそ、その伝統を結果としてこの結ヶ丘高校に残していかなければならない。

 

「例えば……近々執り行われるスクールアイドルのライブイベントに出場して優秀な成績を取る……などは如何でしょう?」

 

「近々行われるライブ……何があるのかなぁ……? 可可ちゃん、何か知ってる?」

 

「少しまっててクダサイ!」

 

 理事長が出したスクールアイドルのイベントで成果を上げる。音楽を強みとしているこの学校ならではの提案だと思うが、そんなに都合よくライブイベントが開催されるのだろうか。

 

 かのんに問われ可可が自身のスマホで調べている間、俺もふと気になって自分のスマホでスクールアイドルのライブイベントについて調べてみる。すると、とある催事が近々開かれることが分かった。

 

「代々木スクールアイドルフェス……」

 

 ふとイベントの名前を呟くと千砂都も興味を示すようにスマホの画面を覗いてホームページに書いてあるライブの概要を黙読する。

 

 代々木公園の一角にある野外ステージ、そこで各学校のスクールアイドルが一堂に会しライブを披露する。そして、イベントの最後にはどのスクールアイドルが一番良いパフォーマンスをしたか、それを観客が投票して出場グループの中の1番を決めるというものだ。

 

「この中で一番を取れれば、実績として認められるってことだね」

 

「そういう事だな」

 

 理事長室内からも同様の単語が聞こえてきたので、おそらく同じようなやり取りをしているに違いないだろう。

 

 彼女達の次の目標が分かり、俺はスマホの画面を閉じてこの場を立ち去ろうとする。

 

「颯翔くん、どこに行くの?」

 

「野暮用を思い出したから戻る。このままここにいても特に変わらないしな」

 

 可可から依頼されている歌詞の校正。これは修正した歌詞を含めた楽曲が次のイベントで確実に使われるものになるだろう。その時のために昨日時点で実施した歌詞の修正版を可可の元へ返しておかなければいけない。

 

「あっ、そういえば千砂都」

 

 ノートを取りに帰ろうとしたが俺はふと別件で千砂都に聞くことがあったのを思い出した。

 

「昨日、うちを訪ねた目的はなんだ?」

 

 それは凪が話していた千砂都が訪問してきたというもの。うちに来てまで話すほどの重要な話題でもあったのかを言及する。

 

 不意に昨日の訪問目的を問われ、千砂都は苦笑しながら答えようとする。

 

「あぁ〜……そんな大それた内容じゃないんだけどね? かのんちゃん達がスクールアイドルを始めようとした時に葉月さんが断固として拒否するからせめて何か弱点でも無いかなって話になって」

 

「それで知り合いである俺に恋さんの弱みを聞こうって魂胆か」

 

「う、うん。私も音楽科の子に色々と聞いたんだけど、颯翔くんが葉月さんと一番仲が良いって話を聞いて、それで……」

 

「……やってることが下らないな」

 

 俺を訪ねてきた目的を聞かされ、大きくため息を吐いて正直に思ったことを呟いた。

 

 恋さんに太刀打ちが出来ないからと弱みにつけこんでスクールアイドル活動を認めさせようとするその気概。執念から産み出された発想としては大層なものだが、それは彼女への成す術がないから力で強引に押し切ろうとするのと同義だ。

 

「仮に知っていたとして俺がそれを話すつもりは毛頭ないが、随分と姑息な手を使うようになったな」

 

「姑息って……じゃあ、颯翔くんはどうするのが正解だと思うの?」

 

 千砂都は自分なりに考えた案がバッサリと切り捨てられて思わずムッとしている。そして、彼女なりの意地悪を込めてか同じ状況なら、として俺に質問してきた。

 

「そんなもん、先生に相談するのが手っ取り早いだろ。さっき理事長も言ってたが恋さんは一般の生徒で他の生徒の行動を制限する権限はないんだ。そんな彼女にいくら談判した所で了承を貰えるわけがないと思うが」

 

「……それは……そうだけど……」

 

 恋さんは俺たちと同じこの学校の生徒。特に役職を持っているわけではないため、先生に相談した方が事は進展しやすい。仮に恋さんが役職を持っていたとしても立場としては教師の方が上なのだ。上司からの命令に逆らうなんて事は彼女には出来ない。だからこそ、このやり方が一番早いのだ。

 

 千砂都も俺の意見に納得はしつつも、はっきり論破されて素直に受け入れることが出来ないようだった。そんな彼女の様子を見て、少し言いすぎたと俺は反省する。

 

「……悪い、きつく言い過ぎた。とにかく無事にスクールアイドル活動がやれるようになったんだし、それでいいだろ」

 

「…………」

 

 俺の謝罪に千砂都は何も返事をせずにただ無言で見つめてくる。怒っているとも悲しんでいるとも読み取れるその表情に少し胸が痛くなってくる。

 

「じゃあな、ライブに向けて……がんばれよ」

 

 どちらも言葉を発さないこの空間に居心地が悪くなり、俺はなけなしのエールを投げたのち逃げるように歩き出したのだった。

 

 





彼女達を押すための追い風となる
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