吹き荒ぶ風、奏でる音   作:M-SYA

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お待たせしました。

本編21話です。

私のTwitter垢で颯翔くんと燈香ちゃんのビジュアルを公開してますので是非覗いてみて下さい!

それでは今回もよろしくお願いします!



学校探検

 

「教室棟は普段からある程度は回ってるから、最初は別棟に行くか」

 

 俺は燈香と一緒に自教室を出ながら、行き先について提案する。

 

 教室棟は音楽科、普通科の教室がメインで並んでいる。教室は俺達一年生らのものの他に来年度以降の生徒らの分も用意されている。各階層ごとに分けられているため、普段目に掛かることはないが俺達のそれと同じような光景が広がっている気がするので目新しいものはないように感じる。

 

「そうだね~! 特別棟は移動教室でたくさん使うと思うから先に回ってみない?」

 

 燈香はそれなら、と科学室などの移動教室で利用する特別教室が設けられている特別棟を提案する。

 

「確かに、今後の移動教室でも困らなくなるしいいんじゃないか?」

 

「えへへっ、なら決まりだね!」

 

 彼女の提案に賛同の意を示すと燈香も嬉しそうに笑みを浮かべ特別棟へと歩き始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱりここは特別教室の中でも独特の雰囲気が出てるよなぁ……」

 

 そう言いながら立ち寄った教室は科学室。小学校や中学校でも必ずと言っていいほど用意されている教室だが、通常の教室や音楽室棟とは違い、その雰囲気と相まって教室内が仄暗い印象を受ける。そんな中、部屋の隅に鎮座されている人体模型や骸骨が授業中でも後ろから監視されているような感覚に陥る。これだけは小学校の頃からどうにも苦手だ。

 

「どうして科学室って骸骨のサンプルとかあるんだろうね? 授業では殆ど使わないのに」

 

「あぁ~、確かにな? 科学室の雰囲気出し……のため?」

 

「怖さを助長させるだけだからやめてほしいよね……」

 

 顔を引き攣らせながら骸骨の方を見ようとしない燈香を見て、自分と同じにおいを感じる。

 

「もしかしてこういうのは苦手?」

 

「だ、だめ?」

 

「大丈夫、俺も嫌だから」

 

「あっ、颯翔くんも意外と苦手なんだね?」

 

 燈香は物珍しい目で俺を見てくる。俺がこういった生態系に苦手意識を持っているのがそんなに珍しいのだろうか。

 

 しかし、ケースで納められているとはいえガラス越しに中身が見えるように設計しているのは非常に質が悪いと思う。あれを考えた昔の人間はどういう思考をしているのか。

 

「……理科なんて実験くらいしか楽しくない気がするぜ?」

 

「それは多分みんな思ってるね……」

 

 

 

 

 

 

 

「家庭科室はここにあるんだな?」

 

 科学室を出発した俺たちが次にやってきたのは家庭科室だ。音楽科では履修頻度も少ない関係上、ここを利用する回数も少ないがそれでも使うことに変わりはないので顔を出していた。

 

 調理実習で使用するために複数個のテーブルや食器が陳列されており、そこは従来の学校と大差はないように感じる。

 

「そういえば、燈香って料理も出来るの?」

 

「うーん、他の子達に比べたら簡単なお菓子は作れるくらいで料理はそこまでかなー。颯翔くんは?」

 

「俺はまずやった事がないからなぁ……。基本的に両親や兄に任せっきりだったから調理実習になると足手まといになる気しかしない」

 

 燈香の質問に俺は苦笑しながらそう自虐気味に言う。俺がこういった事をやっていないのは身内が代わりにやってくれているお陰であり、その結果俺は勉強や音楽、ダンスに力を注ぐ事ができていた。逆を返せば周りがいるからこそ、今の俺が形成されているのでその点に関しては改めて身内に感謝しなくてはいけない。

 

「なんだか、颯翔くんってなんでもそつなくこなす印象だったから足手まといになっちゃうっていうのも少し意外だね?」

 

「だいぶ過大評価してくれてるけど俺はそんなに出来た人間じゃないぞ?」

 

「えへへ、颯翔くんって凄く頼りになる印象があったからついそのイメージが抜けなくて……」

 

 燈香はそう言いながらくしゃっと笑って答える。言われてみれば、燈香の前ではかのん達とのやり取りを見せたことが無いからそういった印象を持たれているのかもしれない。

 

「でも、流石に包丁を使って食材を切るのは大丈夫じゃないの?」

 

「うーん、猫の手を使って材料を切るっていうのは知ってるけど、それをやったら第二関節の皮を切ったからそれ以来包丁も触らせてもらえてない」

 

「じ、じゃあ、お味噌汁をかき混ぜたりカレーとかをグツグツ煮込んでもらうのとかは?」

 

「強火で一気に煮込むから念入りにかき混ぜろ、って言われたから俺なりの力加減で混ぜてたらコンロ周りが異常に汚れてた」

 

「……お皿洗いとかは……?」

 

「洗ってる最中に手を滑らせて皿を割りかけてからやらせてもらってない」

 

「…………颯翔くんはお箸並べとかの食卓周りの準備をやってもらうことにするよ……」

 

 燈香は苦虫を噛み潰したような表情をしながら、お手上げと言わんばかりに項垂れる。なんだか、この数十秒で彼女が俺に抱いていた幻想を完膚なきまでに砕いてしまった気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 特別棟の散策が終わり、次に部活動の為に用意された部室が多く用意されている部室棟へと向かった。部室棟は3階まであり、1階には体育会系、2階には文化系の部室が設けられる形で区分けされている。

 

 なお、恋さんはこの時点でもまだ連絡が返ってこないので、仕事に手をこまねいているか先生方の頼みごとを断れずに協力しているかの二択だろう。

 

「颯翔くんはどの部活に入るか決めたの?」

 

「そうだなぁ……俺は運動が出来る身体じゃないから体育会系に入っても邪魔になるだけだし、どこに入ろうかは全く考えてない」

 

 俺はとある時期から腰を痛めており、スポーツをやることが出来ない。そんな状態で運動部に入部してもまともに競技を行う事も出来ずにただマネージャーのような雑務をやらされるだけの日々になる。そんな欠伸が止まらなそうな日々が続くと俺もやってられないのでそもそも入る気も起きないのだ。

 

「燈香は吹奏楽部に入るんだよな?」

 

「うん、ピアノ以外にもたくさん楽器を触ってみたいなって思ってね!」

 

「そっか~……。にしてもなんでそんなに演奏できる楽器を増やしたいんだ?」

 

 ピアノが弾けるだけでも他の人間よりは芸に長けているのに更にレパートリーを増やそうとする燈香の好奇心に興味が湧く。

 

「なんだかね、楽器を弾いてると声が聞こえてくるんだ」

 

「声?」

 

「うん! 私の演奏に呼応するように音を出してくれることが、あの子たちが私に応えてくれてるって思えて凄く楽しいんだ~!」

 

「うーん、分かるような……分からないような……?」

 

 いつにも増して饒舌になる燈香。やはり楽器を演奏できる人というのはこういった独特の感性を持っている人が多いのかもしれない。俺には楽器の声なんてものはただの音色としか捉えられることが出来ないので、彼女が伝えたい事が分かるようで分からないのが非常に歯がゆい。

 

「私、前まではあんまり友達もいなくてピアノが友達みたいなところがあったから、それもあるかもね。えへへっ、こんなこと話すの少し恥ずかしいけど……」

 

 燈香は少し郷愁に浸るように廊下の一番遠い端を見つめる。それは友人が居なくてずっと一人で学校生活を楽しんでいた過去の自分を憐れんでいるようにも見える。

 

「……でも、今の燈香はそうじゃないだろ?」

 

「えっ?」

 

 燈香が過去の自分に対して憂慮な感情を抱いているような気がしたので、そんな気持ちを抱かせないように俺は語気を強くして燈香に言い聞かせる。

 

「今の燈香は一人じゃない。俺や恋さんがいるだろ? 少なくとも俺は燈香の事、友達だと思ってるぜ?」

 

「颯翔くん……。ふふっ、ありがと。私も颯翔くんの事、大切な友達だと思ってるよ」

 

「あぁ、ありがとな」

 

 少しキザになってしまったかとも思ってしまったが、燈香は気にする様子を見せずに笑みを溢す。燈香が安堵した様子を見せてくれると俺もつられて笑顔になる。ひとまず暗い雰囲気になるのを避けることが出来たので安心した。

 

 燈香は恋さんと同じように俺の事を慕ってくれてる。だからこそ、俺としても彼女の事を大切にしたいしこれからも信頼してくれるように燈香の事を知りたいのだ。

 

「よし。じゃあ、ここはまずは上階層から回っていくか」

 

「うん!」

 

 先ほどの特別棟は1階から回っていたので今回はその逆からという事で最上階から部室棟を回ることを提案する。燈香もその案には賛同だったようで、意気揚々と二人仲良く部室棟の階段を上っていく。

 

「あれっ、そういえばここって3階には何の部活があるんだ?」

 

 2階に上がった矢先、俺は初めて部室棟のレイアウトを見た時に浮かんだ疑問をぶつける。掲示板等に貼付されていた校舎のレイアウトでは1階には体育会系、2階には文化系の部活が並んでいることが明記されていたが、3階にはどんな部活があるのか何も書かれていなかったのだ。

 

「確かに通行出来ないようにバリケードが設置されてるわけでもないもんね?」

 

「……ちょっと覗いてみるか」

 

 突如として生まれた未開の地に俺は好奇心が抑えられなかった。だが、燈香は見つかった時の事を考えて制止しようと試みる。

 

「えっ……バレたら怒られないかな……?」

 

「大丈夫だろうさ。こういう場所っていうのはほかの生徒だって興味本位で顔を覗かせるだろうし、それにもし怒られたら通れないように柵を用意していない学校側が悪い、ってことで反論すればいいさ」

 

 学生の好奇心というのはおそろしいもので、時には大人が想像もできない程の行動力を見せる時もある。本当に通らせたくなければ貼り紙等で警鐘を鳴らすべきだが、ここではそういった対策が見受けられない。だからこそ、俺達が言い返しても自分たちの落ち度もあるからこそ教師側は文句を言えないはずだ。

 

 正論を言っている事を理解はしつつも横暴に見える俺のやり方に燈香はまだ不安が残っている様子だった。

 

「……少し乱暴な気もするけど大丈夫かなぁ……?」

 

「ははっ、大丈夫さ。もし何かあれば燈香はあくまで俺に付いてきただけってことにしておくからそこは任せろ」

 

「それもそれでどうかと思うけど……颯翔くんがそう言ってくれるならその時は任せるよ?」

 

 自信ありげに語る俺に燈香は任せるよと言うように微笑んでみせる。

 

 燈香の同意も得られたことで俺達は部室棟で唯一何も表記がなかった3階へと足を運ぶ。より探検しているような気分を味わえて、俺は内心ワクワクが抑えきれなかった。

 

 





冒険により近くなる二人のパーソナルディスタンス
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