吹き荒ぶ風、奏でる音   作:M-SYA

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お待たせしました。

本編24話です。

それではどうぞ。



赤の他人から

 

「あっ、颯翔くん、おかえり」

 

 学校アイドル部の部室前で恋さんに悟られないよう俺は一足先に階段を降りてきた。俺の姿を見るや燈香は小さな声ながらも明るい声色で名前を呼んでくれる。

 

「ただいま、燈香」

 

「恋ちゃんのこと、何かわかった?」

 

「うーん、少しは分かったような気がするけど、まだ核心には至ってないかな」

 

 学校アイドル部のネームプレートを見ながら物思いにふける様子だった恋さん。それを見るにスクールアイドルとの確執があることは分かる。そしてその因縁に母親である葉月花の存在が関わっていることも。しかし、分かった内容はその事実のみであり、その原因の追及までには至っていない。

 

 故に不完全燃焼となっていたのだが、まだここで過ごす時間は山ほどにある。そのため、ここで無理に悩んでいても答えは出ないのでひとまずは当初の目的へと気持ちを切り替える。

 

「でも、焦っても仕方ないしな。ちょっとずつあの人のことが分かっていければいいからとりあえずは置いておくことにする」

 

「ふふっ、そうだね。恋ちゃん、なかなか話してくれそうにないけど、そこは地道に、だね」

 

 静かに微笑みながら燈香と笑いあう。時間がかかることに違いないだろうが、それでも恋さんの事を少しずつ知って、同じ学校に通う仲間、友達として仲良く過ごしていきたいと切に願う。

 

 そんなことを考えていると階段を下りてくる音が聞こえ、少しすると恋さんが廊下へ顔をのぞかせてきた。

 

「あっ、お二人とも、わざわざ待っていてくれたのですか?」

 

「まあ、忘れ物くらいだったらちょっと雑談でもしてれば戻ってくるだろうって思ったしな」

 

「それは……わざわざお時間を取らせてすみませんでした」

 

 俺たちに気を遣わせたとして恋さんは憂い帯びた表情を見せながら謝罪を述べてくる。俺たちの事を気にしてくれていることは伝わってくるが、それにしても過剰ではないだろうか。

 

「れ、恋ちゃん! そんな、頭なんて下げなくていいんだよ? 私たちが勝手に決めてたことなんだから気にしないで、ね?」

 

「燈香の言うとおりだ。別に俺たちは恋さんの揚げ足を取ってどうこうするつもりじゃないんだし、そんなに悲観しなくてもいいんじゃないか?」

 

 恋さんの謝罪に対して燈香はアワアワしながらなんとも思ってない様子を見せる。そんな燈香に合わせるように俺からももう少し肩の力を抜くように提案する。だが、これが恋さんの性分故に、そう言われてもなかなか改善に進める事ができないのが悩みの種なんだろう。

 

「そうしたいのは山々なんですが、どうしてもその考えが抜けないのは私の性格なので難しいですね……」

 

 案の定、恋さんも自分の性格上、これを改善するのは困難であると主張し落ち込む様子を見せる。そんな中で燈香がとある提案を口にした。

 

「あっ! ならさ、もし恋ちゃんがそう感じちゃうなら私たちが肯定してあげるよ!」

 

「私を……肯定ですか……?」

 

 燈香は目をキラキラさせながら提案を口にするが恋さんは理解が追いついておらず頭を捻らせる。

 

「つまり、恋さんが俺たちに迷惑をかけてるって思うなら俺たちは気に留めてないってことを何回でも言ってやるってことだろ」

 

 燈香の説明に困惑している恋さんに補足を入れていく。

 

「既に俺たちだって恋さんにたくさん迷惑をかけてるんだ。なのに、恋さんはいつも嫌な顔をせずに受け入れてくれるだろ?」

 

「まあ、迷惑をかけない人間なんて絶対にいないと思いますから、それを怒っても仕方ありません。それにお二人のことは分かっているつもりですし」

 

「それと同じことだ。恋さんだって必ずしも人に迷惑をかけないなんてことは無いとは言い切れないだろ? もし恋さんが困ってる時や悩んでる時は俺たちにたくさん迷惑をかけてほしいってことだ。俺たちだって恋さんのことは理解してるつもりだし友達だと思ってるから尚更な」

 

 そう言って俺は自分の胸に手を当てて恋さんに訴えかける。人によっては友人に迷惑をかけたくないからこそ自分でなんとかしようとする人も少なからずいる。恋さんもその部類だろう。だが、その行為に対して相手から信頼されていないのではないか、と不安視する人間もいる。大して交友関係にない相手ならば気にする必要はないのだが、俺にとっては恋さんや燈香は大切な友人であるため、特別視してしまう節がある。

 

「恋さんがそうして俺たちのことを理解してくれるから恋さんのことを信頼しているし、その結果があるからこそ何かあればすぐに頼る。だから恋さんも俺たちに対しては労力とか時間とか気にしないで気兼ねなく頼ってほしい」

 

 俺の考えに対して恋さんは何も言葉を返すことなく無言で受け止める。変化のないその表情に内心ヤキモキしながら、俺はこの話の切り出し人に考えが食い違っていないか確認すべく顔を向けた。

 

「そういうことだろ、燈香?」

 

「うん! さすが颯翔くん、バッチリだよ!」

 

 燈香は自分の胸の前で両手を合わせ、自分の伝えたかったことと合致していたことに安心して朗らかに笑ってみせる。そして、燈香はそのまま恋さんへ近づいて彼女の手を優しく握る。

 

「私、恋ちゃんが何か困ってたりしてたら力になってあげたいんだ。正直、颯翔くんよりも力不足なところが目立つと思うけど、でもこの学校でできた初めての友達だもん! 少しずつ、恋ちゃんも私たちに甘えてくれたら嬉しいな?」

 

 燈香は優しい笑みを見せながら恋さんに自分の気持ちを伝える。普段の燈香はこうして自分の気持ちを伝えてくる機会は少ないからこそ、より説得力を感じる。

 

 燈香の話を聞いて、恋さんは彼女の顔から握ってくる手へ視線を落とす。

 

「……私としてはお二人の力に甘えすぎるのも自分をダメにしてしまうからいけないと自分をそう律していました。ですが……お二人がそう言って下さるのならば、私も可能な限り湊月くんと日向さんに助けてもらうように頑張ってみます」

 

「……っ!! 恋ちゃん、ありがと! 大好きだよ!」

 

「ちょ、ちょっと日向さん! 急に抱きつくのは恥ずかしいのでやめてください……!」

 

 恋さんが途端に素直になったことで嬉しくなったからか、燈香は我慢できずに恋さんを力一杯抱きしめた。恋さんの方も突然、燈香が大胆になったために咄嗟に反応できず身体を拘束されてしまう。

 

 二人の微笑ましい光景を目にして、俺もついぷっと吹き出してしまう。そして、恋さんの手助けの一環として、ある名案を思いついた。

 

「どうせなら、最初の一歩として俺たちを名前呼びしてみるのもいいんじゃねえか?」

 

「えっ?」

 

 唐突な提案に恋さんは驚きの表情を見せる。だが、それとは反対にナイスアイデアと言わんばかりに燈香は嬉しそうに声を上げる。そして、先ほどまでハグしていた恋さんを解放してあげた。

 

「あっ、それ良いアイデアじゃない!? 名前の呼び方を変えてみるのも良いきっかけになると思うし、私はアリだと思うな♪」

 

「まあ、それも恋さんが良ければの話だけど、どうだろう?」

 

 そう言って俺は恋さんの意思を確認する。未だに呆けているような表情をする恋さん。もし彼女が俺たちに遠慮してしまうのであれば、距離感を近づけるためのきっかけが必要と判断したのだが、それが彼女にとって良いものとなっているのだろうか。彼女の返事を待っていると、恋さんは意を決したような表情で口を開いた。

 

「……今まで、私にはこうして声をかけてくれる方はおりませんでした。両親のこともあって、周りの方々はいつも私のことをどこか遠い存在のように見ていて……それなりに良好な関係は築けていても友人と呼べる方はいませんでした……」

 

 真剣な面持ちでこちらを見つめながら恋さんはこれまでの自分の交友関係を話してくれた。確かに恋さんは図らずともその家庭環境から周囲と違う世界を生きている。その結果もあり、恋さんはこれまで同年代の友人がいなかったようだ。

 

「ですが、こんな私をお二人はいつも気にかけて下さいます。いつしか友人という存在を必要としなくなっていた私ですが、今はお二人の隣に立ちたいと心の底から思っています」

 

 そう言いながら、恋さんは徐に俺たちに向かって右手を差し出す。笑顔になりながら向けられたそれはまるで握手を求めているようだった。

 

「湊月くん……颯翔くんと燈香さんがよろしければこうして呼ばせて下さい。そして、私と友人として歩んで下さいますか?」

 

 突然、名前で呼ばれドキッと心臓が跳ねるような感覚を覚えた。だが、今までと違う恋さんの呼び方に特別感を抱いて嬉しさが込み上げてきた。

 

「〜〜〜〜恋ちゃぁぁん!! 私も恋ちゃんとずっと友達でいたいよ〜〜!」

 

「ちょ、ちょっと燈香さん……! そんなすぐに抱きついてこないで良いですから……!」

 

 恋さんからの頼みに我慢が出来なくなったようで燈香は先ほどと同じように恋さんのことを抱きしめにいく。目の前の幸せな空間に笑みを浮かべながら、俺は傍らから燈香に続いて口を開いた。

 

「恋さんが俺たちのことを友達と思ってくれるなら、一緒に歩くに決まってるさ」

 

 笑みを浮かべながら俺は恋さんが引っ込めてしまった右手に応えるように手を差し出した。

 

「颯翔くん……ありがとうございます」

 

 恋さんは無理やり燈香を引き剥がすわけにもいかなかったので彼女に抱きとめられながら俺と握手を交わしてくれた。俺よりも若干小さく、それでいて美しい細さの指の線を感じながら俺は力まないように優しく握りしめた。

 

「いいってことよ。じゃあ、このままの勢いで残りの部室棟見学もささっと済ましちまおうぜ」

 

「うん! じゃあ恋ちゃん、行こっ?」

 

「……はい!」

 

 三人の友情をより一層深まっていくのを感じながら、俺たちは2階の部室見学を再開していくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、色々と面白い発見が沢山あったな」

 

「そうだね〜! 中学校まででは見ないような珍しい部室もあってびっくりしたよ〜」

 

 部室棟内の見学を終えた俺たちは教室棟の横を歩いていた。先ほどまで見ていた文化系の部室ではわざわざ全面に畳が敷かれていた茶道部や、専用のパレットや画材が多数用意されていた美術部など普段は見れない貴重な光景が広がっていて、すごく楽しかった。

 

「はい、部室を見て回るだけじゃなくて颯翔くんたちと色々とお話し出来たこともすごく楽しかったです」

 

「ふふっ、そうだね! 颯翔くんが描く絵もいつか見れることを楽しみにしてるね?」

 

「絶対見せないし描かないからな?」

 

 イタズラっぽくこちらに目線を向ける燈香に俺はムスッとしながら言葉を返す。

 

 美術室を探索中、燈香がお絵描きのレベルについて俺と恋さんに聞いてきたのだ。恋さんは一人の時間も多かったことから人並みの絵は描けるということだったが、そういった娯楽に精通していない俺は絵描きのセンスが微塵もない。燈香は「いつか三人で一緒にお絵描きをしたい」と話していたが、俺としては全く気乗りしなかったので断固として反対の意思を見せていたのだ。

 

 俺と燈香のやり取りを微笑ましく見つめていた恋さんは可笑しかったのかぷっと吹き出していた。

 

「やはり、お二人はとても仲が良いですね。なんだか羨ましいです」

 

「べ、別に颯翔くんとはそういうのじゃないよ……!?」

 

 恋さんが俺たちのことを茶化してくると思わなかったからか燈香は顔を紅潮させながら否定する。言葉には出していないが、俺も少し顔が熱くなる感覚を覚えていた。

 

「それでも、今の会話がお互いの距離感を分かっているからこそのものだというのが、隣で聞いててすごく伝わるので私も負けていられないと思った次第です」

 

「……恋さんともすぐにこんな距離感になれるさ。別に焦ることもないだろ?」

 

 照れが収まっていないことを悟られないように俺は平静を装いながら恋さんに返事をする。すぐに同じようになれる、という言葉が嬉しかったからか恋さんは満面の笑みを浮かべた。

 

「ふふっ、そうですね」

 

 三人で笑い合っていると教室棟の入り口前に到着した。正門も目の前にあるため、このまま帰路に着こうと歩き始めようとしたが恋さんは歩こうとせずその場で止まっていた。

 

「それでは、私は学校内の施錠確認をしてから帰りますので、お先に上がってください」

 

「わかった。また明日な、恋さん」

 

「恋ちゃん、またね!」

 

「はい、また明日」

 

 その日の最後の務めを果たすべく校内の見回りを行う恋さんに見送られながら、俺たちはその場を後にする。

 

「今日は恋ちゃんとより仲良くなれてよかったね」

 

「そうだな、恋さんはすごく良い人なんだけど環境のせいで孤立する羽目になるなんてとんだ災難だよな」

 

 正門までの一本道を歩きながら恋さんについて振り返っていた。彼女の生い立ちから裕福な家庭で生まれ育ったであろう恋さんの心情に同情することは難しいが、それでも独りでいる辛さは共感できる。友と呼べる人間が近くにいないことはすごく寂しいし他の生徒らの楽しそうな光景を見ると妬けてしまう日も多かったから、彼女のことを遠い人間とは思えなかったのだ。

 

「……でも、そんな恋ちゃんも私たちのことを友達って言ってくれるくらいに信頼してくれるようになったのは、恋ちゃんにとってもすごく良いことだよね」

 

「あぁ、この関係をずっと大切にしていきたいもんだな」

 

 正門をくぐり抜け、空を仰ぎながら俺はそう呟いた。正門の前でふと立ち止まった俺の前に燈香が立ちはだかる。

 

「……私たちもずっと友達でいたいね」

 

「そんなの当たり前だろ? 燈香と離れる未来がそうそう見えねえよ」

 

「……えへへっ、そうだね!」

 

 夕陽に照らされているからか分からないが赤みがかった燈香の表情はいつにも増して喜びに満ち溢れていた。俺のことを理解してくれる彼女の存在はとても大きく、この関係が崩れる未来を想像することが難しかった。

 

「じゃあ、私は向こうだから颯翔くんもまたね」

 

「あぁ、また明日な」

 

 正門を出てからの帰り道は違うので、俺と燈香はその場で別れを告げるのだった。

 

「……さて、俺も帰るとするか……」

 

 軽く呼吸を入れ、燈香と同じように俺も帰宅しようと歩き始めようとする。

 

「……あれ、颯翔くん?」

 

 すると燈香が帰った方向と反対の方向から俺を呼ぶ声が聞こえた。

 

「ん? って、千砂都?」

 

 そこには体操服とは違う運動着を身に纏った千砂都がいた。

 





散らばっていた光は、やがて大三角形を築く。

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