お待たせしました。
本編27話です。
それではどうぞ。
スクールアイドルフェスが翌日にまで迫った日、いつも通り授業が終わり帰宅準備に入ろうとしていた。
「じゃあね、颯翔くん。明日は部活が終わったらまた連絡するね」
「あぁ、くれぐれも無理しないようにな」
「あははっ、大丈夫だよ。それじゃあね〜!」
ニカっと微笑みながら燈香は手を振って教室を後にする。俺も教室に残ってまでやることは特にないので帰路に着こうとする。荷物を持って教室を出た時、廊下で可可と鉢合わせた。近くにかのんの姿は見えずどうやら彼女1人だけのようだ。
「アッ……ハヤト!」
「可可、今日も練習か?」
「そうデス! 明日はいよいよホンバンなので、ラストスパートというやつデス!」
俺の質問に可可は気合いが入っていることを示すように胸の前でぐっと握り拳を作る。いつも快活な彼女だから、緊張することはあまりないのだろうか。
「本番ってたくさんの人の前で歌って踊るんだろ? 意外と緊張しないものなのか?」
「ウ〜ン、どうでしょう。今はとくにキンチョウしているわけではないデスガ、ククはまだステージに出たことがないので実感がナイだけかもしれないデス」
可可は顎に手を当てながら今の心境を教えてくれる。スクールアイドルに対しての情熱は相当なものと見受けていたが、意外とライブ自体に参加するのは初めてのようでそこは驚きだ。
「そうか、じゃあしっかりと爪痕を残さないといけないな」
「えへへっ、そうデスネ。……ちなみにデスガ……ハヤトは明日のライブは見に来てくれマスか?」
可可は少し不安げな様子でそう聞いてくる。だが、可可としては絶対に気になる事項だったろうから俺はなんら不思議に思うことはなかった。
「あぁ、そのつもりだ」
「エッ……ほ、ほんとうデスか!?」
「可可らが本気で取り組んでることは知ってるし、微力ながら手伝いはさせてもらったしな。それに……偶然知り合ったスクールアイドルの人らにも声を掛けられたから」
「そうなんデスか?」
「あぁ、サニーパッションって言うんだけど……」
先日、代々木公園で知り合った神津島のスクールアイドル、サニーパッションの名前を口に出した瞬間、可可の目がカッと見開かれた。
「ハッ!!!! さ、さささ……サニパ様と会ったのデスか!?!?」
「うえっ、そ、そうだけど……可可は彼女らのことを知ってるのか?」
「し、知ってるもなにもサニパ様は今ナミに乗っているスクールアイドルデスよ! タイヨーのような眩しい輝きを放つ聖澤ユウナさんとツキのような美しい煌めきを魅せる柊マオさん……そのお二方が見せるライブはスバラシイものデス!! スクールアイドルを知ってるヒトならば知っててトウゼンデス!!」
「お、おう……」
人が変わったように捲し立ててくる可可に俺は圧倒されていた。だが、可可がここまで熱烈に推すということはサニーパッションの2人がそれだけのパフォーマンスを披露しているということだろう。俺も先日、彼女らと別れてからミュージックビデオなどでパフォーマンスを見たのだが、終始彼女らに見惚れていた。煌びやかな衣装と華やかな演技、そして常に笑顔をカメラは向けてくる為、エールを送られているような感覚を覚え、不思議と力を与えられたように思えたのだ。サニーパッションの二人は自分たちのことをまだまだと言っているが、可可が彼女らの魅力を語りだすくらいにサニーパッションの名はスクールアイドルの界隈には轟いているようだった。
「ハァッ……まさか、ハヤトがサニパ様と会っていたナンテ……」
「……そんなに悔しいことなのか?」
「それはモウ……! サニパ様はククが日本に来ようと思ったキッカケを与えてくれたカタガタなのデスから!」
「……サニーパッションの2人が?」
可可が日本に来た理由が意外な存在のおかげと知り、俺は彼女の素性に興味が湧いた。
「はいデス。ククは元々上海で暮らしていたのデスが、両親が厳しくて勉強ばかりの日々デシタ」
可可も俺が食いついてくれたからか詳しく説明をしてくれる。
「家族はククの為を想って厳しくしていたと思うのデスが、ククの心は全く満たされませんデシタ。いくら勉強を続けてもククがやりたいことはソコには何もなかったからデス」
話を聞く限り、彼女の家は勉学至上主義な習わしがあるようだ。そういった生活は少なからず将来のためにはなれど、今を楽しむことが容易にできない。勉強漬けの日々で友達と満足に遊ぶことも許されず退屈な人生を送っていたのだろうと可可の表情からそう見てとれた。
「友達と遊ぶこともデキズ、将来のために勉強スル。このまま楽しくナイ生活を続けるのかと思って気が落ちてイマシタが……そんな時にネットでスクールアイドルを見まシタ」
「………………」
普段は聞くことができない可可のプライベートに俺は真剣に耳を傾けていた。
「スクールアイドルをやっているヒト達は自分タチのやりたいコトを心の底カラ楽しんでいることが伝わってきて、それを見てククもやりたいと思ったのデス」
「……自分のやりたいことを……心の底から……」
「その中にサニパ様も入っているのデス。あの人タチのパフォーマンスを見てると、すごく元気と勇気を貰えマシタ! ククもこんなトコロでくぶすっていられないと思って、スクールアイドルをやる為に日本へやってきたのデス!」
「くぶすって……? それは燻ってって言いたかったのか?」
聴き慣れない言葉が聞こえてきたが、話の流れからすぐに推察した俺は訂正を入れる。彼女も伝えたい言葉が間違っていたことを認識したようでアワワと焦る様子を見せる。
「アッ! それデス! クゥ……日本語は勉強してキマシタがまだまだベンキョー不足デスね……」
「それでも難しい日本語を覚えてるんだな。大したもんだよ」
燻るなんて言葉、高校生がそうそう使うものじゃない。それをこの年齢で、あまつさえ外国人の彼女が使いこなしているということは彼女が日本へ来る為に重ねてきた努力の結果なのだろう。
「でも、その話を家族はよく許してくれたな?」
「……そ、それは……とある条件を付けたからデス……」
「条件……か」
家族の話に戻した途端、彼女の気と声が小さくなった。条件付きで許したということはおそらくここでスクールアイドルとしての成果を得られなければ……、ということだろう。勉学に厳しい人間を納得させるにはその方法しか見当たらない。
可可がダンマリになってしまい、話したくなさそうな雰囲気が伝わったので俺は笑顔を作って迫るライブの話題へと戻す。
「……なら、尚更こんなところじゃ立ち止まっていられないな?」
「……エッ?」
「少なくとも可可がこのライブに掛ける想いは伝わってきたし、かの……澁谷も可可のその想いに応えてくれるはずだ」
かのんは誰よりも正義感に熱い少女だ。可可が不安になるようならきっと彼女は可可へと手を差し伸べるだろう。1人じゃ何も出来なかった俺の手を引っ張ってくれた時みたいに。
「明日のライブ、絶対に観にいく。だから、可可が持ってるその情熱をステージで俺に全力でぶつけてくれ」
「……ッ! は、ハイデス!! 絶対にハヤトをクーカーに夢中にさせてみせマス!」
「クーカー?」
「フッフッフ、クク達のユニット名デス!」
自信満々に答える可可。ただ可可とかのんの名前を伸ばしただけの安直な名前だが、それでもどこか悪い響きがしなくてつい笑みを浮かべる。
「悪くないな。なら楽しみにしてるぜ。練習、がんばれよ」
「アリがとうございマス! それデハ!!」
俺からの激励の言葉に嬉しくなった可可はスキップをしながら廊下を後にするのだった。可可の姿が見えなくなり俺も帰ろうと思ったが、可可のある言葉が頭から離れなかった。
「自分のやりたいことをやる為にここに来た……か」
彼女がスクールアイドルをやる為に並々ならない努力を重ねてきたこと。その理由が今になってわかった気がする。スクールアイドルへの勧誘、楽曲作りの協力要請、苦手な運動にもなけなしの頑張りで食い付いていったこと、それらは全て彼女がここで実績を出す為だったのだ。だが、彼女もただ実力者を集めるだけではなく、自分と想いを同じくした仲間を求めていた。それは自分の目的を果たすだけでなくそこで出会った仲間と苦楽を共にして結果を出したいということなのだろう。
彼女の行動力の高さに俺は呆気に取られていた。自分の素直な気持ちに従う彼女の純真さ、真っ直ぐさが眩しかったのだ。
「……俺もこのままでいいのか……」
好きなことがやれない苦悩を思い出して、彼女との立場の違いを痛感してしまう。明日のライブが楽しみな反面、その場から前に進めないもどかしさと不甲斐なさを感じながら俺は帰路に着くのだった。
やりたいと思った時から、物語は始まる。