吹き荒ぶ風、奏でる音   作:M-SYA

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お待たせしました。

本編28話です。

それではどうぞ!




代々木スクールアイドルフェス

 

 可可と話をしてから翌日、待ちに待った代々木スクールアイドルフェス当日だ。代々木公園の一角にあるステージの周りにはイベントに参加するであろう制服姿の高校生やスクールアイドルのライブを観ようと多くの一般人が集まっており、近くには屋台も設置されていたりと大いに賑わっていた。今はお昼過ぎで空は明るいが20近くのグループが参加するイベントなので、トリに回るまでに空も暗くなることだろう。

 

 俺は会場に1人で来ていたが周りには恋さんや知り合いの姿は見えなかった。どうやらまだ現地には到着していないようだ。

 

「さて……どうやって時間を潰すか……」

 

「アッ! ハヤト〜〜!!」

 

 どうやって時間を潰そうか考えようとしていた時、遠くから可可の甲高い声が聞こえてきた。まだ制服に身を包んでおり、かのんは席を外しているようだった。

 

「よっ、いよいよ本番だな。今日は楽しみにしてるぜ?」

 

「任せてクダサイ! チサトさんの扱きの成果、見せてやるデス!」

 

「その言い方は千砂都に怒られるから絶対やめろよな?」

 

 扱く以外の適切な日本語が見つからなかったのか、それともスパルタ教育への当てつけかは分からないが、それでも千砂都の堪忍袋をぶった斬るには十分すぎる一言だったので彼女がここにいなくて本当によかった。

 

「……それと、澁谷はいないのか?」

 

「アッ、かのんなら……」

 

「……可可ちゃ〜ん! やっと追いついたよ〜……」

 

 可可がかのんを探すように後ろへ振り向くとかのんがゆっくりと走りながら可可の元へやってきていた。今まで熱心に練習に取り組んでいた彼女が膝に手を当てて息を切らしているところを見るとかなりの距離を走ったように見える。

 

「もう、可可ちゃん。あんなに人が多いのに歩道橋で走り出したら危ないってば〜!」

 

「す、すみませんデシタ〜……ハヤトを見つけたからついうれしくなってシマッテ……」

 

「えっ、颯翔?」

 

 かのんは可可が突然俺の名前を出したことで素っ頓狂な声を上げるが、すぐにその言葉の意味を理解した彼女は可可の後ろを覗くようにこちらを見つめてきた。そして、途端に表情が硬くなるのは言わずもがなのことだった。

 

「……来てたんだ」

 

「可可や他にもスクールアイドルを名乗る人らに誘われたからな」

 

「そんなこと言って、本当は私への嫌味でも言いに来たんじゃないの?」

 

「んなガキみたいなことを誰がするか」

 

 相変わらず喧嘩を吹っかけてくるように文句を並べるかのんに眉を顰めながら反論する。そんな犬猿の仲な俺たちの間で可可は不安な表情を浮かべながら双方を見つめる。

 

「別にお前がどんなパフォーマンスをしても勝手だが、俺は誰かを馬鹿にするためにここに来たわけじゃねえ。努力を重ねた人たちの勇姿を見届けるために来てんだ」

 

「…………」

 

「スクールアイドルを続けるために頑張ってる可可の足をせいぜい引っ張らんようにな?」

 

「……私だって歌うことを続けるためにここに来てる。私の夢を応援してくれる可可ちゃんの足を引っ張るつもりなんかさらさらない」

 

 かのんはまっすぐこちらを見据えてそう言い切る。以前のかのんなら『私たちのことを馬鹿にするな』と逆上して突っかかってきそうなものだったが、可可との出会いが、スクールアイドルとの出会いが、彼女が変わるきっかけを与えたのかもしれない。

 

『まもなく開会式が始まります。参加する方々はステージへ集まってください。繰り返します、まもなく……』

 

 彼女との沈黙の睨み合いが続く中で公園内に参加者を呼ぶアナウンスが響き渡る。かのんも音源の方を一瞥するとすぐにこちらへ向き直る。

 

「あんたに見られることは不本意だけど、それでも本気のパフォーマンスをすることに変わりはないから」

 

 かのんはそう俺に告げると硬くした表情を崩し可可へと視線を動かす。

 

「可可ちゃん、時間だから私たちも行こ?」

 

「えっ、あ、はいデス……!」

 

 唐突な切り替わりに可可は呆気に取られていたが、ステージの方へと歩き始めるかのんの後ろを追いかけようとする。だが、その直前に何かを思い出したようにこちらへ振り返った。

 

「ハヤト、今日のクーカーのライブ、楽しみにしていてクダサイ!」

 

「おう、応援してるから全力でやってこいよ」

 

 そう言いながら手を振ると、可可も返事をするように手を振り返す。そして、彼女はかのんについていくように忽然とステージの方へと消えるのだった。

 

「あれっ、君はもしかして……?」

 

 不意に後ろから聞き覚えのある明るい声がして、振り返るとそこにはサニーパッションの2人がいた。

 

「あっ、サニーパッションの柊さんと聖澤さん」

 

「あらっ、湊月くん。覚えてくれていたんですね」

 

「あれからお二人の動画を見させてもらいましたからね」

 

「お〜、そうなんですね〜! これは声を掛けた甲斐がありました、パァッ!」

 

 悠奈さんは嬉しそうに手と口で彼女のアイデンティティである『パ』を表現する。いや、『パ』がアイデンティティとはなんだ。

 

「先ほど、ステージで呼び出しがありましたけど?」

 

「えぇ、これから向かう所だったんです」

 

「その道中で湊月くんに遭遇してパァッと嬉しくなったわけです!」

 

 悠奈さんは『パ』を表現しながら再会した喜びを伝えてくれる。屈託のない笑顔でそんなことを言われれば世の男はすぐに落ちるだろう。そんな些事を考えていたが摩央さんと悠奈さんもステージへ向かう途中だったようで、それならばここであまり悠長に話していても仕方ない。

 

「そうですか、じゃあ時間も近いですから早めに向かった方が良いですよ」

 

「ありがとう。じゃあ、私たちもこれで……」

 

「……の前に!」

 

 摩央さんの言葉に被せるように悠奈さんが口を開いた。

 

「前に湊月くんが言ってたスクールアイドルの子達って『クーカー』って言うんですか?」

 

 悠奈さんは俺と可可達が会話しているところを目撃したようで、可可が大きな声でクーカーと発言したものが聞こえていたようだった。

 

「そうですよ。と言っても俺も昨日初めて知りましたけどね」

 

「あはは、さっき湊月くんが話していた子を見てるとすごく面白そうな子ですよね!」

 

 可可の元気っぷりを悠奈さんも自分に近しい匂いを感じたのか、好印象を抱いてくれているようだ。悠奈さんからのありがたい言葉を直接可可に届けられなかったのが残念だが、後で彼女に伝えておこう。

 

「彼女らも努力は重ねてるんでお二人とどの程度まで競えるのか、楽しみですよ」

 

「ふふっ。そこまで言うなんて、益々彼女達のパフォーマンスを見るのが楽しみね」

 

「そうだね〜! 心がパァッとワクワクしてきたよ!」

 

 どうやら俺の言葉が彼女らのやる気に火をつけてしまったようで、より一層気合に満ちているようだった。

 

「では、時間も近いので私たちはこれで」

 

「湊月くんもライブ、楽しんでいってね!」

 

「はい、お二人も頑張ってください!」

 

 そう言ってサニーパッションの2人と別れを告げる。前評判でも彼女らの人気は高く、今回の優勝は彼女らじゃないかと噂されているが、そのプレッシャーなども特に感じさせない堂々としている姿はとても勇ましく思えた。

 

 クーかーとサニーパッション、二つのアイドルグループが一体どのような輝きを見せるのか、今からとても待ち遠しく思えた。

 

 

 

 

 

 

「恋さん……全然来ないな? 一体どこをほっつき歩いてるんだ?」

 

 開会式が終わり、いよいよ代々木スクールアイドルフェスが開幕した。先ほどの開会式でライブパフォーマンスを行う抽選が行われ、サニーパッションが全参加グループの中盤、クーカーはトリを飾ることになった。

 

 今は名も知らないスクールアイドル達がパフォーマンスを披露しているが、これ見よがしに恋さんの姿を探そうと辺りを一望する。しかし、どこにも恋さんと思わしき人物が見つからず俺は苦言を呈していた。約束をドタキャンするとは思えないが、生徒会の仕事が長引いて中々席を外せないのだろうか? 

 

「あれっ、颯翔くん?」

 

 周囲をキョロキョロしているとこれまた聞き覚えのある声が聞こえてきた。そこには千砂都がいたのだった。

 

「千砂都、意外と遅かったな?」

 

「あ〜、たこ焼き屋のバイトが少し長引いちゃってね〜」

 

「たこ焼き屋のバイトしてるのか?」

 

 千砂都がたこ焼き屋のバイトを始めていることに驚いたが、彼女は丸いものが好きな上にたこ焼きも大好物だ。これも自分を変えるためのきっかけとして始めたことなのだろう。俺の反応に千砂都はふふんと鼻を鳴らす。

 

「そうだよ、ちぃちゃん特製のたこ焼きは美味しいって評判だから、今度食べにおいでよ?」

 

「なら、今度時間を見つけて食べに行かせてもらうさ。知り合いなんだし安くしてくれるよな?」

 

「いくら颯翔くんでもそれはバツかな〜」

 

 友人の恩恵を持ってしても千砂都は両手でバツを作る。負けてくれないなら誰が買うか、なんて言いたいところだがたこ焼きは俺も好きなので千砂都が作るたこ焼きが気になってきた。近々、燈香や恋さんを連れて食べに行こうかな。

 

「それよりもかのんちゃん達以外のスクールアイドルはどんな感じなの?」

 

「確かにみんな綺麗だし、一生懸命盛り上がってるけどそれまでだな。いいなって思うだけで心には刺さらない感じだ」

 

 先にサニーパッションのパフォーマンスを動画で見てしまっていたからかは分からないが、他のスクールアイドル達のパフォーマンスも心がワクワクする感覚には陥るがそこまでが限界だ。ノーマークだったからという原因もあるだろうが、それでも惹かれるほどの魅力を感じるかと言われたら首を傾げてしまう。

 

「そっか〜、ちなみに颯翔くん的オススメはいるの? クーカーを除いて」

 

「クーカーを除いて……って言われるとやっぱりサニーパッションかな。あの人たちのパフォーマンスは見てて心が跳ねるんだよ」

 

「ふむっ……ってもう次がサニパさんじゃん!?」

 

 気になるグループについて語っていたら、その本命がステージに上がってきた。サンバのような大きな装飾を施した派手な衣装、そして、黄色と紫という太陽と月を表現しているような配色。悠奈さんは快活な笑顔で観客席に手を振り、摩央さんはクールに一礼を決めるその対照的な姿もまた味があった。

 

「あっ、そうだ! せっかくなら〜……」

 

 ステージ上の彼女らを眺めている横で千砂都は何かを思い出したように鞄を物色する。そして、取り出したものを俺に差し出す。

 

「はい! これ、颯翔くんの分だよ!」

 

 見るとそれは観客がアイドルの応援でよく使用するペンライトだった。

 

「ペンライト?」

 

「うん。だって颯翔くん、手ぶらで来てたしせっかくオススメのグループが来たなら全力で応援しなくちゃじゃない?」

 

 千砂都の言う通り、今日のライブに向けて何を持っていけばいいのか分からず、ひとまず空気感を知ろうと思って何も持ってきていなかったのだ。千砂都も自分用のペンライトを既に一本持っており、なんだか俺の行動が見透かされているようにも思えてしまった。

 

「……あぁ、わかった。ありがとうな」

 

「うん! ライブ、一緒に楽しもうね」

 

 千砂都の弾けるような笑顔を見て、俺はあることに気がついた。そういえば、千砂都と2人だけでこうして何かを体験するのは初めてかもしれない。今まではかのんも含めた3人で一緒に動いていることが多かったから、すごく新鮮な気分だ。

 

「さぁ〜みんな〜! 私たちのライブをパァッ〜っと楽しんでいってね!!」

 

「ここに来てくれた人たちを私たちのパッションで熱くしてあげるわ!」

 

 千砂都の横顔に見惚れている間にステージではサニーパッションの2人が観客に煽りを入れていた。彼女らの掛け声に呼応するように会場の熱気は先ほどよりも一段と増しているのが肌で感じられた。

 

「─────♪」

 

 すると、摩央さんが俺の姿を視認したようで、明らかにこちらへ目を配りながらウィンクを返してくれた。

 

 ステージからでも俺の姿が認識できるほど、よく見えていることがわかり思わずドキッと胸が熱くなった。さすが、今をときめくスクールアイドルはこういったファンサービスもお茶の子さいさいなのだろう。

 

『それでは、ライブスタート!!』

 

 先ほどの余韻に浸るまもなくサニーパッションのライブが幕を開けた。

 

 





熱いパッション、あなたに届け。

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