吹き荒ぶ風、奏でる音   作:M-SYA

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お待たせしました。

本編30話です。

それではどうぞ!




二筋の流れ星

 

「はい、燈香ちゃんの分もこれどうぞ!」

 

 千砂都は鞄からペンライトを持ち出し、俺を挟んで燈香へ貸し出す。千砂都は可可からクーカーを全力で応援できるようにと自前のペンライトをもらっていたようだ。千砂都自身もかのん達を応援できるようにと先に2本用意していたのだが、可可から貰った2本と合わせて4本を使い回すこともできないため、俺と燈香に貸し出してくれた。

 

「ありがとう、嵐さん」

 

「気にしないでいいよ! それに私のことは千砂都って呼んでいいから!」

 

「あっ……じゃあ千砂都ちゃん。同じ音楽科同士、仲良くなれたら嬉しいな……!」

 

「えへへっ、うん!」

 

 千砂都が持ち前の明るさを発揮して燈香と早速意気投合していた。俺の知る千砂都とは縁遠いその姿に未だ違和感を拭えていない。自分を変える為にダンスを始めたと言っていたが、その影響でここまで自分に自信を持つようになったのだろうか。

 

「それにしても千砂都、どうして俺の連絡先を知ってたんだ? 俺はお前に教えた記憶が全くないが……」

 

「あぁ〜……は、颯翔くんのクラスメイトさんから聞いたんだよ! スクールアイドルのライブに興味を持ってたんだけど、最後まで見ることが出来ないって言ってて、それならせめてってことで教えてもらったんだ〜!」

 

 なんだか急に千砂都は目を逸らしながら捲し立てようとしている。何かを隠していることはわかるが、別に食ってかかるわけじゃないのに何故本当のことを話さないのだろう。

 

『それでは代々木スクールアイドルフェス、大トリを飾るは〜! 結ヶ丘高等学校スクールアイドル、クーカー!!』

 

 会場のアナウンスがクーカーの名を呼び会場の歓声が大きくなっていた。千砂都を問い詰めようと思ったが周囲の状況がそれを良しとせず、俺はただ空気の流れに従うしかなかった。このライブが終わった時にもう一度聞こう、そう心に決める。

 

「あっ、かのんちゃん達だ!」

 

 千砂都がペンライトで指す方向を見るとステージ衣装を身に纏ったかのんと可可がステージに上がってきていた。白を基調としたワンピース。その他の色としてかのんは青、可可はピンクを衣装に織り込んでいるが、リボンやチョーカーなどの装飾は相手方のベース色を織り込んだもので構成され、正に二人で一つと表現するに相応しいものだった。

 

 緊張の面持ちでステージに上がるかのん、そして反対に可可は笑顔で手を振って観客の歓声に応えていた。

 

『…………っ!』

 

 かのんと可可は観客席の前方で観覧している俺たちを見つけ、驚きを顔には出していないが目が若干見開かれたように見えた。見に行くとは言っていたがまさかここまで近くで陣取っているとは思ってもいなかったのだろう。

 

『は、初めまして!』

 

『ワタシタチは、結ヶ丘高校スクールアイドルのクーカーデス!』

 

『よ、よろしくお願いします!』

 

 かのんは緊張が抜けないようで声がかなり震えているが可可は平然を装いながら自己紹介をする。可可は普段と同じように軽々と頭を下げる中、かのんは力を込めて頭を下げており、その姿はあまりにも対照的だった。

 

「あいつ……あのままで大丈夫か……?」

 

 可可の足を引っ張るわけにはいかないと息巻いていた矢先にこの緊張っぷりなので、少し拍子抜けしてしまう。

 

『今日は私たちの初ライブに来て頂き、ありがとうございます』

 

『このフェスのトリをかざることになりマシタが、ぜひ最後までミナサンと一緒にたのしみたいデス!』

 

 ライブ前の挨拶を終え、2人が背を合わせるように配置につく。可可が作った歌詞とかのんが紡いだであろうメロディ。それがどのような形で産み出されているのか楽しみになっていた。

 

 だが、楽曲が始まるまでの沈黙の間、俺は可可の様子が少しおかしいことに気づく。

 

(……あいつ……手が震えてる……?)

 

 一番前の席を取ることができたから彼女らの細かい仕草までよく見えるのだが、構えを取っている可可の手が震えていたのだ。クーカーにとってみれば、このライブはスタート地点。だが、可可にしてみればこの結果によっては終着点となる。かのんが昔からのあがり症を克服できていないこの状況下、自分だけは失敗してはならないと自身に言い聞かせていたのだろう。周りには元気な姿を見せる反面、彼女は自身に科せられた重荷をひた隠しにしておりそれがこうして震えに出ていたのだ。

 

(…………がんばれ、可可)

 

 彼女が自身のプレッシャーに押しつぶされないように心の中でそう願った瞬間、突然ステージ全体の照明が落ちた。

 

「えっ?」

 

「て、停電……!? なんで!?」

 

 唐突に暗くなった為に千砂都と燈香は声を上げる。それに呼応するように周囲でも騒めきが発生していた。天気が悪いわけではないし、周囲のスタッフの様子を見る感じ、何が原因かが掴めていないようだ。

 

 だが、突然真っ暗になったこの状況でかのん達も驚きのあまり、声を上げずにたじろいでいた。この機材トラブルの中、自分たちの声だけで動揺している観客達を振り向かせることが出来るのか分からず、どうすればよいのか混乱しているようだった。

 

 このまま沈黙の時間が続いてしまうことによる不安要素が脳裏を過ぎる。それは観客達との温度差だ。このトラブルがすぐに復旧すれば気持ちを立て直してライブに臨めるだろうが、この無限に続いてしまうのではと錯覚する程の無の時間が観客達の熱を冷ましてしまう。そうなると、たとえ復旧できたとしても彼女達のライブが正当な状況下で評価されず何も成果を得られないままライブが終わってしまう。そうなれば彼女達のスクールアイドル人生は終わりだ。そんな馬鹿げた理由で終わりになってしまうのは絶対におかしい。

 

 そう頭で理解した時、俺の行動は早かった。

 

「……がんばれぇぇー!!」

 

「……っ!?」

 

「颯翔くん……」

 

 俺は手に持っているペンライトをピンク色に点灯させ、大きく彼女達に声援を送った。突然の大声に隣にいた千砂都と燈香はびっくりしている。ステージにいるかのん達も俺の声を聞き、こちらを見つめながら「颯翔……」と口だけで俺の名前を呼んでいることがわかった。

 

「クーカーーー!!」

 

「だ、大丈夫だよー!!」

 

 俺の横で千砂都はペンライトの色を付けながら大きく彼女達の名前を呼ぶ。燈香も恥じらいを見せながらではあるが、彼女なりに精一杯の声を張って彼女らへ励ましの言葉を飛ばす。

 

「がんばれ〜!」

 

「いけるよー!」

 

「負けるな〜!」

 

 そして、俺たちの声に続くように周囲の人たちもペンライトに色を付けながらかのん達にエールを送り始めた。次第に観客席はペンライトの光の海が作られ、辺りを照らす程の輝きを放っていた。先ほどの冷えた空気から一転して暖かな雰囲気に包まれたこの状況にかのんと可可は肩を寄せながら驚愕している。だが、それも束の間、かのん達は笑顔を取り戻す。かのんと可可がお互いを見合って力強く頷き曲が始まる前の構えに戻る。

 

 そして、歌い始めようとした瞬間に奇跡が起きた。

 

「……ステージが……復活した……!?」

 

 かのんの歌声に反応するようにステージに光が戻ったのだ。そして、スピーカーを通じてかのんと可可の声が会場内に一斉に響き渡った。

 

『〜〜♪』

 

 ステージがかのん達の色に染まり、観客らもペンライトを振りながら各々のスタイルで応援する。燈香もかのん達の歌とパフォーマンスを聴いて彼女達に釘付けになりながらペンライトで応援していた。

 

 俺も燈香に負けないように応援を送ろうと思ったのだが、俺はペンライトを動かすことができず固まっていた。俺の様子を不審に思った千砂都は横で俺を一瞥し声を掛けてくる。

 

「……颯翔くん……?」

 

「…………すげぇ…………」

 

 横で千砂都が心配してくれているがその声は俺の耳を通らなかった。俺はただ彼女達のパフォーマンスに、眩しい姿に見惚れていた。彼女達の歌詞、歌、ダンス、その全てが俺の胸に刺さる感覚があった。この感覚はサニーパッションのパフォーマンスを初めて見た時とは明らかに違う。ペンライトを振ることができず、ただ彼女達の魂の叫びに注力することしかできなかった。

 

(……あんなに緊張してたかのんが……ここまで魅せられるようになってるなんて……)

 

 先ほどの自己紹介もガチガチに固まっていたのにライブが始まった瞬間、人が変わったように笑顔でパフォーマンスを披露している。とてつもないポテンシャルの高さに、彼女のまっすぐな笑顔に、俺は虜になっていた。

 

 そして、かのんに魅入られると同時にある感情がふつふつとわいてきた。

 

(俺は……何をやってるんだろうな…………)

 

 小学生の頃、かのん達と離れてダンスを続けられなくなった俺は特に始めたいことが見つからず平凡な人生を送っていた。しかし、結ヶ丘高校に入って千砂都とかのんと再会し、今の彼女達と俺の立っている場所があまりにも違いすぎることを痛感してしまったのだ。やりたいことが出来なくなったことをいつまでも引きずり、立ち止まっている間に彼女らは先へと進んでいる。何も変わってない自分がただただ不甲斐なく思えてしまった。

 

(…………それでも…………)

 

 これまでの俺なら、その立ち位置の違いにショックを受けてまた彼女から逃げようとしていただろう。だが、かのんと可可のステージが俺のそんな弱い心を打ち消そうとしてくれる。不思議と前に進むための力をくれる。彼女達がこうしてライブを行える一端に俺も関わっている。それがとても嬉しくて、彼女らに負けてられない、俺も立ち上がる時だ、と活力が溢れてくるのだ。

 

(……かのん…………やっぱりお前は…………俺を照らす……)

 

 彼女達の輝かしく眩しい姿に俺は嬉しくなり感極まる。目に溜まる涙が溢れないように少し顔を上げ、笑顔を作って感情のダムが壊れないように押さえつける。だが、彼女達の歌が心のダムを決壊させようとしてくる。

 

『〜〜〜〜♪』

 

 曲のラストフレーズを歌い切り、かのん達がポーズを決める。会場内は大歓声に包まれており、横で燈香も大きく拍手をして彼女達を讃えていた。

 

「すごい〜〜!! クーカーさん、すごく綺麗で可愛かった……!! …………って、颯翔くんどうしたの!?」

 

 かのん達の歌が終わり、目からとめどなく涙を流してる俺を見て燈香は驚きの声をあげた。

 

「…………すまん、なんて言えばいいのか分からねぇ……」

 

 俺自身も語彙力が欠如しており、この感情をなんて伝えればいいのかわからなかった。そして、言葉に迷う俺と同じようにステージを直視したまま動かない人物がいた。

 

「………………」

 

(千砂都も固まるなんて珍しいな……)

 

 いつもならクーカーのパフォーマンスに感動して大声で歓声を上げているだろうが、そんなこともなく何か思い詰めるように表情が硬くなっていた。

 

『皆さん、ありがとうございましたー!』

 

『以上、クーカーデシター!!』

 

 ステージではかのん達が最後の挨拶を終えて、観客に手を振って声援に応える。俺はかのん達に返事をするようにペンライトを左右に振るが、頭の中では応援とはかけ離れたことを考えていた。

 

(俺も……こんなところで立ち止まってちゃいられない……)

 

 ライブの成功を収めたかのん達。このまま彼女や千砂都に負けるわけにはいかない。大歓声に包まれる代々木公園で俺はとある決意を固めようとしていたのだった。

 

 こうして、代々木スクールアイドルフェスは幕を閉じた。

 






何も見えなかった夜空に小星が光る。
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