吹き荒ぶ風、奏でる音   作:M-SYA

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お待たせしました。

本編31話です。
今回から第二章の始まりとなります。

一件報告ですが、本小説の表紙を目次にて追加しました。
Twitterでも報告しておりますので是非見ていって下さい。

それでは本編をどうぞ!



第2章『月は自ら輝けない』
ライブの余韻


 

 代々木スクールアイドルフェスから2日が経った。

 

 今日はいつも通りの月曜日であり、普段と変わらない朝を過ごしていた。だが、その反面、俺の心境はこれまでとは全く異なるものだった。理由は一つ、あのライブの影響だ。

 

 かのん達のライブを見てから俺の中で明らかに何かが変わっている実感がある。かのんや千砂都に対しての劣等感を強く覚えてしまった故に彼女らに遅れをとりたくない、負けたくないと思うようになっていた。そう考えはしても実際に俺は何がやれるのかは分からない。スポーツで実績を残すとしても今の俺は身体が盤石ではない。無理をすればすぐに壊れてしまうほどに軟弱だ。あのライブ以後、挑戦できることを模索していたが大して収穫を得られていない。

 

「…………やと、…………颯翔?」

 

「へっ?」

 

「へっ、じゃねえよ? 昨日からずっと様子がおかしいじゃねえか」

 

 朝から黙々と考え事をしていたからか兄の凪が堪らず声を掛けてきた。凪の声が突然耳に入ってきたために思わず変な声が出てしまい、そんな俺を見て凪は苦笑する。

 

「土曜日、何かあったのか? そういえばスクールアイドルのライブを見に行ってたんだろ?」

 

 凪は俺の様子がおかしくなった要因について言及する。凪にはイベントを見に行くとだけ話しており、かのん達が出ていることは話していない。だが、それでも心境の変化のタイミングとしてはこれが一番合点のいく予想だった。

 

「……そのイベントを見てさ……思ったんだ。俺は……何をやってるんだろうって……」

 

「……ほう?」

 

「そのイベントに出てた人たちは自分のやりたいっていう気持ちを歌やダンスに乗せて披露してた。ただの高校生なはずなのにすごく眩しかったんだ。それを見てたら……ずっと止まったままでいる自分が情けなくてな……」

 

 かのん達のパフォーマンスを見て感じた衝撃。あれは今でも忘れることはない。とてつもなくあがり症だったかのんが人前に立って、笑顔でライブをしていた。あの時の彼女はすごくかっこよくて綺麗だった。

 

 だが、かのんと接触した、なんてことを話すのも抵抗があったので、それとなくスクールアイドルを見た感想として凪に今の心境を吐露する。凪は俺がここまで考え込んでしまうと思わなかったからか、目を見開いて驚きの表情を見せていたが、事情をすぐに理解しあっけらかんといていた。

 

「そうか……。お前もやってみたくなったのか?」

 

「いや、スクールアイドルになる気はさらさらない。もうダンスはできない身体だ。仮にやったとして、歌うだけのアイドルなんて味気ないだろ?」

 

「そうだろうけど、それは本人の気持ち次第だろ?」

 

「その本人の気持ちで言うなら、俺はやろうと思ってない。それで答えは出てるさ」

 

 凪からの勧めも俺はスクールアイドルになる気はないと一蹴する。以前に可可にも伝えたことだが、俺はスクールアイドルをやりたいと思っていない。だからこそスクールアイドル以外のやり方で結果を残したいと思っているのだ。

 

「まぁ、今の俺に何ができるかなんて分からないし、少しずつ探してみるさ」

 

 ふと時間を確認したら、家を出る時間に迫っていたので話を切り上げて学校へ登校する準備を始める。

 

「……じゃあ、行ってくる」

 

「……あぁ、いってらっしゃい」

 

 俺の様子を見て、凪はこれ以上の追及をやめる。そして、静かに俺を見送るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学校に到着すると廊下の掲示板に一際目立つチラシが掲載されており、興味本位で中身を確認しに行く。そこには早速土曜日のライブイベントの結果が通知されていた。

 

「クーカー……新人特別賞受賞……」

 

 かのん達は優勝こそ逃したものの新人特別賞受賞という目覚ましい成果を得ていた。こうして早速生徒の目に留まる場所に掲載しているということはあの場に千砂都や燈香の他にも先生たちが来ていたのだろうか。

 

「優勝は逃したけど……この持ち上げられ方なら……」

 

 スクールアイドル部の設立に異は唱えられない、そう仮説を立てた。理事長は生徒の自主性を尊重しており、またかのん達も手ぶらで帰ってきたわけではないためその成績を以って部として正式に認められることだろう。

 

「…………俺にも何か…………」

 

 やれることはないか、そんなことを考えていると俺は掲示板にクーカーの結果報告と一緒に掲示されているとあるチラシを見つけた。

 

「これは……『東京ハイスクールダンス大会』……?」

 

 見るとそれは東京都内の高校生のみが参加できるダンス大会だった。開催の時期を見ると7月下旬と書かれており、まだ4月なのに話が早くないかと疑問を抱いてしまう。ダンス大会のチラシを見ていると燈香が声を掛けてきた。

 

「あっ、颯翔くん! おはよう〜!」

 

「燈香、おはよう」

 

「土曜日のライブ、すごかったね〜! まだあの時の興奮が冷めないよ〜」

 

 燈香はそう言って自分の胸に手を当て興奮が再燃している様子を見せる。燈香もここまでスクールアイドルに熱中することになるとは思わなかったため、まさに青天の霹靂とはこのことだろうか。いや、この表現は少し大袈裟かもしれない。

 

「そうだな、俺ももう一度あんな景色を見たいなって思ったよ」

 

「えへへっ、颯翔くんってば感極まって泣いちゃってたもんね?」

 

「なっ……! そ、それはそうだけど、他の奴には絶対言うなよ?」

 

 唐突に俺の号泣した様を掘り返され思わず恥ずかしくなる。同級生らのライブを見て泣いたなんて他の人らにバレたらなんて弄られるか分からない。厄介ごとを増やしたくないため燈香には絶対に口を塞いでもらいたい。

 

「えぇ〜、って言いたいけど颯翔くんが嫌って言うなら私も内緒にする。2人だけの秘密、だね?」

 

「なんか言葉に語弊がある気もするけどまあそういうことにしておくか」

 

 2人だけの、なんて他の人が聞いたら誤解を受けること待った無しな発言をする燈香に苦笑いを浮かべる。別に彼女とはそういった関係性は一切ないから穏便に済ませたいものだ。

 

 俺の心情を知るわけもない燈香は俺の横に立ち、あるチラシを目にする。

 

「そういえば、これって何?」

 

「東京ハイスクールダンス大会だってさ。調布にあるスポーツプラザで夏に大会があるらしい」

 

「それにしても募集が今からあるっていうのも不思議な話だね?」

 

「その大会はいつもそうみたいですよ」

 

 俺と燈香がダンス大会の事で疑問を浮かべていると恋さんが会話に入って助け舟を出してくれた。

 

「あっ、恋さん。おはよう」

 

「おはようございます、颯翔くん、燈香さん」

 

「おはよう、恋ちゃん! それより、いつもそうっていうのは……?」

 

「このダンス大会はこの辺りでも有名なイベントなんです。ダンス大会と銘打っていますが有志で開かれるダンスイベントも同時開催という事で経験問わず多くの人で賑わいを見せている大会みたいですよ」

 

 どうやらダンスの経験者のみならず初心者でも簡単にダンスを学べる、楽しめるイベントということで人気を博しているようだ。恋さんがこういった娯楽に近いイベントにも精通していることに素直に驚嘆している。

 

「そっか〜、じゃあ、今はダンスイベントへの参加者を募ってるってことなんだね! よく見たらダンス大会の受付は5月中旬からって書いてるし!」

 

「やはりダンス大会の盛り上がりが特に凄いからでしょうね。こういったイベントでもそちらの名前を堂々と出すことで参加率を高めることに繋がっているのかもしれません」

 

「なるほどなぁ〜……」

 

 恋さんの説明を聞いて俺は感嘆の声を漏らす。俺が小学生の頃に取り組んでいたのはここまで大きなスケールのものではなく市民館や公園で開かれる規模の小さなものだ。もし、身体が万全ならば挑戦できたのだろうが今では叶わぬことだ。

 

「それにしても、恋さんずいぶんと詳しいんだな?」

 

「このイベントに参加したいと意欲を出す生徒がいたので取り急ぎ情報を揃えました。昨日、休日にも関わらず学校でいきなり声を掛けられたので驚いてしまいました」

 

「そこまで熱の入った生徒がいるのかよ……」

 

 まだダンス大会の応募は始まってすらいないのに今の内から情報収集を始めるとはその生徒、相当なやる気のようだ。ダンス大会へ参加はせずともどんな奴なのか気になるところではある。

 

「さっ、お二人ともまもなく朝礼が始まります。遅刻しないように行きますよ」

 

「はーい!」

 

 恋さんが腕時計で現時刻を確認するが、廊下でだいぶ話し込んでいたようで予鈴がなるまであと数分に迫っていた。恋さんの後を追うように燈香はせっせと歩いていく。

 

「………………」

 

 しかし、俺は先ほどのダンス大会のことが引っかかってしまう。自分が出るわけではないのになぜ気になってしまうのか、自分でもその理由を理解し得ぬまま、俺は恋さん達の後を追うのだった。

 

 






胸の中に小さな灯りが揺らめく。

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