吹き荒ぶ風、奏でる音   作:M-SYA

32 / 50

お待たせしました。

本編32話です。

それではどうぞ!




嵐の前の……?

 

 恋さんと燈香の後を追って教室に戻った俺は普段と変わらない授業をいつも通りこなしていた。昼休憩の時間になり、母親に用意してもらった弁当を食べながら俺は恋さんに土曜日のことを問いただす。

 

「そういえば、恋さんは土曜日のライブは見に来たのか? 結局恋さんとは落ち合えずだったし」

 

「生徒会の仕事が終わった後で向かいましたので、澁谷さん達のライブは拝見しました。時間も遅かったので遠目からの鑑賞とはなりましたが……」

 

 どうやら恋さんもフェスには参加していたようで、到着が遅れた関係から合流できなかったようだ。燈香が部活終わりで生徒会室に見に行った時の時系列と照らし合わせると確かに偽りは無さそうだ。

 

「見たのなら良いけど、結局あいつらの処遇はどうするのか決まってんのか?」

 

「……スクールアイドルフェスの優勝を逃しはしていますが新人特別賞を授与したということで活動に対しての努力は認めるべきとして理事長とお話ししました」

 

 恋さんは腑に落ちない表情をしながら、あの後の流れを教えてくれた。彼女としてはスクールアイドル部の設立を反対していたが、学校の総意に異を唱えることはできないようで渋々彼女らの活動を承諾したようだ。

 

「ってことはあいつらの活動は承認するってことになったんだな」

 

「それでも、今後の結果によってはその決定を翻すことも忘れずに、とは理事長とも話をしています」

 

「……さすが、余念がないというか……」

 

 スクールアイドル部の設立が認められたから練習を疎かにして、その結果生半可な成績しか取れないなんて事態になったら学校のメンツが崩れてしまう。恋さんもそんなふしだらな姿は見せたくない為に警告という意も込めて理事長と話し合ったようだ。

 

「……あっ! ねぇねぇ、2人とも! 土曜日のスクールアイドルフェスの模様が動画で上がってるよ!?」

 

 恋さんと部の設立について話していると、横でスマホを見ていた燈香がいきなりはわわっと言いながら俺たちにスマホの画面を見せてきた。そこにはかのんと可可のライブ模様が上がっており、どうやら代々木スクールアイドルフェスの公式運営が各グループ毎の動画をアップしているようだった。

 

「へぇ〜、公式がこうして各グループ毎の動画を掲載してくれるなんてありがたいな?」

 

「うん! これで何回でも唐さん達のライブを観れるんだね……!」

 

 クーカーのライブ風景を燈香が羨望の眼差しで見返す中、彼女に気づかれないように俺も後ろからその動画を見つめていた。画面には絢爛なステージの中で力強くパフォーマンスを繰り出すかのんの姿が映っている。

 

「颯翔くん、どうかしたのですか? 急に固まってしまって……」

 

「えっ? あ、あぁいや……ちょっと考え事をしちまってて」

 

 いつの間にか箸が止まっていた俺を訝しむように恋さんは声を掛けてくる。かのん達の映像を凝視していることがバレてしまったかもしれない。

 

「あっ、もしかしてこの後の授業である抜き打ち学力テストのこと!? 私もそこまで勉強してなかったから点数取れるか不安なんだよね〜……」

 

「……ま、まぁ、同じところだな……」

 

 燈香が間に割って入り、俺が懸念していた心配事とは全く毛色の違う不安を吐露する。今日の朝礼時に、春休みにも勉強をこなしていたかを確認するということで昼休憩後に学力テストを実施することとなったのだ。

 

「全く、何かと思えばそんなことですか……私達は勉強が本分ですから普段から勉強していれば何も困ることはないと思いますが」

 

 結果は違えど話の腰を折ってくれた燈香に感謝しつつ相槌を打つと恋さんも話に乗っかってくれて俺と燈香の反応に息を漏らす。

 

「えっ、春休み中も恋さんって勉強してたのか?」

 

「? 当然ではないですか。少なくとも課題の他にも自習で1時間はあてていました。仮にも私は音楽科の生徒。普通科よりも難しい試験を乗り越えたのですから、より高みを目指せるように努力を積み重ねなければいけません」

 

 恋さんは、何を言っているんだと言わんばかりに首を傾げ学業に励む理由を語り出した。確かに結高は音楽科の敷居が高いので実技だけではなく学科も成績を収めなければ合格するのは至難だった。結高への入学にあたり事前課題としてテキストの履修が必要ではあったが内容量としてはお世辞にも多いとはいえず毎日の課題ごなしプラス1時間も篭らなければいけないレベルではない。恋さんの研鑽っぷりに改めて驚愕するしかなかった。

 

「私もこれまでの復習として毎日30分は勉強に当ててたけど、1時間もこなすなんて恋ちゃんってすごく勉強熱心だね」

 

「燈香もちゃんと勉強してるだけ偉いじゃねえか」

 

「……ということは颯翔くんは春休み中に勉強をしていなかったということですか?」

 

 燈香の真面目さにも感嘆してると恋さんが睨みつけるようにこちらをジトーッと見つめてきた。流石に至近距離で睨まれると少し臆してしまう。

 

「別にサボってたわけじゃねえぞ? 学校から出された課題はちゃんとこなしたし……」

 

「出されたもの以外でも自分から率先して勉強を進めることが大事ですよ? 自分の知見を深める意味でも勉学は怠ってはいけませんし……」

 

「あ〜待て待て。お咎めなら学力テストの結果を見てから決めてくれよ。それで良ければ何も問題ないだろ?」

 

 恋さんから勉強に関するお咎めが始まりそうだったので話を強制的に終了すべくテストに関してとある条件を提示した。こう言ったことは成績が悪ければ文句を言われても仕方ないが、点数が良ければしっかりと自分なりに勉強をしているとして認める判断材料になるだろう。安易な発想ではあるが恋さんは思ったよりもすんなりとその提案を受け入れる。

 

「そうですね、ならば私と勝負といきましょうか。これで私よりも成績が良ければ今回は不問とします」

 

「オッケーだ。別に負けの条件は言わなくても勝手に決めてくれていいぜ」

 

「随分と自信がおありですね?」

 

「まあな」

 

 俺と恋さんの間でバチバチと火花が散っている中、燈香が困惑したまま笑みを浮かべる。

 

「……え〜と……とりあえず2人とも……早くお昼ご飯を食べちゃおう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちっ、あと少しだったのにな〜」

 

 昼休憩が明けた後、予告にあった抜き打ちテストが行われたのだが、その結果は恋さんの勝ち。俺は94点を取っていたが恋さんはなんと満点。これはどう足掻いても勝ちという選択肢が残っていなかった。しかし、勝負に負けたことは事実なので恋さんから提示される罰を待つ。

 

「ですが、颯翔くんの成績に驚きました。先ほどの話し方からしてあまり良い点数を取れないと思っていましたので」

 

「一応、ここに入れたのも実技試験はさることながら学力でも頭にいる方だったからな」

 

 あまり大きな声では言わないが、中学の定期試験では一桁に入るほどに高い成績を収めているのだ。今回は中学校で習ったことのおさらいだから苦戦するものがそこまでなかった。だが、計算間違いや問題の意図を履き違えたミスは我ながら情けないと思う。

 

「颯翔くんも恋ちゃんも凄いね……! 私も遅れは取らないかなって思ったんだけど……」

 

「それでも90点を取れてるなら上々だろ?」

 

 燈香は俺たちの点数と比較し、一番下だったことに悔しさを滲ませる。彼女も勉強意欲はあるし実力も世間で見れば優秀な部類に入るのだがいかんせん相手が悪すぎた。

 

「そうだけど……。でも、まだ定期試験があるからそこで追いついてみせるよ!」

 

「ならこれからが楽しみだな」

 

 次こそは勝つと闘志を燃やす燈香を見て、つい笑みが溢れる。そこに恋さんが割って入り今回の勝負の本題へ移った。

 

「私が勝ったことによる条件ですが……」

 

「おうよ」

 

「……この後、私に飲み物を買ってもらうことにします」

 

「……えっ? それだけ?」

 

 一体どんな罰が飛んでくるものかと身構えていたがあまりにも些細な罰で思わず拍子抜けしてしまった。恋さんはその内容に偽りはないと首を縦に振る。

 

「颯翔くんを下に見過ぎていた私の無礼も込めてそうさせてもらいます。勝手な過小評価を失礼いたしました」

 

「……別に俺から最初に吹っ掛けた勝負なんだし気にしなくていいっての。でも、恋さんがそう言ってくれるならこの後買ってくるぞ?」

 

「私も付いていきます。颯翔くんを手駒のように扱いたくはないので」

 

「あっ、じゃあ私も付いていく! 私も何か買いたいし!」

 

「オッケー、ならパッと行くか」

 

 さっと飲み物を買いに行ってこようかと思ったが、恋さんと燈香も一緒に行くということで2人を連れて外の自動販売機へ向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「恋さんはいちごミルクティーでいいよな?」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 自動販売機へ到着し、俺は流れるように投入口へお金を入れて恋さんの好物であるいちご味のミルクティーを購入する。

 

「いいってもんさ。燈香はどうする?」

 

「えっ、私の分はいいよ!? 自分で買うし……!」

 

「別に気にすんなよ。今日は俺がそんな気分なんだし」

 

 自分も一緒に奢られると思わなかった燈香は両手を振りながら拒否の意思を見せる。別に俺自身も2人に対して見栄を張りたい訳ではない。勝負に付き合わせたからだとも、3人の中で結果が最下位だったからなんてものもない、ただその時の気分で決めているのだ。だが、そんな内事情を考えてはいても当人達は納得しなかった。

 

「ですが、颯翔くんばかりに負担は掛けられませんよ? これまでの労いの意も込めて燈香さんの分は私が出します」

 

「えぇ〜!? そ、それもやだよ〜……!」

 

 まさかの恋さんが奢ると言い出して、燈香は尚も困惑の表情を見せる。燈香は自分に奢らせないようにうーんと唸ったのち、咄嗟に何かをを思いついたようだ。

 

「……あっ! なら私が颯翔くんの分を買う! そうすればみんなおあいこでしょ?」

 

「……って、それじゃあ自分たちで買うのと変わらないな」

 

 3人でそれぞれの好きな飲み物を買うという奇妙な光景に可笑しさが拭えなかった。俺につられて恋さんと燈香もふふっと笑い出す。

 

「ふふっ、確かにね」

 

「可笑しな話です」

 

「まぁ、2人がそう言ってくれるなら俺もご馳走になるかな」

 

「はい、そうして下さい。燈香さんは何にしますか?」

 

 恋さんはお金を投入し、燈香に飲みたいものを要求する。

 

「あっ、私はレモンティーを飲みたいな!」

 

「へぇ〜、レモンティーってあんまり口に合わないから飲まんけど、美味いのか?」

 

 いつもは紅茶を嗜んでるが、初めてレモンティーを飲んだ時、口の中に妙な酸っぱさが残って違和感が拭いきれなかったのが懐かしい。そんな俺を燈香はそっと微笑みながらレモンティーの飲み方を教えてくれる。

 

「美味しいよ〜? 私はスイーツを片手に飲むけど、すごく合うんだよ? あっ、ちなみに颯翔くんはどうする?」

 

「俺は紅茶で頼む」

 

「颯翔くんもずいぶん大人な口だよね?」

 

 紅茶も人によっては渋い味が苦手だから飲まないなんてのもいるが、俺としてはそれが美味しいと思う。

 

「さっきの燈香じゃねえけど、お菓子とセットで食べると美味いぞ? 紅茶だけを飲むなら砂糖を入れれば、そんなに苦手意識は覚えないと思うしな」

 

「そっかぁ〜、私も今度挑戦してみようかな?」

 

「……なんだか私だけが子供っぽく感じて恥ずかしくなってきますね。燈香さん、どうぞ」

 

 紅茶の美味しい飲み方に興味を示す燈香へ自分の好物に幼稚さを感じながら恋さんがレモンティーを差し出した。

 

「ありがと、恋ちゃん。でも、いちごミルクティーも美味しいよね〜! あの甘さは私も好きだからすごく分かるよ!」

 

「それに好きなものに子供っぽさも何もねえんだし気にしなくていいだろ? そんなのにケチをつけるやつの方が余程幼稚だと思うけどな」

 

「そうそう! だから恋ちゃんはそのままでいていいんだよ? はい、颯翔くん!」

 

 紅茶を燈香から貰い「さんきゅー」とお礼を言いながらその場で蓋を開けて飲み始める。

 

「……ふふっ、ありがとうございます。颯翔くんと燈香さんからそう言ってもらえて嬉しいです」

 

「そう言ってもらえるだけ嬉しいってもんだ」

 

 燈香と恋さんも俺が飲み始めたのに続いて各々の飲み物を開けて喉へ流し込んでいく。特に運動した後という訳でもないが、2人と一緒に過ごすこの時間が無性に楽しく思える自分がいる。

 

「さてとっ、そういえばこのあとはどうする? 燈香は部活に行くのか?」

 

「んーん、今日は練習がお休みだからこのまま帰ろうと思ってたよ?」

 

「そうか、恋さんはどうする?」

 

「この後は特に事務作業は無いので早めに帰ろうと思っていました」

 

 やる事がなくなってしまい恋さん達のこの後の予定を聞いたが、意外にも全員の放課後の都合が空いており、みんな揃って暇を持て余していたのだった。

 

「こんな奇跡もあるもんなのか……、なら3人でこのまま外にふらっと遊びに行かねえか?」

 

「えっ、すごく行きたい! 颯翔くんや恋ちゃんと一緒に遊ぶの楽しみだったんだ〜!」

 

「私は構いませんが、どこにいく予定ですか?」

 

「そこは特に考えてないかな。とにかく行き当たりばったりで」

 

「……なんだか随分と適当ですね……」

 

 これまで原宿を闊歩したことが無かったため、何ができるかは分からない。思い付きにも程があるとして恋さんは苦言を呈す顔をしていたが燈香はそれでも面白そうと乗り気な反応だった。

 

「でも、それも楽しそうで良いと思うな!」

 

「よし決まりだな、なら早速──」

 

「あっ、いたいた! おーい葉月さ〜ん!」

 

 出発だ、と言いかけた瞬間、遠くから恋さんを呼ぶ知り合いの声が聞こえた。

 

「千砂都?」

 

「あっ、颯翔くん! それに燈香ちゃんも、うぃっすー!」

 

 千砂都からの陽気な挨拶に燈香が不慣れながらもしっかりと返してあげる。

 

「う、うぃっす〜! 千砂都ちゃん、土曜日はありがとうね」

 

「こちらこそ一緒に見れて楽しかったよ! これからも仲良くしてね!」

 

「それよりも嵐さん、私に何か御用があったのでは?」

 

 恋さんは千砂都に自分のことを呼んだ目的を問いただした。千砂都は特に悩み等を打ち明ける様子もなく快活にお礼を述べるのだった。

 

「いや〜、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()から仕事が早いなぁ〜って思ってね。ありがとう葉月さん!」

 

「……昨日……?」

 

 昨日はまだ日曜日であり授業等はない。それに恋さんが学校でいきなり声を掛けられたとも言っていた。それは即ち今日の朝に燈香たちと話していたとある大会のことである気がした。

 

「はい、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということで取り急ぎ情報を集めていたんです」

 

「それって今日の朝に言ってた熱心の人がいるねって話してた人のことだよね? 千砂都ちゃんのことだったんだ〜!」

 

 恋さんの口から真実が語られる。どうやら俺の先ほどの予測はあったようでダンス大会のチラシは千砂都が希望したものらしい。燈香も朝の出来事を思い出して納得がいくように頷いていた。

 

「えっ、もう情報見たんだ? 流石、確認するのが早いね〜!」

 

「おい、千砂都。ダンス大会への参加って一体どういう……?」

 

 彼女の意図が読めず、今回の目的について事情聴取を図るが、千砂都は口を挟み話を遮る。

 

「あっ、この後たこ焼き屋のバイトがあるからこの辺で! それじゃあ、3人ともまたね〜!」

 

「あっ、おい千砂都!」

 

 俺の話を聞かずに一方的に話を中断させられ、千砂都はさっと(ひるがえ)す。その刹那、俺の顔をチラッと見た時に真剣な眼差しで何かを訴えているようにも見えた。しかし、それも瞬間的な出来事であったため彼女はすぐに学校の外へと飛び出していく。そして、辺りは嵐が通り過ぎた後のように静けさが広がっていた。

 

「千砂都……」

 

「なんだか今日は忙しないね、千砂都ちゃん」

 

「あれほど元気があるのが彼女の良さです」

 

 今の千砂都を見て燈香と恋さんはあたかも昔から彼女はそうだったと言わんばかりに笑みを浮かべている。だが、千砂都はそうじゃない。彼女が自分からダンス大会のことを話題に出すことが信じられなかった。それは俺と千砂都にとって、大きな足枷となっているにも関わらずに。

 

「颯翔くん、大丈夫ですか?」

 

「……あぁ、大丈夫だ」

 

 途端に俺の元気が無くなり恋さんは心配そうに声をかける。だが、余計な心配をかけさせたくない俺は平静を装って笑みを作る。

 

「このままここにいても時間の無駄だ。とっとと出発しようぜ」

 

 千砂都の先ほどの目、あれは自分の元に来いと言っているようにも捉えられた。偶然にも原宿方面には行くので、その時に彼女のいる場所へ向かえば問題ないのだ。

 

 

 千砂都の考えに妙な悪寒を感じつつ、俺は恋さんと燈香と原宿の街へと繰り出すのだった。

 

 






彼女の真意は一体。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。