お待たせしました。
本編33話です。
それではどうぞ!
「はむっ。んっ、このいちごクリームクレープ、すごく美味しいですね……!」
学校を出発した俺たち3人は原宿の竹下通りへ遊びに来ていた。無計画で遊びに来たとは言ったものの、ここに一度来てしまえば自然と気になるものが目に留まる。そうなれば無計画で来たとしても相応の時間を過ごすことができるのだ。
「恋ちゃんのそれ、美味しそう〜! 私も一口もらってもいい?」
「勿論です。それでは……はい、あーん」
「あ〜む……。うーん、美味しい〜! このいちごクレープ、凄く美味しいよ! じゃあ私のもあげるね? はい恋ちゃん、あーん!」
「そ、それでは……はむっ……。おぉ、このチョコバナナクレープもとても美味しいです……!」
恋さんと燈香は各々が買ったクレープを仲良く食べさせあっている。もちろん俺も買ってはいるがシンプルなカスタードクリームのクレープであり、他の二人と比べて少しインパクトを欠けていた。二人の仲睦まじい光景を見ながらクレープを咀嚼していると燈香が俺の元へやってきて、クレープを差し出そうとしていた。
「颯翔くんもこれ食べてみる? チョコバナナの甘さがクレープとすごく合ってて美味しいよ♪」
「気になるけど食べてもいいのか? せっかく燈香が買ったのに」
「こういうのは友達とシェア出来るから楽しいの! はい、颯翔くんもあーん」
俺の質問を意に介さず自分のも食べてほしいと、燈香は自分のチョコバナナクレープを差し出す。まさか食べさせる構図で来るとは思わず、つい食べるのを躊躇してしまう。
「自分で食えるからいいっての……」
「まぁまぁ! ほら早くしないとクリームが溶けてきちゃうよ?」
「あ〜わかったわかった。あーん……」
燈香の焦らしに限界を迎えた俺は燈香にされるがままにクレープを食べさせてもらう。バナナとチョコの甘さが良いバランスで混ざり合っており、静かに舌鼓を打つ。
「……うん、美味い」
「恋ちゃん、颯翔くんの反応薄くない?」
「それは燈香さんの行動も原因かと思いますが……」
静かに感想を呟いたのが逆効果だったようで、燈香は苦言を呈す。彼女に問われた恋さんは燈香さんの行動にも問題があるのでは、と疑問符を浮かべていた。静かに感想を呟く形になったのはクレープの美味しさゆえもあるが、食べさせてもらうことに恥ずかしさを覚えてしまい味覚が麻痺しているのもある。
「じゃあ、食わせてもらったんだから俺のも食えよ。ほら、あーん」
「えぇ〜!? わ、私は自分で食べられるからいいよ〜……!」
「んなこと言いながら食わせてたのはどこのどいつだ〜?」
次はこちらの番、と俺はカスタードクリームクレープを燈香に食べさせようとクレープを押し付ける。燈香は突然の反撃にたじろぐが俺も先ほどの恥辱に満ちた所業を仕返さなくては気が済まなかった。俺たちの乳繰り合いを見て恋さんは怪訝な表情を浮かべる。
「颯翔くん、燈香さん。仲睦まじいのは良いことですがクレープが落ちてしまいます。食べ物は粗末にしないように気をつけてくださいね?」
「……それもそうだな」
「ごめんなさい……」
幼稚なことをしていたことを自覚し、俺と燈香は仲良くいたたまれない気持ちになる。全く同じ反応を示す俺たちを見て、恋さんは可笑しく感じたのか、ぷっと吹き出した。
「ふふっ、お二人とも本当にお似合いですね。息がぴったりです」
「れ、恋ちゃん……! 恥ずかしいからやめてよぉ〜……!」
「だから俺たちはそんな仲じゃあ…………ん?」
珍しく茶化してくる恋さんに燈香は恥じらいながら抵抗を見せる。俺も同じように苦言を呈そうとしたが、ふと人から見られている感覚を覚えた。
「颯翔くん、どうかしたの?」
「うーん、誰かに見られてるような感覚がしたんだが……気のせいだったか?」
「確かにあちらに結高の制服を着用している生徒はおられますが……」
そう言いながら恋さんが見つめる先には俺たちと同じ制服を身に纏った女子高生がいる。周囲の目を惹くほどの美しい金髪を靡かせながらクレープを頬張っており、すらっとした身体の曲線美と相まって思わず見惚れてしまった。
「恋さんや燈香も負けず劣らずだとは思うけど、あの人すごく綺麗な体をしてるよな」
「颯翔くん、その言い方はいやらしく聞こえるよ」
「えっ。じゃあ……良い肉付き……?」
「それはなおのことダメです」
「えぇ…………」
線が細いと表現すると、それに比べて燈香たちは細くないと遠回しに言ってるように聞こえるかと思って、しっかりと言葉を選んだのだが取捨したワードがまるで噛み合っていなかった。異性のことを褒める際の言葉の選び方はもう少し勉強しないといけない。
「ですが、スタイルが良いというのは事実だと思います。燈香さんもスタイルは良いですが、あの方は背も高いですし、より絵になりますね」
「え〜、それなら恋ちゃんの方が絶対絵になると思うなぁ。佇まいといい、言動といいザ・お嬢様って感じがすごく憧れるもん!」
「燈香も髪型や普段の仕草は育ちが良さそうで良い女って感じするけどなぁ」
「颯翔くん? 颯翔くんが褒めようとするとどんどん卑しい人になるから何も言わない方がいいと思うな」
「私も同感です」
「俺は人を褒める権利すらも与えられないのかよ」
その後、燈香と恋さんから冷ややかな視線を浴びながらクレープを完食したがまるで味覚を感じられなかったのだった。
「恋ちゃん、このペンダント可愛いよね!? これ、恋ちゃんにすごく似合いそう〜!」
「確かにこちらのハートをあしらったペンダントは王道ではありますがすごくお洒落ですね。燈香さんにも合っていると思いますよ」
クレープを堪能した俺たち一行は近くをウィンドウショッピングしていた時にふと目に留まったアクセサリー屋を覗いていた。
俺はオシャレに深い関心を持っているわけではないのでアクセサリー類も『無いよりはマシ』くらいな考えを持っている。だが、女性陣はさすが可愛く見せるための気遣いには余念がないらしく、二人で想像を描きながらお眼鏡にかなう代物を探していた。
「颯翔くんも何か気になるものあった?」
「正直こういった装飾品は疎くてな。どれも綺麗で細かい違いがよく分からねぇ」
装飾物は見ていて綺麗、なんて当たり障りのない言葉しか出てこない程に関心が薄い。自分が付ける姿を想像しないため、買おうという気も湧かないのだ。
「でしたらせっかくの機会ですし、颯翔くんに似合いそうなアクセサリーを探してみるのはいかがですか?」
「あっ、それすごく良いと思う! だったら3人でお揃いのものを付けてみたいな〜!」
「面白そうではあるけど、そういうのっていつ付けてくればいいんだ?」
恋さんの提案に目を輝かせる燈香だが、そんな二人を尻目に率直な疑問をぶつける。学校は校則で禁止されているため3人で休日に会う時くらいしか付けられないため少し勿体無い感覚を覚える。
「学校は校則もあるので付けられませんが、こうして皆さんで遊びに行く時に付けていけば良いのではないでしょうか?」
「うん! それにこういった物はお守りとして付ける人もいるし家で過ごす時とかも良いと思うよ?」
「ふ〜ん、お守りねぇ……」
お守りという言葉を聞いて、俺はとある髪飾りのことを思い出した。
それを付けているのは幼馴染の少女であるが、その子が昔から愛用していた髪飾りがダメになり、髪飾りを新調した際にその少女は損傷したリボンを捨てたくないと言っていた。少女曰くそれは俺ともう一人の幼馴染と出会えたきっかけだから、お守りとして大切にして持っておきたいと言っていた。
それと同じように恋さん達との関係を保てるように、という願いも込めてお揃いのものを用意するというのはやぶさかではなかった。
「わかった。そういうことなら3人で何か付けるとするか」
「やったー! じゃあ、早速探してみようよ!」
3人で揃えるアクセサリーを探すべく店内を物色する俺たち。だが、まずは身に付けるアクセサリーの種類で頭を悩ませていた。
「こういうのって何が一番合わせやすいんだろうな?」
「シンプルに目に留まりやすいのは腕に付けるタイプでしょうか? ならば指輪やミサンガが合わせやすいですが……」
「でも、指輪はなんだか気恥ずかしいなぁ……ミサンガなら切れたら願いが叶うっていうし、切れた後も残せるからいいかもしれんな」
「ですが、3人で合わせようと思うと少し特別感に欠けるような気もしますね」
恋さんと様々な装飾品を眺めながら合わせる物についての論争を広げるが、最終的な結論を出せずに低迷していた。こういった代物は気兼ねなく身に付けられる物にしたいが諸々の事情で付けられずじまいになったり、全員の特色を混ぜたものにしたいという少なからずの欲望も出てしまう。
「なら、近くに雑貨屋があるからそっちで普段使いできる雑貨でも探してみるか?」
「それもありかもしれないですね」
竹下通りならば雑貨屋やショッピングセンターも数多く存在する。ここで決め打ちにするよりも他店舗を見て回って、そこで決めても良さそうだ。俺の提案に恋さんも同意してくれたので次の店舗に行こうかと思い、とあるアクセサリーを注視していた燈香に声を掛ける。
「燈香?」
「えっ? あっ、颯翔くん、恋ちゃん。どうしたの?」
突然声を掛けられた燈香は驚きの声を上げる。俺たちをそっちのけで思いふけるような表情をしており、彼女にしては珍しい仕草だった。
「アクセサリーの他にも雑貨で揃えられるのではないかと颯翔くんと話しておりまして」
「別の店も回ろうかって事にしようと思ったんだけど、何かあったのか?」
「……実は少し気になるものがあってね……」
燈香はそう言い、先ほど自身が見つめていたであろう装飾品を見つめる。そこには太陽や星など種々折々のデザインが施されたペンダントが並んでいた。
「ペンダントか?」
「うん、私たちの名前にちなんだ物で揃えられたら良いなって思って……そうしたらこれがあったの」
燈香はそう言って3つのペンダントを品棚から手に取る。詳しく見せてもらうように手のひらを差し向けると燈香は取ったペンダントを優しく乗せてくれた。俺の手の中にあるそれに恋さんも興味津々だった。
「これは……太陽と月ですか?」
「月だけど、これは満月と三日月か」
燈香が差し出した見せてくれた物。それは先端に太陽、満月、三日月がそれぞれ象られているものだった。これらを選んだ理由については燈香は恥ずかしそうにしながら解説してくれる。
「私たちの名前で
燈香は解説することがだんだん恥ずかしくなってきたのかモジモジしだす。傍から見れば安直な発想に思えるかもしれない。だが、それでも彼女なりに考えてくれていることを知り、その心遣いがすごく嬉しくなる。
「……や、やっぱり変だよね……! ごめんね、私だけ舞い上がってて! 二人の言う通り、雑貨屋に行ってそっちで──」
「いや、すごく良いと思う」
「えっ?」
突然聞こえた好評の言葉に燈香は目を点にした。
「俺たちのことを上手く表現してるみたいですごくいいじゃねえか。な、恋さん?」
「はい、太陽はまさしく燈香さんにぴったりとイメージですし、それに合わせて輝きを放つ月というのは颯翔くんに似合っていると思います」
「恋さんだって一人で大きな存在感を放つ存在って捉えると中々合ってるもんだぜ?」
そう言って俺と恋さんでお互いのイメージについて意見を交わし合う。燈香の提案に異論は無く、これを身に付けることに完全に合意していた。あまりにとんとん拍子で話が進む様子に燈香は戸惑いを隠せなかった。
「えっ、でも……!」
「それにさ、このペンダントをよく見ると太陽の中心は空洞になってるだろ?」
尚も言おうとする燈香に間髪を容れず俺はこのペンダントを見て気付いたことを口にする。燈香が手に取ったこれは太陽の輪郭と陽光を表す部位のみがあり、中心部は何も装飾が施されてなかった。
「う、うん」
「こういうのって二つを重ねてみるとより綺麗に見えないか? 例えば太陽と満月を重ね合わせれば一つの装飾のようにも見える。満月と三日月の場合は三日月の欠けてる部位に満月を重ねれば一つの満月のように見える」
「確かにそう見えるかも……」
アクセサリーを触りながら解説する俺に燈香は理解を示すように言葉を紡ぐ。
「こういう小さなことを一つのきっかけにして俺たち3人の縁にするっていうのはアリだと思うな」
「たとえこじつけであったとしても、それが私達を繋ぐ架け橋となるのであれば乗っかってみるのも手だと思います」
「そうそう。それに燈香がこれにしたいって言ってるんだし、これを3人のお揃いにするっていうのは大賛成だ」
「……颯翔くん……恋ちゃん……!」
この学校で一番最初にできた友達。そんな彼女たちとこれからも一緒にいれるようにという願いも込めて選んでくれたこれを買わない理由がなかった。燈香が選んでくれて、恋さんもそれに異を唱えずに肯定してくれる。俺と恋さんの様子を見て、燈香は花が咲いたように笑ってみせた。
「ありがとう……! じゃあ、これは私の宝物だよ……!」
「おいおい、大袈裟じゃねえか?」
「ふふっ。それほどに嬉しいということではないですか?」
「……それもそうか」
そう言って、俺は微笑を浮かべる。そして、ふとペンダントの所有者を決めなくちゃいけないことも思い出した。
「そうだ、月が俺たちで被るからそれだけ決めないとな。恋さんはどっちがいい?」
「どちらもすごく綺麗なので、颯翔くんが先に決めてください。私のことは気にしなくてよろしいので」
俺は自分で持つ分には余った方で良いかと思い、恋さんに決定権を譲ろうと思ったが、まさかの彼女も同じ考えだったようで差し出したはずの決定権が手元に戻っていた。
「そうか〜、なら三日月をもらうかな。満月は俺には似合わねぇ感じがするしな」
「分かりました。では満月のペンダントは私が使わせてもらいますね」
恋さんは自分が使用するものを確認するとその造形を食い入るように見つめていた。育ちの良いお嬢様な印象だったからこういったアクセサリーは普段から触れているものだと思っていたが、意外とそうではないのだろうか。
「颯翔くん! その……ありがとうね」
「いや、礼を言うのはこっちの方だ。わざわざ選んでくれてありがとうな、燈香」
「えへへっ、うん!」
こうして、俺たち3人のお揃いのペンダントを購入した。オシャレにあまり気を遣わない俺だったが、今回ばかりは大切に使っていきたいなと強く思っていた。