お待たせしました。
本編34話です。
それではどうぞ!
「それじゃあ、時間もだいぶ経ってるし今日はこの辺で終わりにするか」
3人でお揃いのペンダントを買った後、竹下通り一帯を満喫していたので時間が相応に経過していることに気が付かなかった。
「ほんとだね! このまま遅くなっちゃうといけないし、そろそろ切り上げよっか?」
「はい、何もかもが楽しくてあっという間に時間が過ぎてしまいましたね」
満足気な燈香と恋。その懐には先ほどのゲームセンターで獲得したぬいぐるみがあった。ゲームセンターにてクレーンゲームのプライズ商品を眺めていた時に恋さんが物欲しそうにいちごのぬいぐるみを眺めていたので、やってみようと挑戦してみたところ千円で獲得できたのだ。
燈香の方は携帯型育成ゲームに出てくるクマのモンスターのぬいぐるみをゲットしようと奮闘しており攻めあぐねていた所にアドバイスをしたら、すぐにコツを掴んで無事にお迎えしていた。
「颯翔くん、取り方を教えてくれてありがとう〜! このクマさん、すごく可愛いから欲しかったんだ〜!」
「俺は大して手を貸してないけど、そう言ってもらえるならよかった」
「私もわざわざ取っていただきありがとうございました。本来なら自分で取るべきでしょうに……」
燈香はぬいぐるみをお迎えできた嬉しさに浸っている反面、恋さんは俺にお金を使わせてしまったことに謝罪を述べる。
「別に、俺がやってみたくてやったことなんだし、そんなの気にしなくていいっての」
「はい、大切に扱わせていただきます」
恋さんの謝罪に気に留めていない様子で返事をすると、恋さんも安心したように笑顔を見せる。そして、これ以上長居するわけにもいかないと恋さんと燈香は帰る素振りを見せる。
「では、私たちはこれで」
「颯翔くん、ばいばーい! また明日ね~!」
「おう、二人も気をつけてな」
俺は手を振って、燈香たちの帰路を見送る。二人でぬいぐるみを抱えながら談笑している姿を見ると、彼女らに良いことをしてあげられたなと自分のことを褒めてしまいたくなる。
「さて、俺も帰るか」
そう言って俺は原宿駅から表参道方向へ下る坂道をゆっくり歩き始める。
「………………」
帰宅中、俺は首にかけているペンダントを正面に構えながら装飾として付いている三日月を見つめ、あることを考えていた。燈香たちとのお出かけは楽しいもので、今の俺の心を埋めるのも彼女らとの思い出が本来だ。だが、一概にそうならずに無言で考え事をしてしまっているのは、俺にとってそれだけの出来事と遭遇してしまった故なのだ。
「……三日月か。我ながら上手く表現できてるよな。中途半端にしか輝けてねぇ所とか」
三日月を眺めながら、俺はふとそんな自虐を溢す。三日月はそのフォルムを美しさから写真に収めたり、アクセサリーを買ったりする人が多い。だが、満月のように全面を見せつけるような事もなくひとひらの光しか浴びることでしか見せないその姿は、自分の信念もなくただ周りにいい顔をしてるだけのつまらない人間である俺と何故か重なってしまった。
今の俺は誰かを照らせるほどの輝きを持っていない。かのんたちと離れたことで俺は自分があまりにもちっぽけな人間に成り下がってしまったことを自覚せざるを得なかった。
「はぁっ……なんだか自分のことが──」
情けない、そう言おうとした矢先に自分のことを呼ぶ少女の声が聞こえてきた。
「アッ! ハヤトーー!!」
「あん?」
声の聞こえる方向を一瞥すると、そこには制服姿の可可の姿があった。
「可可……なんでこんな所にいるんだ?」
「そういうハヤトもどうしてココにいるんデスか?」
「俺は友達と竹下通りで遊んでたからその帰り。お前は、今日は練習ないのか?」
「はいデス! 先日スクールアイドルフェスを終えたばかりナノデ、今日はオヤスミということになってマス! ククも抑えていた食欲がガマンできなかったのデス……!」
「確かにライブ後だし、そういう日があってもいいのか」
ライブ前に食べすぎて衣装が入らなくなったという人もそうそうはいないと思うが、念には念をということで可可も食には気をつけていたようだ。ライブが終わった今、彼女もこのあたりで自分へのご褒美としてご飯を堪能してきたのだろう。
彼女がこのあたりにいることを予想しつつも、俺は可可とライブ後の初顔合わせでもあったので改めてライブを終えた労いの言葉をかける。
「それと……改めて、代々木スクールアイドルフェス、お疲れさん。結成してから日が浅いとはいえ、新人特別賞を受賞したなんてすごいじゃねぇか」
「アリがとうございマス。デスガ、ククたちがあの結果を取れたのはハヤトのおかげでもあるのデス」
「俺の?」
可可が口にしたクーカーの成績は俺のおかげ。その真意が分からず可可に問いかける。
「……あの停電の時、正直ククたちはダメだと思ってしまいマシタ。あの時点で、お客サンたちの目はククたちに向いていない、ミナサンを振り向かせるチカラがククたちにはない、だからコソ心の中ではもうダメだと思ってイマシタ」
「………………」
「ですが、ハヤトが応援してくれたオカゲで思い出しマシタ。まだ諦めちゃいけナイと!」
「あれは……反射的に出ちまったというか」
可可達のライブが始まる前に発生した電気トラブル。あの出来事は案の定可可達の心にも少なからずダメージを与えていたようだ。あの理不尽で可可達のパフォーマンスが正当に評価されないのは絶対許したくなかった。結果的に条件反射で動いたが、それが功を奏したようだ。
「それでもデス。ハヤトがあそこで声をかけてくれたカラ、会場の空気が変わりマシタ。アレがなければククたちは特別賞を受賞していまセン」
可可はこれまでに見たことがないほどの真剣な表情でこちらを見つめてくる。そして、深く頭を下げた。
「ククたちの夢を……応援してくれてアリがとうございマシタ……!」
彼女が、可可が何故ここまで頭を下げなくちゃいけないのか最初は全く分からなかった。正直に言って、あの時のことは軽く感謝されるくらいにしか思っていなかったのだ。それが俺自身の抱いた感想だったから。
しかし、可可は違う。このイベントの良し悪しで今後の自分の運命は変わっていた。下手をすれば、あの出来事が災いして母国へ帰国しているかもしれなかったのだ。それ故に可可が抱く感謝の念は俺の想像以上に大きいものだった。
「ここまで言われることはないと思ってたけど……俺なんかの応援で救われたのならよかったよ」
「オレなんか……、じゃアリマセン! ハヤトはククたちのことを静かに見守ってくれてイマス! あの、おつきさまミタイに!」
可可がそう言いながら指差した先、それは淀みなく広がる黒い空で唯一の輝きを見せる満月だった。
「ククたちはまだまだちいさな星デス。ですが、今よりもっとチカラをつけて……ハヤトをびっくりさせるくらいの
可可の目は真剣そのものであった。今回のイベントで己の力不足を実感し、その悔いを忘れないためにここで宣誓したのだろう。
「スーパースター……。まだなれるかどうかもわからんのに面白いことを言うな」
「なれるかどうかじゃないデス! なるのデス!」
俺の冗談めいた物言いにも可可は臆することはなかった。それどころか更なる熱意で押し負かそうとしていた。
「ははっ、ならこれからのクーカーには目が離せないな。楽しみにしてるよ」
「まかせてクダサイ! やってやるのデス!」
期待してる、と励ましの言葉を送ると、可可は両手をグッと胸の前に持ってきてガッツポーズを構える。だが、可可はすぐさま何かを思い出したように「あっ」と声を上げた。
「そういえば、ハヤトはこの先にあるタコヤキ屋さんに行ったことはありマスか?」
「たこ焼き? いや、そもそもあることすら知らなかったな」
転校前はかのん達とこの辺りでよく遊んでいたが、転校で一時的に離れてしまったのもあって、地理に関してあまり覚えていない。可可の言うたこ焼き屋が記憶の中を掘り起こしても全く呼び起こされないということはそれほど関心を持っていなかったということだ。俺の反応に可可は嬉しそうな表情を浮かべる。
「デシタラ、ぜひ一度行ってみてクダサイ! これから二人でお茶をするときにモットモ適していると言えマス!」
「あん? それはどういう──」
「それは行ってみてのおたのしみデス! それデハ、ククはここら辺でおさらばデス! では!」
「ちょっ、おい可可!?」
彼女の言うお茶をするに最も適している、の意味が分からないまま可可は走って立ち去ってしまった。最初から最後まで翻弄されっぱなしでまさに嵐のように過ぎ去るという表現が似合うだろう。
「……店の雰囲気だけでも見に行くか……」
せっかく可可が紹介してくれた場所だ。今度、そこで待ち合わせをするとなった際に言い訳が効かなくなることを恐れ、仕方なく彼女の言っていたたこ焼き屋がある道へと入ることにした。
可可と別れてから、俺は先ほど彼女に言われた言葉を反芻していた。彼女は俺のことを「静かに見守る満月のよう」と評価していた。自分ではそこまで出来た人間ではないと思っていたのだが、意外と周りから見たら違うのかもしれない。
やりたいことを貫くことができず、ただ漫然と人生を全うするだけのつまらない男が、気が付いたら他人の背中を押す存在になっていた。まさに青天の霹靂とでも呼ぶべきだろう。結高に入ったおかげで自分のことがまたひとつ理解できたかもしれない。
「本当に、可可がいなかったらこんな出会いすらなかったのかもしれないな」
彼女と出会わなければ、スクールアイドルに心を動かされることもなかったし誰かを応援したいなんて想いも湧いてこなかっただろう。改めて可可と巡り合わさったことに心の中で感謝を抱いた。
そんなことをしていると可可が話していたたこ焼き屋らしき店が見えてきた。車通りの多い道から外れて歩いていたが、目的のそこまで着くにはそう時間は掛からなかった。
「ふ〜ん、ふふ〜ん♪」
街灯が照らす道のりで唯一照明が点灯していたお店はたこ焼きのマークが付いており、そのカウンターに構えている少女は鼻歌交じりでたこ焼きを作っていた。お客さんがいないの良いことに自由をやっているようだ。たこ焼き、というフレーズを聞いてまさかとは思ったが案の定、そのスタッフは千砂都だった。
「よっ、千砂都」
「ん? ……えっ!? 颯翔くん!?」
まさかの人物がお店を訪ねてきたことに千砂都はたこ焼きを作る手を止めてしまった。
「……たこ焼き焦げるぞ?」
「はっ! ち、ちょっと待ってて、すぐに作業終わらせるから!」
千砂都は一瞬たじろいだがすぐに店員の顔になりたこ焼きを颯爽と調理し始める。生地を固める姿やパッケージングする様子を見るにかなり手慣れている感じだった。
「ふぅ〜、まさかいきなり来るとは思わなかったから驚いちゃったよ〜。はい、食べる?」
「金は取るんだろ?」
「そうだけど、今日は特別価格で負けてあげるよ」
「バイトの身なのにやりたい放題だな」
「それだけ信頼が厚いってことだよ」
「物は言いようだな」
俺は千砂都の口車に乗っかり彼女が提示した金額分だけ支払い、千砂都お手製のたこ焼きを受け取る。そして、早速もらったたこ焼きを食べようと近くに用意されていたテーブルに腰掛けた。
「お待たせ。これでゆっくり話せるね」
狐色に焼けた丸い粉物を食べる準備をしていたらエプロンを外して千砂都が俺のテーブルに相席してきた。制服を身に纏っている今の彼女はただの女子高生だ。
「店番はもういいのか?」
「営業時間もギリギリだし、これくらいの時間帯は人が来ないから少し早めに閉めても問題ないよ」
「ほんと自由だな……」
自由人すぎる千砂都の行動に呆れながらも、彼女が用意してくれたたこ焼きを頬張る。職人技で作り込まれたたこ焼きは口に入れた瞬間トロッとした生地が口の中を弄り絶品を誇っていた。
「……美味い……」
「でしょ〜? ちぃちゃんお手製のたこ焼きだからね!」
「自分で言うな。でも、味が良いのは認めるけど……」
千砂都のたこ焼きに舌鼓を打っていたが、千砂都はすぐさま俺がここを訪ねた理由について話題を切り替える。
「そういえば、颯翔くんはどうしてここに?」
「さっき、大通りで可可と鉢合わせてな。良いたこ焼き屋があるからって紹介してもらったんだ」
「ふむ〜、これは可可ちゃんに何かしら差し入れを送らないといけないね……」
千砂都は新しい客を連れてきてくれた可可にお礼の品を送らなければいけないと考え込むような素振りを見せる。だが、その時間を与える前に俺は千砂都に聞こうと思っていたことを思い出した。
「千砂都。あの時言ってたこと、あれはどういうことだ?」
「……やっぱり気になるよね」
話を振られた千砂都はいずれそう言われることを予感していたように苦笑を浮かべながらため息をついた。
「あれは私のけじめだよ」
「けじめ?」
「うん。これが……私が颯翔くんにできる唯一の罪滅ぼしだよ」
千砂都は両手を握りながら俺を見据える。その目は今までの千砂都から見たことがない信念に満ちた目だった。
小星星から第一星に。