吹き荒ぶ風、奏でる音   作:M-SYA

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お待たせしました。

本編45話です。

それではどうぞ!




あんたがいなければ

 

「はぁっ……、ったく先生も人使いが荒いもんだなぁ……」

 

 燈香が練習に参加すると決まった日の放課後。俺は職員室から退室し野暮用を押し付けてきた先生に苦言を呈していた。

 

 あの後、恋さんに燈香も練習に参加することに歓喜し、放課後の練習を容易に進められるように早速サヤさんへ連絡してくれたのだ。初の3人での活動となるので口を揃えて楽しみだと話していたのだが、授業後に突然力仕事を手伝ってほしいと言うことで俺に白羽の矢が立ったのだ。

 

「まあ、とにもかくにもこれで用事は済んだし──」

 

 あとは恋さんの家に向かうのみ。そう呟こうとした時、階段から俺を呼ぶ声が聞こえた。

 

「……ねぇ」

 

 そこには壁にもたれながら佇むかのんがいた。何故かご立腹な様子だったが俺は構わず用件を聞く。

 

「……お前か。何か用か?」

 

「……最近ちぃちゃんの様子がおかしいんだけど、ちぃちゃんに何か言った?」

 

 千砂都の様子がおかしい。特段彼女を傷つける発言はしていないと思っているがどこがおかしくなっているのだろうか。

 

「別に何も言ってねえけど、そんなに変なのかよ?」

 

「明確に悩みを明かすとかじゃないけど、何か思い詰めてる様な感じがする」

 

「それで俺が真っ先に疑われるのも癪に障る話だな」

 

「ちぃちゃんと一番仲が良かったのは颯翔でしょ?」

 

「お前も同じかそれ以上だけどな」

 

 千砂都に異常がある原因はお前だ。そう言わんばかりに冷たく言い放つかのんに同じように皮肉を言い返す。彼女の顔を一瞥すると一瞬だけ眉をしかめる様子を見せていた。

 

「……まぁいいさ。俺に当てがないことには変わりないからな」

 

「……本当に?」

 

「こんなことに嘘ついてどうすんだよ。いい加減しつこいぞ?」

 

 目を細めながら問い質す空気をまといながら話すかのんに俺はため息をついてうんざりする様子を見せる。

 

 だが、かのんがここまで千砂都のことを心配しているということはそれだけ今の彼女がいつもとは違っていることを表しているのだろう。それならば、俺の中に彼女が変わってしまった要因が無いか今一度考えてみる。

 

「……もし心当たりがあるとするならば……あいつに、俺の夢を背負うなと突き放したこと、ぐらいか」

 

「えっ?」

 

 もし千砂都の中で変化があるとすれば、たこ焼き屋であいつと二人で話した時だろう。ダンスをやれなくなったと絶望していた俺の意志を継ぐとして、ダンスを学び始めたと語った千砂都。その時に俺は彼女に対して憤りを隠さず、かなりの剣幕でぶつかった。あの時の千砂都の表情は今でも明確に覚えている。

 

 当然、この話をかのんは知っているはずがない。千砂都が話していれば把握しているだろうが、千砂都の性格上、俺とかのんが犬猿の仲であることを知っているので無闇に打ち明けたりはしないはずだ。

 

 それにこの話はかのんにだけはしてはいけない。そこには俺と千砂都しか知らないとある秘密があった。

 

「なんでもねえよ。あいつも未練たらしく俺に構ってるからな。お前の隣からいなくなった俺の意志を継ぐ、なんて一丁前なことを言ってダンス大会に出るつもりなんだよ」

 

 俺はかのんに余計な詮索をされないように敢えて千砂都を小馬鹿にするような口調で嘘を織り交ぜつつ、彼女の状況を伝える。かのんは千砂都のことについては何も知らなかったようで俺から聴いたことを繰り返すのみだった。

 

「ちぃちゃん、ダンス大会に出るんだ……」

 

「あいつ、お前にそんなことも伝えてないのかよ。大事な親友だってのに、まったく信用されてないな?」

 

「はぁ!? あんたこそ()()()()()()()()()()()()()()()じゃん!!」

 

 友人としての信頼がまるでないと毒吐かれたかのんは怒りの感情を露わにしたまま俺に牙をむく。かのんの言葉に俺は一瞬表情が硬くなってしまう。

 

「…………」

 

「忘れたとは言わせないよ? 小学生の頃に私が家の手伝いで遊びに行くのが遅れた時に……!」

 

「……忘れるわけがねぇだろ?」

 

 当時を思い出させようとするかのんに俺は口を挟むように声を大きくして被せる。忘れたくても忘れられるわけがない。これは順風満帆だと思われていた俺たち三人の関係性が大きく壊れた日だから。

 

「俺が……千砂都に手を出して……それをお前は目撃した。初めてお前からゴミを見るような目で見られたんだ。忘れろって言う方が無理だ」

 

 そう言って俺は当時の記憶が走馬灯のように蘇ってくる。

 

 小学生の頃、千砂都と二人で遊んでいた時とある事情から口論に発展し、俺は彼女に反射的に手を出してしまった。その一部始終をかのんに目撃されて、かのんは千砂都を庇いながら俺にあの言葉を突きつけられたのだ。

 

『……はーくんなんか……大っ嫌い!!』

 

 当時の俺にとってはなんでそんな事を言われたのか意味がわからなかった。いや、今でも納得しているわけではない。何も知らないかのんが自分の正義感で千砂都の味方をしたことがどうしても許せなかった。

 

「大嫌いと突き放した人間とこうして同じ学校でもう一度過ごしてるなんてすごい偶然で……なんて皮肉なんだろうな」

 

「…………」

 

「別に俺はお前らと仲直りしてもらおうなんて思っちゃいねえ。むしろ、あいつは俺に手を出されたのに変わらず俺と仲良くしようとしてるのが馬鹿らしいってもんだ。お前も……あいつも……俺の気を何も知らないで……」

 

「……颯翔?」

 

 俺が独り籠った生活をしてる中で自分の好きな事、頑張れる事を見つけた彼女らを見るのが無性に腹立たしい。昨日の凪とのやり取りや今日の朝のクラスメイトらとの雑談で感じた『嫉妬』という人間としての感情を一番に実感できてしまった瞬間。

 

「もういいさ。とにかく俺があいつに言ったことはそう大したことじゃねえってことだ」

 

「……待って!」

 

 じゃあなと言って帰ろうとした矢先、かのんはまだ話がある様子で俺を引き留める。

 

「なんだよ、俺は何も言うことはねえぞ?」

 

「わかってる。でも、一言だけ言っておきたいことがあって」

 

 早く恋さん達の所は向かいたいのだが、かのんがどうしてもと言うのでその場を後にしようとする足を止めて彼女の話を聞こうとする。

 

 俺が止まってくれたことに安心したかのんは目線を逸らしながら言葉を紡ぐ。

 

「代々木スクールアイドルフェスの時、可可ちゃんが隣にいてくれたけど、どうにも緊張が拭えなくて……それに加えて歌おうとして照明が落ちた瞬間……あの時は視界的にも精神的にも目の前が真っ暗になった」

 

 かのんが語るのは先日の代々木スクールアイドルフェスの出来事。あの時はあがり症であるかのんはさることながら可可も家庭の事情でスクールアイドル活動そのものの存続がかかっていたライブということもあって手足が震えていたのを鮮明に覚えている。

 

「だけど、あの暗い状況の中であんたが……颯翔が声を掛けてくれたおかげで会場の空気も変わったし、何より私たちも勇気をもらえた」

 

「あれは……条件反射というか……」

 

 暗闇の中で叫んだあの時、俺はかのん達の夢がこんなトラブルに見舞われただけで終わってほしくなかった。だからこそのエールとして考えるよりも先に身体の方が本能的に動いていたのだ。

 

「それならそれでもいい。どんな結果にしろ、颯翔のおかげで私たちはライブを成功させることができた」

 

「かのん……」

 

「ありがとう。颯翔がいなかったらこうしてスクールアイドルは続けられてなかった」

 

 かのんは真剣な表情のまま、頭を下げて感謝の言葉を伝える。まさか本人からそのように言われると思わず、困惑してしまった。だが、彼女は律儀な人間だ。人にしてもらったことはどんな小さなことでも必ずお礼を返す。それが自分の正義感に従った人助けに対するお返しだとしても、決して感謝の心は忘れない。それが仲違いしている相手であっても。

 

「お前からそんな事を言われるなんて思わなかったけど……力になれたのなら、何よりだ」

 

 突然の賛辞に俺もなんて返せばいいか分からず、少しカッコつけた言い方をしてしまう。

 

「……俺は元々可可の応援を目的に来るつもりだった。あいつがあのライブを成功させるために俺にも協力を仰いだことがあったからな」

 

「可可ちゃんが……?」

 

 可可が作詞の件で俺に頼ってきたことはかのんは知らない様子だ。きっと可可が俺とかのんの関係性を知ってるから彼女なりの配慮として自分の手で考えたと言ってくれていたのだろう。

 

「詳しくはあいつに聞くんだな。あのライブがちゃんと成果が実ったものかを確認したくて見に来てたがあんなトラブルを理不尽に巻き込まれたんじゃ、流石に黙っていられなかった」

 

「颯翔……」

 

「でも、ああして声を掛けて俺は良かったと思ってる。クーカーのライブが成功したこともそうだけど、お前らのライブを見て……俺も勇気がもらえた」

 

「颯翔も……勇気を……?」

 

 どうして自分たちから、とでも言いたげにかのんは俺の発言に疑問を浮かべる。

 

「あの大会で優勝したサニーパッション、彼女らは可可の言う通りすごく良いライブを見せてくれてた。見てるこっちも楽しくなる気分になった」

 

 サニーパッションのライブ、それはその場にいる人たちを全力で楽しませてあげたいという彼女達の想いが籠っていた。彼女達の努力もあって観客側もその想いは伝わり一体感のあるライブを作り出していた。

 

「だが、お前らは違った。クーカーのライブは見てる者を感動させる力があった。サニーパッションが()()()()()()()()()()()()()ってコンセプトとするならクーカーのライブは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ってことだなと勝手に理解してる」

 

「お客さんを楽しませる……ライブ……」

 

 かのんは自分たちがそこまでの力量を持っていないと思っていたからか俺の考察に対してもあまり納得し切れていないようだった。だが、自分たちのポテンシャルに気付いていない一面があるからこそ、あのようなライブを自然と披露できるということだろう。

 

「この学校に来て、久しぶりにお前と千砂都を見て、お前らとの格の違いを感じて、俺はとことん地に堕ちたなと絶望してた。でも、クーカーのライブはそんな心にも寄り添ってくれる優しさがあった。立ち上がる勇気をくれたんだ」

 

「颯翔……」

 

「だからこそ、俺はこんな所では終われない。俺は俺のやれることでお前らを超える。そして、俺の存在意義を証明する」

 

 そう言ってかのんに啖呵を切る。とはいえ勝負をするのは彼女ではなく千砂都の方だ。かのんにも改めて宣言しておかなければ俺の気が済まないと感じたのだ。

 

「……存在意義?」

 

 だが、かのんは俺の言葉を聞いて眉間に軽く皺が寄っていた。何か違和感を覚えているようだったが、そこまで時間を割いていられないと俺は階段を降りようとする。

 

「……話が長くなったな。じゃあな、せいぜいスクールアイドル活動がんばれよ」

 

「あっ、ちょっと颯翔!?」

 

 そろそろ出発しなければ恋さん達にどやされる。千砂都との対決のために燈香の力も借りて本格的な練習に入るのだ。踊り場で突っ立ったままのかのんに手を振る。

 

(俺はもう一度……俺が成し遂げたかったことを成すために……)

 

 上階からかのんが俺を呼び止めようとする声が聞こえるが、聞く耳持たずに校舎外へ出る。クーカーのライブを見て、願うようになった夢を叶えるために。

 

 





あなたがいなければ、わたしは変われなかった。


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