お待たせしました。
本編50話です。
それではどうぞ!
「一年以内に発表されたアイドルソングか……。どういった趣旨なんだ?」
恋さんから宣告された今夏のダンス大会の選曲テーマ。なぜ今回のテーマが直近で発表されたアイドルソングになったのかその経緯が気になった。
「昨年は昭和に発表されたEDMがテーマとなっていました。今年は敢えて出たてのアイドルソングに絞ることでフレッシュさを取り入れたものにしたい、という事になっているようです」
「テーマのこじつけ方がなんでもありじゃねえかそれ……?」
恋さんが運営から届いたメールで記載されていた内容を掻い摘んで解説してくれる。フレッシュさを云々、と語っているが果たして相手側がそこまで真剣に考えているのか疑いたくなってくる。
「でも、テーマになっちゃったものは仕方ないもんね……。私、最近のアイドルはあまり追えてないからどんなアイドルがトレンドなのかもあまり分からないな~……」
「……選曲について一つ補足があるようです。どうやらアイドルソングと謳っておりますが、昨今世間を賑わせている
「スクールアイドルの曲も……?」
燈香が唸っている横で恋さんは少し不機嫌な様子を見せながらメールの続きを聞かせてくれた。スクールアイドルはプロのアイドルとは違う。普通の高校生が作り上げるアマチュアの偶像だが、どうして対象になったのか。
「スクールアイドルはプロのアイドルとは似て非なるものでありマイノリティな文化であるが、自分たちの手で一から作り上げてファンへ勇気と希望を届ける姿はプロのアイドルと通ずるものがある。よって運営内で協議を行った結果、スクールアイドルもアイドル文化の一歴史として含まれても遜色なし、として認められたようです」
「代々木スクールアイドルフェスの時もかなりの盛り上がりだったけど、そこまで幅広く支持を集めてるもんなのか……?」
「スクールアイドルは、今や世間の高校生のトレンドだよ。スクールアイドルの甲子園なんて呼ばれる大会も確かあったはずだから」
この前のフェスでスクールアイドルもテレビで見るそれとやっていることは変わらない。むしろ高校生らにしてみれば年齢の近い子が同じようにキラめいている姿を見て憧れを抱くようになるようだ。
「……それに元々は女子高生に人気のあったコンテンツですが、男子高校生にもその熱が広がっていて今では男性スクールアイドル限定の大会が催されるなど、男女問わず人気のあるものになっています」
俺はスクールアイドル文化が世間にどこまで通じているのかわからない。代々木フェスでは女子高生のグループしかいなかったため、男子のスクールアイドルはいないものだと思っていた。だが、世界は広いようで大会が開催されるまでに男性スクールアイドルは母数がいるようだ。
「でも、スクールアイドルの楽曲も良いって言っても、どんな曲にしようか? 私、スクールアイドルもそこまで精通してるわけじゃないからどんな曲が颯翔くんに合うのかもわからないし……」
この悩みは燈香のみならず、俺にも通用する。スクールアイドルはマスメディアを通して認知はしているものの明確に認識し始めたのはこの学校に入ってからだ。当然、クーカーやSunny Passion以外のスクールアイドルについて勉強しているわけもないため楽曲の候補を絞るのに多大な時間を要する。
「あくまでスクールアイドルは候補の一つです。そちらに固執せずともアイドルの楽曲を探す方が効率が良いかと思います」
「そうだね。恋ちゃんの言う通り、無理にスクールアイドルへこだわる必要はないもんね。私、アイドルの曲で颯翔くんでも踊れるようなものを探してみるよ!」
「私も幾つかピックアップしてみます。颯翔くんも自分が踊ってみたい曲をジャンルに沿って探してみてください」
「あぁ」
恋さんの指示に従い、各々がテーマに沿った楽曲を探す。だが、大した収穫を得られないまま昼休憩は終了してしまった。
その後の授業中も俺は心ここにあらずといった様子で呆けていた。その理由は至ってシンプルであり今回のテーマへ一抹の不安を覚えているからだ。
燈香や恋さんは俺のためにアイドルの楽曲を探してくれている。もちろん自分でも世間のアイドルを調べて気になる曲を探そうとしているが、俺の中のアイドル図鑑はいかんせん厚さが無い。調べられる範囲が狭く、別のジャンルへ派生させようにもその派生元があまりにも少ないためピックアップに多大な時間を要するのだ。
また、それと同時にとあることも密かに考えていた。これは俺が勝手に思い描いている構想であり、燈香や恋さんは何も知らない。その案は今回の条件を満たしており、俺自身がやってみたいと思っていることだ。
しかし、それをやるためにはそのアイドルに許可を貰わなければいけない。コンタクトを取ることはそう難いことではないが一部の人間には反感を貰いかねない。だが、俺がダンスへ再挑戦をしようと志したきっかけなの曲であるため、反対する者の声が聞こえても真に受けるつもりはない。
俺の頼みが拒否されれば一からやり直しになるが、まずは聞いてみないと始まらない。思い至ったが吉日。考えた時に動かなければ後悔することになる。
(今日の放課後……彼女らの元を訪ねてみるか……)
そう心の中で決めると雑念を考えている間に流れていた授業の内容を黙々と追いかけるのだった。
「はぁ~授業終わったね~」
「あぁ、やっぱり高校にもなると授業のレベルも違ってくるよな~」
「本当だよ~! 帰ってからもしっかり復習しないと次の授業の時には絶対頭の中から抜けていっちゃうもん!」
授業が全て終了しHRを終えると、燈香は起立した状態で椅子を支えに脱力する様子を見せる。彼女の言う通り中学校よりも授業のレベルが上がっているため、少しでも気が抜けていたり一歩躓くと途端に混乱してしまう。かく言う俺も先ほどの楽曲について考えていた時、どこまで授業が進んでいたか分からなくなっており、板書を必死に写してギリギリ追いつくことが出来た。
「燈香さん、そういった時には予習をしておくのも手ですよ。事前に勉強しておけば不明点も先に洗い出せますので授業の際に先生へ確認することもできます」
「お~確かにそうだね! 今度、私もやってみるよ! ありがとう恋ちゃん!」
予習をやることで、理解はしたけれどもどこか腑に落ちない奇妙な感覚を解消させることができる。俺は予習の意図を元々理解していなかったが、恋さんの話を聞いたら予習をしておくことも時には有りだと思った。
「二人はこの後、どうする? 燈香は部活か?」
「そうだね〜。今日は吹奏楽があるから練習に参加出来ないかな……」
「部活があるなら仕方ないさ。また時間がある時に付き合ってくれ」
「うん! 恋ちゃんは練習に行く?」
「私も先生からの頼まれ事がありますので、生徒会室で仕事をこなしてから向かおうと思っています。サヤさんに連絡して颯翔くんが来られることをお伝えしておきましょうか?」
「……いや、俺も別で用事を済ませようと思ってたから今日は自主練をしておくよ」
俺はこの後ダンスで使用する楽曲についてある人物の元へ行こうとしていたから燈香と恋さんが揃って都合が悪いのならば俺にとってはありがたい。
そんな俺の胸中を知るはずもない恋さんは俺の都合について言及することはなかった。
「そうですか。分かりました、これまではかなり根を詰めておりましたので今日はオフにしましょう。しっかりと休養を取って明日からの練習も頑張りましょう」
「おうさ。ありがとうな」
今日の練習はお互いの都合により取りやめることで合意して、恋さんは生徒会室へ、燈香は音楽室へと向かうのだった。
「さてと……あいつらはもう帰ったか……?」
二人と別れた後で俺が向かった場所は賑やかな原宿の街…………ではなく結ヶ丘高等学校内の普通科の教室だ。普通科を訪問する理由は俺が先ほど語った用事を済ませるためだ。とある人物らがまだ帰っていないことを祈りながら俺は以前に立ち寄ったことのある教室へと足を運ぶ。
「あっ、湊月さん! どうかしたんですか?」
以前に金髪の女の子に教えてもらった1-B教室へ向かうと、過去に話をした栗色の髪を三つ編みに結わえたの少女に遭遇した。名前は確か、ななみと言ったはずだ。彼女の声を聞いて、教室内にいた他の女の子たちも俺を一瞥する。
「どうも。澁谷と唐さんはもう帰った?」
「あ〜、可可ちゃん達は練習しに行きましたよ?」
ななみさんは既にかのん達がここにいないことを教えてくれる。俺の質問に対して可可の名前を出して回答してくれるのは以前に俺とかのんがここで口論をしたことに対する配慮だろう。こんな細かいことも忘れずに配慮してくれることに俺は非常に好感を抱いた。
「そうか……。あいつらがどこで練習しているか知ってる?」
「あの三人はいつも屋上で練習してますよ。ちょっとずつ暑くなってきたけど今日も屋上でやってるんじゃないかな?」
「三人?」
「あれ、知らないんですか? 今、スクールアイドル同好会は人数が増えて三人になったんですよ?」
ななみさんから意外な事実を知らされて思わず声が出る。ダンス大会への参加を表明してからというもの、クーカーについて何も情報を入れてなかったため、メンバーが増えたことは知らなかった。
「へぇ〜、そうだったんだ。その新入部員って千砂都……嵐か?」
「いや、平安名すみれちゃんっていう子だよ。金色の髪をストレートに伸ばしてるモデルみたいな子なんだよ」
「そうそう! 原宿の街も一人でキリッと歩いててすごく絵になるんだよ!」
ななみさんに続くように彼女の友達である緑髪をお団子に纏めた女の子がすみれさんについての特徴を教えてくれる。俺が以前に会ったあの子も確か金髪でスタイルが良かったはずだが、そんな奇跡がありえるのだろうか。
「そうなんだ。じゃあその子にも会えることを楽しみにしてるよ。急に邪魔して悪かったね」
「全然いいよー! また何かあれば遠慮なく声を掛けてもらっていいから!」
「あぁ、そうさせてもらうよ。ありがとう」
かのん達の行方を教えてもらったことにお礼を述べ、俺は教室を去っていく。ななみさん達は俺の姿が見えなくなるまで手を振って見送ってくれていた。
「あいつら、今は屋上で練習してるのか。……流石に部室棟の方は使ってないよな?」
普通科の教室を離れ、俺はかのん達の練習場所へ向かうため屋上を目指していた。俺が屋上へ向かうためのルートとして真っ先に浮かんだのは部室棟であり、あそこは今のスクールアイドル同好会の前身とも呼べる学校アイドル部の部室がある。だが、あそこは恋さんが部室として使わせないようにしていたから、きっと別の空き教室を同好会の物として使わせていることだろう。
「教室棟の屋上を探してみるか……」
そう決めると俺は部室棟へは向かわず教室棟の階段を上っていく。
そのまま最上階へ上がっていくと部室棟と同じように二つの木扉が柱の陰に映った。一つは、扉に取り付けられている覗き窓から光が差し込んでいる様子から分かるように屋上へ続くもの。もう一つは教室と思わしきものだった。
「学校アイドル部……。やっぱりあそこで使ってたやつをここに使い回してたんだな」
空き教室のネームプレートが『学校アイドル部』のまま使用されていることから恋さんはここを部室として使わせるように仕向けたようだ。
部屋の中は暗くなっているため、誰もいないように思えるが念のためノックをする。部室内からの返事がないことから無人と判断し部室の扉を開ける。部屋の中の照明を付けると、部屋の中心に大机とそれを囲うように四脚の椅子が置いてあった。近くにホワイトボードがあるが何かを消したような跡があるため、ミーティングをしていた様子がうかがえる。
「……まっ、電気がついてないから屋上で練習してるんだろうな」
それから部室の外に出て屋上へ繋がる扉の前に立つとダンスの掛け声が扉越しに聞こえてくる。部室へ入るまでは聴こえなかったのは恐らくストレッチか何かをやっていたからだろう。
覗き窓から外を見ると広いエリアに四人が集まっており、三人はダンス練習、一人は三人の前に立ちダンス全体の指揮を取っていた。
先頭に立っているのはクーカー時代からの専属ダンスコーチである千砂都であり、彼女の凛とした掛け声が屋上に響き渡っていた。彼女にリードされかのんと可可は必死に付いてきているが、もう一人の女の子はダンスのキレが良く他の二人の一歩先を行くクオリティを有していた。
金髪をストレートに伸ばし、赤いキャップとサングラスをおしゃれに付けこなしているこの子が先ほど教えてもらった平安名すみれだろう。
「……正直、千砂都はいないで欲しかったけど……」
普段は自分のダンス練習と並行してかのん達を見ているため、千砂都がこの場にいることについて今更不思議に思うことはない。だが今回ばかりは、大会で雌雄を決する相手に手の内を晒しているようであまり見られたくなかった。
だが、それでごねても仕方がない。ここで動かなければ折角の機会が失われてしまう。そう腹を括り、俺は屋上の扉を開ける。
「ん? あっ、颯翔くん……」
「えっ? 颯翔?」
千砂都がいち早く俺の姿を認知し、驚いた表情を見せる。そして、彼女に続いてかのんも練習を中断しこちらへ振り向く。
「な、ナゼハヤトがここに来てるんデスカ!?」
「なに? あんた達知り合いなの? ……ってあんたどこかで……?」
可可も俺がこの場に姿を見せると思っておらず、大きく声を荒げる。見知っている様子の三人を見て、すみれさんは疑問をぶつけるが俺の姿を認識するとどこで会ったかを思い出すように記憶の断片を探る様子を見せる。
「俺は湊月 颯翔。この三人とは顔見知りだ」
「颯翔……。あ〜、いつも葉月 恋と一緒にいるって噂の……」
「そんな噂が立ってるのかよ」
「当たり前よ。女の子同士じゃそういった話は一瞬で広がるわ。まっ、別にあんた達の関係なんてこれっぽっちも興味ないけどね」
すみれさんはストレートな髪を靡かせながら初対面である俺に対して歯に衣着せぬ発言をぶつけてくるあたり、この女の子は肝っ玉があるようだ。
「それにあんた、もう一人の女の子とも一緒に原宿にいなかったかしら?」
「へっ!? は、ハヤトはあのコンチキショーの他に別の子ともフタマタをかけているのデスカ!?!?」
「おい、人聞きの悪いことを言うな。それに恋さんをコンチキショーと呼ぶな」
すみれさんからの問いに可可はとんでもない解釈を大声で発したため、思わず俺も反射的に返事をする。少し不穏な空気が漂うが、すぐに千砂都が口を挟んで場の空気を落ち着かせる。
「それって燈香ちゃんのことかな?」
「三人で原宿に出没したって言うんならそうだろうな。あの二人としか街に繰り出した覚えがないからな」
「ふーん。まっ、そこまで話を広げる気はないけど、あんたの話はこっちへかなり広がってるってことだけは教えておくわ」
「はいはい、それはご丁寧にありがとさん」
冷淡に当たってくるすみれさんに、先ほどの脅かしの礼も含めて少しばかり嫌味っぽく感謝を述べる。そして、俺が来たことに対しての理由が一向に話されずに痺れを切らした人物が口を開いた。
「……何しにここへ来たの?」
「……要件は一つ。お前と可可にとある話をしに来た」
「私と可可ちゃんに……?」
俺の返答に意図を掴めず困惑する様子を見せるかのん。可可もなぜ自分に話があるのか、状況が飲み込めていない様子だった。
「少しばかり部室で話をさせてくれないか? 俺にとって大事な事だが、大きく時間を取らせる気はない」
「それはすみれちゃんとちぃちゃんは同席してもいいの?」
かのんの質問に俺は静かに首を横に振る。すみれさんに関してはどちらでも構わないが、千砂都はいてほしくない。だが、それを正直に話したところで胡散臭さを与えてしまうのみであり、面倒を減らすためにも二人揃って拒否しておいた方が都合が良い。
「……ちぃちゃん」
「……うん、いいよ。かのんちゃん達が話してる間、すみれちゃんとダンスの流れを考えておくから行ってきて」
「分かった。ありがとう」
かのんが千砂都の様子を確認するために振り返ると、千砂都は笑顔で一時的な離脱を承諾した。それを見て、かのんは安堵の表情を浮かべていた。
「じゃあ、今から部室へ行くよ」
「あぁ、よろしく頼む」
「あ〜、カノン! ハヤトー! 待ってクダサ〜イ!」
かのんに続く形で俺も屋上を後にする。可可も困惑はしつつも俺たちに続いて部室へと向かう。
先ほどまでの賑やかな空気からは考えられないような異様な雰囲気を漂わせながら。
俺の目的はただ一つ。