吹き荒ぶ風、奏でる音   作:M-SYA

6 / 50

お待たせしました。

本編6話です。

よろしくお願いします。


悪寒

 隣の席にいた真面目な少女、葉月 恋さんと仲良くなり、すっかり彼女と話し込んでしまっていたがそのお陰で彼女の意外な素性が分かった。

 

「へぇー、葉月さんってこの学校の創立者の娘さんなんだ」

 

 なんとこの人のお母さん、葉月(はづき) (はな)さんが結ヶ丘高等学校の創立者だったのだ。そんな偉い人の娘とお近づきになれたのはなんと奇妙な縁だろうか。

 

「そうなんです。ですので私も母の創ったこの学校をより発展させたいと思って努力していきたいと思っているんです」

 

「なるほどね……。なんだかより葉月さんの事がよく分かった気がするよ」

 

 そう言って、俺は教室に掛けられた時計を確認する。時間はホームルームが終わってから30分ほど経っていた。流石にこれ以上葉月さんの時間を取るのも申し訳ない。

 

「それよりだいぶ話し込んじゃったし、そろそろお暇しましょうか?」

 

「そうですね。私もそろそろ行こうかと思っていたので途中まで行きましょうか」

 

「おっ、ならそうしようか」

 

 どうやら葉月さんも移動するという事だったので、一緒に教室を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても初日から時間取っちゃってごめんね?」

 

 校舎外に出るために階段を降りている最中、俺との会話で大きく時間を取ってしまった事を謝罪する。彼女も楽しんでくれているようには思えたが、それでもこの機にやりたい事とかもあったろうにそれが水泡に帰してしまったように思え、いたたまれない気持ちになる。

 

「いえっ、気にしないで下さい。むしろ私から声を掛けたのですから湊月さんが謝る事ではないですよ?」

 

「そうなんだけど、話を広げたのは俺の方だしな……」

 

「私もお話しするのは楽しかったのでそれでよろしいではないですか。そこまでにしましょう?」

 

 葉月さんがそこまで言ってくれるなら俺も過度に謙遜するのはやめよう。流石にこれ以上言うのは相手も鬱陶しく思うだろうしお互いにいい思いをしない。

 

「分かった。葉月さんがそう言うならこの話はこれで終わりにしようか」

 

 俺は話に区切りをつけると廊下に貼付されていたポスターに目が行った。

 

「あっ、あれって部活動勧誘のポスターかな? ちょっと見に行っていい?」

 

「はい、どうぞ」

 

 葉月さんに一言断りを入れるとポスターの元へと寄った。そこにはテニス部やバスケ部、吹奏楽部に演劇部と有名どころの部活が既に勧誘を開始していた。

 

「へぇー、演劇部とか面白そうだね」

 

「でも、湊月さんはお身体が悪いので厳しいのではないですか?」

 

「そうだけど、ナレーションとかガヤで参戦するとか楽しそうじゃない?」

 

 演劇といえば舞台上を駆け回って観客に見せるのがメインとなるがそうじゃない役での出演するというのも非常に楽しそうだ。

 

 ポスターを見て、そんな事を考えていると俺達の姿を見て、声を掛ける人物がいた。

 

「あっ、葉月さんに湊月くん! お疲れさま!」

 

「日向さん、お疲れさま」

 

 赤銅色の長髪を靡かせるその少女はクラスメイトの日向(ひゅうが) 燈香(とうか)さん。習い事でピアノをやっているとの事だったが、演奏できる楽器のレパートリーを増やしたいという事から吹奏楽部に入るらしい。

 

 物腰が柔らかく、葉月さんとはまた違った清楚系女子と呼べる人だと思う。

 

「二人共、どこの部活に入るか決めてたの?」

 

「いや、そういうわけじゃないけど、どんなのがあるのかなって興味があっただけだよ」

 

「そっか、二人はダンスやフィギュアスケートをやってたって言ってたからそれの延長線上で同系統の部活をやるのかなって思ってたよ」

 

 日向さんはそう言うと、クスッと微笑む。ダンスもやりたいところだが、身体の不調もあるからそれも今はやれないんだよな。

 

「……日向さん、その手に持たれているのは何ですか?」

 

 日向さんと話していると横にいた葉月さんは彼女が持っていた用紙に目が留まっていた。

 

「あっ、これ? なんかスクールアイドル部を発足させようと張り切ってる子がいてね。そのチラシを貰ったの」

 

 日向さんはそう言いながら、チラシをこちらに見せてくれた。そこには『Let's スクールアイドル!』『一緒に始めてみませんか♪』と可愛らしく書かれており他の部活動のそれと同等の完成度を誇っていた。

 

「……スクールアイドル…………」

 

 葉月さんはチラシを受け取り、怪訝な表情を浮かべる。

 

 そんな彼女を尻目に俺はスクールアイドルという単語について言及する。

 

「スクールアイドルって、学生がやるアイドル活動の事だよね? テレビとかでもよくフィーチャーされてるのは見るけど」

 

 スクールアイドルという単語については聞いたことがある。学生が行うアマチュアのアイドル活動で、ライブパフォーマンスや施設のイベントへの参加などテレビで見るようなアイドルさながらの活動を行うものだ。

 

「そうそう。一人で看板やチラシを作ったみたいで、メンバー集めを頑張ってやってたよ」

 

「ふ~ん」

 

 葉月さんがチラシに凝視している横で俺もそのチラシを見つめる。音楽に力を入れているこの学校であれば、そういった事を始めようと画策する人がいてもおかしい話ではないだろう。

 

「良ければ、そのチラシあげよっか?」

 

「えっ? よろしいのですか?」

 

「うん、貰ったはいいけど、私は吹奏楽部に入るつもりだからもし葉月さん達が欲しかったらあげるよ。なんだか葉月さん、そのチラシを食い入るように見てたから」

 

 確かにこのチラシを見てから葉月さんの様子が少しおかしいように見える。俺みたいに大して興味を持っていなければチラシを貰った所で家に帰ったらすぐにゴミ箱へ捨ててしまうが、葉月さんは違うのだろうか。

 

 そんなことを考えていると葉月さんはそっと微笑んだ。

 

「……そうですね、どういった事をやろうとしているのか興味があります。ちなみにこれを配っていた人は今どちらにおられるか分かりますか?」

 

「うーん……。その子、自分が勧誘したそうな女の子を見つけたみたいでその子を追いかけて校庭の方へ行くのは見たけど、それ以降は知らないかな……」

 

 葉月さんは勧誘者の情報を聞き出そうとしたが、日向さんは貰ってからの動向については特に把握してない様子だ。まあ、特定の人物を追いかけていってしまったのであれば、日向さん自身もそれを追うなんてことは興味本位でない限りまずしないだろう。

 

「……分かりました。情報をありがとうございます」

 

「いいよ♪ それじゃあ私はこれで帰るね。葉月さん、湊月くん、また明日ね」

 

 チラシ配布をしていた人の居場所を聞いて満足した葉月さんは一礼して礼を述べた。日向さんも力になれて安心したようで笑顔で手を振りながら踵を返して校舎外へと消えていった。

 

 日向さんが見えなくなったところで葉月さんに今後の動向を確認する。

 

「気になるの? スクールアイドル」

 

「別に興味があるわけではありませんが、こういった勧誘は事前に理事長の承認を貰わないといけません。他の部活動は事前に申請を出していますが、この部活に関しては承認されている話を聞いておりませんので一度直接お話しに行くべきかと思いまして」

 

 そう語る葉月さんの目は随分と険しかった。先ほどまでの笑顔は既に無くなっており温和な雰囲気が既に見る影もなかった。

 

「へぇー、そういった承認が必要なんだ。でも、入学初日だし、いきなりそこまで怒る必要もないんじゃないの?」

 

「別に怒るつもりではありません。ですが、その生徒だけを優遇するわけにはいきませんので事情を説明しに行くだけです」

 

 怒るつもりは無い。葉月さんは口ではそう言っているが、語気が強くなっているように聞こえるのは気のせいだろうか。

 

「これは私が処理しておきますので、湊月さんは先に帰って構いません。申し訳ありませんが、これで失礼します」

 

「あっ、葉月さん! ……行っちゃった」

 

 俺の返事を待たずに葉月さんは校舎外へと出ていってしまった。

 

 普通であればここで帰るのがお決まりなんだろうが、先ほどの葉月さんの態度が気になる。部活動のチラシを見ているところまでは温厚な姿だったが、スクールアイドルのチラシを見た瞬間に態度が一変した。

 

 その後の俺と会話していた時も、その表情が戻ることは無かったしスクールアイドルに関して何か確執があるように思える。

 

 それに、勧誘を行っていた少女に対して本当にお説教を始めそうな雰囲気もあったので、流石にそれは誰かが付いていかないとまずい気がする。

 

「……はぁっ、嫌な予感がするし一応付いていくか……」

 

 この心配が杞憂に終わることを祈りつつ、先ほど日向さんが言ってた中庭を探して俺は歩き出すのだった。

 

 





嵐の前の静けさ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。