本編7話です。
よろしくお願いします。
「スクールアイドルかぁ……本気で目指そうとしてるって事はやっぱり美人さんなんだよなぁ……?」
スクールアイドルの勧誘をしていた少女とそれを追いかけていった葉月さんを探すために中庭を散策している中で、俺はスクールアイドルを目指している人がどんな人なのかを想像していた。やはり、アイドルという肩書きが付くのもあるから可愛い人なのだろうか。葉月さんも顔が良い部類に入るから、彼女とどれくらいいい勝負をするのか気になる所だ。
まあ、こんな話は当人たちの前で出来た話じゃないから内に隠しておくんだけどな。
「……それなら貴女にも言っておきます。この学校にとって音楽はとても大切なものです。生半可な気持ちで勝手に行動する事は慎んでください」
そんな事を考えていると離れた所から葉月さんの凛とした声が聞こえた。
俺の中の嫌な予感が的中。何が『事情を説明するだけ』なのか。ルールを把握し切れていない新入生に対して掛ける言葉ではないだろう。
やはり付いてきて正解だった。すぐに葉月さんへ待ったを掛けよう。
そう思った矢先、校庭にある階段を降りた先に葉月さんのチャームポイントであるポニーテールを見つけたため、すぐに声を掛けようと思ったその瞬間、葉月さんに反論する声が聞こえてきた。
「ちょっと待ってよ。生半可な気持ちってさ、そんなの分からないでしょ? この子がどういった想いでスクールアイドルを始めようとしていたのか知らないのに頭ごなしに否定するのは可哀想でしょ?」
その声を聞いて、思わず足を止めてしまった。いや、声だけで全てを判断してはいけないが、それでもこの真っ直ぐな声は聴いた覚えがある声だった。
(……まさかな…………)
俺は気のせい、または人違いであることを信じて葉月さんの元へと近づいた。葉月さんと会話している女子生徒は二人いた。
一人はグレージュのボブカットな髪型をしており、髪の一部が薄紫色に染まっている。先ほどチラシで見た内容と同じように『Let's スクールアイドル!』と書かれているプラカードを持っていたので恐らくこの子が勧誘していたという少女だろう。
そして、もう一人は先ほど教室でも見かけた人物。茶髪を首下まで伸ばし、前髪がくるりと跳ねている特徴的な髪型。そして、キリッとしたつり目から覗かせる紫色の瞳。
間違いなく俺の幼馴染である
「…………っ」
まさかの人物の介入に俺は思わず足を動かせられなかった。今ここで葉月さんの元へ行くという事は嫌でも澁谷かのんと邂逅するという事だ。
幼い頃に突き放された記憶が蘇る。彼女から『大嫌い』とはっきり告げられた夕日の差した時間。千砂都の泣き声、かのんの今にも殺しに来そうだった鋭い眼差し。
正直、出来る事ならば葉月さんを置いて逃げ出したい。自分が無理をしてまで彼女を止める義理もないし、逃げた所で誰にも咎められることもない。
心の中で彼女の存在から逃げようかと思った時、彼女たちの論争する声が聞こえてくる。
「……相応しくないからです」
「相応しくないって何が? スクールアイドルのどこが相応しくないの?」
「少なくともこの学校にとって良いものとは言えないです」
「どうしてそう言い切れるのさ! まだ何もしてないのに!」
葉月さんとかのんの言い争ってる声を聞いて我に返る。先ほどの予感は的中しており二人の口論が激化する気配がする。その前に止めないと流石にこの先の生活に支障をきたしそうな気がする。
「そんな事、やらずとも結果が見えてます」
「だから、そう決めつける根拠は……!!」
「……葉月さーん!!」
案の定、二人の口論が激しさを増しているのでついに止めに入ってしまった。二人はこちらを見て言い合いをやめるが、声の主が俺と分かった際の反応は全く異なる。
葉月さんは少し口を開けるのみの些細な反応だったが、かのんは違った。
彼女は俺の事を認識すると葉月さん以上にはっと口を開けており、それに加え目も見開いていた。
「…………はー……くん……?」
かのんの声は聞こえなかったが、口の動きでそう言っていることが読み取れた。また、その肉声を聞いたであろうグレージュ髪の少女と葉月さんはかのんの方を一瞥していた。
三人にそこまで近づく必要もないだろうと思い、階段までは下りずその場で葉月さんに声を掛ける。
「……教室で先生が探してたってさ。行ってあげたら?」
俺は咄嗟に考えた嘘で葉月さんをその場から立ち去らせようとする。かのんがいなければちゃんと指摘するつもりだったが、早く彼女の前から立ち去りたいと思ってつい出まかせが出てしまった。
だが、そんな俺の嘘に葉月さんは疑う様子もなく、小さく頷いてみせた。
「……そうですか、分かりました。すぐに向かいます」
その後、葉月さんはかのん達の方へと顔だけを振り向かせ、
「とにかく今日はもう帰って下さい」
とだけ言い残し階段を上がり教室がある方向へと足を運んだ。
とりあえず火種を消すことは出来たので、小さく一息つく。ここに居座る理由もないため早々に退散しようと葉月さんが向かった方向へと踵を返そうとする。後で葉月さんからお叱りを受ける前に事情を説明しなくてはいけない。
「……待って!!」
この場を後にしようとした時、後ろから階段を駆け上がる音と共に呼び止める声がした。
「……君、はーくんだよね?
かのんは俺の特徴を見て、俺が初めてここでかのんを見た時と同じ直感がしたのか幼馴染の湊月 颯翔であることを確認する。
そう確認され、俺も足を止める。
「……それがどうした?」
かのんからの問いに肯定も否定もしなかった。いや、そうだと言いたくなかった自分がいた。
「やっぱり……はーくんもここに来てたんだね」
否定しない俺を本物だと認識したのか、かのんは少し安心したような声色で話しかけてきた。
「……俺は別にお前と会いたくなかったけどな」
「……そ、そうだよね……」
かのんの方へ向きながら、過去に彼女から告げられた事を掘り返させるように嫌味を言うとかのんもたじろいだ様子を見せる。まじまじと彼女を正面から見たが、小学校の頃よりもやはり身長も伸びて体つきも女性らしくなっていた。
「お前、普通科なんだな」
「う、うん」
かのんの制服姿を見て、普通科の物であることを確認する。かのんがそれに対して肯定の意を見せると、俺は嘲笑を浮かべる。
「……
「…………っ!」
かのんがここに来るとすれば音楽の勉強をする為にここに来たはず。それなのに音楽科の制服ではなく普通科のそれを着ているという事は、つまりそういうことだ。
俺からの賛辞を煽りだと理解したかのんは眉を顰めて力いっぱい歯軋りする。
「……なっ……何さ、その言い方!? 自分が音楽科の制服を着てるからって!!」
「これは俺が自分の力で掴み取った結果だ。それをお前は掴み取れなかった、ただそれだけだろ?」
俺は嘲笑から冷淡な表情へと変わっていく。これが自然の摂理だ。この世は時の運にも左右されるが最後は努力したものが報われる。かのんは努力が不足しており、その詰めの甘さが露呈した結果、不合格となった。
実際にかのんが音楽科の試験に挑んだかどうかは知らないが、彼女の激昂っぷりを見ればそれが事実だということはすぐに分かる。
「そ、そんな言い方……流石に……!」
「……流石に……?」
流石に酷い。そう言いかけたのだろうが、俺はかのんが漏らした言葉に有無を言わせずに反応し彼女の方へと身体を振り向かせた。
「お前……昔、俺の事を歯に衣着せぬ物言いで突き放しておきながら、今更よくそんな甘ったれたことが言えんな?」
「……そ、それは……」
昔かのんが俺にしてきた事を巡り巡って彼女に正論として返す。
かのんも何も言えず苦痛に満ちた表情を浮かべる。
「もう、お前の事を幼馴染とも何とも思ってねえよ。俺もお前の事が
「…………っ!」
あの時言われた言葉をそっくりそのままかのんに言い返す。このまま幼馴染という関係を終わらせるようにオブラートに包む事なくはっきりと。
「……じゃあな、澁谷」
俺たちの関係性を変化させた事を示すようにかのんの呼び方を変える。かのんは何も言わずにその場で立ち尽くしているのみだった。
そして、葉月さんの元へ向かおうと俺はその場を後にするのだった。
再会した二人を引き離す花嵐。