吹き荒ぶ風、奏でる音   作:M-SYA

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新章のスタートです。

よろしくお願いいたします。


第1章『月の傍で輝く小さな瞬き』
貴方はあの子と


 波乱のあった入学初日を終え、学校生活二日目。

 

 この日は特に授業は無く各教科のオリエンテーションのみだった。学校生活が始まってまだ一日しか経っていない、且つ授業の内容も大した内容ではないのに俺は途轍もない疲労感に襲われている感覚がした。

 

 それもそのはず。昨日は隣同士の席である結学の創立者の娘さんである葉月の恋さんと奇妙な縁から仲良くなり、それと同時に幼馴染であるかのんと接触してしまった。早々からイベントが盛り沢山となっていて落ち着かなかったのだ。

 

 おまけに千砂都らしき人物もいるという事で暫くは気が休まることはなさそうだ。

 

「ふぅ……」

 

 帰りのホームルームが終わり各々が帰宅する準備を行う中、俺は椅子に座り直してため息を吐いていた。

 

 すると、日向さんが俺に声を掛けてきた。

 

「お疲れさま、湊月くん」

 

「あぁ、お疲れ。日向さん」

 

「ふふっ、なんだかすごく疲れてるような顔してるね? 昨日何かあったの?」

 

 気を張るような事をしていないのにため息を吐いていた俺を見て日向さんが笑いかけてくる。

 

「まぁ、スクールアイドルの事で恋さんがひと悶着起こしかけただけだよ」

 

「ひ、ひと悶着とは何ですか!? 湊月くんだってその生徒と口論していたじゃありませんか!」

 

 昨日の出来事を冗談交じりに日向さんへ説明すると、横で荷物を片付けてた恋さんが赤面しながら反論してくる。

 

「いやいや、ひと悶着起こしてたのは事実じゃねえか!?」

 

「そ、それは……そうですが……! でも、貴方も大概でしょう!?」

 

「……ふふっ」

 

 周囲をそっちのけで口論をかます俺達を見て日向さんはクスリと笑い声を上げていた。おかしな要素がどこにあったかも分からず俺と恋さんは二人揃って日向さんへ目を向けた。

 

「ひ、日向さん、何かおかしかった?」

 

「なんだか葉月さんと湊月くん、二人の呼び方が変わってるしもうかなり仲良くなったんだなって思って、びっくりしちゃった」

 

「えっ? まぁ……言われてみれば……確かに……」

 

 俺はそんな事ないだろと思いながら振り返ったが日向さんの言っていることが全くその通りでぐうの音も出なかった。

 

 きょとんとしていると日向さんは羨ましがるように脱力しながら自分の机で頬杖をつく。

 

「ふふっ、私も二人と早く仲良くなりたいから頑張らないとね♪」

 

「頑張るって……そんなに気張らなくても良いと思うけど?」

 

「そうですよ。これからも沢山お世話になることもあるでしょうし、初日からこういった状態になる私たちが異常なだけですから」

 

 日向さんの『仲良くなるために頑張る』という発言に二人で補足を入れる。

 

 俺達の関係は図らずにこうなってしまったわけで意図的に発展したものかと言われればそうではない。かのんやスクールアイドルとの関係を偶然知ってしまったからこそ発展してしまったのみなので他意があるわけではないのだ。

 

 恋さんも同じことを思っていたようだったが、それよりも彼女の発言に引っかかるものがあったのでそれを確認したくなった。

 

「異常なのは俺だけって言わないのは優しさと捉えていいのか?」

 

「……好きに捉えて下さい」

 

「ふっ、じゃあ恋さんのお優しい言葉と捉えておきま~す」

 

「……なんだか癪に障るような言い方ですが……まあいいでしょう」

 

 自分も含めて異常だと冗談交じりに言う恋さんに子供っぽくからかいように笑うと恋さんはジト目で睨みつけながら不問とした。

 

 日向さん、恋さんと三人で話しているとクラスメイトが俺に声を掛けてきた。

 

「湊月くん、お客さんが来てるよ?」

 

「えっ、俺に?」

 

 入学早々で呼び出される要素が見当たらず困惑していたが、クラスメイトが見ている教室の扉の方へ顔を向けるとそこには見覚えのある少女の姿があった。

 

 グレージュのボブカットに髪の一部が薄紫色に染まっている特徴的な髪型。そして、垂れ目の中から覗かれる水色の瞳は見ていると吸い寄せられそうになってしまうくらい眩しく輝いている。紛れもない、昨日顔を合わせたスクールアイドルの少女だ。

 

「あの子、なんで俺の所に?」

 

「さぁ……? いきなり湊月 颯翔さんはいますか、って聞いてきたから」

 

「ふーん、分かった。ありがとうね」

 

 わざわざ呼んでくれたクラスメイトに感謝を述べると、椅子から立ちあがり少女の元へと向かった。

 

「やあ、お待たせ。君は昨日澁谷と一緒に居た……」

 

「はい、(たん) 可可(くうくう)と言いマス! ミツキ ハヤトさんデスよね? いきなり呼び出してすみまセン」

 

「唐さんね。別に気にしないで良いですよ。それより名前といい、その喋り方といいもしかして外国の方?」

 

 唐 可可という日本人にしては珍しい名前、それに加えて日本語の喋り方が拙い事もあり日本人ではないことが窺えたのだ。唐さんは俺の問いに真っすぐにうんと頷いた。

 

「ハイ! ククはスクールアイドルになるために上海からやってきマシタ! これでも日本語は勉強してきたのデスが、やはり変でショウカ?」

 

「いや、多少拙いのも唐さんらしくていいと思うけど。それに結構上手だし」

 

「そうデスか? いやぁ、そう言われるとクク照れてしまいマス……!」

 

 包み隠さずに賛辞を述べると唐さんはいやはやと頭を掻いていた。感情が豊かで凄く素直な性格に見て取れる。

 

「それで、俺に用って何かあった?」

 

「はっ、そうデシタ! 実はクク、オリイッテハヤトさんにお願いがあるんデス!」

 

 話を俺を呼び出した事情に戻すと、唐さんも目を一瞬見開いて論点が変わっていることを察知する。そして、同時に俺に相談があったことを打ち明ける。今まで話したこともない唐さんから直接の相談という事もあって俺は薄々どんな相談をされるのか予想が浮かんでいた。

 

「……それってスクールアイドルのこと?」

 

「そ、そうデスが……な、ナゼにそれを!? もしかしてハヤトさんはエスパーなんですか!?」

 

「別にそういうのじゃないよ。昨日、論争してたの聞いたでしょ?」

 

 唐さんもあの場に居合わせていたので多くは語らずとも察してくれるだろうと俺は昨日の出来事を端折りながら説明する。

 

 俺の意図を汲めたのか唐さんも眉を下げながらコクリと頷く。

 

「ハイ、それを聞いた上でククはハヤトさんにお願いしたいんデス! ハヤトさん……。ククと一緒に、スクールアイドルを始めてくれマセンか?」

 

 何が『それを聞いた上で』なのか。それの意味することが俺には全く理解が出来なかった。

 

「いや、ごめん。言ってることが分からない。なんで俺と澁谷が喧嘩していた所を目撃しているのに唐さんは俺を引き込もうとするの?」

 

 スクールアイドル部に入る事など微塵にも考えていないが、仮にその可能性があったとしてどうしてかのんと犬猿の仲である俺を誘おうとするのかどうにも分からずじまいだ。

 

「実は……かのんさんもスクールアイドルに関しては乗り気じゃないのデス。デスが、かのんさんは凄く歌が上手で初めて聞いた時この人は歌が大好きなんだと肌で感じマシタ!」

 

 どうやら唐さんはかのんも既に勧誘しており、それを断られているようだ。かのんが唐さんの誘いを断る理由については大方想像がつく。

 

 過去に参加した音楽会であいつは沢山の人から見られる緊張のせいで歌うことが出来ずに倒れてしまった。それから重度の上がり症になってしまい人前で歌う事が出来なくなってしまったのだ。

 

 昔は俺や千砂都の前でギターを片手に歌を披露していたが、唐さんに歌を聞かれているという事は現在は聴く人がいなければ歌う事は出来るらしい。

 

「かのんさんは他にスクールアイドルをやろうとシテいる人を探してくれてイマスが……それでもククはかのんさんと一緒にやりたいと思ってマス……。デスから……!」

 

 唐さんは初めてかのんの歌を聞いた時から彼女にぞっこんのようだ。確かに憧れの人と一緒に何かをやりたいと思うのは当然の事で唐さんの場合はその人物がかのんであっただけのことだ。

 

 だが、かのんへ掛ける情熱を聞いた所で俺の心が変わることは無い。

 

「……悪いけど、それでも俺は手を貸すつもりは無いよ」

 

「ど、どうしてデスか!?」

 

「唐さんが澁谷をスクールアイドルに引き入れるために色々と画策していることは分かった。それでも、俺があいつに関わる必要は無いし、あいつの為に協力する義理もない」

 

 俺はかのんとの縁を切った。それは相手が俺を突き放したからこそ自分も同じことを相手にしたまでのこと。唐さんがかのんのことで困っていたとしても、俺にとってはもう関係なくどうでもよいことだ。

 

 かのんに対して非情に徹する俺を見て、唐さんは狼狽しつつも負けじと反論してくる。

 

「ハ、ハヤトさんは……かのんさんの幼馴染なのデショウ!?」

 

「……違う!!」

 

「……っ!?」

 

 唐さんが発した幼馴染という単語。唐さんがどうして俺とかのんの関係について知っているのかは分からない。大方かのんから聞いたのだろうが、そんな事はどうでもよかった。

 

「聞いただろ? 俺はあいつを幼馴染だと思ってないと……あいつの事が大嫌いだと」

 

「…………」

 

「そんな奴に手を貸すなんて……真っ平ごめんだ」

 

 昨日かのんに突きつけた言葉をもう一度復唱する。そして、自分にもそう言い聞かせるようにその言葉を反芻させる。

 

「デスが……!」

 

「湊月くん、そこまでです」

 

 まだ物申そうとする唐さんに恋さんが待ったを掛けた。

 

「……恋さん」

 

「多くの生徒がいる中で妙な諍いは起こさないで下さい。貴方が大きな声を出して他の生徒も困惑しています」

 

 恋さんの指摘を受けて周囲を見渡す。不穏な空気を感じてひそひそと話をする生徒や突然の怒声にびっくりして目が点になっている生徒など明らかに動揺が浸透しているようだった。

 

 反射的とはいえ感情的になってしまった己を恥じ、自分の席へ戻ろうと踵を返す。

 

「……ごめん」

 

「あっ……ハヤトさん……!」

 

「……とにかく話は終わりだ。もう……来ないでくれ」

 

 呼び止める唐さんへ背中越しにそう語り、俺は自席へ戻る。俺がもう話を聞かないと判断した唐さんも何か言いたげな表情を残しつつ教室を後にするのだった。

 

 




少年の胸に残った深いしこり
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