新訳であり、新しく焼くわけであり、新しい厄災であり、罪を焼くものでもある。
広げすぎた風呂敷を畳み直す、そういうモノです。
かくして、吹き溜まりへと
火は燃える。
炉に焚べられていた絶望が、幾多の不死が、火によって焼かれ、ついには砕け散っていく。後には塵同然の灰となっては積もっていく。
多くの贄によって作られた炉に広がるのは一面の灰とそこに芽吹く白い花々、そして多くの不死が残してきた剣や槍、杖がまるで墓標の様に灰に突き刺さっているばかりであった。
そこに生と呼べるようなモノはない。
咲いている花々も、ただの死の成れの果てとしか思えず、広がる灰の世界には何もない。
「────ああ、もう時間か」
そんな炉の中心、静寂ばかりの炉で唯一音を響かせながら燃えていた篝火の傍らに腰を下ろしていた者が虚空を見上げながらそんな言葉を口にした。
朝でもなく、夜でもない、黄昏時の空にて掲げられた炎に縁どられ、地平線の彼方へと黒い何かを垂れ流していく異様の太陽、
それを見上げてそう、呟いた人物は立膝より立ち上がる。
歪んだ形の異形とも言える騎士鎧を身に纏い、やはり鎧同様に焼け爛れた兜の後頭部に異形の王冠を戴く騎士は、常人離れした長躯から火の粉を漂わせながら鎧についていた灰を地面へと零していく。
兜のスリットより覗く、血よりも赤い、暗闇に揺れ動く火のような瞳がしばし異様の太陽を見ていたが、それから視線を外した騎士は篝火を背にして歩き始めた。まるで盆地の中の丘の様になっている炉の唯一の門を騎士は後にする。
その姿を見送る者は誰もいない。
唯一、残された篝火の火が弾けて音をたてていった。
それはまるで見送るように、それとも惜しんでいるかのようにすら思えた。
─────
『オーバーロード』という作品がある。
所謂ライトノベルの区分の作品であるが、一冊一冊は充分に厚いものであるし、ライトではない作品にも思えるが実際、本来の区分は知らない。
少なくとも、知っているのはそれがWEB小説が始まりの作品であり、覚えている限りでは十数巻は出ていたという事だ。さて、そんな小説としての情報は些末事項でしかなく、真に重要なのはやはりその作品としての内容についてだろう。
『オーバーロード』という作品は、WEB小説などにありがちになっている異世界転移モノであるが、そこに仮想実体験型オンラインゲーム要素を組み合わせた作品だ。
2138年、という時代において一大ブームを巻き起こした『ユグドラシル』という作品がサービス終了というオンラインゲームにおいては決して避けれない終末を迎える事となり、当然のことだが、『オーバーロード』の主人公であるモモンガというプレイヤーもまた、その自分がのめり込んでいたゲームのサービス終了を受け、ショックを抱きながら同じギルドのメンバーとの思い出に浸りながらギルドホームで終了時間を迎えた、はずがいつまでもログアウトされずに、突如として意識を持ち始めたギルドのNPC達と異世界に転移し、なんやかんやで世界征服をすることになるという、ダークファンタジーに属する作品だ。
なぜ、そんな作品の話を持ち出したのか。
それは当然、自分もまたその作品に関わる事となったからだが。
ああ、制作だのそういう関りではない。
異世界転生と言えばいいだろうか?
ブルーチーズで食中毒を引き起こし死んだ自分は、気が付けば世紀末とも言えるような環境になった未来の日本に転生を果たした。政府ではなく、巨大複合企業が社会を牛耳っているという何とも実にフロム的な世界に生まれた自分であるが、どうやら一般人、貧困層ではなく完全な環境都市であるアーコロジーに居住権を持つ企業の中枢側の家系に生まれ前世以上に悠々自適に生きてきた。
そこまでは、何ともアレだが、何か事件に巻き込まれたり革命だのに巻き込まれるのかと冠あげながら生きてきたが、それも『ユグドラシル』というオンラインゲームの登場によって無事考えを払拭でき、気が付けば『ユグドラシル』へとのめり込んでいた。
そして、やはり、モモンガ同様に自分もまた『ユグドラシル』の終わりを迎える。
ゲーム内で出会った友人に誘われ、モモンガと同じギルドに所属し彼の友人として、仲間として、共に来る異世界を満喫しよう────、そう一読者として、この世界に転生した人間として、決めていた。そうするつもりだった。
「つもりだった……」
視界の端にデジタル時計が23時の55分を過ぎたのを見せているのを軽く確認しながら、俺たちのギルド『アインズ・ウール・ゴウン』のホームであるナザリックの第一階層である墳墓を抜けて、表層の霊廟を進んでいた。
いつも通りの装備で、いつも通りの予定を熟す様に、俺はこのナザリックを後にするために。
そうして、一歩一歩を外へと向かって進んでいけば、視界の端の《伝言》のアイコンが点滅しているのを確認してチャットを開けば、やはりというべきか送信主のネーム欄にはモモンガの名前が。
俺はそれに一瞬、躊躇をしつつも反応する。
「【はい───モモンガさん、どうしました】」
「【ああ!こんばんは、ネームレスさん!ログインしていたんですね、ちょっといろいろあって今気づいたんですが……】」
《伝言》に反応すれば途端に響くのは俺たちのギルドマスターであるモモンガの声だ。焦ったように、しかし安堵したような声音の彼に俺は胸中で息を吐く。
彼の事を、今のこのタイミングの彼の心中を知っている身として、その声音に込められている感情がどういうものなのかを俺は知っている。
「【今、どちらに?私は玉座の間にいるんですけれども、いつも通り第六層ですか?】」
「【ああ…………今は、ナザリックの表層ですね。最後ですから……】」
どこか喜色を感じさせる声音の彼に、俺はなんとも歯切れの悪い答えを返しながらも足を止めることなく出入口へと向かって歩いていく。
「【表層ですか……?それは、またどうして?】」
「【ああ、まあ、少しリアルで色々ありまして、ね……それで、少し思うところがあるといいますか、ええ、それで……】」
「【はあ……】」
訝しげな声が聴こえるが、彼は社会人であるし何よりもこういう言い方をしてしまえばこちら側へのラインへと踏み込んでいけない性格の持ち主であることは知っている。だから、汚いがこういう風に言わせてもらった。
もちろん、リアルで色々な事があったのは事実だ。
それもあまり、彼には言えない様な、口を濁す内容であるのも事実であるし、それが理由でこうして自分が此処にいるのもやはり事実なのだから。
「【モモンガさん】」
「【はい、どうしました?ネームレスさん】」
「【いままで、色々な事がありましたね。タブラに誘われてこの『アインズ・ウール・ゴウン』に入ってから、本当に】」
「【……そうですね、ネームレスさんはどっちかというと中立側の人っていうスタンスのつもりだったんでしょうけれども、割と結構、ウルベルトさんとかベルリバーさんとか、るし☆ふぁーさんの側でしたね】」
「【は?正気か?俺のどこが、あいつら側なのか教えてもらおうか】」
「【少なくとも美少女キャラ用意したとか言って、えげつないぐらいの形容し難き軟体的怪物のラフを持ってきた辺りだよ、焼死体】」
「【星の乙女に謝れよ、おい】」
エブたその何が悪いのか?タブラはこっち側だったぞ???
まあ、それは横に置いておこう。
視界の端の時刻を再度確認しておきながら、話を続けていく。
「【…………まあ、この数年間、色々とお世話になりましたよ】」
「【ええ、こちらこそ、お世話になりました】」
足を止める。
既に霊廟を抜け、俺の足はナザリックの敷地の境に俺は立つ。
既に目の前にあるのは『ユグドラシル』のワールドの一つであるヘルヘイムに存在する大湿地地帯、グレンデラ沼地の毒沼が広がっている。
「【────だから、お別れですね。モモンガさん】」
「【ネームレスさん?】」
時刻は、もう59分を示している。
「【また、いつか】」
そう吐き捨てて、俺は一方的に《伝言》を切り、
────55、56、57
目の前に広がる毒沼へと歩を進めた。
────58、59
「 」
────00
世界がひっくり返った。
─────・