注意:今話は本作の流れを組んでいるものですが実際に物語がこうなるわけではございません。あくまでIFの未来と思っていただければ幸いです。
両者の間に言葉はなかった。
そこにあったのは行動ただ一つ。
襲い掛かってきた
目の前に突っ立っている邪魔な
騎士────剣を携えた彼にとって、もはや先ほどまで相手をしていた蛇身人の部隊など背景の人影でしかなく、迫る戦鎌を携えた乱入者こそが世界の中心に移り変わっていた。
それはあちらも同じこと。
元より、蛇身人などそこらで屯ッてるような小鳥の群れと変わらない風景の一つにしか見ていない
剣の騎士が踏み込む。背後の
その身体は微塵も揺らぐことはなく、その足は一切遅れる事がない。
戦鎌の騎士が跳び込む。蛇身人らの隙間を縫う様に、その身に纏っている全身鎧の重さなど感じさせないほどの身軽さで速く剣の騎士を目指し跳び進む。一陣の風と化したソレの携える戦鎌は騎士の手首一つで蛇身人の身体を切り刻みながら回り回り速度を上げていく。
その身体は止まることはなく、その足は躍っていく。
何体の蛇身人がそれで死んだのだろうか?
戦いではなく、ただ間にいて邪魔だったから以上の答え感想が出ない行為によって。
一つ分かるとすれば、蛇身人たちは我先にこの場から散り散りとなるしかない事だろうか?
───ッ!!!
音が響いた。金属と金属がぶつかった甲高い音、ではない。空気がぶつかり合った様な鈍い音だ。
騎士らが振るうロングソードと戦鎌が交差した瞬間、刃がぶつかり合うよりも先に両者の一撃が間にあった空気を潰したためにそんな不可解な音がこの場に響いた。
その事実に驚愕したのは戦鎌の騎士だった。
無論、その驚愕は胸中に留められ雰囲気一つにも滲んでいないが────
「(
自分の有する戦鎌は、そんじゃそこらの武器ではない。否、それどころかどれほどの国宝を持ってきたとしても並ぶものなど存在しない文字通り神の武器。それと直接ぶつかり合ったわけではないにしても打ち負けないロングソード。
その外見はどう見てもどこにでもあるようなロングソード、だが目の前で戦鎌の一撃を迎撃してみせた事実に騎士は驚愕しつつも次の瞬間には感嘆の息を漏らした。
「(
対して、剣の騎士はその胸中で悦を感じていた。いままで切り合ってきたどの誰よりも何よりも、今の一撃だけで味わえなかった悦楽を感じ、次の瞬間にはその思考が廻っていく。
奇しくもそれは戦鎌の騎士と似たようなモノだった。
騎士の握るロングソード、その外見は確かにどこにでもあるようなモノだが、その実態は騎士の持つ武器の中でもトップクラスの性能を有した逸品。勿論、特化した尖った様な武器に比べれば器用貧乏と言うしかないがそれでも思い入れの武器である。
そんなロングソードが、この世界であらゆる武器や鎧、肉体、防御を切り捨ててきた愛剣が迎撃された。
その事実に騎士はそのフルフェイスの兜の下で眼を細める。
十字槍、そんな印象を感じさせるが実際によく見れば奇怪極まる形状だろう。翼のように両側へと伸びた三日月状の刃に柄の延長に備えられた刺突用の刃。真っ当な造り手では造らないような形状、用途不明の大きな戦鎌。
良くも悪くもそれらの情報で剣の騎士はその戦鎌が
「(重要だが、必要ではない)」
それが何なのかなど、今はそこまで必要ではない。
今必要なのは────
そこまで思考が廻った瞬間、剣の騎士はロングソードを振るう。踏み込みながら振るったソレは甲高い音を響かせながら戦鎌を弾いた。クスッ、そんな笑みが聴こえた気がしたがそれよりも尚速く遠心力を得て稲妻の如き三撃が剣の騎士へと叩きこまれていく。
常人であれば、否、英雄であろうとも絶死の一撃が都合、三度。
それを前に、剣の騎士はそのロングソードで全て弾いて見せる。
戦鎌の騎士は、自分よりも弱いが英雄などでは勝てぬ実力を持つ自身の同僚の中でも最も強い男であっても回避する事も難しい速度と強さのソレを当然のように弾いて見せた相手に普通ならば感じる様な焦りなど、微塵も抱くことはなかった。
むしろ、胸中に満ちていくのは喜悦。
「(じゃあ、今度はこうっ!!)」
地面を蹴り跳び、刺突を放ちながらも弾かれるのを前提に次の一撃、その次の一撃を、正面以外から多角的に攻め立てる。
刺突、払い、切り上げ、薙ぎ払い、多種多様な一撃をフェイントを交えながら。
だが、剣の騎士はそれらに尽く対応していく。
片手持ちから両手持ちに持ち変えながら戦鎌の一撃を弾き捌く。
そして、大振りの一撃を視た瞬間、剣の騎士は一歩踏み込んだ。
火花が走り、甲高い金属音が響く。受動的だった剣の騎士が初めて見せた能動的なソレに思わず目を見開いた戦鎌の騎士は大きく戦鎌を弾かれその体勢を崩した。
戦鎌を握っていた腕は戦鎌諸共大きく打ち上げられその胴体を剣の騎士の目前に晒す。
「(まずっ……!?)」
戦鎌同様、神の武具であるその鎧の柔い部分に武器を突き込もうがそもそもが魔法の装備である以上、そこを狙えば深手を負うというのは充分に甘い考えだが、今この場では拙いことこの上ない。
何せ、相手の武器は神の武器と打ち合えるような剣。
万が一、どころではない。
先ほどまで感じていた熱が一気に引いていくのを感じた戦鎌の騎士は身を捩ろうとし────
伸びてきた剣先、ではなくその指先がその鎧を掴み勢いよく引き寄せた。
「っぁあ゛っ!?」
迫る兜、勢いよく引き寄せられた両者のフルフェイスの兜がぶつかり合った。
先ほどまで響いていた鋭い金属音とは違う鈍いソレは戦鎌の騎士の脳を大きく揺らし、悲鳴をあげさせた。耳にしたソレに剣の騎士は目を細める。
だが、止まることはなく次を打つ。
「お゛あ゛っ!?」
脳が揺れ、やはり先ほどの様に胴体を晒す戦鎌の騎士へと剣の騎士は蹴りを叩き込み吹き飛ばす。
まるで毬の様に地面を何回かバウンドしながら数メートルを吹き飛んでいく戦鎌の騎士を見送りながら、剣の騎士はロングソードを軽く払いながら、戦鎌の騎士が立ち上がるのを待つ。
吹き飛んでいくうちに落ち着いたのか、手放さなかった戦鎌を支えに騎士がえずき呻きつつも立ち上がる。そんな姿を見つつ、
「名前は?」
剣の騎士がようやく一言目を口にした。
嘗ては風神が装備していた純白と黄金の鎧に汚した土汚れが装備の魔力か、瞬く間に新品同然に元々の輝きを取り戻し、戦鎌を杖代わりにしていたのも辞めた戦鎌の騎士は軽く息を吐き、剣の騎士を正面に見据える。
既に土汚れなどないというのに、軽く鎧の表面を払う。
「アンティリーネ、スレイン法国漆黒聖典のアンティリーネ・ヘラン・フーシェよ」
少女の声がそう告げた。
「ネームレス、
剣の騎士、
空いた左腕を右腕の肘へと置くように、不死隊の儀礼を行い笑う。
「お前がどこの誰かはそこまで重要じゃない────このまま、お前とやり合いたい。そういう気分だ」
「ふふ、口説き文句にしては駄目ね。でも、私も今はそういう気分よ」
ネームレスの言葉に、アンティリーネも兜の下で笑みを浮かべつつその手に握る戦鎌、《カロンの導き》を軽く回しその刃先を彼の儀礼に応える様に向ける。
火が弾ける音が聴こえる。
騎士シリーズの兜、そのスリットから覗く瞳がほのかに薄暗い赤い輝きを漏らしていく。
先のぶつかり合いで、既に実力差は理解している。
だが、アンティリーネは明確に迫った死の予感によって引いていた熱が、再度自分の裡から滲み出てきたのを感じ取っていた。
「(なんて、言ったはいいけど……どこまでいけるかしらね)」
同時に思考はよりクリアになっていく中でアンティリーネは目の前の騎士、
外見はやはりどこにでもいるような騎士のソレ。
その手に持つロングソードも平凡な見た目のソレ。一度も使っていないが背中に背負っている盾も、多方面からの攻撃でちらりと覗いた程度でもこれといったモノに感じなかった。
きっとどれほどの戦士であっても、自分と相手の装備を見比べれば圧倒的に自分へと軍配をあげる事だろうが……アンティリーネは知っている。自身の同僚らの中にはどう見ても革鎧に防御面で負けているだろうと思えるようなモノを装備している人間もいる。だが、そのどれもが実際は国宝級の鎧と比べても遜色のない代物ばかり。
装備、特に魔力を有したモノは込められている魔力に使用されている素材、そして特殊能力などの総計が防御力や攻撃力に直結している。
「(神の装備と同等────考えたくない話だけど、ね)」
人類の救世主として降臨した六大神が残した装備、そのうちの二つを装備しているアンティリーネだからこそ自分の攻撃を受け止め、ダメージを与えてくる
そして、彼はまだ武技も何らかの
それはアンティリーネ自身も同じことが言えるのだが……。
「ふぅーっ、よし」
同格以上の戦士。それを再確認しながら息を吐き────
「武技、か」
この世界特有の技能。
背中の盾はアンティリーネが戦鎌の使い手である時点で使用するつもりはとっくになく、せいぜいが装備時の効果を受けるだけに留めていた。
この世界に来てから見聞きしたモノと記憶にあるモノ、どういった武技があったかを思い返しながら
移動速度と俊敏性を強化する武技を使用したのだろう、今の
狙いは鎧と鎧の間。
脇の比較的柔い部分へ向けて、一撃を。
「(反応が早い……!!けど、遅い!)」
〈超貫通〉による刺突攻撃の大幅強化に加え、そのほかの武技による速度や攻撃力の強化を行ったアンティリーネは《カロンの導き》の刃先が火の無い灰の肉を捉えた感触をその手に感じていた。
アンティリーネの修める職業にエクスキューショナーがある。
この職業で得れる技能に致命の一撃の威力を高め、場合によっては一撃死すら引き起こす技能が存在しているが、アンティリーネは少なくともこの一撃で終わるとは思っていない。勿論、致命傷に成り得るとは考えているが。
さしもの
「〈即応反射〉!」
離脱に武技を使う事で、誘い受けからのカウンターを受ける可能性を潰していく。
だが、遅い。
引き抜かれていく刃を素早く両手持ちを辞め空いた手で掴むことで彼女をその場に引き留める。
端から受けるつもりでいた以上、〈即応反射〉では間に合わない。
脇部分から血が滲み出ていくのを感じ取りながら、
「〈ストライク・エッジ〉」
「ッ────〈流水加速〉!」
斬撃と打撃の両属性を有した特殊技能を放つが、それよりも先に武技で加速したアンティリーネが柄から手を放しながらも柄を柱の様に扱いながら体を宙空へと放る。
「〈剛腕剛撃〉〈能力超向上〉!」
武器から手を放す、戦闘時においては悪手も悪手だが。今この状態で、
武技で強化された膂力による蹴りが
「づっ、〈フォース〉……!」
先の頭突きと打って変わり、衝撃で揺れる脳に
手放された《カロンの導き》諸共軽く吹き飛んだアンティリーネは戦鎌を空中で回収しつつ軽やかに着地を決めるが、すぐに迎撃の構えを────
「〈
両手持ちへと戻し、右方向へと構えたまま大きく地面を踏み砕きながらアンティリーネとの距離を詰めていく。そうして放たれるのは走りながらその勢いと体重を利用してのかち上げ突き。
バギャッ、そんな音を響かせながらアンティリーネは左わき腹に一撃を叩き込まれ、身体がその衝撃で浮き上がる。兜の下で脂汗が吹き出す。
鎧の性能は
そんな彼女、浮き上がってしまった彼女へと
「〈ストライク・エッジ〉」
かち上げた事で自然と上段に構えたロングソードを勢いよく浮き上がったアンティリーネへと叩き込む。
既に先の一撃で、
「だから、殴りつける」
叩き落とされたアンティリーネは先の武技で鈍化させた痛覚を超える痛みに食いしばりながらも〈疾風超走破〉で身体を無理矢理に横へと跳び退かせて次の追撃から逃れる。ブレーキをかける様に片手を地面に突き出しながらしばし滑り跳んだアンティリーネは自身の使えるモノでも最高位の治癒魔法を行使する。
流血しているわけではない。
だが、それはあくまで表面的な話だ。
鎧を脱ぎ、その下のインナーまで脱いでみれば彼女の身体は内出血だらけとなっているのが良く見える事だろう。
「はぁ、はぁ……!!」
兜の下で息を絶え絶えにしながら、アンティリーネは笑う。
「ふ、ふふ、はは、あはは……!!」
唐突なソレに思わず追撃を仕掛けるために再び構えようとしていた
「ねぇ、私、いま、たのしいわ」
「そうか」
アンティリーネの言葉に素っ気なく、しかし思わず苦笑しながら
互いに兜、その下の表情は見ることは叶わないが互いに喜悦を感じ取っているのを察していた。
アンティリーネにとって、笑みとは自身の感情を、思いを、気持ちを、誰からも隠してくれる仮面だった。だが、今この瞬間において彼女は自分の中の感情をそのまま剥き出しに笑っていた。
まだ切っていない札がある。
まだ試していない案がある。
自分の知る強者────自分よりも弱いが────である同僚であってもこんな気持ちにはならなかった。
ここから、なのだ。
いったい自分のどこまで受け止めてくれるのか、とアンティリーネは心の底からワクワクし始めていて……
「(それでも、最後に勝つのは私)」
目を細める。
身の内から火が弾けていく。
「(番外席次────レベルで言えば90前後ぐらいだな、人化の指輪で下がってる俺のステータスに近いのを見れば、だが)」
本人、とは確定していないが
詳細を知らないこの世界の強者、せいぜい鎌の使い手程度しか知らなかったが、
「(好い)」
実力という点で言えば、本来の自分であれば蹂躙できる相手というのは少し残念に思いはしているが、それはそこまで気にしていない。
まだ武技しか見ていない。
他の手札は何を隠しているのか。
恐らくはプレイヤー、六大神の装備なのだろう白い鎧に、戦鎌、それがどういう特殊能力を有しているのか。
「(ただレベルが高い、だけじゃないだろう?退屈させてくれるよな)」
そうしてしばし睨み合っていた両者。
先に動いたのは、白い鎧。アンティリーネだった。
〈双空斬〉〈流水加速〉〈剛腕剛撃〉、三つの武技を使用して振るわれたカロンの導き、その三日月状の刃から放たれた二つの斬撃が火の無い灰へと殺到する。
ソレに対して
「〈
先同様に両手持ちからの右向きの構えを取りアンティリーネへと突き進む。
飛んでいく斬撃の類は直接切りつけるよりも威力は減衰するものだが、そうだとしても斬撃を気にせず前進するなど正気の沙汰ではない。しかし、ここまでで十二分に
僅かに残る武技による加速を活かして、距離を詰めさせずにアンティリーネは自分の意識を《カロンの導き》へと向ける。
「(やっぱり、鎧の上からじゃあ無理よね。あっちは打撃でこっちの鎧の上からダメージを入れてくるけど……というか、出血、してるのよね?)」
先ほどの刺突によって決して小さくはない傷があり、出血もしているにも関わらず動きは微塵も鈍っていないように見える
「スパルティアト!」
瞬間、アンティリーネと
まず一体が左わき腹からかち上げられ両断された。
残り四体、アンティリーネも端から
一瞬、遅れて
召喚者を邪魔させない、と言わんばかりのスパルティアトらの行動だが
だが、少なくとも邪魔ではあると感じたのだろう。
ロングソードから片手を離し受け止めた槍の一つを掴んだ勢いで奪いとり、そのまま槍の石突きでスパルティアトの頭蓋を殴り砕き消滅させる。
残り、三体。
「〈超斬撃〉〈剛腕剛撃〉!!」
一体を消滅させた、その隙を突いてアンティリーネはその身を捻り武技を使用してまるで独楽の様に回転しながら
今まで通り、
「……!!はぁ!?避けるの!?」
「なるほど……そういう動きもあるのか」
攻撃が当たる直前、
だが、アンティリーネもすぐに行動を再開する。目の前のスパルティアトの槍を踏み台にもう一度跳躍すればその直後にスパルティアトの胴体が横一文字に両断される。
これで残り、二体。
跳躍からスパルティアトの後ろへと回り込んだアンティリーネはそのまま武技でも使ったか加速していき、地を這う蜘蛛の様な姿勢のまま超低空の斬撃を放つ。
狙うのは
充分に
「アハッ!」
「チィッ……!」
脛へと直撃した一撃に、
アンティリーネは笑みを浮かべ、
だが、それも槍がぶつかるよりも先に二体のスパルティアトが崩れ落ちて消滅し、
「さて────」
崩れ落ちていくスパルティアト。
先の斬撃を当てて身じろいだ
ここまでやって、アンティリーネは自分が彼に勝つ姿をイメージ出来なかった。
どこまでやっても決定打は生まれない。先の刺突で出血は起こせたが、今までの
他にまだ試していないモノもある。
例えば、アンティリーネの持つ《カロンの導き》、六大神の一柱スルシャーナが使用していたこの戦鎌にはいくつかの特殊能力がある。
先ほどのスパルティアトを召喚する能力や、特定の魔法の発動、複数の
ここで、
「きっと、あなたとなら、って思ったけど────でも、私、いま、あなたを殺すわ」
度々、同僚や神官らに口にしてきた話を思い返しつつ、アンティリーネは笑う。
この騎士を殺したい、勝ちたい、そう強く想いながら
「
黄金の時計盤が彼女の背後に顕現した。
「────あ?」
ネームレスが兜の下で眼を見開いた。
─────・
なかなか続きを書く時間も取れず、書いても書き直しが多くなる中で一度気分を変える為、そして慣れを取り戻す為に今回書きました。
次話も近い内に投稿出来れば、と思います。