新焼UNDEAD   作:カチカチチーズ

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ソレを砕くのは誰か

 

 

 

 先に仕掛けたのは豪王であった。

 山羊人(バフォルク)としての強靭な足腰を用いての踏み込みは容易くオルランドとの距離を詰め、その手に握る剣が彼の首目掛けて振るわれる。亜人故の人間とは隔絶した膂力から放たれたソレは並みの兵士であればその命を刈り取られることが想像に難くないものである。

 だが、相手取るのは並の兵士ではない。

 

「チィアッ!!」

 

 聖王国九色が一角オルランド・カンパーノ。

 その実力は確かに、豪王に及ぶものではない。それは彼自身が自覚している。だが、その実力差は決して隔絶したモノではないことも知っている。

 確かに自分一人で勝つにはそれこそ、リ・エスティーゼ王国の騎士団長、音に聞くガゼフ・ストロノーフの様な大英雄でなければならないだろう。

 片刃の剣の刀身に滑らせるように僅かに豪王の剣の軌跡をずらし、オルランドはそのまま逆に自分の剣を豪王へと勢いままに振るう。

 豪王の身に纏う亀の甲羅の様な紋様のあるブレストプレートとマントの装飾の隙間へと寸分違わず放たれたその一撃はしかし、豪王のもう片方の手で持っている大粒の黄色の宝石が埋め込まれたラージシールドによって、簡単に防がれた。

 当然と言えば当然であろうその光景にオルランドは内心舌打ちながら、速やかに次の一手を打つ。

 

「死ね、人間」

 

「舐めてんじゃねえぞ、山羊野郎ッ!」

 

 僅かに引いた腕から放たれるのはラージシールドによる叩き付け。

 〈盾強打〉武技としては基礎的なモノであるには違いない。しかし、それを放つのは亜人らの中でも上澄みも上澄みの豪王。常人であれば防ぐどころか下手をすれば回避するのも難しいその一撃が目の前に迫る中、怒声と共にオルランドは自らの剣を迫るラージシールドへと叩き付ける。

 それは死の目前に対する足掻き

 

                      ───などではない。

 

 バキンッ、そんな音をたててオルランドの剣が砕け散る。

 武器が砕ける、そんな緊急事態でありながらオルランドの表情は微塵も変わらない。そして、そんなオルランドに反して豪王はラージシールドの向こう側でその表情を僅かに動かした。

 次の瞬間、訪れたのはオルランドの死ではない。

 豪王の一撃に近いほどの衝撃がラージシールドにぶつかり、豪王がシールドごと僅かに仰け反ったのだ。

 そんな僅かな隙をついて、オルランドはすぐさまに豪王の射程範囲から退避する。

 生半可な退避ではすぐさま、距離を詰められることを知っているオルランドは無理矢理に武技を交えつつ、距離を取りながら握りっぱなしであった先ほど砕けた剣の柄部分をそこらに投げ捨てて腰から次の剣、先ほどとまるきり同じモノを抜き放つ。オルランドがそれを構える時には仰け反りから戻っていた豪王はその緑の目を細め、かつて目の前の人間と戦った時の記憶を思い返し、今起きた現象の正体を看破した。

 

「自ら、武器を砕く事で数倍以上の威力の一撃を放つ、だったか」

 

「おう……テメェが俺の武器を全部壊すのが先か、俺が自分から壊すか、どっちが早ぇだろうな、豪王さんよ」

 

 かつてがそうであった。

 致命とはいかないが、それでも決して無視できる一撃ではない攻撃をかつての戦いで豪王は何度か見ていた。豪王自身、相手の武器破壊を成して相手の心をへし折ったうえで打ち負かすという戦い方をしていた事から前回はなかなか気が付くことがなかった。なにせ、豪王にとって相手の武器は破壊するのが前提であり、相手の武技ないし特殊技術(スキル)によって自ら壊すなど気が付くはずがないのだ。

 オルランドの特殊技術(スキル)は自身の武器を自ら破壊する代わりに数倍の威力の一撃を生むものだ。それを放つことでオルランドは無理矢理に衝撃の反動を利用して退避する隙を作りあげた。だが、それが出来るのもその条件上、限りがある。

 いま、オルランドが構えている剣に加えて腰から下げている予備であろう同種の剣が六本。そして、短剣に手斧、後ろ腰に下げている鉈の計十度。だが、これはあくまでオルランドの武器全てがオルランドの求めるタイミングで破壊できればの話だ。

 互いに目的はオルランドの武器破壊。

 

「何も、何も気にする事はない。……人間、俺がお前を殺すのはとうに決まっていることだ」

 

 その手の剣、否グレートソードの切っ先で地面を削りながら、目を細めた豪王がそう呟き

 

「〈剛腕豪撃〉〈素気梱封〉」

 

 刹那、豪王は風となった。

 彼の有するマジックアイテム、疾走の指輪によって加速した豪王は筋力強化とダメージ増加を齎す武技に加え、武器破壊の為の武技を発動させた。

 確かに目の前の人間を豪王は早々に殺したいと考えている。

 目的の為にもこんなところで足止めなどされているつもりはないからだ、だが、それはそれ。これはこれ。目の前の人間に対する完全な勝利の為に、豪王は常の通り敵の武器を全て破壊したうえで勝利する。

 

「ックソが!〈可能性感知〉!!」

 

 ただでさえ素の身体能力に差があるというのにマジックアイテムによる加速などされれば如何に強者であるオルランドであっても反応出来るはずもない。

 消えたと同時に武技を発動させたオルランドの選択は何も間違えていなかった。

 自らの第六感の強化を行うその武技により研ぎ澄まされていく感覚、オルランドがその手に持つ剣を振るうのと衝撃が走ったのはほぼ同時であった。

 オルランドの直ぐ真隣に現れた豪王がその手のグレートソードをオルランドの持つ剣へと振るい、それとオルランドの振るった剣が噛み合う様にぶつかり合ったのだ。

 それによって、オルランドの身体は勢いよく吹き飛ばされていくが、いつの間にに抜いたのだろうか先ほど一撃を受け止めた剣とは別の剣を地面に突き立てることで勢いを何とか殺して、十メートル程度のところで何とか留まり立ち上がった。

 

「ハァ…ハァ……クソがッ(〈外皮強化〉を使うのがあと少し遅ければ腕ごと折れてやがった……これが殺す気の豪王バザーか)」

 

 前回の戦いと比べてあまりにも違う、と笑みの様なモノを浮かべながら刀身が粉々になってしまった剣を投げ捨て、威力を殺しきれず痛みの走る腕に舌打ちつつも目の前の怪物へ獰猛な笑みを向ける。

 心を折るつもりならば、折ってみせろと。不敵な笑みを浮かべて

 

 

 

 

 

─────

 

 

 

 

 

 ソレは突如として現れた。

 真っ先にソレに気が付いたのは城壁の上で亜人たちへと矢を射かけていたパベル・バラハであった。元々弓兵であり訓練により亜人らと同じく夜闇でもよく見える目を備え、生まれついた優れた感覚と合わさってこの場の誰よりも遠くを見ることができた。

 だからだろう。

 ソレに気が付いたのは。

 豪王率いる山羊人とその他の亜人種の混成部隊らの向こう側、背後というにはやや斜め後ろの方角から気が付けば亜人らの部隊のすぐ後ろにまで迫っていた存在。

 どう表現すればよいものだろうか。

 城壁の上という高所、そして距離、それらを踏まえて見たとしても優れた射手であるパベルにはおおよその外見と大きさというモノが見て取れる。

 だから、パベルは困惑した。

 ソレはおよそ、亜人らしい姿ではなかった。

 むしろ、そのサイズとしては自分たち人間と何ら変わらない。その外見は一言で言えば、騎士だ。岩の様な騎士鎧に全身を包んだ騎士。

 ただそう言い表すしかない風貌の誰か。

 丘陵地帯よりやってきたのは十中八九、亜人のはずだ。そうパベルは判断した、判断しようとしたのだ。だが、それよりも先に、パベルはその騎士を見ていたはずなのに

 

「火」

 

 火の粉を弾かせながら、静かに燃える篝火を幻視した。

 まるで、それの傍らにいるのが当然と思えてしまうような安らぎの火、パベルは思わずその火に手を伸ばそうとして

 

「ッ───」

 

 目が合った。

 遠く離れていて、かつ高所にいるパベルと騎士の目が合った。瞬間、幻視していた火は消え去り、騎士がその手に握っている斧槍を近くにいた亜人の身体を一刀両断にしたことで動きどころか呼吸する事すら忘れていたパベルは大きくせき込みながら硬直が解けた。そんな上司を窺うように周囲の部下たちが視線を向けてくるのをパベルは軽く手を振る事で亜人たちへと集中する様に指示を出す。

 

「今のは……」

 

 呼吸を落ち着かせた、パベルが再び視線を例の騎士へと向けた時には先ほどまでいた場所には既に騎士の姿はなく、騎士は間違いなく確実に亜人たちの前線へと後方から食い込んでいっているのが見えた。

 

「……こちらの味方なのか?………法国の戦士なのか?」

 

 分からない。

 正体不明の騎士、だが間違いなくソレは亜人たちを殺していっている。願わくば、ソレの斧槍がこのまま聖王国へと向けられるモノではないことを祈りながら、パベルは亜人を仕留めるために矢を番えるのを再開した。

 

 

 

 

 

─────・

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