新焼UNDEAD   作:カチカチチーズ

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銀毛の豪王

 

 

 

 オルランドは自身の死を悟っていた。

 豪王との戦いはこれで二度目。

 前回は友軍が到着するまでの間、時間を稼いだ結果に割に合わないと感じた豪王が退却したことで生き残り、死ぬことはなかった。多くの者がそれはオルランドの勝利であると感じはしたが、肝心のオルランド自身が時間を稼いで生き残ってしまったことに敗北感を感じていた。

 豪王が、自身よりも圧倒的に格上の存在がその気になれば容易くとはいかずとも自分は死ぬかもしれないと分かっていた。だが、武器が全て砕け切ったうえでオルランドは生き残ってしまった。時間稼ぎが間に合ってしまった。

 それはつまり、豪王にとって自分は急いで殺す、確実に仕留める、そういう必要のある相手ではなかった。そう、オルランドは理解してしまったのだ。故に彼はこの戦いに恥を憶えていた口では生き残った方が勝ちであると言う事もあったが敗北であると知っていた。思っていた。

 そして、今回の二回目。

 いったいどういう目的があるのかは知らない。

 だが、豪王は自分を確実に殺す相手と認識していた。無論、豪王の武器を破壊し相手の心を折るという悪癖が含まれた戦いであったが、それでもオルランドはこの戦いを好機であると感じていたし、自分の実力がまだ豪王を倒しうるには足りないことも知っていた。

 負けるつもりはなかった。実力が足りずとも、勝利を引き寄せようとオルランドは戦って血反吐を吐いて戦って、そしてオルランドは自身の敗北を、死を受け入れた。

 豪王によって砕け散った鉈の破片、そして豪王が振り上げた黄色の刀身を持つグレートソードを前にして悔しい気持ちもあるが概ね満足してその死を受け入れた。

 受け入れたはずだった。

 

 

 豪王の目の前、自身の背後にいつの間にかに姿を現した一人の岩の如き騎士を見るまでは─────

 

 

 

 

「……なんだ、お前は」

 

 いつの間にかに目の前に姿を現した騎士に対して、しばし硬直していた豪王が喉から捻りだしたのはそんな安直とした問いかけだった。

 普段であれば勇猛ながらもこのアベリオン丘陵地帯に住まう山羊人ら全体の長らしく頭の回る豪王なら、もっと上手い口の回し方もあったはずだ。だが、出てきたのはそんな安直な言葉。

 自分が口にしたことながら、豪王は内心で驚きつつも既にその視線と意識は目の前の騎士から決して離れることはない。

 まるで岩そのものから削り出した様な鎧に身を包んだ超重装甲という他ない風体の騎士。豪王の思考は自分の眼下で死を悟っていた人間の仲間であるか、と考えたがそれも異なると悟った。まず、目の前の騎士の纏うモノがいままで見てきた聖王国の人間たちのどの装備とも異なる、正しく異質と言えるモノであるからだ。

 そして、何よりも、

 

「(この人間を助ける、という考えが感じられん……)」

 

 人間、オルランドを助けに来たという様子ではないのだ。

 それこそ、まるで────

 

「質問に質問で返すな、というべきなんだろうが…………ああ、そうだな、これがこっちに来て最初の名乗りか、……ネームレス、【NameLESS(ネームレス)】だ」

 

「……名無し(ネームレス)、だと?ふざけているのか?この俺を、馬鹿にしているのか?」

 

 豪王の問いかけにどこか気だるげに、少し考える素振りを見せた騎士、ネームレスだがすぐに諦めたようにその手に持つ斧槍の切っ先を豪王へと向けながら名乗りを挙げるというにはあまりに簡素で簡潔に名乗れば、豪王はその名前とは言えない様な名に偽名であると看破したうえで怒りを露わにする。

 常人であれば、即座に動けなくなるほどの殺意とも言える怒気を前にしてネームレスはどこ吹く風と言わんばかりに切っ先を軽く揺らすばかり。

 

「どうした、こちらは答えたぞ。次はそちらの番だ、名乗れよ。戦の作法という奴だろう?」

 

 それは挑発、という他ないモノだった。

 自分はまともに答えていないのに、名乗れと催促するばかりでなく、名乗るのが戦の作法とまで宣う始末。戦士として、山羊人(バフォルク)の勇者として、それは豪王の精神を逆なでし誇りに泥を塗る様な行いであった。

 今もなお動けぬ状態のオルランドを豪王は一瞥する。少なくともこの人間は自分よりも弱いがしかし、最後の一撃は間違いなく致命の一撃となりうるモノであった。

 そんな一撃を放った戦士を、人間といえども豪王は評価する。だというのに、この目の前の騎士はなんだ、というのか。

 豪王の思考は怒りに満ちていき、素早く目の前のオルランドを掴んだと思えばそのまま殺さぬ程度の加減で、しかしやや粗雑に離れた所へと放り捨てる。

 

「ゴフッ!?」

 

 何やら痛みに喘ぐような声が聴こえてたが、そんなモノはどうでもいい。

 今の豪王の思考は目の前の不埒者を殺すことだけでいっぱいであり、オルランドがその巻き添えで死ぬというのは気に食わないという感情だけでそんならしくない行動を起こし、その手に握っているグレートソードの切っ先をネームレスへと突きつけ、高らかに宣言する。

 

「我が名はバザー!!アベリオン丘陵が山羊人の王ッ!!豪王バザーであるッ!!人間ッ、お前に惨たらしい死を齎す者だッ!!」

 

 高らかに、山羊人の、人外としての凶暴性を剥き出しに、吠え叫ぶその王としての声は周囲で戦っている山羊人たちの士気を高めていくかのようであり、また周囲へ衝撃波を伴う咆哮かのように錯覚させるようなモノであった。

 そして、それを前にした不埒者は

 

「王であるのならば、応えよう」

 

 静かに豪王バザーへと向けていた斧槍を引き、右腕を胸の前で横にしたうえで一礼をする。その礼に怒りに満ちていたはずの豪王バザーは思わず目を見開く。

 それは今から戦う相手に対する敬意であり作法。

 

「王狩り、連れ帰る玉座も無ければ焚べる火も無いが……そのソウル、もらい受ける」

 

 開戦礼、と共に告げたその言葉の意味など半分も豪王バザーには理解できなかった。

 だが、一つ理解できた。

 それは自分を殺す、という事だけ。

 

「戯言を、だが良く吠えた。殺す」

 

 その言葉を皮切りに戦いの幕は上がった。

 

 

 

 先に仕掛けたのは豪王バザー。オルランドの時同様に山羊人としての身体能力を発揮しての突貫、その際に両手持ちにしているグレートソードの切っ先を下げ、地面を削るように迫る豪王バザーに対してネームレスは回避体勢を取るわけでもなければ、防御するわけでもなく、一切の躊躇なく地面を踏み抜きその斧槍を腰だめに構えた上で迎え撃つ。

 地面を削り飛ばしながらの切り上げ。ネームレスの視界を潰す様に放たれたソレだが、突進からの薙ぎ払いを放ちネームレスは豪王バザーの一撃を勢いよく弾く。

 

「ッ!?」

 

 その光景に彼は瞠目し、しかし流石は豪王の異名の持ち主か。明らかな隙となるこの体勢を自身の膂力を以て無理矢理に弾かれたグレートソードから片手を離して動かす。身体を捻りながら行ったソレの勢いを利用して、追撃の一撃を放つ。

 殺す気で放った一撃、それをあろうことか迎え撃つ……どころか、こちらが打ち負けた。人間によってそれを為されたという事実に、豪王バザーは内心で動揺しながらも技量ある者であればタイミングを合わせればそういう事も出来なくはない、と判断し冷静さを取り繕いながら次はないと思考を回して、再びその緑の目は見開かれる。

 

「どうした、まるでハトが豆鉄砲を食らったような顔だ」

 

「チィッ!!」

 

 薙ぎ払いの直後、肩へと放った上段寄りの水平切り。

 如何に無理矢理の動作からの肩手持ちでの一撃であっても、先のオルランドが受け止めれるか怪しいほどの一撃。だが、目の前の光景に豪王バザーはすぐに二度目の驚愕を見せてしまった。

 グレートソードをあろうことか、斧槍の柄で受け止められる。そんな現実に狼狽えつつもネームレスの挑発めいた言葉に舌打ちながら素早くその場から後方へと跳び退く。その際に先ほどオルランドの最後の一撃を迎え撃つ際に手放したラージシールドを攫う様に拾い上げ、大きく息を吐く。

 

「コフゥゥゥゥゥゥウウッッ……」

 

 呼気を漏らしながらやや体勢を低くし、ラージシールドを前へと突き出す。

 足腰に力を溜めているのだろう、筋肉が軋んでいるかのような音が周囲に聴こえる。そんな姿をほとんど気絶しかけているオルランドが何とか開けている目で見た。

 巨大な盾を前に突き出して、足腰に力を入れている。

 普通ならば防御姿勢と考えるだろう、だが音に聞く豪王バザーがそのような選択をこの場で果たして選ぶだろうか?答えは否。

 豪王バザーの性格の一端を知っているオルランドは次に彼が何をするのかを当然、理解できた。

 

「っあ、たて、っげきが、くる……!」

 

 一体、あの騎士が何者なのかはオルランドには分からない。だが、無為に轢殺されるのを止めようと掠れる声でオルランドはネームレスへと警告したが────彼には聴こえない。

 

 

「〈剛腕豪撃〉!〈素気梱封〉!────〈盾突撃〉!!!」

 

 

 そうして、放たれるのは豪王バザー全力の一撃。

 既に何度も見せている山羊人としての優れた脚力による本気の踏み込み、そして王という地位を掴み取った証明とも言えるその膂力、そこにより強打を生むための武技を加えた上での武技。

 さながら戦車の暴走。

 触れればその時点で肉体を破壊するだろう敵を轢き殺す蹂躙の一撃、それを前にしてネームレスは先ほどの様に迎撃の体勢を、取らない。

 

「(諦めたか?次は、何をするつもりだ?違う、知ったことか。無駄な企み事このまま引き潰してやる)」

 

 回避するわけでもなく、迎え撃つわけでもない、あまりに不可解な行動に豪王バザーの思考は様々な回るがしかしどんな手であっても全てこのまま轢殺するという意思に収束していく。

 意思を固めた豪王バザーはさらに加速する。

 ネームレスまであと五メートルを切った。

 

「…………」

 

 斧槍を構える事無く、その切っ先を下げるネームレス。

 豪王バザーは二メートルを切った。

 

「ぁっ……!!」

 

 オルランドが手を伸ばすが当然届くこともなく空を切る。

 二人の距離は、一メートルを切り、もはや何も間に合う事はなく、豪王バザーの〈盾突撃〉がネームレスへと直撃した。

 

 

 

 

 

─────・

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