「う~ん…」
「何唸ってんのよ…」
「あ、ジャンヌ……仕事は?」
「…掃除が一段落したから休憩よ。」
……まぁ、嘘だな…と、分かる…いや、掃除が一段落は多分本当…でも、休憩ならちゃんと専用の部屋だって有るんだからわざわざこんな所に来る必要無い…確実に、私の様子を見に来てくれたんだよね…
「…で、何悩んでるのよ?」
「…さっき、お客さんが来たんだけど…」
「それがどうかしたのかしら?」
まぁ、ここは旅館で…別にお客が来るのは珍しくない…何なら誰も来ない日も時たま有るけど。
「んー…あの人さ、多分人間なんだよね…」
何かもう…ここに来る前もサーヴァントの人たちと関わったり、こうしてここで働く様になってからも普通に女神様の分霊とかやって来るから…何となく気配で分かる様になっちゃったね…
「……ここ、人間は来られないんじゃなかったかしら?」
「…紅ちゃんの話だと…死んだ人がここに来たり…たまに私みたいに生きたまま迷い込む事も有るみたい…でも、本当にごく稀な話なんだってさ…」
そう、あの人の事は言えない…私だって本当はイレギュラー…まぁ、私は何れ死人の仲間入りするかも知れないけど……あ、そう言えば平行世界の私である彼もその扱いだね…
「どんな奴な訳?」
「……会ってないの?」
「人の使ってる部屋に掃除に行くと思うのかしら?」
「…確かに。」
そりゃそうだよねぇ…と言うか、あれからもう一時間程経つけど…部屋から出てないんだ、あの人…どう考えても普通に生きてた人なら、退屈で旅館の中ウロウロしたり…何なら温泉にでも入りに行くと思うけど…
「どんな人かって言われたらねぇ…取り敢えず日本の人では無いのは確かかなぁ……日本語ペラッペラだったけど。」
ちなみに、サーヴァントを呼んだ時…その人が元が人間であるなら言葉は通じる…それと、明らかに私が知らない言語でも…ここでは何となく言ってる事は分かるパターンは多い(多分、向こうが私に分かる様に何とか合わせてくれてるんだと思う……名前書かれたら素で読めない事も多々有るけど)あの人は多分…その辺の事情とは関係無く、普通に日本語も話せる人なんだと思う。
「髪は多分地毛の茶髪で、白人の人だね…目付きが鋭くて……うん、顔自体は普通にイケメンさんだったかな。」
映画俳優クラスとかでは無いけど…それでも普通に日本に居ても、物怖じしない女性なら声を掛ける事も有るかも知れ……まぁ、眼光が本当に怖めだから相当勇気の有る人じゃないと厳しいとは思うかな…オマケに…
「何か引っかかる言い方ね…」
『……私の美的感覚に間違いが無いなら、顔は良かったのは確かだけど…まぁ、私もあまり人の事は言えないけどその…顔にちょっと大きめの傷が有ってね…』
私は声を潜める…左頬に斜めに走る大きな刃物傷…目付きとアレ見て声掛けられる人は普通の日本人女性なら多分中々居ないかなぁ…そう言えば、名前書いて貰う時見たけど手の甲にも大きな傷が有った…上は長袖のワイシャツだったから何とも言えないけど…アレ多分、腕にまであの傷繋がってると思う…
『……ヤバい奴?』
『紅ちゃん何も言って来なかったし、違うと思うけどね…それに…』
『それに?』
『何かあの人…良く考えたら何処かで見た事が有る様な気もして…どう考えても面識は無い筈なんだけど…』
さっきから、それが気になってる…何処で見たのか…実際、そうだとしても今の私が気にする事でも無い筈…でも、何故か私は…思い出さないといけない気が…して…
「コラ。」
「!…痛っ…!…何するの!?」
突然頭に加わった衝撃と次に襲って来た痛み…私は思わずジャンヌに叩かれた頭を押さえた。
「アンタがうだうだ悩む時って、大抵はろくでも無い事考えてるって相場は決まってんのよ。」
「う…」
「どうせアンタは考えたって無駄なんだから、いつもみたいにのほほんとしてりゃあ良いのよ。」
「え~…酷くない?」
「私の言ってる事、間違ってるかしら?」
「……」
まぁ、反論は難しいかもね…
『……アンタを脅かす存在なら、私が全部潰すから気にしなくて良いわよ…』
「え?」
「何でもないわよ。」
ジャンヌがボソッと何かを…それも、かなり不穏な言葉を呟いた気がして聞き返したけど…何を言ったのか、教えてくれる気は無いみたい…
「じゃ、私はそろそろ戻るから……トイレは大丈夫かしら?」
「ん?……んー…ごめん、連れてって貰っても良い…?」
考え事してたせいか、もうギリギリなのに気付かなかった…
「ま、そんなこったろうと思ったわよ……ちょっと、そこのアンタ?」
「チュン?呼んだでチュン?」
「少しの間、コイツの代わりに受付やっててくれる?…私はコイツをトイレに連れてくから。」
「…ごめんね、頼める…?」
「チュン!任せるでチュン!」
……最近漸く気付いたけどここの雀さん、パッと見は皆同じ様に見えるけど…実際はそれぞれ微妙に性格の違いが有るんだよね……名前までは私も把握し切れて無いけど。
「ほら、行くわよ。」
「うん、お願い…」
早過ぎず遅過ぎもしない、私にとって本当にちょうど良いペースで私の乗る車椅子を押して行くジャンヌ…何気に一番この辺の加減が分かってるのはエミヤさんで、次はマシュかと思えば実際はジャンヌだったりする…紅ちゃんですら中々こう上手くは行かない…まぁ、そうなる程、何だかんだ私がジャンヌに迷惑掛けた回数が多いとも言えるんだけどね…
「本当にありがとね、ジャンヌ…」
「……主語が無いから何のお礼か分からないし、いきなり言われると不気味ね…」
……とは言え、気持ちそのものは通じ合ってるとは言い難いかも知れない…最も、ジャンヌはどちらかと言えばツンデレだろうから…分かっててスルーしてる気もするけどね…