ソードアート・オンライン〜アメイジング・フィスト〜 作:明石雪路
と言うわけで決闘である。
正直、この展開は予想できた。だから僕はストレージにガチバトル用の装備を入れてきた訳だし、ツクヨミにも本気装備を持ってくるように言っておいた。
「あの、シャルさんが私たちと戦うんですか?」
「連れはもう帰ってくるよ、ホラ」
ドドッ、ドドッと重い足音がしてきて森の方を見ると、ちょうど一頭の巨大な白馬が飛び出してきたところだった。
白馬は僕たちの脇を駆け抜け、乗り手は天高くジャンプ。スーパーヒーロー着地を決めた。
飛び降りた彼女を一言で表すなら、騎士だった。くすんだ金髪のポニーテール、胸部を守る銀のプレートに、ごつい籠手、ふわりと広がるスカートの裾からはやはり光沢を抑えた銀のブーツ。背中には大剣とも呼ぶべき諸刃の両手剣が装備されている。
走り去る馬に軽く手を振った後に振り向いた彼女は、僕たちを確認するや両手を突き出した。笑顔からして握手のつもりなのだろう。僕とツクヨミはそれぞれ右手と左手で握り返した。
「ひさしぶりだね」
「初めまして、〈軍〉に所属しています。ツクヨミです」
「…………」
騎士は黙って右手を振って呼び出したキーボードを叩くと、可視化したメッセージウィンドウをこちらに向けた。
『私はドラゴン』
「ドラゴン? 竜? というか、キーボード?」
『かっこいいでしょう? 声はナーヴギアの不具合で出ないのだ。サイレントドラゴン』
「な、なるほど。よろしくお願いします」
どうやら独特のセンスを持っているらしい。
『表で何をしているの? ウチに入っていいのに』
ドラゴンはシャルの方を見ると、首をかしげた。
「あー、彼らは私たちにクエストを手伝って欲しいんだ。それを引き受けるかのテストをね……」
『素敵。何処に行けば良いの?』
もうついて行くついてく気満々だった。前に会ったときもだが、ドラゴンはFNCで発生することが出来なずに無口だが、中身はパッションタイプなのだ。
理屈で行動するタイプのシャルとは正反対な性格なのである。理屈で行動するタイプのシャルとは正反対な性格。FNCが無ければマシンガントークを炸裂させていたことだろう。
「待ってくれ、ドラゴン。このクエストではPKが発生するかもしれないんだ。もしかしたらまた……」
『じゃあ、全員ボコボコにして回廊結晶で黒鉄球に放り込みましょう。私たちなら造作も無いでしょ』
「いやまあ確かに君は出来るかもしれないが」
『あなたもできる。あなたは私が知る中で1番強い剣士だから。だから好きなの』
「…………」
シャルが首を全力で捻って表情を隠したが、真っ赤になった耳が丸見えである。相変わらずアツいカップルだ。
あんなにストレートに言われてはシャルも引き受けると言わざると得ないだろう。
あーもうほらドラゴンの目は愛と憧憬でキラキラしてるし、ツクヨミも盾で赤面した顔を隠しつつ二人をのぞき込んでいる。僕? ガン見。
形容しがたい空間を咳払いをして打破したのはシャルだった。
「………………私たちは君たちに協力する。だが、やはりデュエルはして欲しい。二人の実力を見たい」
「ああ、やろう。僕も実力を見たいし見せときたい」
『私はバトルしたい!!』
「は、よろしくお願いします!」
では改めて。
パーティ間でのデュエル申請を受け、僕&ツクヨミVSシャーロット&ドラゴンのタッグデュエルが始まった。ルールは半減決着モード。相手のHPをイエローに持って行った方が勝ちだ。
1分間のカウントダウン開始。
「どうやって戦いますか?」
盾で口元を隠しながらツクヨミが尋ねる。さながらマウンド上のバッテリーのようだ。
二人の装備は、ドラゴンは先ほど言ったように要所にプレートを装備したどこぞの騎士王スタイル。
シャルは先の農夫スタイルから着替えた半着に袴を着ており、腰に刀を佩いている。防具は革装備の具足と籠手、胸当てのみ。スピード型によくある革と布主体装備である。
「シャルは刀使いでスピード型、ドラゴンは両手剣でパワー型。僕がシャルをやろう」
「じゃあ、私がドラゴンさんですね」
「そゆこと。あの人はめちゃくちゃゴリ押ししてくるタイプだから、ガードに専念して隙を突いて殴っていってくれ」
「わかりました」
残りカウントが10秒を切ったので、四人が武器を構えた。
僕がタンク用のごついガントレットを構え、ツクヨミが盾を前面、ハンマーを引いて構える。
シャルは居合いのように腰を落として刀の柄に手を伸ばし、ドラゴンは剣道の様に両手剣を構えた。
カウントが0になり、デュエル開始。
最初に仕掛けたのは僕d
「遅いッ」
シャルだった。
爆発的な加速で駆けだしたシャルが一気に肉薄。右手は既に鯉口を切っている。
僕の対応する動きはほとんど無意識だった。
放たれた横薙ぎの一閃を両腕で受け、インパクトと同時に後ろに飛ぶ。これでダメージを幾ばくか抑えることが出来る。我ながらここまで冷静に動けるとは驚きだ。HPは削れていない。防御は成功したようだ。
内心ドキドキしつつも身を翻して着地すると、刀を納めたシャルが追撃に来ているのがわかる。
狙うは振った後の隙。そう考えていた僕の視界は、突如黒い無数の斑点に覆われた。
蹴り上げられた土が視界を奪う。
「な……」
「まだ序の口だ」
それだけにとどまらない。ピィン、と高い音が聞こえ、ビリビリとした予感が脊髄を貫いた。シャルは絶対この後にソードスキルで追撃してくる!!
先ほどの攻撃はスキルを使っていなかったのに中々の威力だった。ソードスキルなんて喰らえばただでは済まない。
(これはマジでやばいッ!!)
僕は両手にグリーンのライトエフェクトを纏い、腕で円を描いた。
無刀流防御ソードスキル、〈破防旋風〉。空手の回し受けに似た防御技。
シャルは案の定ソードスキルを使用した。視界がいくつにも切り分けられたような感覚。カタナの居合い3連続ソードスキル〈烈風〉。
ほとんど同時に放たれた横薙ぎ、切り上げ、切り下げの3種の斬撃と円を描いた僕の防御はぶつかり合い、ギャリギャリギャリ! と激しい剣戟音とともに両者ノックバック。
だが、息をつくわけに行かない。3連続ソードスキルを撃ったシャルと防御を成功させた僕では、クールタイム解除は僕の方が早い。
これはチャンスだ。
腰の後ろから短刀を抜く。頭部はダメだ、躱される。腕に当ててもクールタイムで動きは鈍いのだから効果は薄い。1番効率的なのは……
刀を振り抜いた状態のシャルの足下を狙って投擲。投剣ソードスキル〈ローリングスロー〉。縦回転を加えて投げる投剣スキルだ。
投剣スキルをカンストすると、あらゆるものをスキルを使って投げることが出来るようになる。
ズドン! と小気味いい音とともに短刀がシャルの脚を地面に縫い止める。もちろんそれも狙ったが、足へのダメージによる〈転倒〉状態が本命だ。
姿勢を崩し、シャルは絶好の的となった。
腰を落として拳を引き、ソードスキルを発動させる。無刀流突進系ソードスキル
〈雷鳴〉。
システムによって動きが後押しされ、人外の速度をたたき出す。稲妻のごとき突き込みは真っ直ぐシャルの胸部を狙う。
だが、攻撃は一瞬遅かったらしい。冷却時間を終えたシャルが抜刀した刀で防御しつつ受け流すように体を捻り、僕の拳が逸らされる。
無刀流の特徴であるクールタイムの短さによって瞬時に立て直した僕は少し距離を空けた。
「足に短刀刺さってんのに、デバフ無いのは何でだよ?」
「刺さってないぞ」
シャルの右足は短刀に袴を切り裂かれながら持ち上がった。〈天津雪風〉は地面に刺さったままだ。
なるほど、少し掠めただけか。だから〈転倒〉状態にならなかったと。
袴は足が見えにくいからやりにくい。
拳を突き出し、刀を納め、一定の距離を取りながらお互いに周回する。
「ラウンド2と行こうか」
シャルが足を止め、腰を低くして構えた。またあの居合いが来るのか。
「良いぜ。僕も準備はオッケーだ」
「よし」
シャルは言うやいなや抜刀し、一気に飛び出した。
「デリャアアアアアッ!!」
「フッ!」
互いの攻撃を僕は両手で捌き、シャルは右手の刀一本で捌く。明らかに手数は文字通りこちらの方が多いのに戦況は互角だ。
時折当たる小攻撃で僕らは少しずつHPを減らしていく。
やはりシャルは強い。僕の〈無刀流〉は速さと手数がメリットなのに、シャルはリーチという一つの優位性のみで渡り合っている。
拳と刀を交わすうち、クエストをクリアしなくてはとか、奴らの目的はなんなのかとか、そういった考えは全て吹き飛んでいた。
僕は無刀流で誰かと戦ったことはほとんどない。いつもモンスターとの戦闘で腕を上げてきたからだ。だからこそ先のPK集団とも違う、NPCとも違う、SAOを始めて以来の強敵とも言える相手に打ち克ちたいという闘争心が燃え上がっていくのを感じた。
シャルの刀と僕の右の手刀が鍔迫り合い、ガチガチと音を立てる。
僕が左の拳を固めると、シャルはすかさず刀で右腕を弾いて距離を置いた。
シャルは再び刀を納めて腰を低く構えた。右腕は刀の柄を撫でている。
HPは互いに7割を切っている。ここで決着をつけるつもりなのだろう。
僕もまた重心を低く、左手を前に突き出し右の拳を腰の高さで引いて構える。
つかの間訪れた静寂は、すぐに去った。
両者は同時に踏み出し、互いの武器は高周波の振動音とともにライトエフェクトを放ち始める。
鞘から溢れる紫色の剣閃から、あれはおそらくカタナソードスキル〈紫電〉だと推測した。過去に一度だけ見たことのある最上位居合いソードスキルだ。僕が今までに見た全スキルの中でも一、二を争うレベルの高速の居合い切り。見てから躱すことは絶対にかなわない。
だから、予測して躱す。タイミングを見計らって限界まで姿勢を低くすると、頭上数センチの高さを刃が一瞬通り過ぎた。
ヤツの全霊の一撃を掻い潜り、全身のバネとシステムのアシストを受けて、僕も限界の一撃を放つ。
上から下へ打ち上げる無刀流ソードスキル〈天昇龍撃〉
神速の居合いをかいくぐり魔速の拳をたたき込む。
ドリルのように回転しながら放たれた拳はシャルの顎を打ち抜いた。
ズガアァン!! とクリティカル音と共にシャルは吹っ飛ばされ、HPが勢いよく減少していく。
3割を切ったところで減少は終わりデュエルが終了、僕の頭上に『WIN!』という文字がポップしファンファーレが流れた。
拳を振り抜いた状態の勝利のポーズを解くと、シャルの元へ歩く。上体を起こしたシャルに手を差し出すと、ため息をついて僕の手を取った。
「負けたよ。最後は読んでたのか? 私のとっておき」
「まあね。タイミングをずらされてたら首が飛んでたかも。殺す気だった?」
「テンションが上がってしまったんだ。悪いな」
恥ずかしそうに頭をかくシャルだが、僕は彼の戦闘能力に内心舌を巻いていた。
隻腕でありながら諸手の僕の無刀流と張り合える戦闘センス。彼が仲間になってくれて良かった。
「あー、あっちはレッスンの途中みたいだ」
ツクヨミとドラゴンの方を見ると、何合が打ち合い、ツクヨミが地に伏せる度にドラゴンがテキストを打ち込んでいた。
「うっ、はあ、はあ……」
『ハンマーはもう少し小ぶりで振った方が隙がなくていいよ。殴るタイミングはバッチリだから、あとはそれを活かす立ち回りをしよう。ではもう一度』
「……はい!」
ツクヨミは盾を構え、ドラゴンの切りかかりを受けた。盾で弾き飛ばして、ハンマーをフォアハンドで振るう。ドラゴンはバックステップでハンマーを躱すと、少し距離を空けて見せた。ツクヨミは好機と捉えたのか、盾を投擲。が、ドラゴンは読んでいたかのようにそれを掴み、適当な方向に投げ捨てた。
「あっ」
防御手段を失ったツクヨミは、そのままドラゴンに剣の腹でぶったたかれまくってHPが5割を切って負けた。
『タンクが盾を離したらダメだよ』
「すみません。ジャックさんみたいに牽制できたら良いなって……」
『彼がチャクラムとかを投げるのは、素手や短剣じゃ足りないリーチを埋めるため。投剣スキルも上げてない君じゃ防御力を捨ててるだけで意味ないよ』
「はい……」
『でも基本的な動きは良い。今言ったのと、柔軟な動きを意識すればもっと強くなれる』
「……! はい! ありがとうございます!」
どうやら特別レッスンは終わったらしい。二人はガシャリ籠手をぶつけながら固い握手を交わした。
ドラゴンは傍目から見ていた僕らを見つけると、両手で○を作った。
「だってさ」
「彼女が言うなら問題無いよ。どちらにせよ私は負けたしな……。感服したよ。どこか欠けている私たちだが、どうか上手く使ってくれ」
僕とシャーロットともまた、握手を交わした。
くそ、なんだか恥ずかしいな。
お読みいただきありがとうございます。
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