ソードアート・オンライン〜アメイジング・フィスト〜 作:明石雪路
2024年10月26日 午後6時
「じゃあ、作戦会議と言いたいところだけど」
僕の酒場にシャーロットとドラゴンを連れて戻った僕らは、アルゴと合流して情報共有を始めた。
僕がカウンターに立ち、ツクヨミ、シャル、ドラゴンが四人席に腰掛けている。
もう一つの四人席にアルゴと黒ずくめの人間が二人座っている。
とりあえずよく目立つ二人の紹介から始めて貰おうか。
「アルゴさんよ、そっちのまっくろくろすけ達はどなた?」
「「よくぞ聞いてくれたでござる!!」」
黒ずくめ達は指名されていきなり立ち上がった。おそろいの忍び装束を装備した二人は、
「光の中にて姿を隠し!」
「闇に潜みて悪を討つ!」
高い敏捷値を活かして店の入り口の方の少し広いところに飛び出した! 足袋によるものか、技術によるものか、物音を一切立てない立ち振る舞いに内心舌を巻いた。口上がうるせえけど。
「コタロー!」
「イスケ!」
「我ら〈風魔忍軍〉、ここに参上!」
「………………」
「おー」
ここでガッチリ決めポーズ。ツクヨミだけ口を開けて驚いていた。
最高にクールな名乗り口上を言い終えると、忍者っぽい頭巾の上からでもわかるような満足げな様子で席に戻った。
『隠れてばっかりだね』
「そういうことは突っ込まない方がいいかもね」
ドラゴンとシャルがひそひそ話すなか、アルゴが立ち上がった。
「というわけでアインクラッド一の速さを誇るギルドが協力してくれると言うことで、皆よろしくナ」
「頭領の頼みとあらば当然でござる」
「別にオマエラのボスになったわけじゃねーシ!!」
珍しくアルゴが語気を強めて反論した。なんかあったのだろうか。
スピード型の装備の強化素材や受けられるクエストは共通することが多いので、不本意ながら会う機会も多いのかもしれない。忍者と情報屋だし。
「では、私たちも」
「そだな、よろしく」
シャルとドラゴンが立ち上がった。
「私はシャーロット。シャルと呼んでくれても構わない。こちらはドラゴン。」
『ドラゴンです。ナーヴギアの不具合で、話せません。よろしくね』
「それは難儀でござったなあ」
「拙者達はスニーキングミッションばかり受けてきた故、手話は手慣れたものでござる。聞き耳スキルは持ってござるか? 専用の笛で意思疎通が出来る故、後で上げるでござる」
『じゃあ、あとで見せて貰おうかな』
早速打ち解けている。ゴザル軍団は案外気の良い奴らなのかもしれない。
「ンじゃあ、自己紹介も済んだところで、状況を改めて説明しよう……。同じ話さっきも舌気がするけど、もっかいみてくれ。作者もこんがらがってる。」
僕は店の奥から黒板を引っ張り出すと、カウンターの皆がよく見える場所に立てた。黒板には僕の竜跳虎臥たるイラストで人物がバッチリ書かれている。
「僕らが今回受けてるクエストは『破滅の始まり』。三層のエルフクエの続編かもしれないクエストだ。
現在把握できてる敵はフォールンエルフの〈剥跋のカイサラ〉。それとあちら側のクエストを受けたオレンジギルド〈クラッシャーズ〉。シュマルゴアって毒の竜がいたけど、そいつはもう倒した。
奴らの目的は……四層の時の目的は『人族の最大の魔法を消し去ること』。でも、そのために何をしているのかはわからない。
ヒントはこれ、教会の地下で拾った一層と二層と六層の迷宮区の地図だ。でも、これが何を意味するのかわかってない。
なにか質問のある人は? あとエルフクエ受けたことある人は?」
「ちょっといいか」
挙手したのはシャルだった。
「アルゴさんなら知ってるんじゃ無いのか。アインクラッド一の情報屋だろう」
「一応、当時の動きならわかるヨ。秘鍵を集めて、九層の大聖堂の鍵を開けて、中にある魔法石っつースゴイ石をどうにかするのが具体的な動きだっタ。でも、さっきエルフの拠点全部見てきたケド、何にもフラグは立ってなかったんだよナー」
「え、もう調べたの?」
「アルゴ様にかかれば下層の調査なんて三時間もかからずに終わるのダ。まーそんなわけでこのクエはエルフクエと直接関係はないのかもと推測してル。シリーズじゃ無くて単発クエ。このクエストを進めるに当たって頼れるのは今集まってる情報だけというわけサ」
『ハッハーン! ヾ(`Д´)ゝ ソウイウコトカ!!』
「では、拙者達は何をすればよいのでござるか?」
「アルゴ先生。頼まぁ」
「ジャックも頭回せヨ……。そうだな、オレっちとしては【教会の地下の再確認】、【地図の残された意味】【クエストフラグの捜索】について調査したいと思ってル」
「よし、じゃあチームを分けよう。僕とアルゴは地下室にいってもう一度調べる。シャルとドラゴン、忍軍は迷宮区について、地図の残っていたところとそうで無い所の違いについて調べてくれ。ツクヨミは主街区や主要な村を回って他に変化やフラグが立ってないか調査。どうよ?」
一同から反対意見は出なかった。決まりだ。
「あ、一つ尋ねたいでござる」
「どっちだ」
「イスケなり」
「何だ」
「拙者達が集まって出来たこの衆合、なんと呼べばよいでござるか?」
「決めてなかったな……。なんでも良くないか?」
「グループメッセージに付けるのが新しいグループ(7)になっちゃうでござる」
「じゃあそれでいいよ」
2024年10月27日 午前8時5分
「ここがカイサラとヤった所カ」
次の日。僕とアルゴの二人は、件の地下室に来ていた。現場百編という言葉もあるし、僕やツクヨミとは違う〈情報屋〉として目をつける場所や発見できるものがあるのではないかという考えのもとこのコンビで来ていた。
「いやらしい言い方するなっての」
僕は眉を潜めながら部屋の端から全体を見渡していた。索敵スキルで周囲をザッと洗ってみたが、特におかしな影はない。
「なんかわかる?」
「別に見た感じ変わったことは無いケド……。アッ」
アルゴは何かに気がついたのか、部屋の隅にあった溶鉱炉を調べ始めた。そりゃあもう頭からつっこんで大胆に。小さな尻が突き出されてるし何か動くし、なんだかイケナイ感じである。ストレートに言うとえっちだ。顔を覆う両手の指の隙間からじっくり見るのが精一杯だ。
「ちょっと、アルゴさん?」
「地下室に炉がアル。奴らはいの一番にここに逃げ込んデ……敵が来てるとわかったら、証拠はできる限り隠滅しようと思わないカ?」
「地図は?」
「燃やし損ねたかもナ。それとも持って行こうとして落としたカ……。バイオの鍵みたいなものサ」
そうして漁ることしばし。
ゴソゴソと埃まみれの頭を炉から出したアルゴは、得意げな顔で数枚の羊皮紙をとりだした。端が丸まっているが、メインの真ん中の部分は燃えずに残っている。煤まみれで全体図はよくわからないが、図面がいくつか書かれていることはかろうじて判別できた。
「な? オネーサンの言うとおりだったロ?」
「ああ、マジでスゲーよ」
アルゴのどや顔をハンカチで拭う。ふざけてほっぺたをぐにんぐにんして遊んでいると流石に怒られた。
さて羊皮紙の煤を拭き取って内容を確認すると、何かの図に説明らしき文章が書かれた、レポートの様なものだった。文字はカタカナだが、不規則な文字列が並ぶのみである。燃えかけた端にはフォールンエルフの紋章の様な後が残っている。
「なんて書いてるんだ?」
「サア……まるでわからン。ちょくちょく入る数字も意味わからんし、規則性もサッパリ。シーザー式……いや、いくつ音をずらしても何もでないナ」
「読むヒントとかないもんかな」
「そういうのは大抵近くに落ちてるはずなんだけどナ」
その後もしばらく探してみたが、それらしいものは見つからなかった。
「他のメンツならわかるかも、とりあえず持ち帰ろう」
二人で上の教会に戻る。なんとかく祭壇台に立ち、教会全体を眺めた。改めて教会の内装を確認すると、あちこち朽ち果てているのがわかった。上部のステンドグラスはよく見てみると、フォールンエルフの紋章がうっすらと浮かんで見える。なるほど、ここは嘗てフォールンエルフが同胞と隠れて会うための施設だったのだろう。カタコンベの様な。
僕はエルフクエを受けていないので、彼らがどんなことを考えていたのかわからない。もちろんNPCに自我がある訳がないのだが、プログラムされた行動理念はあるはずだ。
どうして人族の魔法を消し去りたいと考えたのか。消してどうしたいのか……。
祭壇台をなんとなく見ると、極めて小さなツマミがあった。気になって引っ張るとそれは引き出しだった。一瞥した程度では見つけることが出来ないであろう、わかりづらい位置。初めに来たときには気がつかなかった。中には一冊の聖書があった。ステンドグラスと同じ模様が表紙を飾る、厚めのハードカバーである。
「ジャック、何してんダ?」
「本があった! 結構厚いぞ」
アルゴが駆けよってきたので、二人そろって顔を合わせて台の上の聖書を見る。
「フォールンの聖典かな」
「でも中身に特別なことは書いてないゾ」
「……なんかこれ表紙厚すぎないか?」
じっくり触ってみると、ほんの少し表紙が動いた気がした。これだ。
僕はアイテムストレージから短刀を取り出すと、ハードカバーの表面を捲るように差し入れた。
「何やってんノ?」
「いくらなんでもカバーが本文と同じくらいの厚みだなんておかしいよ」
革のカバーを剥いだが、中は板紙があるのみだ。いや、そんなことありえない。
表紙の板紙を本から切り落とし、丁寧に少しずつ端から切り落としていくと、現れた隙間から折りたたまれた紙がカサリと落ちた。
もうこれは絶対ビンゴ。
アルゴが広げると、それは一つの表だった。おそらく上杉暗号やヴィジュネル暗号のように、参考にして暗号を解読するためのものだろう。
「「イエ~~~ス!!」」
僕らは圏外にもかかわらずハイタッチを交わした。
「これでさっきの羊皮紙のレポートは解読できるはずだ」
「じゃあ早速戻って解読を……」
アルゴがそこまで言ったところで、メッセージの受信音が鳴った。パーティメッセージらしく、アルゴの方にも来ている。差出人はツクヨミ。
『七層ウォルプータカジノにて襲撃イベント発生。至急応援来られたし』
お読みいただきありがとうございます。
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