ソードアート・オンライン〜アメイジング・フィスト〜   作:明石雪路

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Unbreakable soldier

 時間は、ジャック達が手がかりを手に入れ、ツクヨミからメッセージを受け取った現時刻に戻る。

 

 

 跳ね返った盾を掴んだツクヨミは、体を盾で多いながら部屋に立ち入った。

 

 

「フォールンエルフのカイサラですね! ここで何してるんですかッ!?」

 

 

 ハンマーを短く持ち、高速戦闘に備える。

 

 

「よくぞ聞いてくれました、なんて作戦を披露するわけが無いだろう」

 

 

 カイサラは〈ドールフル・ノクターン〉を左手に持ったまま、刀を抜いてツクヨミに襲いかかった。

 

 

 盾を構えた重戦士から見えにくい低姿勢で急接近。ツクヨミは腰を落としてタイミングを計る。次の瞬間、強い衝撃が盾を叩いた。

 

 

 カイサラの猛烈なタックルは高いSTR値を持ってしても完全に防ぎきれず、吹っ飛ばされて数メートル転がった。呼吸が一瞬止まるも、息を吐いてすぐに次に備える。

 

 

「グッ、ウウウ……」

 

 

 起き上がると追撃の突きを狙っているのがわかるので、再び盾を構える。今度は正面ではなく斜めに受けて、後ろに流す。間を置かずにハンマーを振りかぶって反撃。飛びかかってハンマーを振り下ろすメイスソードスキル〈ベア・パウンス〉。

 

 

 完璧なタイミングだったが、カイサラは長刀を床に突き刺して右手を確保すると、ハンマーを手づかみで受け止めた。衝撃波が部屋中を駆け抜け、食器や窓が粉砕される。

 

 

 ツクヨミは掴まれたハンマーを必死に引っ張るが一向に離れる気配が無い。驚異的な握力である。

 もがいている間に、カイサラは左の〈ドールフル・ノクターン〉をクルリと持ち替え、振りかぶる。巻いていた包帯が解け、白銀の刃が露わになった。

 

 

 ツクヨミの背筋が凍る。あの剣と似た剣を昔カジノに遊びに来たときに見たことがあった。随分と壊れたスペックをしていたが、現在目の前で自分の顔を刃に写す剣は当時見た〈ソードオブウォルプータ〉よりもグレードが高いのは明らかだ。

 

 

 アレを喰らえば確実に死ぬ。圏内にいることも忘れ、ツクヨミはハンマーから手を離し、盾を掲げて目を瞑った。

 

 

 

 だが、何秒たっても剣が振り下ろされることはなかった。

 

 

 ドゴンとハンマーが落ちる音がして盾から頭を出して覗くと、カイサラは胸を押さえて呼吸を乱していた。

 ツクヨミは、作戦会議後にアルゴが言っていたことを思い出した。

 

 

『エルフは木々から離れることが出来ないンダ。だから、落ち葉を編んだケープだったり、生木をそのまま腰にさしたり、近くに植物由来の何かを装備してるんだヨ』

 

 

 見たところそういったものは見受けられないが、おそらく町中でも無事に動ける〈何か〉の効果がなくなったのだ。

 

 

 この機会を逃がす手はない。

 

 

 ツクヨミはハンマーを拾い、ソードスキルを発動させた。青白い燐光がハンマーを包み、システムによって動きが加速される。

 

 

「ヤアアアアアアアッ!!」

 

 

 テニスのフォアハンドの要領で打ち込まれる〈サテライトスイングバイ〉。天体の引力を利用して加速する衛星のように、ツクヨミが一回転して打ち込んだハンマーはカイサラを爆発的な加速度を伴って殴り抜く。

 カイサラの体は病葉同然に吹っ飛ばされ、先の衝撃で割れ残っていた窓を破りながら表の通りに落ちた。

 

 

 

「……はぁぁぁぁぁ怖かったぁぁぁぁぁ……」

 

 

 

ツクヨミは強敵が見えなくなったことで緊張の糸が切れて座り込んだ。ラッキーで拾った勝利だ。向こうが万全だったら瞬殺だっただろう。

 

 

 窓の外から悲鳴が聞こえ、慌てて身を乗り出して下をのぞき込む。だが、そこにはひしゃげたNPCアイスクリーム屋台と、絶叫するNPCのおじさんがいるのみだった。

 まだ逃げるほどの体力はあったということか。

 

 

「ねえ、カーテンを閉めてくれない……? 日光はまだ辛いの」

 

 

 弱った声で訴えたのは、先ほど動けなくなったニルーニルだ。

 なぜ動けないのかわからず、あまりの弱り具合から無視することは出来なかった。

 あと何か威厳のようなものが感じ取れ、少女に敬語も外せなかった。

 

 

「は、はい。今すぐに閉めますね」

 

 

 カーテンを広げ、日光が部屋に入らないようにする。裾は落ちていた銀の刃で刺して固定した。

 

 

「あの、そっちの子は……」

 

 

 未だに硬直の解けないニルーニルを先に回復したキオが手当てしている。ツクヨミが近づくと、キオは、

 

 

「助太刀感謝する。ニルーニル様を見ていてくれ、私は奥から薬を持ってくる」

 

 

 ツクヨミは汗をびっしょりと掻いたニルーニルの汗をハンカチで必死に拭う。

 

 

「あの、大丈夫ですか?」

「あのままだったら正直殺されてたかも知れないわね……助かったわ、ありがとう」

「でもまだ顔色悪いですよ、青白いし」

 

「ニルーニル様!」

 

 

 キオが部屋の奥から、ワインを一本抱えて戻ってきた。

 

 

「え、未成年にアルコール入れるのは不味いんじゃあ?」

 

 

 リアルの倫理観を持ち出してわたわた焦り出すツクヨミをよそに、キオは吸血鬼の少女の口元にグラスに移したワインを近づける。

 

 

「これは竜の血だ。夜の主であるニルーニル様はこれを飲めば全快する」

 

 

 やっとこさグラス一杯分竜の血を飲むと、ニルーニルの血色が少し良くなった。

 

「体調が悪いのにごめんなさい、あの人が何しようとしているのか、知っていることがあったら教えてくれませんか? 仲間たちも調べてるんですけど、手がかりが少なくて困ってるんです」

「わからない……。あの竜の灼眼を嵌めてまでやりたいことが何なのか……は」

 

 まだ何か言おうとして、ニルーニルは咳き込んだ。まだ全快とは言えなかったらしい。

 

「剣……奪って行った剣は絶対に受けちゃダメ……アレはあらゆるものを切り裂き、破壊する…」

「……! ありがとう、参考にします」

「行って、私は大丈夫だから」

 

 

 

 

 ツクヨミがカジノから飛び出すと、メッセージを聞きつけたロードジャックが葦毛の馬に乗って駆けつけたところだった。(30層攻略した辺りから全層の主要都市に馬が実装された)

 

 

「何があった!?」

「カイサラがカジノの支配人室の女の子を襲ってました! 剣を強奪して逃走中!」

「すぐ追うぞ、乗れ!」

 

 

 アイスクリーム屋のNPCのおじさんからカイサラが迷宮区方面に走り去った事を知り、ツクヨミも乗せた馬は走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウォルプータから500メートル進んだ草原にて。

 

 

 

 走る馬の上で、カイサラは息も絶え絶えになりながら鞄の中を漁っていた。手触りを感じて取り出したのは、木製のキューブだ。ルービックキューブよりも一回り大きいそれは、どう加工したかわからないほど綺麗な正立方体である。

 ワイシャツを破き、メタルの胸部を露わにする。首の下のダイヤルを捻るとカシャリと音を立てて蓋がスライドして開いた。

 中は同じような木製のキューブが入っていた。手に持っているのと違う点は、胸のキューブは黒く腐っていることくらいか。

 中のキューブを投げ捨てて新しいものと取り替えると、カイサラの荒れた呼吸は整ってきた。

 袋の中からあらかじめ用意していた鞘を取り出すと、〈ドールフル・ノクターン〉を納める。少し大きかったが、留め具で抑えられるレベルだ。

 

 

 

「作戦は順調だ。あと、少し」

 

 

 

 カイサラは眼帯で赤い右目を覆うと、満足げに笑った。

 

 

 

 

 

 

 ウォルプータを出発した僕とツクヨミは、ダカダカ走る馬に揺さぶられながらカイサラを追っていた。フィールドに残った足跡は真っ直ぐ迷宮区に向かっている。

 

 

「乗馬スキルなんていつ取ったんですか?」

「とってないよそんな趣味スキル! 筋力でゴリ押してんの!」

 

 

 叫ぶように返事をする。全力で手綱を握ってないとすぐにでも放り出されそうだ。乗り心地の良い馬もいるが速度は遅い。速さを求めると荒っぽくなるのがNPC乗馬サービスである。

それはさておき、今すべきなのはホウ・レン・ソウだ。

 

 

「ツクヨミ! パーティメンバーに連絡、『カイサラは層迷宮区に逃走中。尾行開始する』ってな!」

「応援は?」

「いらない。あくまで今は情報収集の段階だから、戦闘はしない」

「了解! あ、忍者さん達から連絡来てますよ」

「なんて?」

「『一層迷宮区調査終了。ボス部屋にすこし大きめのコボルドロードの死体発見。それ以外は特になし』」

「なんで?」

 

 

 

 このアインクラッド……というかSAOというゲームの世界で、死体は基本的に残らない。アイテムもアバターもNPCも耐久値という名の寿命が尽きればポリゴン片となって消えるのみだ。じゃあ教会の脇の墓に何を入れるのという話だが……じゃなくて。

 それはモンスターも同じで、殺せばアイテムを落として体は消える。

 なので今回の結果のような死体が残るという状況はあり得ないのだ。

 

 

 その上コボルトロードと来た。一層のフロアボスでありSAOの最初の壁。2年近く前に討伐されたヤツが何故今死体となって残っているのか?

 

 

あるとすれば

 

 

 

「やっぱり迷宮区でイベントフラグが立っているのか」

「確か一層は地下室に残っていた地図にありましたよね」

「ああ、じゃあ五層六層、いや、全部の層にも死体が残ってるのか……? 引き続き調査するように言っといてくれ」

「はい!」

 

 

 ツクヨミが揺れる馬の上で誤字りながらメッセージを打ち終え、送信。

 その後は追いかけてくる昆虫型modをチャクラムで打ち落しながら爆走。

 

 

「着きましたね」

 

 

 街から出て5分くらいで迷宮区入り口にたどり着いた。かなり急かしたので馬もかなり疲弊している。

 

 

「急かして悪かったよ」

 

 

 二人とも馬から下りる。チップとしてストレージからB級食材のゲーミングリンゴを呼び出すと、差し出す前に食いつかれた。顎をダイナミックに動かしてシャグシャグと咀嚼。葦毛の首を二回叩くとNPC馬は種を『ペッ』と吐いて、鼻を鳴らして走り去っていった。ヤンキーみたいなヤツだったな。安くて速いとこんなやつばっかりなのか?

 

 

 これから7層迷宮区に入る旨をメッセージで送ろうとしたところで、先にシャル達から連絡が来た。一斉送信なのでツクヨミの着信音も鳴っている。

 

 

「シャルさん達からです。二層に少し大きめのトーラス王がいたから倒しておいたそうです。こちらも死体がポリゴンになってないみたいですね」

「こっちは生きてたのか? そしてまた死体が残っていると」

「少し調べて見るみたいです」

 

 

 つまり、迷宮区のボスが復活? していて、そいつらが最近殺されていると言うことか。

 

 

 ……サッパリわからない。何故と言いたくなるような出来事ばかりだ。カイサラは何をしたいんだ。

 

 

 

 

 ツクヨミがウィンドウを消したことを確認して、

 

 

「んじゃあ行くか」

「はい!」

 

 

 僕らは迷宮区へ足を踏み込んだ。

 

 

 地図はアルゴから受け取っていたが、特に開く必要は無い。索敵スキルで足跡を追跡すればどこに逃げたかすぐにわかる。

 道中は全くモンスターとエンカウントしなかった。迷宮区は攻略後もモンスターは脇続けるはずなのだが、もしかしてここはインスタンスマップ(イベント用に精製された場所。同時に同じクエストを受けたプレイヤーと鉢合わせないようにするシステム)となっているのだろうか。それとも現在迷宮区にモンスターがポップしないようにされているのか。

 

 

 

 足跡は狭い通路の突き当たりの隠し扉に繋がっていた。中に誰もいないことを確認して侵入。小部屋の中は古めかしい小さな祭壇のようなオブジェクトが床に設置してあるだけだった。近くには蝋燭が9本立っており、右から二本目だけ灯っている。

 

 

 

「なんだこれ? カイサラは何処行った?」

「この部屋に来たのは確かなんですよね?」

「ああ。足跡はこの祭壇の上で消えてる……」

 

 

 

 カイサラは何処に消えたのだ?

 

 

 

 

 

 二層迷宮区・ボス部屋。

 屍と化したトーラス王の周りをグルグル歩いて、ドラゴンは調査を行っていた。シャーロットは現在三層の入り口で他のメンバーと連絡を取っている。

 パワー型で足の遅いドラゴンはこちらで調べ物である。閉めきった部屋の中でゴツゴツと硬い足跡が響く。

 

 

 遺体を切りつけて見たが、赤いダメージエフェクトが出るだけで内臓等は見えなかった。

 

 

(つまり、大事なのはこいつの装備品の何か)

 

 

ふと、何かが光った気がしてそちらを見ると王冠があった。五層カルルインの遺物と同じように、何故か存在を主張している。

 

 

(王冠……いや、この宝石がメインなのかな)

 

 

 ドラゴンが力を入れて引っぺがすと宝石のなくなった王冠は砕け、光の粒子となって消え去った。

 正解だったようだ。声が出せたら大声で歓声を上げていたことだろう。ヨシと心の中でガッツポーズしてストレージに放り込んで……。

 

 

 出来なかった。いつものようにウィンドウに触れても、仕舞うことが出来ない。普通ならウィンドウに触れた瞬間オブジェクト化が解けて文字列に置き換わるはずなのに。

 

 

 ゴト、ゴトと足音が聞こえた。ドラゴンの聞き耳スキルはカンストしているので、普通よりも感度が高い。

 

 

 ボス部屋の入り口から聞こえるそれはだんだんと大きくなり、入り口前で止まった。

 

 

 来る。

 

 

 ドラゴンは確信し、片刃の両手剣を抜いた。

 

 

 ギイと扉が開き、そして

 

 

「先を越されてしまったか」

 

 

 腰に長刀と片手直剣を佩いたカイサラが姿を現した。

 




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