ソードアート・オンライン〜アメイジング・フィスト〜   作:明石雪路

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Missing the moon

 あー、この展開どこかで見たぞ。地下室だったかな。ドアを開けて。カイサラがいて。

 

あのときと違うのはこちらの方が多いと言うことだが……。ドラゴンとシャルをアテにすることは出来ないだろう。

 

 

フルダイブVRゲームである以上、戦闘後に最も疲労するのは脳だ。さきほど2対1の高速戦闘を繰り広げ、負けてしまった二人の消耗は計り知れない。今彼らに最も必要なのはHPの回復だけで無く、精神の休息だ。

 

 

 

とか考えてたのになんでドラゴンは立ち上がろうとしてるんだ。

 

 

 

両手剣を支えに立ち上がり、左手からはピンク色の回復結晶の破片がこぼれ落ちる。戦意は十分なようだが、足下がおぼつかない。あれでは何度か打ち合って終わりだろう。

 

 

一方でシャルは立ち上がらなかった。必死に動こうとしているのだが、体の自由が効かないようだ。口を開けた竜の状態異常アイコンが点滅しているのだが、それが原因か。体力はドラゴンによって回復されている。

 

 

 

二人を逃がすことが先決か。

 

 

 

 

「やあ。アンタ、前に会ったときより随分と変わったな。すっかりメタルな体になっちゃってさ。メンテナンスが大変そうだよな」

「エルフだったときよりも便利なことのほうが多いぞ。確かにメンテナンスは面倒だが」

 

 

 僕がシャル達から離れるように歩くのに合わせてカイサラも立ち位置を変える。死体だのドラゴンたちだのが近くにいるより、まっさらな場所の方がいいと考えたのだろう。ツクヨミも僕の意図を汲んでか、挟みうちにする様なポジションを取る。

 

 

 

「へっ、肉体改造と昔のボス狩り。何を企んでる?」

「答える義理は無い。知りたければ私を屈服させることだ」

「それしかないよな。じゃあ、やるか」

 

 

 

 僕が拳を構え、ツクヨミがハンマーを握り直す。カイサラが腰を落とし、片手剣を構える。意識が完全に僕らに向いたな。

 僕はポーチから〈回廊結晶〉を取り出し、手首の動きだけで投げた。

 

 

 僕の左手、投げた先にいるのはドラゴンたちだ。

 

 

 

「コリドー開け!」

 

 

 

彼女の口が待って、と動くと同時に、僕のコマンドを承認した回廊結晶は水色の渦となってドラゴンたちを飲み込んだ。通り過ぎたときには二人の姿は無くなっている。

 

 

 

「回廊結晶か」

 

 

 

 カイサラは目を細めて収束していくゲートを見ていた。

 回廊結晶とは、特定の場所と結晶を使用した場所を繋ぐ転移結晶の一種だ。主街区の転移門にしか飛べない転移結晶と違い、登録した場所に飛べるという利点をもつ。欠点は馬鹿みたいに高額なこと。

 

 

 

「二人を逃がしたか。四人がかりなら勝ち目も万に一つはあったろうに」

「まあ、二人は手負いだったし。無茶させたくなかったもんで」

 

 

 こうして隙を伺いながら会話を続けている間にも空気は張り詰めている。僕は直感で、この会話が終わった瞬間戦闘が始まることを察していた。

 

 

「地下室でも言っていたな。その女が心配だと。常にお前は他者を気にかけるのだな」

「あーどうかな、そういうのは自分じゃ気づけなくてね。人に指摘され無いとさ」

 

 

 さて僕らも逃げるべきだろうが……あの宝石が気になる。せめてアレを奪うことが出来れば、奴らの計画を遅らせることが出来るかもしれない。

 

 

 

「今はその女を心配しないのか」

「さして長い付き合いじゃないけど、ツクヨミは強いぜ」

「そうか? ではもう一度試そう」

 

 

 もう一度?

 

 

 カイサラが左手をツクヨミに向けると、青い雷撃の槍が襲いかかった。ツクヨミは極太の雷撃によって後ろに大きく後ずさる。

 

 

「アンタそれ使えるのか!」

 

 

 大きな円盾で雷撃を受け止めたツクヨミは攻撃規模の割にピンピンしていた。攻略組クラスのタンクは属性攻撃や状態異常攻撃に高い耐性を付ける事が多い。ツクヨミもその例に漏れなかったようだ。

 だがカイサラは属性攻撃を取得したのか。隙を見せずに仕掛けた方が良さそうだ。

 

 

「ラァァァ!!」

 

 

 死角から跳び蹴りを仕掛ける。それは読まれていたようで、カイサラは片手剣の腹で受け止め、押し返した。

 身を翻し、続けて無刀流連続ソードスキル〈烈火〉を放つ。拳と蹴りを組み合わせた9連撃。流石のスーパーソルジャーもコイツを喰らえばただでは済まないはずだが……。なんとカイサラは最初の二発を剣で受け止め、三発目には右手で僕の左腕を絡め取ってしまった。

 岩に挟まったかのように動かない。なんて馬鹿力だ。

 

 

 そのまま体を引き寄せ、腹に膝蹴りを連続してたたき込まれる。最後に左の拳を喰らい、僕の意識は途絶えた。

 

 

 

 

 雷を纏った拳を喰らったジャックは、〈麻痺(パラライズ)麻痺〉状態になりながら吹っ飛ばされた。頭部へのダメージによる〈脳震盪(コンカッション)脳震盪〉状態もあるかもしれない。

 ツクヨミはジャックが身を挺して作った絶好のチャンスを逃すつもりは無かった。

 

 

 ツクヨミはカイサラがジャックに攻撃している間にソードスキル〈ベア・パウンス〉を発動。飛びかかって振り下ろされた超重量のハンマーがカイサラの頭部狙って振り下ろされた。

 剣で受けるのを避けたカイサラは右前腕を掲げて防御。ガキィン!! と金属質の大音声がして攻撃が防がれた。だが、ツクヨミの攻撃は止まらない。

ドラゴンほど速く武器を振るうわけでは無かったが、動きを先読みした攻撃は確実にカイサラのHPを削っていった。

 

 

(行ける。カイサラはずっと戦ってきたんだ。ニルーニルさん、私、ドラゴンさん達。そして今の私たち。どうやってるか知らないけど、隠し持ってる生木アイテムは消耗してるに決まってる!)

 

 

 ツクヨミはカジノでの戦闘で、カイサラが何かの手段によって生木を身につけていることと、ソレには時間制限があることを推測していた。

 実際、カイサラの動きは緩慢になっていた。精彩を欠き、全快ならば喰らうはずの無いハンマー攻撃を受け続けている。事実として胸部の木製キューブは少しずつ朽ち始めていたため、ツクヨミの考えも間違ってはいなかった。

 

 

 

誤算が とすれば二つ。カイサラのステータスが下がったわけでは無いということと、彼女が振るう〈ドールフル・ノクターン〉のスペックは桁違いだと言うことだ。

 

 

 

何発目かのハンマー攻撃を振るったとき、ハンマーが動かなくなった。カジノの時の様に掴まれたのだ。今回はハンマーでは無くソレを握る右手だった。メキャ、という音とともに右手は柄ごと握りつぶされ、HPが一割減少。

 

 

「グアアアアッ!」

 

 

 ハンマーを取り落とし、いくつもの不快な痺れる感覚が伝わってくる。

 

 

 

 そしてその隙をカイサラが見逃すはずも無く、右手の白刃の片手剣を引いた。高周波の振動音とともに刃は真っ黒なライトエフェクトを纏う。ツクヨミの背筋に悪寒が走り、反射的に盾を掲げる。

 

 

 

 片手剣三連撃ソードスキル〈サベージ・フルクラム〉。ツクヨミは右からの水平斬りを盾でかろうじて受け止めるも、右上に跳ね上げる二撃目で盾が弾かれた。

 

 

 

 

 三撃目、袈裟切り気味の切り下ろしは防具も、インナーの楔帷子も全て切り裂いた。アバターに面白いように沈んでいった刃はそのまま左鎖骨から右腰まで斬り抜けた。

 

 

 

 

 一時的に気を失っていた僕が意識を取り戻すと、目の前でツクヨミの頭部と胸部、右腕による上部が落ちるところだった。

 

 

 

 

 何が起こったか理解の追いついていない呆然としたツクヨミと目が合った。

 

 

 

 

 

 

 そしてガシャリと音をたててツクヨミの上部が地面に落ち、バランスを崩した下部が後ろに倒れ込んだ。

 




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