ソードアート・オンライン〜アメイジング・フィスト〜   作:明石雪路

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失墜

 

 

 アインクラッドを落とす。

 

 

 目の前の強敵からあまりにも荒唐無稽な話を明かされ、ジャックの思考はトんだ。

 

 

「はあ?」

 

 

 こんなにも危機的状況だというのに思わずマヌケな声を漏らしてしまう。

 

 

「本当だ。私は本気でこの浮遊城を地に落とす気でいる」

「はっ、脳みそまで改造したのか? 妄想癖っていうにはちょっときついと思うぜ」

「では、証拠を見せよう」

 

 

 カイサラが左手を掲げた。拳を作ると、手の甲の半透明の種子と水色の真珠が光を放つ。

 地面が揺れ始め、特定不明の何かを警戒していると突如として太い木の根が床を割って生えてきた。ゆっくりとジャックの腕や足に巻き付き、更に硬く拘束される。

 

 

「なんじゃこりゃっ……?」

 

 

 いくら体を動かしても、ピクリとも動かない。

 

 

「これは三層の守護獣〈ネリウス・ジ・イビルトレント〉と四層の守護獣〈ウィスゲー・ザ・ヒッポカンプ〉から剥ぎ取った物だ。この種子には植物を生成する力、真珠には水を生成する力がある。組み合わせるとこの通りだ。この宝石は……先ほど見せたな?」

 

 

 つまり、各層のボスの力を使えると言う訳か。

 

 

(参ったな、序盤のボスなんて知らないぞ。他にも厄介な能力があるのか?)

 

 

「なるほどね。で、それで何をするんだ? 家庭菜園?」

「本命はこれでは無い」

 

 

 カイサラが手を横に伸ばすと、ボス部屋の片隅に落ちていたナップザックがふわりと浮かび手の中に飛んできた。カイサラがその中から取りだしたのはまばゆく光る黄金のキューブだった。

 

 

 

「これが私の計画を十全に進めるための鍵だ」

 

 

 

 カイサラがそう言うと、左手に乗せられたキューブの面が高速で動き出した。パズルでも解くかのように面は動き続け、動きが止まった頃にはどういう仕組みか一回り小さくなった。

 

 

「このキューブは6層の守護獣のものだ。嘗て人族はこのキューブの力を使って一つの街を作り、治めたという。多くの金属や木材をブロックにしてな」

「それでアインクラッドもブロックにして落とそうって訳?その力がアインクラッドの金属にも効くかは別だろ?」

 

 

 

 ジャックは内心舐めてかかっていた。オンラインゲームのマップがNPCによって崩壊するなんて、普通に考えたらあり得ない。ラプソーンがドラクエのマップデータを破壊するような物だ。そんなことが可能ならば、ゲームとして成り立たないでは無いか。

 

 

 だがカイサラは毅然と言い切った。

 

 

 

「効くさ。そして忌まわしき聖堂を破壊する。それによって…………人族最大の魔法を消し去る」

「聖堂……最大の魔法………?」

 

 

 そういえば作戦会議の時にアルゴが言っていた。フォールンエルフの目的が聖堂で、鍵の取り合いがエルフクエの主立った内容だったはずだが……アインクラッドを落とすのが目的だったのだろうか?

 

 

 カイサラは再び種子と真珠を光らせた。ジャックは身を強ばらせたがカイサラは攻撃するわけでは無く、木の根によってツクヨミが傍に運ばれてきた。

 

 

 やはり意識はハッキリしないようで、されるがままにジャックの横に座らされた。

 

 

 

「私の目的と方法は以上だ。今までお前達は良く奮闘した。この城の終わりを見せられないのが残念だが、私はお前達のことを最期まで覚えておこう」

 

 

 

 

 二人を並べたところで黄金のキューブを掴んだ左手をこちらに向けた。

 

 

「最期は僕らを対魔忍みたいなキューブにしようってか」

「タイマニンなる存在は知らないが、このキューブで直接殺すのかという質問ならばノーだ。この力は生物には効かない」

 

 

 

 何が起こるかわからず緊張と困惑の入り交じった表情を浮かべるジャックを余所に、カイサラはキューブから金色のビームを発射した。足下に照射されたのをみて、ジャックは自分たちがこれからどうなるのか察した。

 

 

 

「マジかよ、剣の世界で墜落死なんて絶対に嫌だぞ……」

「最期に言い残すことは?」

「僕たちは死なないぞ、生きて絶対にお前の顔面にパンチぶち込んでやる」

「さらばだ」

 

 

 足下がブロック状に分解され、ジャックとツクヨミはキューブ状に崩れていく床に飲まれていった。

 

 

 

 

 

「ウッ、ガッ、イッタ!!」

 

 

 ジャックはキューブによって切り分けられたブロックに全身を打たれながら真っ暗な穴を落ちる。何かに掴んで落下を阻止したいが、ツルツルとした表面のせいで何も引っかけられない。

 

 

「……ッ……ッ……は!? な、なん、何がブッ!?」

 

 

 

 同じようにぶつかり続けたツクヨミは正気に戻ったらしい。

 

 

「落ち着け、冷静に姿勢を立て直せ!!」

 

 

 

 急に周囲が明るくなり、気がついたときには宙に放り出されていた。

 

 

 バタバタと強風が全身を叩き、遙か彼方にはじまりの街が見える。

 

 

(一層の端に落ちたのか!)

 

 

 一層のフィールドを一望出来るほどの高さ。こんな状況で無ければ見入ってしまいそうな絶景だが、その光景が少し近づいているとなるとそれどころでは無い。

 

 

 

「飛んでるッ、何でこんな所に……!」

 

 

 

 ジャックは冷静さを取り戻せないツクヨミに体を捻って近づき、腕を掴んだ。

 

 

 

「掴まれ! 体を寄せるんだ!」

 

 

 死にそうな顔をしつつもなんとかツクヨミはジャックの腕を掴み返した

言うとおりに動けたツクヨミと身を寄せ合うことが出来たが、このままでは二人とも落下ダメージで即死だ。自分がクッションになったところでどうにかなる高さでは無い。

 

 

 幸いにも2メートル近くに一層の壁があった。

 

 

(擦れるように落ちれば減速できるはずだ!)

 

 

 ジャックは左手でツクヨミを抱えながら右拳を腰の位置で引いた。高周波の振動音を伴いながら黄色のライトエフェクトを纏う。

 

無刀流突進系ソードスキル〈雷鳴〉が発動、物理法則を無視したアシストが発生し、壁面に向かって突きを放った。

 

 

 しかし相対速度のためか、繰り出した拳は壁に弾かれた。その衝撃で壁から離れてしまう。もう一度試そうとしたが、肘があり得ない方向に折れていることに気が付いた。HPが1割減少。

 

 

 ソードスキルの発動モーション判定が甘いのが特徴的な〈無刀流〉だが、そもそも腕がおれてしまっては構えが取れない。

 

 

これではソードスキルが打てない。

 

 

 助からない。

 

 

 

 

 呼吸が、荒くなる。

 

 

 

 

 

 

 

 二人を落とした後、カイサラは深く息を吐いた。まるで張りつめていた緊張を解いたかのようだ。

 

 

「姐さん、どうして首を切り落とさなかったんです?」

 

 

 リーダーの男は、疑問に思っていたことを口にした。どう考えても『転落死』を待つよりも『斬殺』のほうが確実だからだ。まして攻略組以上のステータスとスキル、能力をもつカイサラならなおさらである。

 

 

 だが、カイサラは意外な言葉を口にした。

 

 

「私が彼に近づいたとき、負ける可能性が万が一あると考えたからな」

 

 

 そういってポケットに突っ込んだ右手を左手で引っ張り出した。

 

 

「動かないんですか? その義手が!?」

 

 

 

 リーダーの男はかなり驚いていた。かなりのレアインゴットで作ったこともあり、故障なんて考えたこともなかったからだ。

 

 

 

「カジノで上腕を切りつけられ、拳もその後もハンマーも受け続けたからだろう」

 

 

 

 ダラリと垂れ下がった右手をそのままに、カイサラは左手で胸部のカバーを開いた。バシュ、と空気の抜ける音と共に腐った木製のキューブがあらわになる。それを引っこ抜くと放り捨て、種子で生成したキューブを詰めた。

 

 

 

「それに、木も限界だった。能力を使うと消費が早くなるようだ。剣を抜けばさらにな。流石は夜の主の愛剣といったところか。不正な持ち主は許さないらしい」

「なるほど…腕は修理の用意をさせましょうか」

「ああ。」

 

 

 

 その時、風が通り抜けた。ボス部屋の出口の方からだ。誰にも捉えられぬ一陣の風。クラッシャーズは誰も気が付かずに撤退の準備を始めている。

 

 

 

 ただ一人、カイサラだけが補足していた。隻腕の剣士を超える速度に内心舌を巻く。そしてその正体がマントを羽織った巻き毛の女性と認識した時には、彼女は四角い穴のなかに飛び込んで見えなくなった。

 

 

 

 地面が近づいてくる。ジャックは必死に脳を焼ききれんばかりに回転させたが、解決策が出てこない。どうすれば、何をすれば助かる―――?

 地面との距離が100メートルを切った時だった。

 

 

「ジャァァァァァック!!」

 

 

 

 ジャックは上、一層天蓋の穴から自分の名前を叫び声を聞いた。

 鼻が詰まったような特徴的な声。その主は

 

 

 

「アルゴ!?」

 

 

 アインクラッド1の情報屋、鼠のアルゴだった。なんと彼女は壁面を駆け下りてジャックのもとへ近づいている。後からジャック達に近づくということはかなりの速度が出ているに違いない。その証拠に大きなゴーグルを装着している。

 

 

 

「何やってんだお前!?」

「絶対にツッキーを離すナ!!」

 

 

 

 アルゴはポーチから〈転移結晶〉よりも色の濃い、青色の〈回廊結晶〉を取り出した。

 

 

 

「コリドーォォォォォォォォォ!! 開けェェェェェッ!!」

 

 

 

 アルゴが全身全霊で投擲した回廊結晶は、ジャック達の落下予測地点で展開された。光の渦が二人を待ち構えて口を開ける。

 

 

 ジャックは少し体を捻って落下位置を調整、ツクヨミを抱えたまま渦に向かって落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 二人の救出に成功し、落下を続けるアルゴは両手のクローを抜いた。身を翻し、壁にクローを突き立てて落下を減速。

 

 

 

 地表30メートルの辺りでアルゴは壁から離れ、地面に接触する前に素早い手つきでストレージから大型クッションを大量にオブジェクト化、出来上がったクッション山に落っこちた。背中から着地するとばっほーんと愉快な音が響いた。ダメージはゼロだ。

 

 

 

 クッション山に身を沈めたアルゴは天蓋の穴を見、そして収束したポータルを横目に見てからゴーグルを脱ぎ捨てて大きく息を吐いた。

 

 

 

 

「ハアアアアア………間に合っタァァァ……」

 

 

 

 




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