ソードアート・オンライン〜アメイジング・フィスト〜 作:明石雪路
新年あけましておめでとうございます。
正直年内に終わらせるはずだったのにどうしてこうなった…。
もう少しお付き合いいただけたらと思います。
僕たちが〈Warrior Rest〉に戻ると、アルゴと忍者二人はコルクボードに羊皮紙や紙、写真を画鋲で刺してまとめているところだった。
アルゴは僕の姿を認めると、にやりと笑った。続けてコタローが口を開く。
「どうだった、黒鉄球の居心地ハ?」
「気絶してたからわかんないよ、でも無罪で入るとすぐに追い出されるってのは新たな収穫だったな。」
「おや、ドラゴン殿とツクヨミ殿はいかがされたのか?」
「ドラゴンは修行するといって70層に行った。レベルを一つ上げてくるそうだ。ツクヨミさんは自宅で休んでいる」
「わかった。今は、一度僕らだけで情報をまとめよう」
全員が各々席に着くと、四人席のテーブルに置いた黒板を指揮棒で叩きながらアルゴが口を開いた。
「奴らが作ろうとしているのは、大きな掘削機と考えてイイ」
黒板には、写真とイラストが奇妙な布陣を敷いている。
「カイサラ達が集めたのは10層までのボスの一部ダ。それらを組み合わせることでいうなれば一つの掘削機を作り上げてイル。
五層のキューブがドリル代わりの分解ビーム。五層のポールがビームを打つアンテナ。二層の将軍のジェムが電池、もしくは増幅器。三層の植物種子と四層の亀の水晶で伝導率の高い本体を作ル。」
「他の層は?」
「おそらく『あってもなくてもいいもの』ダ。例えばカイサラが振るっていたのは一層のコボルトの野太刀で掘削機に取り付ける箇所もあるケド、普通に戦闘に使ってた。壊れても問題ないからダナ。あくまで敵側もクエストだから、頑張り要素的なポジションなんダ」
この辺りは四層の〈昔日の船匠〉と同じだろう。最高の結果を選ばなくてもクリアできるけど、目指すのはプレイヤーの自由に任せた、やりこみ要素のようなものだ。…この場合でいう最高の結果は絶対に妨害できないアインクラッド落としとなるわけだが。
「では、その掘削機でカイサラ達は何をしようとしているのでござるか?」
メモをとりながらイスケが手を挙げると、カイサラは一枚の写真を取り出した。
深い森の中に建つ厳かな建築物。木々の隙間から刺す日差しも相まって写真越しに神々しさが伝わってくる。
「この聖堂を崩壊させ、魔法石を破壊もしくは指定の位置から動かすことでアインクラッドを落とす事ダ。この浮遊城の浮いている仕組みはいくつかクエストで解明されてル。25層の龍脈の根源となる霊山、50層の反重力黒柱、そして10層の聖堂に保管された魔法石。それらは飛行機でいう燃料、プロペラ、エンジンの役割を担ってイル。今回破壊しようとしているのはエンジン。飛行中の飛行機からエンジン引っこ抜いたらどうなるかわかるダロ?」
「実現性は?」
手を挙げたのはシャルだった。
「そもそもアインクラッドは破壊不能オブジェクトだろう? ダンジョンのアイテムの組み合わせで崩れるものなのか?」
アルゴは目を伏せると、口を少し閉じ、少し考えてから顔を上げた。
「アー…言いにくいんだが、それは別に確定してる事実ってわけじゃないンダ」
怪訝そうな顔をするシャルに、アルゴはとある新聞を渡した。
シャルが隻腕で受け取った紙面に記載されていたのは『アインクラッド崩壊論についての考察』。
「アインクラッド崩壊論?」
シャルがいうと、アルゴはさらにいくつかの写真等の資料をテーブルに並べた。忍者たちや僕も見やすい位置に移動する。
「今回のキューブが迷宮区に穴をあけた事例はいくつかある。当時攻略中だった7層を、NPCが壁をぶち抜いてボス部屋まで向かった話は今も酒の席のネタにされてル。NPCから渡される爆弾で壁を掘り進める48層は、よく見たら床に亀裂が走っていたって報告もアル。ほかにもある事例から、アインクラッドはやりようによっては壊せると唱えたプレイヤーが居るんダ。それに…」
「僕とツクヨミは二層のボス部屋でカイサラに床に穴を空けられて一層に落っことされた。これ以上ない証人だろ?」
「なるほど」
「なんと……」
「あなおそろしや」
コタローとイスケは恐れおののいた様子だ。てかそのリアクションは忍者か? それでもおどけた様子なので心の底からビビっているわけではないらしい。
「今更だけど…やめたい奴いる?」
僕がメンツを見渡しながら言った。ここを確認しておかなくては作戦会議に進めない。が、いつまで経っても誰も席を立たなかった。お互いに顔を見合わせて、『大丈夫か?』みたいな顔をしている。
「ええと…」
「そういうことだろう。ドラゴンはむしろ一人で行くよ。で、敵の情報は?」
何でもないようにシャルが言う。
何も言えずにアルゴの方を見ると、肩をすくめられた。
全員の机に酒と簡単なつまみを配り、細かい作戦会議が始まった。酒もつまみも全部僕のおごりだ。そういえばクエスト報酬ってどこから出るのだろう……。
それはさておき。
「敵が誰かはわかってる。フォールンエルフ、〈剥伐のカイサラ〉。エライ木の力を得てステータスがチートレベルに底上げされてる。今は全身鋼鉄のマシンになってて防御力も段違い」
「アイアンマンみたいな感じか?」
「いうならヴィジョンだな。頭以外」
「スペックは?」
「STR型並みのパワーとAGI型並みの速さ。超レアな片手剣で武装してて………」
「片手剣は攻撃時ダメージの何割か回復効果と、溜め攻撃時斬撃を飛ばす付与付きダ。」
「あとは全身謎メタルのせいで斬撃耐性があるはずだ。私の攻撃が通ってなかった。」
「鋭いね。あとはボスのアイテムを装備できる。今確認できてるのは雷と……木の根っこ攻撃。」
「それと睨まれるとスタンが入る。クールタイム不明のな」
「………無理ゲーではござらんか?」
グラスに入ったテキーラっぽい茶色のドリンクを回しながら、コタローが遠慮がちに言った。
そういうことは言わないでいただきたい。
「で、カイサラと組んでるのがオレンジギルド〈クラッシャーズ〉。数に物言わせた強盗・殺人がメイン。個人の戦闘力はそうでもない。一部のメンバーを除いてね」
「何故この世界を壊すのに加担しているのでござろうか。」
「普段から人を襲うような奴らだからな、大量虐殺でもしてみたくなったんだろう。オレンジ以上のやつらはそういうやつばかりだ。だから私は……」
シャルがシリアス顔でそんなことを言ったせいで冗談を言える雰囲気ではなくなってしまった。
「ミッションはこうだ。奴らからアイテムを奪い、破壊すること。そしてカイサラを確実にキルすること。」
「殺すのか」
「前にも9層のエルフクエで聖堂を狙ってた。確実に倒さないとクエストフラグがまたいつ立つかわからないからね」
「奴らの居場所は?」
「9層の大聖堂の真下。8層の古城〈レドレス城〉ダ」
アルゴは8層の全体マップを広げると、赤いペンで丸を付けた。
「資料から時間を考えるに、えっと、作戦決行は今夜10時だ。全員準備しよう……って僕が仕切ってるみたいだけどいいの?」
「しまらねーヤツだナ。ジャックが集めたんだからいいダロ。この際チーム名も決めちまいナ」
「えぇー…」
ほかのメンバーも異論ないようだ。ネーミングセンスに自信があるほうではないんだけどな。
「そうだな………」
そういえば、アルゴはゲーマーは大きく4つに分類されると言っていた。アチーバー、エクスプローラー、ソーシャライザー、キラー。攻略組はアチーバー、犯罪者たちはキラーだとして、僕らはどこに当てはまるのだろう。攻略に与せず、交流も言うほど取らず、好き勝手に生きてきた奴ら。そんな僕らの目標は、動機は何であれアインクラッドを守ることだ。
ならば。
「……ガーディアンズ。ガーディアンズ・オブ・アインクラッドだ」
お読みいただきありがとうございます。
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