ソードアート・オンライン〜アメイジング・フィスト〜 作:明石雪路
期せずして同時に三か所で発生した戦闘は、瞬く間に苛烈な攻防を繰り広げ始めた。
レドレス城屋根。
傾斜のある屋根の上、三方向から矢継ぎ早に繰り出される攻撃を舞うように跳ねるように躱していた。三方向からの多彩な攻撃を、高いAGIが可能とさせる高速移動でもって捌く。
STR値が低いシャーロットは、正面から攻撃を受けることはしない。まともに受けてもガードが成功しないからだ。
だから受け流す。攻撃を見切り、刃を明後日の方向へ弾く。卓越した技量と剣速によって襲い掛かる攻撃を別の方向からの攻撃にぶつけるように流すことで一手三撃の好手となる。
だが敵もさるもの、一人が尖塔で高所に移動すると残りの二人も立ち位置を変えた。
ほとんど真上からの槍の突きおろしを横にステップ、頭と胴を狙った左右から襲い掛かる片手剣の横なぎは地面と平行になるように身を翻して躱す。
変幻自在に立ち位置を変え、無数の手数で相手を削り殺す。これがこの三人組の戦い方か。
「ふむ、やるな」
「なあ! 今オレ惜しくなかった?」
「バーカ、かすってもねーよw」
上手い。シャーロットは彼らの連携をそう評価した。
それぞれの技量は大したことがないが、連携すると格段に厄介さが増している。
現に今も距離を置いたはずなのにいつの間にか三方向からシャーロットを睨む陣形を組んでいる。
おそらく、ずっと訓練してきたのだろう。プレイヤーを安全に効率よく殺すために。
それは装備からも見て取れる。武器は華奢なデザインであっても防具はモンスタードロップの自然物のようなシンプルなデザインであったり、胸当てと籠手に統一されたブランドのロゴが彫ってあっても腰当ては別のプレーヤーメイドのものだったり。金属装備と布装備が混在していたり。
ちぐはぐで統一感のない装備は不気味さを助長させている。
「貴様らはなぜ奴に加担している? なぜこの世界のプレイヤー達を殺そうとするんだ」
シャルが問うと三人のうち、寡黙そうな禿頭の両手槍使いが答えた。
「気持ちがいいからだ。NPCとは違う生の感情を見るのがな。必死に抗う生命力、死期を悟って絶望して零れる悲鳴…これらはすべて唯一無二、何物にも代えがたい尊いもの。それが私の手によって儚く散っていく様はもう……ウッ……」
クールな表情のままいきなりプルプル震え始めた槍使いに呆れながら片手剣使いの一人が続けた。
「相変わらずオッサンはキモイな……」
「あー、後は俺らがこのクエストが成功すればアインクラッドは落ちて残りの生存者は全員死ぬ。そうなれば最前線で戦う攻略組はどんな顔をすんのかなーとか? 真面目な顔して頑張ってきた奴らの努力は無駄ンなったらどうなるかなあ?とかな。」
「好奇心だよな」
「死んだらしゃーねーって感じ」
「wwwww」
片手剣使い達はげらげらと笑った。
唐突に槍を構えたまま後ろにのけ反りまくり、禿げ頭は叫んだ。
「私は見たいッ、あの冷静で肩で風を切って歩くヒースクリフやキリトが、これまでの努力が報われないとわかったときの表情が!! アスナたんの泣き顔が!!オホオオオ!!!!!」
「なんて言ってるのは馬鹿どもだけだ」
床に仰向けに倒された斧使いは、ドラゴンが突き立てた両手剣の刃を首筋に密着させられながら答えた。
斧使いが床に叩きつけられるまでに1分もかからなかった。投擲された斧を打ち落とし、両手剣の突きソードスキル〈ダイナミック・レイピア〉で切り込み、首元への斧を肩で受け、下から切り上げて斧を弾いて足を踏み付けて袖をつかんで力いっぱい床に叩きつけただけだ。
ドラゴンは器用に片手でメッセージを打ち込む。
『あなた達は仲間でしょ? ボスであるあなたも大量虐殺とかそういうのを考えてると思ってた』
「ハン、俺はさっさとこのゲームの世界から抜け出したいだけだ。食い物は全部偽物で、金が欲しけりゃ命かけて斧を振らなきゃならん。何もかもがポリゴンのこの世界は気持ちが悪くて仕方ねえ。」
『ならアインクラッドから飛び下りればいいでしょ』
「馬鹿が、一人死んだって何も変わらん。だがプレイヤー全員が死ぬようなことがあれば茅場のクソ野郎が全員ログアウトさせてくれる可能性もあるだろ?」
『何も起きずに全員死んだら?』
「この世界からおさらばできる。完全ではないが目的は達成できて俺はうれしい」
斧使いが右手に隠し持っていた煙玉を叩きつけると、大量の煙が玉座の間を白く埋め尽くした。
「どうせさっきからコソコソ動いてんだろ!」
斧使いは予備の斧を取り出すと、掘削機の方に投げた。縦回転しながら飛ぶフランキスカは掘削機のそばで色々弄っていたアルゴの頭部を擦過して壁に刺さった。
「危ないナ!!」
〈隠蔽〉スキルを再び発動させたアルゴは影に隠れて姿を消した。足音はほとんどしない透明にも近いハイディング。これがアインクラッド1の情報屋か。
刹那、斧使いの背筋に悪寒が走り反射的に横に飛んだ。直後、先ほどまで自分がいたところに大剣が振り下ろされた。
床が陥没するほどの威力によって発生した衝撃破が斧使いの全身を叩く。
斧使いはクイックチェンジを発動、サブウェポンを取り出すとドラゴンに切りかかった。
ドラゴンは難なく受け止めると、筋力差によってはじき返す。姿勢を戻した斧使いは両手剣を大上段に構えてドラゴンを見据えた。
『サブに両手剣? メインじゃないんだね』
「さあな、さっきの手斧かもしれないし、槍も持ってたりしてな」
(それ私が言いたかったな)
蒼を基調としたドレスの上から銀の装甲を装備しているドラゴンはそんなことを考えた。
斧使いが装備しているのは、両手剣だ。ドラゴンのものとは違い、細身でまっすぐな刀身。鍔は円形で刀にも似ている。先ほど受けた感じからして、重さはあまりない。
PKには武器を二種類扱うものがたまにいる。それは相手の意表を突く際に最も効果的だからだ。
しかし、ドラゴンは目の前のレッドプレイヤーはどこか違う気がした。斧よりも両手剣のほうが慣れた構え方である。まるでこのSAOが始まる前から扱っていたような。
今ドラゴンの前に立つ剣士が先ほどよりも大きく見える。
(こっちが本命なのかも)
ドラゴンは中段に両手剣〈ジャイアントカリブス〉を構えた。本来彼女はそのように構えたりしないが今はこちらの方が良い、と感覚的に思った。
城のあちこちで戦闘音が聞こえる中、この玉座の間だけは静寂が訪れた。
二人の剣士は構えながら少しずつ距離を縮めていく。その間にも二人はどこから攻撃が来るのか、どこから仕掛けるべきかを予測し続ける。
「メェェェェェェェェン!!」
斧使いが先に仕掛けた。摺り足で一気に距離を詰め、細身の刀身が赤いライトエフェクトを纏い高周波の振動音を鳴らす。両手剣上段突進技〈アバランシュ〉。
正直すぎるほどの正面からの攻撃だが、その技の冴えとシステムアシストによって威力は計り知れないほどに高まっていた。
殺った。
斧使いは勝利を確信していた。学生時代の剣道の県大会決勝当時の感覚と同等、否それ以上である。
しかし、インパクト後に引いた腕が自分の敗北を物語っていた。
剣がない。持っていた両手剣は前腕の半分から先と共にすっぱり消えている。背後でガランという金属物が跳ねる音が聞こえた。あれは俺の腕なのか。
ドラゴンは右から左上へ切り上げた姿勢から、後方に剣を引いた。分厚い大剣がイエローのライトエフェクトを纏う。
両手剣最上位3連続水平切りソードスキル〈グランテンペスト〉。
独楽の様に高速で回転して放たれた斬撃は一瞬で斧使いの体に三つのダメージエフェクトを刻み込んだ。
斧使いは地面をバウンドしながら転がり、掘削機の元まで転がった。分厚い胸当ては大量のヒビと落ちた色味から耐久値は0に近いことは明白である。
そして彼自身も体を動かすことが出来なかった。HPはギリギリイエローを保っており死んではいない。〈脳震盪〉や〈転倒〉といったダメージによる状態異常は発生していないため後は斧使いの意思次第なのだが、今の彼には湧きあがらなかった。
『私の勝ちね』
目の前の女騎士から腹立たしいメッセージが送られ、斧使いは舌打ちした。
「俺に勝ったって仕方ねえだろ。バァカ」
精一杯の皮肉を言ったつもりだったが、ドラゴンは無視して続けた。
『私がここで戦う理由はね、現実に戻って私の一番大好きな人に自分の言葉で気持ちを伝えるためだよ』
「聞いてねえよ色ボケ女」
『あなたは? 元の世界に戻って会いたい人はいないの?』
「……うるせえよ」
斧使いは目をそらす。
ドラゴンは大剣を背中に戻すと腰のポーチから回廊結晶を取り出した。
『じゃあ、私達があなた達を解放したげる。それで元の世界に戻ったら、罪を償って生きて』
「なんで俺がそんな約そッ…!」
ドラゴンは斧使いの襟首をつかむと、回廊結晶が生み出した渦の中に放り込んだ。
〈クラッシャーズ〉リーダー、戦闘不能。
「ドラゴンダメだ、この構造に毒とか火とかいろいろ試したけど壊れナイ!」
『わかった、私がやる!!』
ドラゴンは掘削機に向かいながら、
(みんなは大丈夫かな)
玉座の間から外に少し目を遣った。
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