ソードアート・オンライン〜アメイジング・フィスト〜 作:明石雪路
場面は戻り、城の屋根。
ドラゴンが斧使いの腕を切り落とす前。
三位一体、陣形を変えて三方向から巧みに攻撃を繰り出す三人組とシャーロットは相対していた。
人殺しに慣れた者が3人、人数的にも不利である。両手槍で動きを牽制され、攻めあぐねている所に2つの片手剣が切り込んでくる。
三人同時に相手し続けるのはかなり厄介であるとシャーロットは判断した。
「さっきからクールに決まっていてとても素晴らしい。あなたのもう片方の腕も切り落とせば尊厳乱れた顔を見せてくれますか?」
禿頭の槍使いはプレゼントの包装を開ける子供の様に期待に満ちた表情をしている。他の剣士二人もヘラヘラと武器を弄んでいる。
3人とも人数比によってかなり余裕を持っているらしい。
確かに三人がかりで隻腕のAGI型一人、大きなアドバンテージがあるといえるだろう。
だが、シャーロットにとっては大した問題ではなかった。
3人が襲ってくるのが厄介ならば、一人ずつ始末すればいい。
一歩で腰の高さで構える片手剣使いAの間合いの内側に入り込むと同時に抜刀。音もなく抜かれた刀はAの両目を一文字に切り裂いた。通常より赤いダメージエフェクトが両目を抑える手の間から零れ落ちる。状態異常〈失血〉付与。シャーロットのカタナ〈夢幻泡影〉の追加ボーナスによって発生率は高くなっている。HPは一割減少し、今も少しずつ減少している。
「なっ、何も見えない! あなたの顔も何も!!」
うずくまる片手剣使いAの頭を足場にして跳躍し、一拍遅れて動き出した片手剣使いBの背後に着地、刀が高周波の振動音とライトイエローのエフェクトを纏う。カタナ五連撃ソードスキル〈雷電〉。稲妻を描くように頭、背中、足を高速で切りつけられ、片手剣使いBはその場に崩れ落ちた。HP二割減少プラス〈転倒〉付与。
「お、オオオオオッ!!」
槍使いが踏み込んで来たので膝立ちのBの後ろに隠れる。ガタイの良いBに完全に隠れ、槍使いは手出しできない。
「なんと卑怯な!」
「君らがそれを言うか」
攻めあぐねる槍使いは、Bの腹から伸びた刃をガードできなかった。
シャーロットがカタナの突き技ソードスキル〈穿紅〉を発動させたのだ。右手の刀を肩の高さで大きく引く構えて放つ単発の突き技。紙並みに薄い刃がライトエフェクトを纏いながらBの腹部の鎖帷子を破り、槍使いの薄い胸当てを貫いた。
「は……!?」
まさか味方を盾にしながら攻撃してくるなど想像も付かなかった槍使いは、刺客からの強襲に軽く恐慌状態に陥った。
「ひッ、ヒイイイイイ」
やっとの思いでBを蹴り飛ばして腹からカタナを抜く。
槍をへっぴり腰で前に突き出しながら見失ったシャーロットを探すも……不意に視点が下がった。
足に力が入らないというか
「お、俺の足が」
両足の膝から下が完全に切り落とされ、だるま落としの様に体が落ちたのだ。
「この刀はな」
血を払うかのように刀を振るって刀を鞘に納めたシャーロットは言った
「容易く防具を切れるほどの鋭さを持つ代わりに、攻撃力が低くてダメージが入らないのだ。貴様の両足を切り落としたというのにHPは三割も減らん。おかげでお前たちのボスにも文字通り刃が立たなくて困ったものだ。」
「なんたることだ、」
「そうしたいところだが、今の私の主はそれを望まない。だからこうする」
そういってシャーロットは回廊結晶を取り出した。
「待て! アナタはこの世界にうんざりしていないのか? 片腕だけで随分と苦労しただろう? 俺らの仲間になって上手いこと行けば、このゲームからすぐに脱出できるかも……」
「大量殺人の可能性を孕む計画に乗る気は無い。それに、SAOからログアウトするのに貴様ら犯罪者の手は借りん」
「……だろうな」
槍使いはガックリと項垂れた。
「アスナたんの泣き顔を見たかったものだ…」
「さっさと入れ」
開かれたコリドーの中に三人が飲み込まれるのを確認すると、シャーロットは深く息を吐いた。
AGI型は防御力が低いため、こちらの方がレベルが高くてもダメージが多くなりやすい。だから全神経を集中させて躱すしかない。出来ることなら防具をきちんと装備して戦いたかったが、片手がなければ満足な装備すらできない。結局この偏ったビルドにしたのはこれしかできなかったからだ。不満がないといえば噓になる。死にそうになって泣きたくなったことも。しかし、
「私を支えてくれる人がいる。私の支えを求める人がいる。だから私は絶望している暇なんてない」
シャーロットは屋上庭園に向けて走り出した。
自分の力を必要とする彼も、全霊で打ち合っているだろうから。
何度打ち合ったことだろう。
屋上庭園では何度も轟音が鳴り響き、そのたびに雑草が激しく震えた。
音の原因はカイサラとロードジャックの戦闘音だ。攻撃し、ガードし、反撃。そのたびに両者の剣と拳打がぶつかり合って衝撃波を発生させる。
ジャックの右ストレートは剣の腹で受け止められ、カイサラの防の剣は首元を狙った斬撃に化ける。ジャックは寸でのところで発動の速い体術ソードスキル〈閃打〉でパリィし、もう片方の拳で顎を狙ったアッパーカットを打つ。
常に肉薄し無刀流に有利な接近戦に持ち込むジャックの猛攻もさるものながら、恐るべきは間合いの内側に入られているにも関わらず巧みに剣を繰ってその攻撃を受けるカイサラである。両者の高度な打ち合いは人外の域に突入している。
一発良い攻撃が決まれば流れが来るのに。
ジャックは考えるが、如何せん間合いが足りない。驚異的な剣速ゆえにジャックはもう一歩が踏み出せずにいる。
何合目かの打ち合いののち、両者は同時に距離を置いた。
「前よりも動けているな」
「そりゃまあ。キチンと心の準備をしてきたからな」
カイサラは肩より高い位置に剣を引き、ジャックは腰だめに拳を引いて構える。
互いの得物にライトエフェクトが纏わり、高周波の振動音が待ちきれんとばかりに高く響く。その音が限界まで高まった瞬間、ほとんど同時に両者は地面を蹴った。
〈ヴォーパル・ストライク〉片手剣重単発技。
〈震天魁砲〉無刀流重単発技。
「ラアアアアアアアアアアッ」
「フッ!!」
カイサラのソードスキル〈ヴォーパル・ストライク〉とジャックの正拳突きである最上位無刀流ソードスキル〈震天魁砲〉、絶対破壊の一撃が打ち合った瞬間、両者の武器の持つエネルギーが爆発した。
尋常でない跳ね返りを受けて、両者激しくノックバック。カイサラにはあまり答えなかったようだが、ジャックは吹き飛ばされて地面を転がった。
「おわっと…!!」
「……ふむ」
(何故だ?)
カイサラは信じがたい事実に内心懐疑の念を抱いていた。
今自分が持っている片手剣は悠久の時を生きた吸血鬼・ニルーニルが受け継いだ名剣である。振るう者に勝利を与えるが、相応しくないものが持てば全てを奪われる諸刃の剣。
それを改造人間となった自分が振るう。それすなわち絶対の一撃となるはずなのだ。なのに眼前の無頼漢の拳一つ壊せない。
「何だ? って顔してるな……」
砂埃にせき込みながらジャックは片膝をついて立ち上がる。
「僕のこのガントレットとブーツは……、75層ボスに有効な装備なんだとさ……。ボスは鋭い斬撃を防ぐために、超硬度と斬撃耐性を持つ〈シルバブラッド・インゴット〉で出来てる。アンタの体と同じ素材だからなじみ深いよな?」
「なるほどな。だから私の攻撃を受けることが出来るのか」
カイサラは笑った。
「なんで笑うんだ?」
「わからん。急に笑いたくなったのだ」
冷静な女剣士というイメージが強かったため、その屈託ない笑顔にジャックは違和感を覚えた。
(やっぱり、このNPCはどこか違う)
「今のお前は、一筋縄ではいかないらしい。では、次だ」
次の瞬間、ジャックとカイサラの間、屋上庭園の真ん中からまばゆい光線が貫き現れ、天に伸びていった。
お読みいただきありがとうございました。