ソードアート・オンライン〜アメイジング・フィスト〜   作:明石雪路

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天蓋貫く光の槍

 突如として現れた光の柱は、まっすぐに八層の天蓋に突き刺さった。光の正体はトーラス王のエレクトロ・ジェムによってエネルギーを貯めた黄金のキューブが、五層ボスからのドロップ品〈フラッグ・オブ・ヴァラー〉と一層ボスのカタナ〈覇辿荒〉を媒介にして発射した分解光線だ。土台は三層ボス〈ネリウス・ジ・イビルトレント〉の種子によって半恒久的に成長する特殊な樹木に、四層ボス〈ウィスケー・ザ・ヒッポカンプ〉の水晶によって生成された水が流れたものが使用されている。分解光線の余波によって端から四角く崩れていく土台はすぐに樹木が成長することでカバーしている。

 

 

 光線を浴びた玉座の間の天井、屋上庭園は大きな音を立てて崩れて落ちる。

 間近で動き出すさまを見ていたドラゴンとアルゴは、四角く分解された石材と、空いた穴によって連鎖的に亀裂の走った天井の崩落から非難し、入口から飛び出した。

 

 

「いきなりマシンが作動したゾ、どーなってんだコリャ」

『上でカイサラが何かしたのかな』

 

 

 顔だけ出して崩落した玉座の間を見ると、アッシュブロンドの女性が光を放つ掘削機の脇でそれを眺めていた。

 

 

 

「あれが、カイサラ」

 

 

 アルゴは緊張から固い唾を飲みこんだ。

久方ぶりにキチンと見るカイサラの姿は9層で初めて見たときとかなり装いが違っていた。服は高貴なレザーの制服から安っぽいシャツとコート、パンツに代わっており、正直みすぼらしいといっても過言ではない。

 

 

しかし一本背筋の通った佇まいは一流の戦士といった様子で、メタルのボディや名剣を抜きにしても強者としての貫禄を感じさせる。

 

 

「うえっ、カビ臭!」

 

 

 アルゴから見てて手前側で、悪態と共に瓦礫の一部が吹き飛んだ。原因は、カイサラと同様に屋上庭園から落ちてきたジャックだ。

 

 

 振り向いたカイサラはジャックを見つけると、薄く笑いながら言った。

 

「期待通りというか…貴様がこの程度で死ぬわけないな?」

「ジャック!」

 

 

 アルゴとドラゴンは思わず飛び出した。

 

 カイサラは二人を見ると、怪訝そうに言った。

 

 

「拳闘士よ、貴様の仲間はそれだけか?」

 

 

 

「私たちもいるぞ」

 

 

 

 崩れて月明りのさす天井から、さらに三つの影が音もなく降りてきた。

 

 

 

「シャル! 忍者たちも!」

「〈クラッシャーズ〉の下っ端は全員黒鉄球に送ってやったでござる!」

「要注意メンバーのレッド達も私が送った。あとはカイサラだけだ」

「ナイス!」

「リーダーもドラゴンがシメたゾ」

『(^O^)/』

 

 

 作戦通り進んでいる。想像以上に早く。どうなるかと思ったが、ジャックの想定した状況に持ち込むことが出来た。全員の体力はほとんど減っていない。

 油断こそしてはならないが、あとはカイサラに集中するだけだ。

 続々と上がる戦果報告にジャックはこみ上げるものがあった。

 

 

 

 一方で自分の部下が負けたにもかかわらず、カイサラはいたく感心したようである。

 

 

「ほう、貴様の仲間は奴らよりは優秀なようだな」

「すごいだろ、〈ガーディアンズ・オブ・アインクラッド〉だ。よろしく」

 

 

 

 ガーディアンズが揃い、カイサラに向かって武器を向ける。

 

 

 

「ああ、よろしく。ここまで優秀な戦士たちが揃うとは……光栄というものだ」

 

 

 カイサラも、〈ドールフル・ノクターン〉を抜いた。一触即発の緊張した空気が張りつめる。メンバーのテンションは先の戦闘で十分に高まっている。不足はない。

 

 

「行くぞ!」

「来い」

 

 

ジャックの掛け声とともに、ガーディアンズは飛び出した。

 

 

 

 

 先陣を斬ったのは、ジャック、アルゴ、風魔忍軍の連続投擲だ。

 つるべ打ちに放たれる棒手裏剣や投擲用ピックがカイサラに殺到する。

 高速の剣さばきによって半数が打ち落とされ、残りも鋼鉄の体に弾かれた。HPはほんの1、2ドットしか減っていない。

 

 

「こんなもの私には効かないぞ……ん?」

 

 

 視界を埋め尽くした投擲武器の裏で、カイサラの背後に回り込む影があった。

 

 カイサラが首に左手を当てた瞬間、鋭い衝撃が手の甲を叩いた。高速で背後に回り込んだシャーロットが切り込んだのだ。しかし、

 

 

「いい動きだ」

「皮肉にしかならないな……!」

 

 

 シャーロットがバックステップで距離を置くと同時に、ぺシャリとカイサラの腕に当たる何かがあった。

 

 

「粘着性のある液……この匂い、アリアドネの粘糸か!」

「正解にござる!」

「搦手は忍者の十八番なり!」

 

 

 連続してカイサラの体中に命中し、粘着液はべたりと張り付いていく。

〈粘着弾〉。スプライトアリアドネの蜘蛛の巣から作られた妨害弾。命中した相手の素早さを少し下げる。

 

 

 

 動きの鈍ったカイサラに、ドラゴンが仕掛けた。

 

 カイサラの首から下は金属に置き換えられている。素材は70層という前線で採取できる〈シルバブラッド・インゴット〉。斬撃・貫通属性の攻撃に対して高い耐性を持ち、シャーロットの鋭さに特化した〈夢幻泡影〉や風魔忍軍の忍者刀は刃が立たないどころか折れる可能性もある。

 

 

 その代わりに打撃に対しての耐性は高くない(あるっちゃある)。つまり、重さと頑丈さで潰すように叩き切る〈ジャイアントカリブス〉はカイサラの防御力をぶち抜ける!

 

 

 

 

 ドラゴンは渾身の横なぎを放つ。

 超パワーで振られた大剣に粘着弾を剥がしていたカイサラは対応できず、胴を思い切り打ち抜かれた。

 

 

 

 ガキン!! という重たい金属同士のぶつかり合う音がその場にいる人間の耳に突き刺さる。

 体重が半端なく重いのか、カイサラは吹っ飛ばされるということはなかったがそれでも5メートルほど後ずさった。

 HPバーを確認すると、一本目が5%ほど削れた。ドラゴンの剛力に思わずジャックは舌を巻く。

 

 

「これは中々」

 

 

 カイサラは自分の腕を拘束する糸を引きちぎりながら今の一撃を称賛した。ドラゴンがしびれを感じて右手を見ると、手甲のつなぎ目からダメージエフェクトが零れていた。あの一瞬で一撃入れたのか。恐るべき胆力と正確さ。

 あの一撃を受けてなお平気そうなカイサラにヒヤリとするが、すぐに焦りを振り払う。

 奴は不死身ではない。攻撃し続ければHPが0になり、ポリゴン片となって消えるはずだ。

 

 

 絶好のチャンスに、続けてジャックが踏み込んだ。

 

 

 先ほどはステータスアップのポーションを飲んで何とか互角の戦いをしていたが、動きの鈍った現在は素の状態でもやりあえるはずだ。

 

 

ジャックは岩の様に泰然としたカイサラのボディに右フックを打つ。ズガン! と手ごたえのあるヒット音にカイサラはわずかに表情を歪ませる。

 

 

躱して打ち、潜って打つ。HPバーの減りこそ微々たるものだったが、着実にダメージは与えられている。

 ジャックが何度目かのボディブローを放とうとしたときだった。カイサラが怪力によって拘束を剥がし、〈ドールフル・ノクターン〉を振るった。初動は読めていたので腕を縦に並べて防御が間に合ったが、どうやら溜めモーションの状態で拘束されていたらしい。その剣撃の破壊力は想定以上だった。両手のガントレットに深い溝を刻み込むほどの一撃を食らったジャックは、後方に大きく吹っ飛ばされた。

 

 

 瓦礫に埋もれながらもしびれる手でポーションを取り出して一気に飲み干す。想定外の威力だったが、想定外の行動ではない。

 カイサラは粘着弾を剝がしていくが、ドラゴンの追撃によって阻害された。ドラゴンの恐るべき剣速によって繰り出される斬撃にあのカイサラがワンテンポ遅れて対応している。

 

 

 ジャックはポーションの回復を待ちながら戦況を見る。

 風魔忍軍が粘着弾を投げ続け、ドラゴンとジャックがスイッチしながら攻撃を繰り返す。シャーロットは隙をついて高速で切り込んでスイッチや攻撃の支援。

 単調な動きだが、これが即席で組める最善の戦略だった。

 実際カイサラにダメージは蓄積している。メンバーは誰もHPを致命的なまでに削られていない。

 

 

 拍子抜けするほど順調だが……その奇跡のような均衡はすぐに崩れ去った。いや、SAOというゲームではこんなもの序の口というべきか。

 

 

 何度目かのスイッチの時だった。先ほどまでいた場所に金属製の黒い立方体が落ちてきた。それだけでなく上空から黒いキューブが雨の様に落下し続け、城のいたるところに穴や凹みを作っている。ガーディアンズのメンバーは落下物を躱すのに手いっぱいになり、攻撃の手が止んでしまう

 

 

 

 

「こいつは…」

「ジャックまずい、光が止まらなイ! 崩れた九層が降ってくル!」

 

 

 ジャックが降り注ぐキューブを砕いていると、カイサラの背後、玉座の後ろの掘削機を壊さんと色々弄っていたアルゴが叫んだ。

 

 

 掘削機は相変わらず光の槍を八層の天蓋に向けて放射し続けている。このままいけば8層の天蓋が崩れ、上部の9層の大聖堂の魔法石の台座が崩れてしまう。

 

 

「急がないと」

 

 

 ジャックが瓦礫の雨の中カイサラを探すと、突如視界が何かに埋め尽くされた。

 アルゴの背中だ。

 

 

 

「どわあ!?」

「イッタ!」

 

 

 放り投げられたアルゴがジャックに衝突し、もみくちゃに転がった。

 

 

「アルゴ、大丈夫か」

 

 

 ジャックが頭を押さえながら起き上がると、アルゴはすでにクローを握りしめて一点を睨みつけていた。

 

 

「光の槍が止まってる……でござるな」

「さっきのブロックの雨も止んだみたいでござるし」

 

 

 イスケとコタローがどこか安心した様子で言ったが、シャーロットは険しい表情である。

 

 

「それよりもまずいことになっている」

「第二形態ってヤツかもナ」

「いや、これが本当の全力の姿だよ」

 

 

 カイサラは、いつの間にか玉座に座っていた。堂々たる姿はまさしく王の威厳を醸し出している。

 

 

 先ほどとは違う風格、気配。ジャックは肌がぴりつくのを感じた。

 それもそのはず今のカイサラの左手には、

 

 

「楽しいひと時だった。では私も自分のおもちゃを出すとしよう」

 

 

 雷の宝石、魔樹の種子、水棲馬(ヒッポカンプ)の水晶が装着されていた。胸部のケースには黄金のキューブが収まっている。

 

 

 眼帯の下に在った紅の右目でガーディアンズを捉えたカイサラは不敵に笑った。

 




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