ソードアート・オンライン〜アメイジング・フィスト〜 作:明石雪路
冷静な仕草でハンマーと盾を携えたツクヨミは、半日前の恐怖に溺れた有様を感じさせない。
「ツクヨミ……」
「お待たせしました、ジャックさん」
「……ありがとう、また助けられなぁぁぁぁ!?」
硬直の残るジャックの襟首をつかむと、ぽいと遠くに放り投げた。
「とりあえずこれ飲んで回復しててください。時間は稼ぎます」
「は、じゃあよろしくお願いします……」
かっこよくポーションを投げ渡されてしまった。
冷静な対応に思わず敬語になってしまう。
毅然と眼前に立ちふさがる黒鎧の騎士を前にカイサラは驚嘆して言った。
「やはり貴様も生きていたか」
「ええ、私はもう先ほどのような痴態をさらしません。剣士カイサラ」
「ほう?」
「もう、そうしていたから戦うわけじゃない。これまでの様に戦うわけじゃない。
私のこれまでを守るため、そしてこれからを作るために、戦う!」
ハンマーを突きつけるツクヨミを見て、カイサラは嬉しそうに笑った。
「やはり貴様も素晴らしい」
感情を零すかのように呟いて、カイサラの姿が掻き消えた。
考える前に円盾を持つ左腕に力を込めてガード。
瞬間、重たい衝撃が盾を思い切り叩いた。
雷撃の槍だ。三連続で打ち込まれた雷撃はツクヨミを10メートルほど押し込んだ。
あの盾に効かないことはわかっている。寸刻時間を稼げればいいのだ。
盾で体を覆い、視界を奪った隙を突いて根を操作して剣を回収。体の左後方に剣を引いて高周波の振動を纏わせる。片手剣三連撃〈サベージフルクラム〉。
前回ツクヨミはこのソードスキルで盾を弾かれ、がら空きになった胴体を真っ二つにされた。
「フゥゥゥゥゥ……」
ツクヨミは腰を低く、上は目だけ残して構えた。盾の裏で深く息を吐く。怖気とか、不安とか、すべて吐ききって兜の奥から目の前の剣技を見極める。
果たして。
水色のライトエフェクトと剣盾がぶつかる火花が飛び散り……一瞬の攻防は、ツクヨミが制した。
水平切り、切り上げ、切り下げと繰り出されるソードスキルを、すべて受け切って見せたのだ。
「く……」
隙が出来たのはカイサラだった。同じ片手剣三連撃ソードスキル〈シャープネイル〉よりも高威力をもつ〈サベージフルクラム〉だが、その分スキル硬直時間も長い。一秒と少しは、熟練者同士の戦いでは十分すぎる隙だ。
身を低くしてカイサラの膝を内から外に叩き姿勢を崩し、振ったハンマーを頭部めがけて振り返す。
すんでのところで左手を上げてガード。だが剛力で振られたハンマーは前腕にヒビを入れ、カイサラを叩き伏せた。HP、2割減少。
追い打ちで頭部めがけてハンマーを振り下ろすと、鈍い感触に遮られた。床を破って成長した木の根がカイサラを守ったのだ。
その隙にカイサラは距離を置いて立ち上がっていた。左手に障害が出たのか、動きがぎこちない。無理やり拳を不具合を握りつぶすと訝しげに口を開いた。
「前よりも力が上がっているな。その鎧が原因か?」
「貴女に説明する必要はありません」
「それはその通りだ」
カジノで会った時の意趣返しをされたカイサラは小さく笑った。
そして、フッと和らいだ表情が険しくなると肩の上に剣を引いて構えた。あれは、片手剣重単発技〈ヴォーパルストライク〉の構えだ。
(正面からぶち抜く気ですね……。やってやる!)
(アイツ、受ける気か!?)
カイサラの〈ヴォーパルストライク〉の威力は、正面からソードスキルを打ち合ったジャックが身をもって体感している。
「まずい……、ツクヨミ!!」
ジャックが叫び、それが合図となった。
ジェット機めいた轟音を置き去りにするほどの速度で放たれたクリムゾンの突きは、ツクヨミの円盾〈ピース・ルーラー〉に激突。
だが激突した瞬間のコンマ一秒にも満たない刹那、カイサラの手には外した感覚があった。
盾と激突した切っ先はギャリギャリ!! と盾の表面を削りながら滑り始め、後ろに流れた。完全に逸らされたのだ。
そして盾が切っ先と共にツクヨミの左後方に流れると同時に、右手に握られたハンマーが紫のライトエフェクトを纏って現れた。
片手メイス突きソードスキル〈ヘヴィーショット〉。ハンマーの頭で突く超重量級の一撃は無防備なカイサラの胸部を捉えた。爆発音と呼ぶべき轟音が玉座の間に響き渡り、カイサラが後方に吹っ飛ばされ、壁にめり込んだ。
ようやく威圧デバフが解け回復を終えたジャックが立ち上がると、そこには壁に叩きつけられたカイサラと、深く息を吐いて残心するツクヨミの姿があった。
「凄すぎだろ……」
ジャックが自嘲気味に笑うと、ツクヨミがジャックのもとに駆けた。
「ジャックさん! 大丈夫ですか?」
「ああ、平気……それより驚いたよ、ツクヨミって思った以上に力持ちなんだな」
「それはこの鎧のおかげです。ニルーニルさんちの家宝を借りてて、月の明かりでSTR値がかなりアップするんです」
「なるほどね、そういや7層で助けてたし、巡り巡って人徳が僕らを助けたって感じ?」
「それもそうかもしれません。えっと、それとですね……」
ツクヨミは言い淀んで、兜の面あてを跳ね上げた。
「?」
「私、やりたいことが見つかったんです。……これが終わったら付き合ってくれますか?」
「勿論、思う存分付き合うとも!」
もじもじとしたツクヨミに、ジャックは快活に答えた。先ほどまで死を恐れていた女の子が、よくわからんが活気を取り戻したことに安堵した。
砕けた壁の方から音がして、二人は武器を構えてそちらをむいた。
「まずは、あいつを片付けてからにしよう」
「はい!」
「お前たちは、不思議だ」
瓦礫をどかしながら、カイサラが立ち上がった。
「自ら破滅を望むものもいれば、それを防ごうとする者もいる。刃が尽きても諦めない。気骨が折れたかと思えば、立ち上がる。」
(クリティカルで打ち込んだはずなのに、ピンピンしてる……)
(つーかHPバーは三本しかないのに、どんだけ堅いんだよ!)
アバターの頬を液体ポリゴンが伝う。
見れば、カイサラの左手甲に装着された宝石、水晶、種子と胸部のキューブが光を放っている。
(活性化してるのか?)
「というか、なんであんなに戦っているのに苦しんでないんですか?ここに生木は無いしお堀からも少し離れてるのに」
「え?」
ツクヨミの疑問に疑問をもったジャックは思わず聞き返した。
「な、なんだって? あいつ、エルフの呪いあるの?」
「カジノで戦った時、急に苦しみだしたことがあったんです。前にアルゴさんからエルフは木と水がないと衰弱すると聞いていたので、それかと思ったんですけど……」
瞬間、ジャックの脳裏に稲光のごとき閃光が走った。
玉座の間を見渡し……ジャックのひらめいた仮説を裏付けるものも発見した。ならば。
「ツクヨミ、あいつを倒す算段が付いた。乗ってくれ」
ジャックの確信に満ちた瞳を見、ツクヨミがうなずく。
左上のパーティーメンバー一覧ではHP、硬直の回復が終わりつつある。
カイサラ残りHP、バー一本と七割。
お読みいただきありがとうございました。
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